ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action14 -相鉄-








 カイ・ピュアウインドが事故で行方不明になったと聞いて、パルフェが真っ先に向かったのはペークシス・プラグマの保管庫だった。

カイが死んだとは、夢にも思っていない。事故に遭ったと聞いた時も、またトラブルに襲われたのかと豪胆に笑ったものである。

心配や不安も当然あるのだが、それこそ死体でも見ない限り死んだとは思わないし、到底思えない。きっとまた平気な顔で生きて返ってくるだろうと確信している。


別段、特別視していない。仲間として、友達として、当然のように信頼しているだけだ。彼よりも心配なのは――


「――よかった、特に目立った悪影響が出ていない」


 ニル・ヴァーナの心臓部とも言える、ペークシス・プラグマである。カイの事故による影響が出ていないのか、心配になって駆け付けたのだ。

突拍子もない発想だが、パルフェは確信している。このペークシス・プラグマは、カイ・ピュアウインドという一個人を特別視している。

彼の存在がエネルギー出力を安定させ、彼の不在が不安定にさせる。カイが以前船を飛び出していった瞬間、ペークシス・プラグマは完全停止した。


自分達がペークシス・プラグマの恩恵を受けているのは、カイが味方をしているからだとパルフェは本気で思っている。


「肝心の本人には、全く自覚がないけどねー」


 カイ本人は、ペークシス・プラグマに愛されているという自覚がない。呆れているが、仕方がない事かもしれないとも思っている。

パルフェの認識は、ペークシス・プラグマの意思が前提となっている。エネルギー結晶体に意思がある、何ともファンタジックな発想ではないか。

機械さえ愛するパルフェの変人ぶりは仲間達の中でも共通認識だが、この件については妄想ではなくパルフェ本人も確信を抱いている。


そしてパルフェ本人のみならず、仲間達の間でも薄々であろうと気付いている者達もいるだろう。


「この子が平然としている以上、あいつも無事だって事だろうね」


 そして、逆転の発想も可能だ。ペークシス・プラグマの影響度を確認すれば、必然的にカイの現状も窺い知れる。

ペークシス・プラグマに何の影響もないのであれば、間違いなくカイは生きている。事故にあって無傷とは思えないが、大きな怪我も多分ないのだろう。

磁気嵐に落ちて平気だというのは通常信じ難いのだが、カイは普通の人間ではない。奇跡的なのか、偶発的なのか、あるいは自力で乗り越えたのか。


いずれにしても、カイはまた危難を乗り越えたのだろう。


「出来れば、カイの居場所も教えてくれるとありがたいんだけどね」


 もし意思があるのであればコンタクトを取りたいと是が非でも思っているのだが、ペークシス・プラグマからの反応はない。

正直に言うと、パルフェはある種の期待はあった。タラークとメジェール、カイ達の故郷へ辿り着ける日は近い。

故郷へ到着すれば、地球との最終決戦が待っている。その時、沈黙していたペークシス・プラグマも何か反応を示してくれると期待していた。


だが直前にまで辿り着いても、ペークシス・プラグマからの反応はなかった。


「意志があるとはいっても、人間的な要素があるかどうかも不明だもんね……動物のように愛らしい子かも」


 犬や猫も彼らなりの意志はあるが、人間との会話は難しい。交流は行えるが、互いの意思を完全に尊重するのは不可能に近い。

人間同士でも言語が異なれば、コミュニケーションの成立は困難だ。まして意思疎通ともなれば、それこそ言葉を超えた会話が必要となる。

人の声が、ペークシス・プラグマに届くのかどうか分からない。


「声無き"声"、か……どんな言葉なら君に届くんだろうね、ペークシス君」


 パルフェは話したいと、思っている。ペークシス・プラグマには必ず意思がある、心は届くと今でも信じている。

地球は強大だ、ペークシス・プラグマの協力無しでは絶対に勝てない。だからこそという気持ちもあるが、それだけではない。

ペークシス・プラグマだって、自分達の仲間だ。一緒に戦ってきた、戦友なのだ。ペークシス・プラグマの協力無ければ、生きてこれなかった。


だから、ありがとうと言いたい。


「人と機体、人と結晶体――私達とペークシス・プラグマ、相合わさる時が来るのかな」


 パルフェには、確信があった。本当に、何の根拠もない確信だ。証明無き信頼なんて、馬鹿馬鹿しいの一言に尽きる。

けれど、パルフェは信じている。パルフェは、確信を抱いている。意思は、きっと通じると。声は必ず届くのだと、信じている。


きっと届けてくれると、予感している。



「期待しているよ、カイ。私の声も一緒に、『あの子達』に届けてね」



 "彼女達"に愛されているカイならば、きっと声を届けてくれる。そして今度こそ、意思疎通を行ってくれるだろう。

彼女達が本当の仲間となってくれたのであれば、強大な地球が相手でも必ず勝てる。

その為の、試練。案外、今起きている事故がその試練なのかもしれない。決戦前に訪れた最終試練なんて、何とも乙女チックではないか。


笑ってしまう発想だがパルフェは確信して、ここで待っている。























<to be continued>







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