ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 23 "Motherland"






Action17 -我間-








 ――メジェール星系、到着。


ヴァンドレッド・ジュラによって牽引されたニル・ヴァーナは、とうとう磁気嵐を突破することが出来た。

結局警戒していた敵の姿はなく、カイ達が撃退した刈り取り兵器達以後の増援もなかった。

拍子抜けと言ってしまえばそれまでだが、努力が実った結果でもある。今この時、この瞬間だけは素直に喜ぶべきだろう。


季節は、クリスマス。二度目となった聖夜は、輝かしい凱旋となった。


「それではひとまず、乾杯といこうかね」

『カンパーイ!』


 こんな時だからこそ飾らず、素直に喜びを噛みしめる。

マグノ海賊団の頭目マグノ・ビパンは言葉を飾らず、感謝と共に祝杯の盃を掲げた。

頭目の飾らない挨拶はクルー達に伝わっていき、皆もまた明るい笑顔で喜びの声を上げた。


約一年間――辛くも長い旅だったが、ようやく故郷へと帰ってきたのである。


「……ようやく帰ってこれたわね、ジュラ達」

「一時はどうなるかと思ったが、何とか全員無事に帰れたな」


 ヴァンドレッド・ジュラから見える宇宙――惑星タラークと、メジェール。


ワームホール現象で故郷を飛び出した時は振り返る暇もなかったのだが、今こうして再び故郷の星を目の当たりにすることが出来た。

喜びは、無論ある。達成感に至っては、パイロットである彼らは人一倍強いと言っていい。


けれどそれ以上に浮かぶのは、安堵であった。


「ねえ」

「なんだ」


「キスしよっか」


「は……?」

「何よ、嫌なの?」

「いいか嫌かと聞かれたら、嫌だぞ」

「何でよ、感動のキスよ!?」

「明らかに雰囲気に流されてるじゃねえか、酔った勢いの接吻は嫌だ」


 地球人としての記憶が蘇っているカイは、キスの意味も知っている。

だが高名な人間のクローン体として扱われた彼に、愛の意味は理解していない。

知識と感情は、まるで異なる。ジュラがそうしたい気持ちはカイも分かっているが、流されるのは嫌だった。


今は、神聖な気持ちだったから。


「いいじゃない、こんな気分で子供を作りたいもの」

「こんな気分で出来る子供の気持ちを考えろ、お前は」

「ブーブー」


 クリスマスの夜、気分が盛り上がって子作りに励む。

後の世で親からこんな逸話を聞かされたら、子供だって泣きたくもなるだろう。

カイが頬を引き攣らせながら当然のド正論を述べると、ジュラは唇を尖らせた。


ジュラとしては今、なんとしてもカイとの関係を深めたいのだろう――自分との間を、縮めたい。


「じゃあ、頬ならいいでしょう」

「うーん、俺からするのは嫌だぞ」

「はーい、じゃあ……チュッ」


 意外とすんなりと頬に唇が当てられ――ジュラはそのまま、仰け反って倒れた。


慌ててカイが立ち上がると、ジュラは顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせているのが見える。

そこでようやく、カイは理解した。理解してしまって、笑ってしまった。


きっと彼女は――母艦に立ち向かうよりも大変な、勇気を振り絞ったのだろう。


「クリスマスプレゼント、ありがとう――ジュラ」


 だからこそカイは、初めて彼女の名前を優しく呼んだ。























<END>







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