ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action20 -雁木-








 バート・ガルサスが死に物狂いで広大な宇宙からカイを探し出そうとしているその頃、ドゥエロは医務室へ戻って作業を行っていた。

レーダー室の設備を使用してカイの捜索を行う事も考えたのだが、思っていた以上に人手が集まってしまった。

勿論、決して悪い事ではない。メイア達は本気でカイを案じて捜索活動を行ってくれている。友人として、ドゥエロは彼女達に感謝していた。


とはいえ、限られた設備の中で大多数で捜索を行うのも非効率。ドゥエロは別の観点から、カイに支援する事にした。



「ドクター、何やってるケロー?」



 ヒョコリと顔を出した、のではない。今日は朝から医務室に詰めかけているナース、パイウェイがドゥエロの医務机を覗き込んだ。

病の惑星で過酷かつ貴重な医療経験を詰んだ彼女は、暇さえあれば医務室で看護の勉強と実習を重ねている。

救えなかった人達のことが、よほど悔やまれたのだろう。さりとて絶望せず、失敗や反省を重ねて一人前になろうと苦心していた。


そんな彼女だからこそ、ドゥエロは安心して彼女と共に医療を行っている。


「留守にしてばかりで、君には申し訳なく思っている」

「カイが心配なんでしょう? いいよ、今日は誰も怪我しなかったし、医療事務なら自分でも出来るから」

「ありがとう、助かる」


 行方不明になったカイを案ずるドゥエロの背中を押したのは、パイウェイだった。友達を心配する彼を、彼女は何一つ茶化さなかった。

カイの事は、パイウェイなりに心配していた。面白がって騒ぎ立てたりせず、艦内の動向を見守っている。

死んだとはあまり考えていないし、考えたくはない。病の惑星では赤の他人でも、死んだ時は本当に悲しかった。想像したくもなかった。


何だかんだで、男達との付き合いも長くなっている。年齢差こそあるが、パイウェイは彼らを仲間だと思っている。


「――今、カイの診察記録を見ていた。どんな怪我を負っても、治せるように」


 ドゥエロの静かな回答に、パイウェイは大いに得心した。ドゥエロは医者として、カイを何とか支援するべく医療を行おうとしているのだ。

彼は仲間としてカイの生還を確信しつつも、無傷だとは思っていないようだ。悲観主義者ではないが、決して楽観主義者でもない。

ドゥエロらしいと、パイウェイは内心微笑む。変な意味で個性的な彼にらしさは似合わないかもしれないが、友達を思う気持ちは本物だった。


だからこそ、パイウェイは愛用のカエル人形を取り出した。


「何だか面倒そうだケロ、いーち抜けた」

「ああ、君は医務を続けてくれ。私の仕事だ」


 手伝わない、のではない。ドゥエロが率先して行っている仕事を、横から割り込まないと言っているのだ。

パイウェイも医療経験を積んできている。カルテを見るなり、出来る事は沢山ある。だが、この場合の貢献は彼にとってあまりプラスになりそうにない。

彼の仕事を奪うのではなく、彼の本来の仕事を代わりにやる。その方がよほど、彼の力となれるだろう。


そう考えられるほどに、彼女はナースとして成長していた。


「それにしても」

「どうした?」


「あいつ、怪我が多いよね」

「うむ、それにしては大いに賛同する」


 カイの診察記録は、この一年の間で随分と蓄積されている。小さな怪我から重傷まで、カイは多く傷付いていた。

パイロットに怪我はつきものだが、カイの負傷度合いは酷い。最初の頃は仲間達との連携も出来ていなかったので、酷いものである。

何よりカイはパイロットとして、事前に勉強も訓練も受けていないのだ。いきなりの実戦で、その後も投入され続けている。


振り返ってみればあまりにも酷い事ではあるのだが、戦時下という事で有耶無耶になっている面もあった。


「新米パイロットの多くは、精神的外傷を受ける。訓練が足りない者は、特に」

「知っているよ。過酷な練習よりも、実戦の方が酷い事も多いから」

「その通りだ。カイは特に何の訓練も受けていないまま、戦場へ自ら飛び出した。理想と現実のギャップを思い知っただろう」

「だけど、カイは今も戦い続けているね」

「うむ、それには君達のような存在は大きいな」


「えっ、パイが……?」

「たとえ海賊であっても、彼にとって君達は仲間だ。非戦闘員であろうと常在戦場でいる君達を思えばこそ、彼は戦い続けられる」


 誰かを守りたいという気持ちに対して献身でも自己犠牲でもなく、人を思う純粋さだとドゥエロは診断する。

カイは夢見がちなヒーロー願望を持つ少年、だからこそ現実と理想の金は本当に厚い。それでも戦い続けられるのは、誰かを思うがゆえにこそ。

正義でも正しさでもなく、想い。気持ち一つで、戦っている。だからこそ、曲がらないのだろうとドゥエロは理解している。


そういうカイを、パイウェイは笑ってこう評価した。


「それって、馬鹿まっしぐらだよね」

「君は実に上手いことを言う」


 ドゥエロには珍しく、素直な笑顔を見せた。そんな彼の笑顔が見れたことが嬉しくて、パイウェイも笑った。

二人して歓談しながら作業を詰めていると――


医務室に、来客が訪れた。


「――あれ、なんで"あんた"がここに来るの!?」

「どうしたんだ、一体」


 来客は何も語らずに――



カイの診断記録を、ノイズにした。























<to be continued>







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