VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 5 -A shout of the heart-






Action15 −理念−




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 悪質極まるトラップの最後の仕上げに、ブリッジの誰もが騒然となっている。

侵入者を完全破壊するために、惑星地表面そのものを自爆で吹き飛ばそうというのだ。

大は小を兼ねるとはよく言ったものだが、人命がかかっているこの時には冗談にすらならない。

今回の調査の立案者ならびに責任者であるブザムは、この報告を受けた時流石に顔色を青くした。


「すまないが、詳細を細かく説明してくれ。何が起きている?」


 歩み寄らんばかりに接近する副長に、ブリッジクルーのベルヴェデールが代表して答えた。

冷静に報告しようとしているが、その手元は震えている。


「シールド領域を維持している全ての施設が自爆シークエンスに入っています。
惑星へ侵入した者を爆破するプログラムのようです!」


 説明の語尾は悲鳴交じりであり、ベルヴェデールの表情は心配と不安で曇っている。

今までにない切迫した事態に、ブザムは冷静さを失いそうになるのを懸命に堪えた。

誰よりも冷静さを欠いてうろたえているのは現場にいるクルー達である。

指揮する自分が動揺しては部下たちが死ぬ恐れすらあるのだ。

ブザムはそう戒めて自分を落ち着かせ、ブリッジクルー最年長であるアマローネの傍らに寄る。


「カイ達に連絡をつけてくれ。上陸班は脱出を最優先だ」

「それが・・・シールドの影響下にあって通信回線は非常に不安定です。
ベルの通信を最後に誰ともリンクを結べません!」

「何だと!?くっ・・・・!」


 自爆シークエンスは発動した事は、ベルヴェデールがカイに先程知らせている。

だが、こちらがいくら打開策を生み出そうと通信出来ないのでは知らせようがなかった。

かといって、危機的状況が迫っている惑星へ救助班を送るわけにも行かない。

現段階で助っ人を何人送ったところで、カイ達を助ける事は不可能だからだ。

結局ブザム達がした事はカイ達をいたずらに命の危機を知らせて、動揺させたにすぎない事になる。

本当に助けが必要な状況であろうに、最後はカイ達の生還を信じる事しかできない。

メイア以上に責任感の強いブザムは形のいい唇を強く噛み締めた。


「上陸班、応答せよ!上陸班!!」


 視線を上げてブリッジ中央のメインモニターに目を向けると、惑星の観測図のみが映っている。

カイ達四人の傍にメイア機の反応がある所を見ると、どうやらカイは無事にメイアを助け出したようだ。

観測図では、危険を知らせるレッドマークがカイ達を中心に周囲全体に点滅している。

シールドが張られている状態での惑星離脱は、非常に困難に見受けられた。

リーダーであるメイアも助け出されたとはいえ、完全な状態ではないだろう。

ジュラは知性的な判断を行う能力に欠けており、バーネットは能力は全般的だが思い切った決断が出来ない。

ディータはまだ新人であり、仲間全員を助けられるほどの器すらなかった。

周囲を覆うシールドに、システムを掌握する能力がある微小メカの大群。

惑星地表面を平らに出来る爆発量を秘めた自爆装置に、考える時間を与えない短時間のカウント。

マグノ海賊団最高幹部であるマグノやブザムでさえ、全員助けられるかどうか怪しい難関である。

これがシュミレーションであるならまだいい。

失敗しても、何度でもやり直せばすむ事なのだから。

だがこれはまぎれもない本番であり、一度でも失敗すれば全員が死んでしまう。

現状況は蛮型シュミレーション装置にもシュミレート不可能な圧倒的不利な場面であり、

タラークではエリートを誇る士官学校生達でも突破できるかどうかは怪しい。

事実、エリート中のエリートであるドゥエロも難しい顔をして黙り込んでいた。

