ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 24 "Men and Women"






Action6 −向風−








 こうして、マグノ海賊団はタラーク・メジェールに無条件降伏した。


融合戦艦ニル・ヴァーナは女性が圧倒的多数を占めているので、メジェール側の軍艦がニル・ヴァーナへと接舷した。

無条件降伏とはいて、敢然に無抵抗とはいかない。乗員全員の命への保証なんてどこにもない。

ゆえにまず非戦闘員揃って降伏の手を上げた上で、警備チームがいざとなれば彼女達を守るべくガードを固める。チームは各自分かれて、全員が捕まるまで守り抜く。


その非戦闘員の中に――ナースのパイウェイが、潜んでいた。


『ドクター、お願いがあるの』

『聞こう。君には本当に世話になった』

『ううん、パイの方こそドクターには色々教えてもらった。だからね、ドクターの医療道具を貸してほしいの』


 無条件降伏が決定したということは、医療チームが解散になることを意味する。

ドクターと看護婦は、男と女。それぞれ別の星へと降伏しなければならず、一旦ではあってもお別れしなければならない。

パイウェイはそれこそ泣きたくなるほど落ち込んだが、病の星で経験した挫折が彼女を奮い立たせた。


今でも少し涙ぐんでいるが、それでも彼女は前を向いている。


『もしも皆になにかあったら、男の星に行っちゃうドクターに代わってパイが皆の治療をするよ。
だから、安心してドクターは自分の仕事に集中してね』

『君は……』


 ――パイウェイの決意は恐らく、無駄に終わるだろう。

無条件降伏するからには、犯罪者に道具を持たせるなんて許されない。恐らく真っ先に取り上げられてしまう。

大事な医療道具を奪われれば、彼女はきっと落ち込む。ドクターに申し訳ないことをしたと、泣いてしまうかもしれない。


だが、それが何だというのか。


『分かった。私の大切な患者を頼んだぞ、パイウェイ』

『うん、任せて!』


 ドゥエロもパイウェイも、この一年間の旅で学んだことは非常に大きく有意義だった。

大切なのは道具ではない、医者であり看護婦であろうとする意志だ。知恵も技術もその意志によって、蓄積されている。

道具があろうとなかろうと、ナースである限りパイウェイは治療を諦めないだろう。きっと、患者を守ってくれる。



だからドゥエロは奪われる運命にある医療道具を、彼女に渡した――



「女は魔物、に見えるか……確かに」


 接舷されて次々となだれ込んでくる、軍人。かつてタラーク軍艦を襲った際にマグノ海賊団も着用した防護服を着ている。

男が乗艦する船に無防備に乗り込めば、汚染してしまう。だからこその防護服であるのだが、男を知ったパイウェイからすれば無駄でしかなかった。

それよりも全身防護服を着た軍人達の見た目が確かに魔物に見えて、内心笑ってしまう。


カイ達が自分達を魔物だと恐れていたのも、頷けるというものだ。



(ドクター、皆になにかあったらパイが必ず治療してみせるからね)















 ドゥエロよりカイ達への同行を依頼されたパルフェが、言うまでもなく承諾した。

お頭が無条件降伏を決めたとはいえ、大人しく捕まるのは嫌だったし、カイ達に協力するのであれば是非もない。

彼女はまず基幹システム内の全てにセキュリティロックを何重にもかけて、保管庫にあるペークシス・グラグマへのいかなるアクセスも遮断するよう徹底した。


彼女は、この一年間の修羅場で劇的に技術が向上している。時代に取り残されたタラークやメジェールでは、彼女の技術は突破できない。


「これでよし、と――後は、ドクターに……会うのは未練がましいし、ディータの様子を見に行こうかな」


 ミスティ達に協力する上で必要な機器を持ち出した上で、無条件降伏する部下達の安全管理を行い、彼女は自分の職場を離れた。

持ち出した機器は厳選しているが数多く、背中に山のような荷物を背負って移動する。少なくとも、未練は置いてきたつもりだった。

無条件降伏する仲間達のことは気がかりだが、信じてもいる。きっと誰も死なず、この船に戻ってくると信じている。


それまでの間、この船とペークシス・グラグマは自分が守らなければならない。


「あ、パルフェだ。よかった、会えて」

「丁度いいところに――といいたいけど、すごい荷物だね」


 人のことは全くいえないが、通路で出会ったディータもまた大きなリュックサックを背負っていた。

彼女らしいUFOデザインのリュックには、溢れんばかりの荷物が入っている。他人事ながら、呆れてしまった。

ディータもまた仲の良いパルフェを心配して、会いに来てくれたのだろう。その気持が分からない彼女ではなかった。


パルフェに指摘されて、ディータは苦笑いする。


「えーとね、リーダーからいっぱい本を渡されて……まだ言われていた宿題も終わってないから、捕まっている間にやろうかなって」

「――あんた」


 やはり馬鹿だと思う。リーダーに抜擢されて少しは真面目になったかと思えば、性根は全然変わっていない。

無条件降伏したら宿題なんてやっている暇はないし、どんな目に合うか分からない。ひどい仕打ちを受けるかもしれない。

未来を想像すれば暗澹とさせられるというのに、彼女はあろうことか目の前を見ている。


至らぬ自分、未熟な自分をなんとかしようと、この期に及んでも努力している。


「ほんと、事態が分かってる?」

「あはは……でもこれ、リーダーからディータに託されたことだから頑張りたいの」


 ディータの顔を見て、パルフェは実感した――ドゥエロから頼まれたように、ディータもまたメイアから頼まれたのだと。

本当はきっと、カイ達についていきたかったに違いない。けれど他でもないメイアに託されて、受けないわけにはいかなかった。

メイアはディータを自分の後継者だと認めてくれたから、安心して任せてくれたのだ。その想いに、彼女は応えたかった。


少女たちは、それぞれの戦いに出る。















<to be continued>







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