ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action15 -全居-








 カイ・ピュアウインドが搬送された先は――荒野を渡った峡谷にある、一つの村であった。

惑星の歴史を秘めている、雄大な景観。荒野一帯の広い地域が地殻変動により隆起した峡谷に、村が形成されている。

岩造りの家が並んでおり、厳しい自然の中で生きている人々の生命を感じさせる。質素ではあるが素朴に生きており、人々の生活に健やかさを感じさせる。


大人達は藁作りによる作業で生計を立てて、子供達は元気に遊び回っているのが見える。


(……地球の影は感じさせないな)


 砂の惑星は地球により滅び、水の惑星は地球の支配を受け、病の惑星では地球の侵食を受けていた。

同盟を結んだメラナスは侵攻の最中であり、リズ達のミッションでは地球による侵略を受けていた。そのどれも、当て嵌まらない。

運ばれて行く中でも意識そのものはあり、カイは村の様子を横目で見ていた。平和である、健やかである、生きている。


そう、生きている――厳しい自然環境にも負けず、逞しく人々は生きている。


(生きた人間を見るのは、初めてのような気がする)


 仲間であるマグノ海賊も含めて、カイが出逢った人達は多くの問題を抱えていた。

生きている中でも心に傷があり、影を背負っている。懸命に生きているが、健やかさはなかった。

故郷であるタラークは、言うまでもない。軍事教育に徹底されたあの星は、洗脳じみた教育を施して民を駆り立てている。


このような生活こそ、平和の象徴といえるのかもしれない。


(あのラバットがこの惑星を紹介した理由が、これなのか……?)


 地球に対抗するべく仲間集めを行っていたカイに、この惑星を紹介したのはラバットであった。

手を組んだ彼が、悪意を持ってこの惑星へ追い立てたとは思えない。何よりも彼は、カイのことをよく分かっている。

必要だから、この惑星を紹介した。その真意までは分からなかったが、この惑星に生きる人々を見ていると何となく分かる気がした。


そうしてカイが運び込まれたのは、村の中心にある一軒家。飾り立ててこそないが、立派な家であった。


男達に運ばれた彼はすぐに手当を受けて、処置を施された。最新機器による医療ではなく、薬草などを用いた医術である。

ドゥエロによる医療にお世話になっていた身としては、薬草などの自然医術の効果は半信半疑であった。

彼らの文化を否定する気はないのだが、いきなり全面肯定するのも無理な話。とはいえカイに逆らう術はなく、なすがままである。


(! 痛みが、嘘のようにひいていく……)


 だがカイの懸念は、杞憂であった。薬草や薬湯、祈祷などによる効果は絶大で、身体中の打撲が治癒されていく。

医療ポットのような即効性こそないが、身体に無理強いさせないという意味では負担も実に少なかった。

強烈な眠気に襲われて、カイはすぐに身を委ねたままにする。彼らなら信用できると、脳ではなく身体が訴えていた。



そうして治療を受ける事三十分余り――カイは起き上がれるように、なった。



「怪我をしているところを助けてくれて、ありがとう」

(我々は出逢うべくして、出逢った。助け合うのは、当然だ)


 父親に抱かれているような、威厳と包容力に溢れた"声"。耳ではなく、カイの頭の中に響いてくる。

声なき声の感覚、慣れないはずなのにどうしてか馴染みがあった。戸惑うこともなく、受け入れられた。

不思議な感覚に戸惑うカイではあるが、そんな彼こそ珍しいのか一軒家に人々が集まっている。


玄関先から子供達が大勢覗き込んでいるのが見えて、苦笑いするしかなかった。


「元気なガキ共だな。平和である証拠か」

"子供達は、本来未来の礎であるべき。平和の象徴となってしまったのが、哀しい事だ"


 カイが、目を向ける――神の声と錯覚してしまったのは、中央を陣取る一人の男の存在感であった。

年配ではあるが、老齢にまで達していない。深く刻まれた皺は人生の年輪であり、重厚な生の証であった。


独特の民族衣装に身を包んだ、男。赤い布を頭に巻いており、威厳を感じさせる長の顔立ちをしていた。


男達も多数集まっているが、長も含めてその誰もが屈強な体格をしている。

荒野に生きる男達は誰もが皆戦士であり、一人前の男であった。その中でも、村長が群を抜いている。


彼らは自然とカイを村長と同じ席へ促し、客としてもてなしてくれた。世話になった身であるのに歓待を受ける理由がわからず、首を傾げるしかない。


「どうぞ」

「ああ、どうも」


 祈祷師の女性より渡されたのは、薬湯だった。どう見ても濁っており、美味しそうには見えない飲み物。自然に、カイの頬が引きつった。

理性的な拒絶ではない、本能的な抵抗である。薬草を煎じて作られたのだ、苦くて当然である。

苦い薬はドゥエロの医療を受けている時も、散々飲まされている。薬湯において、味なんて二の次でしかない。


その程度の事は分かっているのだが、つい手を止めてしまうのがカイの若さであった。


"飲んでおけ、力がみなぎる"

「分かっている、ありがたく頂くよ」


 村長が促すのは強制ではなく、カイの戸惑いを察した勧めであった。カイも彼の気遣いを察して、礼を述べる。

一つ深呼吸をして、一気に飲み込む。味とは舌で感じるものであり、喉に流し込んでしまえば味は感じない。

とはいえ同じ口の中、どうしても苦味が広がっていく。ドゥエロならこんな時水を渡してくれるのだが、そこまでの親切を期待するのはむしろ失礼だった。


口内に広がる苦味に顔を顰めると、笑い声が聞こえる。カイが顔を上げると、子供達が笑っていた。


「さてはあいつら、分かっていて見に来てやがったな……悪ガキ共」

"ふふふ"


 笑われてしまったが、印象は悪くなどしていない。子供達のやることにいちいち腹を立てても、仕方がない。

何より子供達の笑い声に、悪意は全く無かった。良い教育を受けているのだろう、無邪気で気持ちのいい子たちであった。

だからこそ、長も一緒になって笑っている。大人も子供も皆、この日々に充実しているのがよく分かった。


だがその声は、耳には決して届かない。


「――こんなことを聞いていいのか、憚られるが」

"察しはついている。話してみるといい"


「あんた達はどうして、声を使わないんだ?」


 それこそ、カイも何となくでも察している質問である。敢えて直接聞いたのは、確認であった。

好奇心による確認ではない。必要性があるからこそ、聞いている。この点に触れずして、交流は行えない。

本来であれば正面から聞くべきことではないのだが、それでも聞けたのは彼らが堂々と生きているからだ。


何も引け目を感じず、自分達の人生を歩んでいる。ならば彼らは、この状況を受け入れているというべきか。


"地球人だ"

「! やはり、そうなのか」


 カイの質問に答えたのは長ではなく、カイをここまで運んでくれた男達の一人であった。

側近ともいうべき立場なのか、長との距離も近い。そんな彼が進んで、カイの問いに答えてくれた。


――だが。


"地球人が、我らから声を奪った"


 予想通りの声――されど、耳には届かない。

健やかに生きているはずの男から出た事実こそが、一番の苦味を秘めていた。























<to be continued>







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