頭脳明晰なドゥエロですら、どう進言していいか分からないのだ。

コンソールより延々と告げられるカウントダウンに、オペレーターであるエズラはマグノを見やった。


「お頭、ご指示をお願いします!このままではカイちゃん達が!」

「何とかしてあげたいのは山々だけどね・・・・」


 手元の杖を固く握り締めて、マグノは艦長席に転送されている惑星のデータファイルを見やる。

マグノとて黙って座っている訳ではない。

むしろ上陸しているクルー達を一番に思い遣っているのは、紛れもなくマグノであった。

ただ感情と理屈は結びつかない。

理想が現実に反映されるのは困難であり、願いがそのまま現実に成就される事は滅多にない。

帰ってきてほしいとは望んでも、望むだけではどうしようもないのだ。

何とかしてやりたい気持ちは十分以上にあるが、今は具体的的行動に起こさなければ何の意味もない。

その事実を理解しているからこそ、マグノは苦しかった。

トラップが行おうとしている劣悪な破壊のエンディングを阻む手立てを、マグノは見つからない。

ブリッジクルーの誰もがマグノとブザムに期待を持っているが、両者共に意見を口には出来なかった。

重苦しい雰囲気が漂う中で、一人目立たない場所で状況を見守っている女の子がいる。

少女はクマのヌイグルミに身を包んでおり、愛らしいその表情を隠していた。


「・・・・・男・・・・」


 セルティックが見つめるコンソールには、不敵な顔をアイコン化したカイのデータがあった。














 周囲は命の危機と死の恐怖を煽るサイレンが鳴り響いている。

上空には血の色をしたレーザーが展開されており、周囲には機械的な無表情をした砂の軍団が囲んでいた。

危険の一言で表現できる環境の中で、黄金色が眩しい機体の搭乗主は言った。


「もう時間がない。一刻も早く脱出しないと、全員がやられるんだ。
砂とシールドは俺が何とかするから、この馬鹿を連れて早くこの星から出ろ」


 カイは胴体部分を砂に覆われたままのメイア機を指しながら、地表面に現存するメンバー全員に言った。

ベルヴェデールより全建築物の自爆を伝えられたカイが出した打開策がそれだった。

自分が敵の足止めとシールド解除を試みたその隙に、メイア達を脱出させようと言うのだ。

あまりにも突拍子のない言葉にメイアは目を見開き、ジュラとバーネットは呆然としている。

唯一カイの言葉の意味を理解したディータはたまらず声を上げた。


『駄目だよ、宇宙人さん!宇宙人さんを残していくなんて出来ないよ!』


「・・・いいか、落ち着いてよく聞け」


 反対するディータを説得するように、カイは静かな口調で諭す。


「時間が経てばこの周りの建物全てが爆発する。爆発に巻き込まれれば、俺達はお陀仏だ。
そこまでは分かるな?」

『う、うん、だけど!』

「黙って聞け。俺達は逃げなければいけない。
だけど上空に飛んで逃げようとしたら、恐らくさっきみたいにレーザーが襲い掛かる筈だ。
さっき俺がやられたみたいにな。それに・・・」


 カイは周囲の砂の偽装体の群れが接近しようとしているのを鋭く見つめて言った。


「周りの砂の偽者どもが脱出を邪魔しようとしてやがる。
つまり逃げるにはこいつらを全部ぶっ倒して、レーザーをぶっ潰さなければいけないんだ」

『だからってあんたが残ってどうするのよ!何か策があるの?』


 説明を聞いていたバーネットが横から口を挟んだ。

らしくもない感情的になっている自分に気がついているが、本人も抑える事は出来なかった。


「方法はある。うまくいけば青髪の機体の砂を払えて、周りの馬鹿どもを一掃できるはずだ。
だが、レーザーをどうにかするには迎撃する奴が一人いないといけない。
全員で強行突破を行えば脱出出来ない事はないかもしれないが、一人足手まといがいるからな。
より多く生き残る可能性が一番高いのは、俺がこの場に残る事だ」


