ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 23 "Motherland"






Action3 -加茂-








 ヴァンドレッド・ジュラによる磁気嵐の突破が行えるとあって、ニル・ヴァーナ艦内は歓喜に満たされた。

障害はもう、何もない。潜んでいた刈り取り部隊は全て撃破され、困難な磁気嵐は突破できる。遭難していたカイも無事発見された。

故郷は目前、何一つ立ちはだかる壁はない。ようやく自分の故郷へ帰れるのだ、今までの苦労は全て報われた。


皆が素直な感情で、大いに喜びあった。


「……ようやく帰れたのね」


 レジシステムの中で、喜び合う店員達の中でバーネットは一人呟いた。喜びは確かにあったが、複雑でもあった。

ドレッドのパイロットとして意気揚々と最前線で戦っていた自分が、この一年間の旅で引退。レジチームの一員として、黒子で働いている。

悩んだ末の決断であり、今でも後悔していない。むしろ今となっては、裏方であるこの仕事のほうが性に合っているとさえ思っている。


ゆえにこそ、変わった自分に思いを馳せずにはいられない。


「……もうすぐだね」


 全く別の部署、機関室で朗報を聞いたパルフェも感慨に浸っていた。同じ部署で働くチームメンバーも、それぞれ喜び合っている。

パルフェは立場こそ変わらないが、環境そのものは随分と変わっていた。ペークシス・プラグマが輝いていて、ソラが働いてくれている。

ペークシスが生命体であり、ソラが精霊だとカイから聞かされてはいる。未知なる存在と未知なる好奇心、その全てを満たしてくれるものがいる。


大切なものが増えて、人生が輝いている。この旅は苦労も多かったが、得難きものもあったのだ。


「……」


 ――そして、彼女には何もなかった。


ミスティ・コーンウェル、宇宙人。冥王星出身である彼女にとって、メジェールは他の惑星と何も変わらない。

メイア達の故郷、彼女達が生まれた星ということであれば多少の想いはある。けれど決して、感動的ではない。


冥王星は、地球によって滅ぼされた。コールドスリープで眠っていたミスティにとって、故郷は過去でしかなかった。


喜びを分かり会えない。感動を共有できない。マグノ海賊団がどれほど歓喜していても、共感できない。

いっその事悪態の一つでもつけられる性格であればよかったのだが――いや、そういう心境に一瞬なってしまいそうだった。


けれど自暴自棄にならなかったのは、自分と同じ存在がいたからだ。



(あいつも……此処が故郷じゃないのよね)



 カイ・ピュアウインド。精霊達が全てを語ってくれたので、カイが地球生まれのクローン人間なのは知っている。

タラークで育った彼だが、故郷と言える懐かしさはないだろう。彼は労働階級の人間、極貧生活にあえぐ生活を送っていた。

自分の過去を思い出した彼にとっても、タラークは素直に喜べる故郷ではないだろう。彼と自分は同じ、漂流者だ。


そう思える存在が一人でもいるだけで、自暴自棄にならずに済んだ。


「けっ、どいつもこいつも子供だな。お家に帰れるだけではしゃぎやがってよ」

「で、でも、自分の家に帰れるのは嬉しいと思うよ、ツバサちゃん」


 声が聞こえたので視線を向けると、喜び合う大人たちを遠くから見つめる子供達の姿があった。

シャーリーとツバサ、病の惑星とミッションから出て来た女の子達。バートやカイに引き取られた彼女達も、ここは故郷ではない。

鼻を鳴らすツバサを、シャーリーが苦笑いでなだめている。悪態をつくツバサの感情こそ、先程までの自分の思いでもあった。


思わず、笑ってしまう――色んな人達がいるこの場所こそ、自分の家かも知れない。


「おーす、君たち。はみ出し者同士、ご飯でも食べに行こうか」

「はみ出してねーし、あたしの方からハブってるから」

「まあまあ、ツバサちゃん。おねーさんと一緒に、おいしいご飯を食べようよ」


 まだぶつくさ言っているツバサを見ていると、ミスティは心の底から微笑ましい気分になれる。気持ちはとても良く分かる。

今更家を懐かしむような人間ではないが、同じ喜びを共有できないのは辛いものなのだ。

そういった人間が自分の他にもいると言うだけで、救われた気になる。そして、思う。


そういう人間の集まりこそが、マグノ海賊団であるのだと。


「……あたし達は何処に帰ればいいのかな」


 子供達を連れながら、ミスティは天を仰ぎ見る。無限に宇宙は広がっていても、何も見えない。

悲しむ気持ちは特に無いのだが、それでも思ってしまう。もう無いと分かっていても、思ってしまうのだ。



――家に帰りたい、と。























<END>







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