ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action19 -主命-








 精霊との対話。信憑性がまるでなかった話だったが、長より直接"声"を聞かされてはカイも信じるしかなかった。

皮肉な笑い話である。地球が求めていた精霊との対話に必要な、声。彼らは望んでいたものを、刈り取りによって奪うことは出来なかったのだ。

声が必要だからと声帯そのものを奪い、"声"には耳を傾けなかった。対話の資格などない連中だが、結局彼らは本質を見ていなかったのだ。


とはいえ、カイ本人もこの"声"がどういうものなのか理解は出来ていない。


「確かに、あんたの"声"は聞こえている。耳からではなく、頭に直接響いている。どういう原理なんだ?」

"それこそ、"声"で語れるものではない。知りたくば、耳を傾けよ"

「……トンチのきいた話だな」


 長も意地悪で話さないのではない。説明したところで、常人に理解出来る類ではないのだろう。

人間も生後声を出して話せるようになるが、どうやって声を出すのか原理では理解できていない。いつのまにか、話せるようになっている。

勿論声帯について医学の観点から説明は可能だが、理屈で声が出るようなものではないのだ。説明しろと言われても、難しいだろう。


カイも無茶を言っているとは分かっているので、肩を落とすしかなかった。


「だったら、精霊について教えてくれないか。地球の連中がそれほど恐れている存在とは、何なのか――
それとも精霊についても説明するのは難しいかな」

"……"

「な、何だよ……?」


 率直に聞かれて、怒っている様子はない。むしろ長は、何故カイがそんな事を聞いたのか、不思議に思っている様子だった。

真顔で見つめ返されて、カイも戸惑ってしまう。不躾な質問ではなかったと、彼なりに思っている。気を使ったつもりでもあった。

彼らにとって、精霊とは神聖視する存在なのだろう。異国、異教の神とは、デリケートな代物だ。迂闊に触れると、逆鱗に触れてしまう。


とはいえ、避けられる質問ではなかった。地球が恐れる存在であるのならば、天敵以上の関係であるのかもしれない。


"他でもないお前が、精霊の存在について我らに尋ねるとは驚いた"

「? どうして俺が聞くのが、それほど不思議なんだ」


 怪我をしたカイをここまで運んでくれた長の側近まで、驚いた顔を見せている。カイはますます不思議だった。

カイもカイで精霊という存在を聞かされて、奇異な目で彼らを見つめていない。偏見もなく直接聞いているという点においては、素直でこそある。

幽霊や精霊の存在は地球史から延々と残されている法螺話、実証性も何もない存在である分真面目に語ると馬鹿を見てしまう。


そういった意味では率直に聞いているカイを不思議に見ても無理はないのだが、長達はどこまでも真剣だった。


"長、もしかするとこの者は――"

"タタンカ、疑念を持つな。この者には、邪気がない"


 二人の会話は半ば理解できていないが、疑われているのであろうことは分かる。弁明するべきか一瞬悩んだが、長は収めてくれた。

緊張感を持って見つめてみたが、長の側近タタンカという男はむしろ頭を下げてくれた。どこまでも礼儀正しい人達で、カイは怒るどころか恐縮してしまう。

どうあれ、精霊はやはり彼らにとって聖なる存在なのだろう。慎重に、それでいて敬意を払っている様子が伺える。


長は落ち着いた表情で、カイを覗き込んだ。


"我々の祖先は、精霊と対話する術を持っていた。ただそれは、人間の科学で証明しうるものではなかった"

「だからこそ、地球の連中はあんた達に注目した」

"この惑星へ我らを幽閉した彼らは精霊を望む、そして恐れた。お前は、精霊に何を求める?"

「もしも精霊が地球の敵であるとするのであれば、手を取り合えると思っている」

"戦いに必要な力を望むのか"


 カイは一瞬身構えたが、長より伝わるのは怒りではなかった。側近タタンカも警戒こそ薄れているが、カイを真剣に見つめている。

戦いに必要だから、接触を図る。確かに聞きようによっては、地球と同じ目的だと受け取られかねない。

迂闊な発言だったのかカイは自問して、心の中で頭を振った。そんなつもりはなかった、といえば嘘になる。地球に対抗できると、期待はしたのだから。


肯定するべきか、否定するべきか――彼は今この時、自分の心に問いかけた。


「人と同じだと思っている」

"精霊を特殊な存在であると定義しながら、人と同等だと我らの前で語るのか"

「存在そのものを、同列と見なしていない。どのような存在なのか定かではないという点において、人と変わらないと言っている」


 カイは自分で認めている。この長も、タタンカも、この惑星に生きる人々の全てが強く偉大である。自分では雲泥の差であると。

ならばカイに語れるのは、何であるのか。彼らに誇れるものは何なのか。己に問いかけて、すぐに答えが出た。


この一年間、マグノ海賊団と共に過ごした時間である。


「男も、女も、宇宙人も、異星人も、俺にとっては未知なる存在だ。散々手を焼いて、悩んで、苦しめられた。だからこそ、対話の必要性を痛感している。
俺はパイロットだ、戦いそのものまで否定するつもりはない。戦闘も対話も、交流を結ぶための手段。

俺は、精霊を知りたい。その気持ちは、他人に向ける感情と同じだ」

"お前の『声』、確かに聞かせてもらった"


 この時、長は初めて表情を緩めた。未熟な答えだということは、カイ本人が認めている。だが確かに、心には届いた。

最初こそ警戒していたタタンカも、相好を崩している。長と向き合って心の中で定まった決意を示すかのように、一つ頷いた。

彼らの表情を見て、カイもまた一つ理解する。精霊とは、一体どのような存在なのか――


対話ができる存在――人との理解は決して、不可能ではない。


"精霊を知りたいのであれば、『精霊の祠』へ行くといい"

「精霊の、祠……?」


"我らの精神修行の場――神と対話する場所だ"


 こうして、カイはこの惑星の人達に認められた。だが、それは決して出発点ではない。

見極められているのは、今も同じ。次に向き合うのは、人では無き存在。人ならざるものと、対面しなければならない。


声は、届くのか――案じているのは、あくまでカイ一人でしかなかった。























<to be continued>







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