 何しろ罠は二重にも三重にも仕掛けられていた念密なタイプである。

自爆シークエンスで終わりかどうかは判断できない上に、飛び交うレーザーは無数を極めていた。

惑星から脱出するには、当然上空を飛び立って大気圏を突入しなければいけない。

だが、この場で空へ向かう事の危険性はレーザーに撃たれたカイが一番よく分かっていた。

さらには周りには敵に囲まれており、メイアは戦闘不能で、ご丁寧にシールドまで張られている。

強行突破するにはあまりにも危険性が大きく、消極的になるにはあまりに時間が足りなさ過ぎた。

カイが立てた作戦はその点から考慮すれば、一番助かる可能性は大きい。

だが、この作戦には一つの穴があった。


「でも、それじゃああんたが一番危険じゃない!?
残ったあんたはどうやって脱出するのよ!!」


 そう、この作戦は残った者の事は何一つ考慮されていない。

あくまで脱出する者の安全のみを確保した作戦であり、一人残った人間の保証はまるでないのだ。

むしろ残ると宣言するカイの命が一番危険に晒されるのである。

仮にレーザーや敵を撃墜できたとして、シールドを解除できたとしても、あくまで一時的だ。

常軌を逸脱したカイの作戦にジュラが異を唱えると、カイは不敵に笑って答えた。


「俺は俺で何とかするさ。こんなの俺一人でどうとでもなる。
役立たずのお前らは早く消えろ」


 強がりにすぎない。

精一杯考えた末の結論がこれであり、カイ自身身の安全はまるで考えていないのだ。

自暴自棄になっている訳ではない。メイア達を仲間だと思っている訳ではない。

何もできないままに訳の分からない敵にやられるのは死んでも嫌だった。

ただ、それだけだった――


『嫌!ディータは嫌!』

「我侭言っている場合じゃねえだろうが!」

『でも、宇宙人さんが!?』

「じゃあ他にどういう方法があるんだよ!言ってみろ!!」

『そ、それは・・・・・』


 ディータはただカイを危険に晒したくない気持ちからの反対である。

他にいい考えがある訳ではなく、ましてや全員が助かる方法などとても浮かばなかった。

心のどこかではカイの言う方法しかないと分かってはいるが、感情が納得できない。

飛び交う激情の中で、それまで黙っていたメイアが口を開いた。


『・・・・何故そこまでする?』

「・・・何が言いてえんだ」


 薄暗いコックピットの中で、メイアは力のない声質でカイに語りかける。

砂に取り込まれた後遺症がまだ拭えていないのか、表情に精彩さがなかった。


『お前が危険を冒す必要はないだろう。私一人が残ればいいことだ』


 変わらずのメイアの言葉に、カイは舌打ちする。


「半病人の足手まといが何言ってやがる。一人で立つ事も出来ないんだろうが」

『・・・私はこの探査のリーダーだ。調査班全員の責任がある。
たとえお前のような男であれ、押し付ける訳にはいかない』


 メイアがマグノの静止を振り切ってきたのも、そもそもは危険に晒された仲間の命を心配しての事である。

それに加えて、カイの先ほどの啖呵がメイアの心の内に響いている。

助けにきた自分が仲間の迷惑になっているという指摘が、自分でも気がつかない程重くのしかかっていた。

何が何でも責任を果たそうとするメイアを、カイは鼻で笑った。


「俺はお前の部下じゃないし、あのばばあの手下でもねえ。
俺は自分がやりたい事だけやるし、やりたくない事は絶対やらねえ。
お前の命令を聞く義務はないね」

『・・・人に自分勝手と言いながら、お前が一番自分勝手だ。
男は最低の生き物と教えられてきたが、お前はその典型的な例だな』


 どんな時でも、何があっても、反発しあう二人。

意見が食い違うというレベルではなく、お互いの生き方そのものが理解できないのだろう。

カイはメイアの頑なさに不快感を覚え、メイアはカイの頑なさに不快感を覚える。

似ているようで違う、相反するようで相似する。

微妙な二人だが、唯一決定的な違いがあった。

カイはメイアの言葉にぎろりと睨みを入れて、乱暴にメイアを担ぎ上げた。


『な、何をする!?離せ!!』

「・・・そんなに俺に任せるのが嫌か?」


 反抗しようにも砂により身体の自由を奪われているメイアには何も出来ない。

両腕の中に担いで尋ねるカイに、メイアは声を出して肯定する。


