ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 24 "Men and Women"






Action26 −綿市−








 メジェール政府、最高裁判所により終身刑を言い渡されたマグノ海賊団。


罪人として惑星メジェールという辺境の地へ島流しされた彼女達は、強制的に定住させる監獄へと搬送された。

一応の拘禁はされているのだが、本当に一応である。無条件降伏を鵜呑みにされているのではなく、逃げるのは不可能だと断じられている。

そのまま彼女達は監獄へと送られていった。


(……カイちゃんやミスティちゃんの助言に従ってよかったわ。あの子達なら、安心してカルーアを任せられる)


 最愛の我が子を持つエズラは流刑地や監獄の悲壮さを目の当たりにして、安堵の息を吐いた。

無条件降伏をした以上乱暴はされないだろうが、安全が保証される事もないのだとカイ達は案じていた。

我が子と離れることは本当に心苦しかったが、今にして思うと連れてこなくてよかったと心から思う。


自分自身を守るので精一杯、我が子を守るにはそれこそ身を挺さなければならなかった。


(重労働に従事させられる様子はないけれど……身の安全は本当に保証なんてされないわね)


 流罪は刑罰の一つで罪人を辺境や島に送る、いわゆる追放刑だ。実のところ、この刑は千差万別の解釈が加わる。

歴史的には従来の刑務所より、遠いところに取り残された方が自分自身のみで生きていかなければならなくなり、苦痛がより重い刑罰とされている。

死刑にすると反発が大きいと予想されたり、助命を嘆願されたりした場合に用いられる刑罰だ。


メジェール政府にとっても都合の良い重罪であり、わざわざ労役を課す必要性もなかった。


「ここだ」


 刑務者の簡潔かつ、終わりを告げる一言――監獄の奥にある、重罪者の牢屋。

古代においては神の怒りに触れたとされた者を放逐して、朽ち果てるに任せる事が行われたとされる伝説。

古代の流刑は特権階級に対する刑罰であり、政治的な意味合いが非常に強い。


よって彼女達マグノ海賊団は、日の差さない世界へ押し込められる――永遠に。


「……っ」


 さしものマグノ海賊団の猛者達も、息を呑んだ。

暗黒の世界に群がっている罪人達。監獄の中は安全な鳥かごではない、有象無象の罪が坩堝のように転がっている。

搬送された彼女達に突き刺す、罪人たちの視線。同様かそれ以上の罪を犯した愚者達が、犯罪者となって牢屋の中に押し込められている。


無慈悲に思い知らされる――自分達は、罪人なのだと。


「……うう、早く助けに来てよカイ」

「だ、大丈夫よセル……なんだかんだいって、いつも助けに来てくれたじゃない」

「流石に図々しい、と言いたいけど……」


 年長者のアマローネでさえも、重罪人の視線には耐えられそうになかった。

カイの前ではいつも強気だったセルティックも、普段の着ぐるみで隠れられず泣き顔を見せて俯いている。

ベルヴェデールはセルティックを懸命になだめているが、背中を擦るその手は小刻みに震えていた。


助けに来るのだと信じていても、怖くなってしまう。裏切られるのが怖いのではなく、今この場に彼がいないことが不安なのだ。


牢屋に閉じ込められた彼らは罪人であり――


「あんた、マグノ・ビバンかい?」


 ――同類だった。


「おやおや、しばらく留守にしている間に随分アタシも偉くなったもんだ」

「! やっぱり本物なんだね!」


 突然名前を呼びつけされても平然と受け答えしたマグノに、囚人は牢屋越しに叫んだ。

その名を口にするのは嫌悪ではなく、興奮。拒絶する意志は微塵もなく、光栄に満たされている。

興奮とは伝播するものであり、悪意と同様に恐るべき勢いで渦巻いていく。


閉塞されたこの空間では、尚更に。


「とんでもない大物が現れたもんだ!」

「まさか、あの海賊マグノ・ビバンがこんなところに来るなんて!」


 流刑とは重罪人が送られる場所――政府に反対する文化人や、政争に敗れた貴人にも適用される。

犯罪にも色々な種類がある。人を殺すのも、物を盗むのも犯罪だ。では、犯罪だと決めるのは誰なのか。


それがこの流刑地――惑星メジェールに送られる犯罪者とは、政治犯である。


考えてみれば当たり前だが、船団国家メジェールの在り方に対して全ての国民が諸手を挙げて賛同している訳ではない。

政治的な観点で見れば、今のメジェール政府は劣悪とも言える。何しろ、自分の惑星さえも持っていないのだから。

マグノ海賊団は故郷から追い出された者達が大半だ。仮にも自分の国民を平然と追放するる国家がどこにいるというのか。


そもそもマグノ海賊団が義賊として成り立っているのも、正常な国家ではありえない話なのだ。


「あ、アタシらを助けに来てくれたんだ。そうだろ!?」

「あんたらに救われた人達は大勢いる、私も助けておくれよ!」

「何だったら、私達を仲間にしてよ。あんたになら従うからさ!」


「し、静まれ、静まれお前達!!」


 権力闘争に敗れた者達や、政府の方針に反対した官僚。没落した人間に、庇護する人物がいなくなって追い詰められた人間。

彼らは、罪人である。生きていることが罪なのだと、メジェール政府に断じられた。

そして存在そのものが都合が悪いのだと、流刑地へ追いやられた。都合の悪い事実を隠蔽するべく、何もかも閉じ込めて無かったことにした。


そうして溜め込み続けた"悪意"が今、マグノ海賊団という存在によって破裂した。

















<to be continued>







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