ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action34 -凱歌-








 長ココペリが祝福を告げるように、地面に模様をなぞらえていった。荘厳な壁画にも似たその絵画は美しく、威厳に満ち溢れていた。

中心に君臨するのは、一人の少年。少年を優しく見守っているのは蒼い巨人と白い翼、赤い鎧。少年を称えているのは、百五十の心。

祝福された少年の手には、二人の少女が手を繋いでいる――絵画は、心象風景であった。


少年カイ・ピュアウインドは、精霊の試練に挑んでいる。


「……蒼い巨人だけじゃねえ」


 それはかつて、ラバットが望んでいた力の象徴であった。

カイと同じく自分の無力に嘆いていた彼は、精霊の存在を知って痛烈に求めた。試練にも挑んだのだが、精霊との対話は適わなかった。

長曰く、ラバットにも資質はあった。そもそも資質の無い人間を、試練に誘ったりはしない。

資質があったのにもかかわらず、彼は試練を乗り越えられなかった。


「あいつは、白い翼に赤い鎧まで手に入れやがった」


 試練を受けた当時は分からなかったが、大人となった今のラバットにはその理由がよく分かっている。

精霊に対話を望んでおきながら、彼が欲したのは力だった。力でしかなかった。精霊の神秘ではなく、精霊の力を望んでしまったのだ。

前提が、間違えていた。精霊とは、人間の味方ではない。精霊はあくまで精霊であり、人とは異なる存在なのだ。


だからこそ対話が必要であるのに、分かり合おうとする努力を怠った。


「精霊はお前ではなく、あの少年を選んだというのか」


 ココペリと席を共にするタタンカは、驚きの声を上げる。少年を否定しているのではない、ラバットを肯定しているがゆえだ。

それほどまでに、タタンカのラバットに対する期待は大きかった。人として立派に成り立っているラバットは、タタンカにとって期待の星だった。

だからこそ、精霊の試練に失敗した時は何かの間違いだと思ったものだ。今でも、ラバットには資格があると思っている。


タタンカの期待に、ラバットは首を振る。


「悪いな、タタンカ。俺は根っからの商人だったらしい、ソロバン勘定しか出来ねえんだ」


 利益を求めることは、人間として当然だ。そういう意味では、ラバットは人間らしかった。人として、成り立ちすぎていた。

大人になるということはある種、そういった面を持つのかもしれない。子供の頃に持っていた理想を捨てて、大人は現実を生きている。

決して、悪いことではない。事実、カイは何度もラバットに助けられている。ラバットがいなければ、カイはここまで成長できなかった。


ただ、精霊との対話には不適切だった――ただそれだけでしかない。


「そんな顔をするなよ、タタンカ。俺は精霊との対話を実現したあいつと、手を組んでいる。それで十分さ」


 ラバットは、確信している。カイはこの精霊の試練を乗り越えて、精霊との関係を見事に築き上げるだろう。

カイと同盟を組んでいれば、自然と精霊に接触する機会が生まれる。それだけでも、精霊との対話には成功できる。

無論ラバットの力にはならないが、カイと同盟を組んでいる以上精霊の力を借りることは出来る。


ただそれだけで、十分な価値がある。


「あいつはやっぱり、金のなる木に繋がっていたな」

"ふふ、面白い表現だ"


 利で繋がる関係でさえも、ココペリは祝福する。利益で繋がるからこそ、彼らの関係は強固となるだろう。

夢そのものは適わなくても、夢を見ることは出来る。かつて適わなかった憧れとの体面が、実現する。

ラバットからすれば、それだけでも満ち足りていた。わざわざ手に入れようとは思わない。それくらいの分別はもうついている。


宝石は輝ける場があるからこそ、美しい。


「……俺の夢を叶えてくれてありがとうよ、カイ。今度は俺が、お前の夢を実現させてやるよ」


 この先、最後の決戦が待っている。あらゆる意味で辛く、険しく、激しい戦いとなるだろう。

故郷へ帰れば、否が応にも現実を突きつけられる。少年にとっても決して楽ではない、戦いとなるだろう。


夢を追う少年を支えられるのは現実的な大人だと、ラバットは理解していた。























<to be continued>







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