ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action7 -藍地-








 作戦そのものは、成功に終わった。磁気嵐の中で奇襲を仕掛けてきた刈り取り兵器達は、事前に情報を掴んでいたマグノ海賊団に反撃を食らって壊滅。

作戦途中でトラブルこそ発生したものの、作戦の根幹まで覆されずに立て直しに成功。無人兵器側こそが戦況を覆せず、壊滅に終わった。

ほぼ理想的な勝利に終わり、磁気嵐という過酷な戦場でも数名の怪我人のみという奇跡。機体の損傷も少なく、今後の戦闘に支障はない。


ただし、行方不明が一名という数字までは消せていない。


「――駄目だ、死んでいます」

『えっ!?』


 大勝利に終わっても、誰一人浮かれていないニル・ヴァーナ。船員全員が思い詰めた様子で、艦内を奔走してしまっている。

顕著なのはメインブリッジで、戦闘終了後も皆忙しく働いている。戦闘が終われば逃げるように職場を後にするバートさえ、操舵席で忙しく周辺捜索。

そんな中疲れたように声を上げたのは、セルティック。カイが行方不明となったその瞬間、クマの着ぐるみを脱ぎ捨てて狂ったようにコンソールを走らせていた。


その結果が、この一声――硬直した周辺の視線にさらされて、自分の言葉の意味を理解したセルティックは両手を振った。


「す、すいません、センサーの事です!? 故障が多すぎて使い物になりません――と、言おうとしました……」


   頭目であるマグノを筆頭に全員揃って、安堵の溜息。日頃カイを嫌う素振りを見せているセルティックの言葉だけに、つい信じてしまいそうになった。

セルティックのカイへの態度は単なる振りでしかないことくらい全員知っているが、本人が自覚していないのでなかなか厄介である。

結局誤解ではあったが、だからと言って状況は何も改善されていない。センサーが故障しているというのは事実なので、それはそれで頭の痛い問題だった。


目で追えないのであれば、声をかけるしか術はない。カイが行方不明と知って一時職場復帰したエズラが、必死で声をかけている。


「カイちゃん、応答して下さい! カイちゃん……カイちゃん!」


 彼女にとってはもうカイは我が子同然であり、家族そのものだった。出産から育児まで、カイには本当にお世話になっている。

恩なんて生易しいものではない。苦しい時も、悲しい時も、悩んだ時も、落ち込んだ時も、いつだって元気付けて一緒に頑張ってくれた。

先日もメイアと一緒にカルーアの世話をしてくれて、事故に遭った時もカルーアを優先して救出してくれた。あの時の感動と感謝は、一生忘れない。

あの時も必死で捜索して発見された、たとえ磁気嵐の中であろうと絶対に諦めたりはしない。声が枯れても、彼女は呼びかけるのをやめるつもりはなかった。


『ニル・ヴァーナの航行を許可して下さい。すぐにあいつを見つけてみせますから!』

「馬鹿言うんじゃないよ。アタシら全員気持ちはあんたと同じさ、だけど全員引っ張って連れていけないだろう」

『ペークシスの力を借りれば、僕ならシールドを強化することぐらい出来ます!』

「頭を冷やしな、バート。嵐の中を突き進んだら、二次遭難に遭っちまう可能性が高いんだよ」


 磁気嵐の対策はカイがラバット達から入手した情報で行えているが、あくまで戦うための手段である。

しかもこの磁気嵐は誘発したものであるために、磁気の濃度が高くて飛び込むのは無茶そのものである。磁気の外でも機器系統に故障が出ている程なのだ。

カイの捜索が困難であるということは、カイ側からの捜索も難しいことを意味する。迷子になった子供を探して、親が行方不明となったら悲惨でしかない。


バートもその理屈くらいは分かっているが、今の自分なら何とか出来そうなだけに歯痒い。


「バート、お前は立派に成長した。お頭も私も、この場にいるメンバーも全員お前を高く評価している。ゆえに、お前の今の心境も分かる。
可能性が広がっただけに、お前本人が無茶をすれば救出できると思えているのだろう。だが、やめておけ。

