ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action28 -我渦-








「――何だって!?」

『間違いありません』


 融合戦艦ニル・ヴァーナの、メインブリッジ。マグノ海賊団お頭マグノ・ビバンと副長ブザム・A・カレッサに真実が突き付けられていた。

ドゥエロ・マクファイルが知った、カイ・ピュアウインドという人間の情報。彼に関するあらゆる全てを、彼は今知ったのである。

彼は悩むことなく、お頭と副長に報告した。隠し立てする事ではなく、そして気遣う必要もない。


他者の口から己が語られたとしてもカイは決して恥じ入る人間ではないと、彼はよく知っている。


『カイ・ピュアウインドは、地球人。地球側の重要人物のクローン人間として造られました』

「で、では、あの男は……」


『私やバートのような第三世代ではなく、第一世代のクローンです』


 タラークの基準でクローンを語るのは、なかなかにややこしい。何故なら、タラークの男達はクローン技術で産み出されているからだ。

女性がいない為の繁殖処置として、クローン技術が重用されている。それだけに、タラークは血の純度を非常に重んずる。

クローン技術が主体であるため決して軽んじられている訳ではないのだが、クローン元となった遺伝子の良し悪しには神経を尖らせている。


だからこそ第一世代のクローンである事は、非常に重要となる。少なくとも、第三世代に位置づけられる存在ではない。


第一世代のマグノは勿論のこと、副長のブザムも驚愕していた。衝撃的などというレベルの話ではない。

思わず絶句してしまうが、だからといって法螺話だと突っ撥ねたりはしなかった。他でもないドゥエロが告白しているのだ。


だがそれでも、辻褄が合わない部分は聞き逃せない。


「第一世代のクローンであるカイが、何故タラークで放置されている」

『詳しい経緯は不明ですが、第一世代のクローンとしてカイは適していなかったようです』


「……だから、捨てられたという事かい」


 独白のように、マグノが重々しく息を吐いた。十分すぎるほどに、あり得る話だった。

地球はそれほどまでに、破綻している。倫理や道徳観なんて、あったものではない。役立たずであれば、ゴミのように捨てられる。

クローンまで作られるということは、よほどの重要人物だったのだろう。だからこそ、資質がないことが許されなかった。


文字通りの捨て子であったことに、ブザムも不憫げに目を伏せる。


「地球より出立した植民船にはアタシも乗っていたが、そんな子はいなかった筈だけどね」

『植民船に乗船されると、存在が明るみに出てしまう。ゆえに文字通り、廃棄されたのでしょう。
その後彼は我々と同様の現象に襲われて、タラークまで飛ばされた』

「ワームホール――しかし、あれほどの物理現象となると……」

『地球は、ペークシス・プラグマを有している。かの結晶体を我が物とするべく、あらゆる実験が行われたと推察されます』


 ワームホール、タラーク軍船と海賊船を宇宙の果てまで吹き飛ばした時空間転移現象。


時空間を捻じ曲げるほどのエネルギー爆発を起こせるのは、ペークシス・プラグマのみ。ニル・ヴァーナにも、地球にも保管されている。

地球が凶悪な刈り取り兵器や母艦を運用できるのは、ペークシス・プラグマを有効に使用しているからだ。


ペークシス・プラグマを効果的に使用するには、実験や検証が必要となる――カイはその実験に使用された。


「……運が良いのか悪いのか、よく分からない男だな」

「悪運が強いのさ、あの坊やは。赤ん坊の頃からしぶといだなんて驚きだよ」


『フフフ、彼のタフネスは不遇な環境から培われたと言っていいでしょうね』


 そんな不幸話を、彼らは平然と笑い飛ばした――だからどうだと、言うのか。

カイは生きて、今逞しく成長している。何者であろうと、彼は立派に人として人生を全うしているのだ。

衝撃的な事実ではあったが、だからといって彼を見る目が変わる訳ではない。今の彼が、何かに変わる訳ではないのだ。


笑い飛ばしてやればいい。彼もそうして、生きている。


「彼が地球人だと考えれば、納得がいく面も多いです。タラークが提供する男尊女卑の価値観に、彼は染まっていなかった」

「メジェールの女尊男卑な考え方も毛嫌いしていたからね……捨てられた身であっても、地球生まれの地球人であるということかい」

『ええ、今の地球ではなく、彼こそかつての我らの祖先である地球人そのものなのでしょう』


 思えばカイは人間そのものに深い興味を示し、どの惑星へ行っても差別意識もなく接触を図っていた。

メラナスとの軍事同盟や、ラバットとの通商同盟が結べたのも、他者に敬意を払う彼なりのスタイルと言ってよかった。

古き良き地球人の形、模範と呼べるかどうかは別にしても彼は間違いなく生粋の地球人なのだろう。


マグノはかつての思い出を振り返るように、目を細めた。


「親近感が湧くはずだよ……あの坊やは一番、アタシに近い子供だったんだ」

『お頭の孫とも言うべき存在であるかと』

「フフ、それであの生意気坊やは今も無事なんだろうね」


 過去が分かったからこそ、今が愛おしい。生きていることが前提の問いかけに、ドゥエロもまた微笑んだ。

ピョロが情報を提供した以上、カイが死亡していることはなくなった。死者の情報を提供しても、仕方がないからだ。

そして情報が提供された以上、カイもまた同じ情報を得ている。自分の全てを知った時、カイはどのように感じるだろうか?


自分を不幸だと、呪ったりはしないだろう――さりとて。


『彼は今、自分と向き合っている最中です。自分とは何か、自分自身にこそ語っているでしょう』

「アタシらが口出しできる問題じゃないね――ドクター、教えてくれて感謝するよ」

「我々は海賊、無事を祈るという柄でもありません。元気に迎えに行ってやるとしましょう」


『よろしくお願いします。我々も全力で、彼の行方を探しましょう』


 真実はこれで、全て明らかとなった。彼も今事実を知り、必死で試行錯誤しているだろう。

最終決戦は、近い。はたして彼がどんな結論を導き出すのか――


友人として、期待に胸を大いに踊らせた。























<to be continued>







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