『お前に何を任せろと言うんだ!敵であるお前に!』

「ほら、本音が出た。てめえは俺の命がどうとかじゃない。
てめえは何が何でも俺に全部任せるのが嫌なだけだ」


 カイはそのまま胸元のメイアに顔を寄せる。

蛮型越しではあるが、両者の顔が急接近した。


「いや、俺だけじゃねえな。お前、結局誰に託すのも嫌なんだろう。
もしこの場面で俺じゃない誰かが残るって言ったら、てめえ納得したか?」

『私は・・・!!』

「責任がある、か。そら結構。
でもよ、責任よりも大事なものがこの世にはあるんじゃねえか?」

『え・・・・?』


 それまでにない温かみのある問いに、メイアは戸惑いの声を上げた。

カイはメイアの様子にかまわずに、ジュラ達の傍まで歩み寄ってメイアを地面に横たえる。


「いいな、俺が合図するからこいつを担いでこの星から出るんだぞ」


 通信モニター先で複雑な表情で顔を見合わせるジュラとバーネット。

もし他の男だったならば、あっさりと見捨てていただろう。

メジェールに住んでいた頃ならば、故郷で海賊を続けていた頃ならば、悩む事すらなかっただろう。

馬鹿な男が一人突っ走った、それだけで済ませた筈だ。

なのに、ジュラもバーネットもカイの言葉に返事が出来なかった。

そんな戸惑う二人を尻目に、ディータはモニター越しにカイに顔を近づける。


『宇宙人さん、ディータも残る!宇宙人さん一人だけ残してなんて行けないよ』

「駄目だ、お前も行け」

『嫌!宇宙人さん一人だけ危ない事して、ディータ達だけが安全な所に逃げるなんて変だよ!』


 ディータの必死な気持ちは、カイとて迷惑ではない。

むしろ自分の身を気遣ってくれる目の前の少女に、嬉しさすらこみ上げて来るほどだった。

カイは一瞬目を閉じて、その後心配そうにするディータをじっと見る。


「赤髪、あの時の事覚えているか?」

『え、なに・・・?』

「お前らが俺達の船に押しかけて来て、タラークの連中がミサイルをぶっぱなした時だ。
似たような状況でお互いやばかっただろう」


 カイの説明に、ディータは当時の事を脳裏に浮かべた。

タラーク軍最大級の宙航魚雷「村正」に母船がロックオンされて、置き去りにされたカイが危機にあった。

逃げようにもカイの相棒は大破しており、逃げるにも逃げられなかったのだ。


「あの時、俺が逃げろっていったらお前は残るって言ったよな?
相棒が壊れて逃げられない俺を心配だからってさ」

『う、うん・・・だって、宇宙人さんはディータ達を心配してくれたから』

「俺だけが危ない訳じゃなかった。
幸いペークシスがタイミングよく暴走したから何とかなったが、実際お前だってやばかったんだ。
なのに、お前は俺を助けようと懸命になってくれた。
青髪も、金髪だって残ってくれた。
俺はよ・・・何だかんだいって結構嬉しかったんだぜ」


 あの時はまだ完全に敵同士だった。

タラーク・メジェール、お互いの国境を持って対立して反発しあっていたのだ。

だがディータはカイを心配し、自身の危険も顧みず助けようとしたのである。

その純然たる行為が、カイには何より嬉しかったのだ。


「借りは返す。男の基本だ。
俺を立てさせてくれよ、な?赤髪」


 慣れないウインクまでして明るく言うカイに、ディータはこみ上げてくる感情を抑えるのに精一杯だった。

ディータにとってはなんでもない行動だったのだ。

ただ想像していた以上に宇宙人であるカイが優しくて、どうしても死なせたくなかった。

それだけだった。

でもカイは自分の行動を嬉しく思い、自分達を助ける事で恩返ししようとしている。

嬉しさと切なさ、そして何よりも溢れて来る胸の思いにディータはもどかしさを感じていた。


『・・・・あんた、やっぱりおかしいわよ』

「ん?」


 ぽつりと呟いたバーネットの言葉に、カイは耳を傾けた。

バーネットはモニター先で俯いたまま、その表情を見せようとはしていない。

ただ細い肩が小刻みに震えているのが見えた。


「自分の命をかけて、あたし達を助けるつもり!?冗談じゃないわ。
そんなに自分の命がいらないの?そこまでしてどうして助けようとするのよ!
何の見返りもないのに、あんたはいつもそうよ。
恩がある?散々あんたを冷遇しているあたしらに、何の恩を感じるのよ!」