そうした根拠は、過信となりかねない。救えなかった場合、お前は自分を許せなくなるぞ」


 バーとはお調子者で、よく天狗になりやすい。だが性格そのものは慎重であり、無理や無茶は出来ない男なのである。

そんな男であるだけに、成長を理由に無茶を行うのは危険といえる。成功すればそれ以上の成長も見込めるが、失敗すると挫折となる。

そして今回における失敗は、親友の死である。まず間違いなく、バートの心は折れるだろう。自分に自信を持つ事は二度と、できなくなるに違いない。


ブザムの忠告に、バートは目を吊り上げる。カイが死んでいることも視野に入れるブザムが、バートは許さなかった――が。


すぐに、頭が冷えた。決して薄情ではない。可能性がゼロではない以上、考えておかなければいけない事である。

最悪を想定出来ない副長なぞに、自分の命運はとても託せない。仲間の死を視野に入れられる人だからこそ、大きな権限が与えられている。


ブザムを責めるのは、単なるやつあたりでしかない――バートは唇を噛みしめる。


『お頭、副長――宇宙人さんを、探しに行かせて下さい』

「……ディータ」

「よく辛抱強く我慢したね、ディータ。それにバートも」


 決して悲嘆にくれず、ただ決意の眼差しを浮かべてディータが許可を求めてくる。沈黙するバートと並べて二人の若者に、ブザム達が感嘆の声を上げた。

作戦中決して取り乱さず、必死で前線を指揮を取っていたディータ。彼女は作戦が終了するまで、私情を殺して任務を遂行したのである。

ディータがカイを思う気持ちは、非常に強い。カイが憧れの人であったからこそ、ディータは人の上に立てる立場にまで上り詰めることが出来た。


バートも同じだ。今ではマグノ海賊団全員を背負って宇宙を船出できる、偉大な操舵手となっている。


「残念だけど、アンタに言える言葉はバートと同じさ。闇雲にあんたを行かせる訳にはいかない」

『宇宙人さんは必ず、生きています。でしたらある程度の行動を予測することも――』

「ディータ。お前の見込みを疑うわけではないが、この磁気嵐では通常の見立てが通じない。羅針盤なしに挑める海ではないんだ」


 ディータはリーダーとして成長はしているが、海賊の女としてはまだ未熟と言える。カイの存在を、生死でしか図っていない。

今もまだ生きていたとしても、行動できる状態なのか分からない。本人の負傷もあるが、機体の故障だってありえるのだ。

カイがヴァンドレッドに乗船しているのならともかく、カイは今蛮型に乗っている。あの蛮型もかなり改良されているが、それでも磁気嵐となれば相当な行動制限がかかるだろう。


パイロット本人も正常な思考が行えているか、分からない。パニックを起こす性格ではないが、混乱というのはどれほどの強者であろうと起こり得る。


『それでも、お願いします。どうかディータに、宇宙人さんを探しに行かせて下さい。早く見つけないといけないんです!』

「? 何かあったのか、ディータ」


 妙な口ぶりである。カイが只ならぬ状態であることは誰にだって分かるが、ディータの焦燥は単なる生死を案じてではない。

動揺こそしていないが、気が気でないという様子が見て取れる。私情に振り回れているのではなく、正常であるからこその現状への不安。

単なるカイへの心配のみではないと察したブザムが追求すると、ディータが苦しげに俯いた。


黙っていること、数分――根負けしたディータは、顔を上げて訴えた。


『――合体が』

「合体――スーパーヴァンドレッドの事か?」

『あの時皆の合体が解けたのは、その……ユメちゃんのせいだって、皆が――それでそれを聞いたツバサちゃんがユメちゃんに殴りかかって、今』


「今、諍いが起きているのかい!?」


 ――責任とは、誰かが取るもの。

そして誰も悪くない事故の場合、責任の吊し上げは起こり得てしまう。白と黒が明白とならない藍地の場合、責任の所在は余計にぼやけてしまう。


となれば、嫌われ者が悪くなってしまう。























<to be continued>







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