ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 23 "Motherland"






Action15 -御前-








「好きだの嫌いだの言う前に、あんたはあの子をどうしたいのよ」


 ミスティ・コーンウェルとソラ、人間と精霊の対話は続いている。

精霊の試練は人ならざる者との接触であり、同時に己自身への対話にも繋がっている。

ミスティはソラに今話しかけているが、同時に自分自身に対しても疑問を投げかけていた。


感情の行く先――自分はどうしたいのか、何がしたいのか。


『マスターを通じてお互いに反応していますが、あの子は地球と連携を取っていました』

「それは知っているし、今は違うんでしょう。誰がどう見てもあの子、あいつの事が大好きなんだから。
ただ、あいつを知り合う前は地球と連携を取っていたというのも変でしょう。

地球人だって、人間なんだから」


 もう一人の精霊であるユメは、人間を嫌っている。

敵の敵は味方という発想は、人間にしか持ち合わせていない。ユメにとっては、どちらも変わらず人間なのだ。

かつてマグノ海賊団達を敵にしていたとはいえ、彼女達の敵である地球人とわざわざ連携する意味が分からない。


人間の醜さという観点で言えば、地球人のほうがよほど酷いと断言できる。


『地球人の暗く閉ざされた不安感は、負の意識の集合体と化しています。そうした負の念に、あの子は反応したのでしょう』

「……人間嫌いと共鳴してしまったのね、可哀想に」


 近親憎悪という言葉があるが、ユメの場合は人間の暗い想念に無意識的に反応してしまったのかもしれない。

かつての同胞より臓器を奪うという狂気に侵された者達だ、負の想念は決して半端ではない。

異常なまでの狂気に、人間を食らう精神が共鳴してしまっても不思議ではなかった。


だからこそ、悲しいとも言える。


「敵同士にならずに済んだのは、あいつのおかげかな」

『私を通じてマスターを知り、あの子は人間を正しく知ることが出来ました。
まだまだ人の醜さには反発しておりますが、人の美しさにも触れています』

「ふふ、カルーアちゃんは可愛くて無垢な赤ん坊だもんね。人間の未来であり、可能性の宝石だよ」


 カイを知って人の正しさを知り、カルーアに触れて人の美しさを見た。

人を嫌う心はありながらも、人を見つめる気持ちに輝きが宿ったのだ。それもまた正しく、人の奇跡なのだろう。


彼女達は今も、人を知り続けている。


「あんたの言いたいこと、分かった。私もまた一人に囚われず、他人を知らないといけないのね」


 故郷は失われて、両親も友人も死んでしまった。ミスティに帰る場所はなく、帰りを待っている人は誰も居ない。

寂しく思うことは最も出し、孤独であることを不安に思うのは正しい。ただし、囚われてはいけない。

何をどうしたって、過去はどうにもならない。だからといって今悲しんでばかりでは、何もならない。


感情の行く先を、袋小路にしてはいけないのだ。


「カイもこの試練を通じて、何か悟ったのかな」

『はい、貴女とは違う答えを出しました』

「あたしとあいつは似ているけど、違うもの。男と女、同じである必要はないわ。

……ああ、そうね。ほんと、同じである事はないのよね」


 自分とは違う答えを出したと聞かされて、ミスティは少し複雑に思いつつも納得した。きっと聞けば、カイらしい答えなのだろう。

想像はつくが、確実に思い至ることは多分無理だろう。どちらが上なのか、ではなく、どこまでいこうと他人だからだ。

そう考えると少しすっきりしたが、同時にやはり悲しくもなった。


どれほど似ていても、やはり違う人間なのだと分かって。


「あたしさ」

『はい』

「あいつのこと、嫌いだけど――それでも、好きみたい」

『同じような人間だから、好きになる。そして同じような人間だから、嫌いなのですね』


 自分なりに考え方を整理して、答えは出せた。今後どうしていけばいいのか、少しだけ分かった。

他人と関わっていき、人間関係を作っていく。色々と大変だろうけど、自分から歩み寄らない限りは一人のままだ。


ソラもユメも――そしてミスティも歩みだそうとしているが、今この時だけは一人が寂しかった。























<END>







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