 ここにきて、カイへの疑問が完全に爆発した。

統一感があるようで何もない、打算があるようで損な行動を繰り返すカイ。

これまでバーネットの周りには理屈の通る面々ばかりだった。

生きたいから海賊を行う、自分が可愛いから他人を見下ろす、仲間が好きだから思いやる。

それはメイアでも、ガスコーニュでも、ブザムでも、マグノでも同じだった。

情にせよ、計算にせよ、理論にせよ、何か理由があるから無償の行為を行える。

それがバーネットの出会った共通して言える人間像だった。

だが、カイの行動にはどんな理屈も通じえない。

息荒く尋ねるバーネットに、カイは静かに答えた。


「俺達は何のために戦っているんだ?」

『・・どういう事よ?』

「故郷を救うため、敵にいいようにさせないため。
だからこそ俺もお前も、こんな胡散臭い星にまで降りて戦っているんじゃねえのか」

『そ、そうよ。それが何よ』


 カイの言いたい事が分からず、バーネットはきょとんとした顔をしている。

バーネットの困惑に目を向けず、カイは歩行を始める。

進路先には惑星降下に使用してそのまま捨てた蛮傘が落ちていた。


「敵の目的は俺たちの故郷を壊滅させる事だ。
俺達はそれを阻止するために故郷へ帰って、危機を伝えようとしている。
敵同士の俺達がいやいや組んだのもその為だったはずだぜ」


 落ちている蛮傘は、自分のを含めて四個。

残さず拾い集め、両腕に抱えてカイは再び戻ってくる。


「いってみれば、これは俺達と敵との喧嘩よ。
喧嘩ってのはよ、最後に立っていた者が勝ちだ。
たとえ何人敵に殺されても、一人でも故郷へ帰って危機を知らせれば俺達は勝ちなんだよ」


 カイは並ぶ一人一人にそれぞれ蛮傘を渡していく。

ディータに、バーネットに、ジュラに、そして―――










カイは・・・・・










自分の分を・・・・










メイアの手元に置いた。


『お、お前・・・!?』


 大気圏を離脱するには、熱を遮断する蛮傘は必要不可欠である。

蛮型の弱点を補う補助道具でもあり、これがないと惑星からの脱出は実質上不可能となってしまう。

信じられないという目でカイを見るメイアに、カイはこれまでにない柔らかい笑顔で言った。


「俺が死んでもお前らに影響はねえ。だけどお前らは誰かが死んだら嫌だろう?
だったら、お前等には一致団結してもらわないとな。
お前らさえ頑張って故郷を助けてくれれば、俺達全員の勝利なんだからよ」

『・・・あんたは、あんたは・・・・!』


 声を震わせるバーネットに、カイはこう言った。


「青髪を・・・頼んだぜ」

『・・・・・・・・!?』


 何も言えなかった。

これ以上の問いは疑問であり、意味もない。

カイは自分の死すら受け止めて、遠くの現実を見据えている。

これまでのカイの行動も全て自分のため、他人のため、その全ての為なのだ。

カイは行動する事に意味を求めていない。

行動しようとする自分に意味があるのだと信じているのだ。

だからこそ自分に傾く事もあれば、他人に傾く事もある。

バーネットはようやく理解した。

そして理解した時には、もう事態はあまりにも深刻化しすぎていた。


「さ、話はこれまでだ。
タイミングは一瞬。絶対に逃すな」


 カイは持っていた二十得ナイフの形状を変化させ、ランスタイプにする。

くるりと一回転させて、先端を目標に向けたまま構えを取った。

ディータは蛮傘を手に持ったまま、カイに叫んだ。


『宇宙人さん!ディータ、待ってるから!
お船で宇宙人さんが帰ってくるのを待っているから!!』

「・・・・・おうよ。お前こそどじだからな、しくじるんじゃねえぞ」

『うん!』 


 涙のあふれる笑顔で頷くディータに代わって、不機嫌そうな顔をするジュラがモニターに出る。


『いい?これだけは覚えておきなさいよ』

「・・・あん?」

『あんたはジュラと合体するって約束したんだからね!約束は絶対の絶対に果たしなさいよ!
やぶったら・・・・ただじゃおかないから』


 ジュラはまだ心の整理はついていなかった。

カイが普通の男とは違うとは感じている。

いや、カイこそが本当の男であるのかもしれないとも思っていた。

だからこそ、中途半端なままで死んでもらいたくはなかった。

ジュラの気持ちが伝わったのかカイは一つ頷き、別回線を展開した。


「黒髪」

『・・・・なに?』


 嫌悪はなかった。好意もなかった。

見つめる視線は戸惑いであり、迷いであり、躊躇いだった。

カイは敵であるという固定観念と真実の姿がぶつかっているのだ。

そんなバーネットに、カイは照れくさそうに言う。


「帰ったら、あの料理食わせてもらうぜ。 腹減っているから、出来ればお代わりも作っておいてくれ」


 バーネットは一瞬ぽかんとした顔をして、その後くすりと笑った。


『ずうずうしい男ね・・・・・分かったわよ!
ステーキ十人前作って待っててやるわ』


 いつものペースに戻り、お互いに笑いあう二人。

最後にメイアとも話をしようと思ったカイだったが、メイア機への通信モニターはノイズが走っている。

もう話もしたくないと思っているのか、はたまた・・・

カイは少し無言となり、そして言った。


「責任ってのは生きてこそ果たすもんだぜ、青髪。死んでまで背負うもんじゃねえ」


 言葉を投げかけてもメイアは顔を出す事はなかったが、声だけは返ってきた。


『・・・・・お前は理不尽すぎる』

「理不尽だからこそ、人間なんじゃねえか?」

『・・・・・・・・・・・・・』


 それっきり声はもう返ってこなかった。

カイは肩を竦め、やがて表情を真剣にする。

モニターを見つめ照準を引き絞り、乱立している建築物から冷却装置にロックオンした。

警戒してかゆっくりと近づいてくる砂の群れが付近まで辿り着いた時、声を張り上げる。


「いけぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


 そのまま振りかぶって槍を投げると、真っ直ぐに飛んでいって装置の中央に突き刺さる。

建築物や装置類を砂漠の高熱から守るために設置された冷却装置。

割れ目より噴き出すは液体窒素であり、周囲の砂漠を零下にまで温度変化する。

液体窒素は瞬く間に広がっていき、囲んでいた砂の軍団やメイア機の表面に触れた。

極限までクールな気体を浴びた擬装体は急速に凍り付いていき、完全に氷となって固まった。

こうなってしまうと、さらさらした砂もただの氷の塊に過ぎない。

メイア機の表面に取り付いていた砂も簡単に固まって、剥がれ落ちていった。

砂を完全に取り除いた後、バーネットはメイア機を担いで上空へ上っていく。

ジュラも後続につき、ディータは最後カイを見つめた後迷いを断つように背中のブースターを吹かした。

四機はそのまま大空の彼方へ向かおうとしたその時、レーザーが彼女達の背後より襲い掛かる。

警戒していたために一瞬で察知したバーネットが何とか避けようとした時、突如盾が出現した。

バーネット達の前に現れた盾はレーザーを弾き飛ばして、そのまま地面に落下していく。


「あいつ・・・・」


 驚いてバーネットが地面を見下ろすと、地面に落ちた盾をカイが拾っているのが見える。

レーザーが発射された瞬間に、カイは背中に装備していた盾形フォルダーを投げたのだ。

カイは武器をナイフに変えて、そのまま凍りついた擬装体を次々と破壊する。

液体窒素の効果で冷却したためか、シールドの防衛ラインも弱まっていた。

バーネット・ジュラ・ディータ・メイアは、やがて大気圏に突入していった。

四人が無事に脱出できた事を確認したカイは安心したように一息ついて、周りを見やった。

「ようやく行ったか・・・・
あれぐらい言わないと立ち去ろうとはしないからな。
たく、女ってのは手間ばかりかけさせやがる・・・」


 メイア達には殊勝な事を言ったが、カイとて死ぬつもりはさらさらなかった。

叶えたい夢はまだまだ発展途上であり、ここで潰えるほど自己犠牲にも陥っていない。


「おーおー、雑魚の癖にしぶといな」


 センサーからの反応を捕らえて、カイは口元を歪めた。

液体窒素により冷凍化された砂だったが、それでも活動を止めようとはしなかった。

せめてカイだけでも逃がすまいとしているのか、冷却の影響下において立ち上がりを見せてくる。


「俺は何もあいつらを助けるためだけに残ったんじゃないんだぜ、てめえら」

 爆発のリミットまで猶予もない状況の中、カイは残る擬装体の群れを一瞥して言った。


「このまま逃げたんじゃ、お前らに舐められっ放しだからな・・・・・
きっちりやる事はやらせてもらう。
てめえらの情報、いただいて帰るぜ」


 ナイフを構えて、カイは挑むかのようにぎろりと周囲を睨んだ。










―タイムリミットまで、残り300―


















<続く>

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