ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action6 -午来-








 幸か不幸か――カイ・ピュアウインドが磁気嵐の海に沈んでいく瞬間を、誰もが皆捉えていた。

ヴァンドレッドシリーズならまだしも、SP蛮型単機で協力な磁場の中に落ちてしまえばどうなるのか、分からない面々ではなかった。

この作戦を結構する上で、それこそ数え切れないほどシュミレートした。あらゆる局面を想定して、出来得る限りの手を打ったつもりだった。


だからこそ、全員が理解している。落ちてしまえば、命の保証はない。



「カ、カイ……?」



 自らも危機に直面している事さえ度外視して、メイアは呆然と死に行くカイを見送ってしまっていた。

なす術が何一つない。救援に入るタイミングさえなかった。スーパーヴァンドレッドが解除された瞬間、全てが終わってしまっていた。

まさに、不幸な事故そのものだった。どのタイミングでも少しでもずれていれば、こんな事態にはならなかっただろう。


だからこそ、とも言える。メイアは自分でも驚くほどに、現実を受け入れられなかった。


『待ってなさい、今助けに行ってあげるから!?』

『待ちなさい、ジュラ!』

『邪魔しないでよ、バーネット! そんなにカイが嫌いなの!?』

『違うわよ、あんたが今飛び込んでも死ぬだけよ!』


『ジュラのヴァンドレッドなら、磁気の中だって――』

『――そのヴァンドレッドはカイと合体しないと出来ないでしょう!』


 ジュラの機体は確かにペークシス・プラグマによる強化が行われているが、それでもヴァンドレッドの領域に達していない。

磁気嵐は攻撃ではない、自然現象なのだ。攻撃という概念もなく、平等に猛威を振るう。手加減も何もありはしない。

無人兵器の強力な攻撃に耐えられたとしても、強力な磁場の中では長時間の行動は行えない。


二次遭難になる危険性の方が、遥かに高い。バーネットの判断は正しい、ジュラも悔しげに唇を噛みしめるしかない。


『畜生、何で敵は補足出来るのに味方のあいつは見つけられないんだよ。くそっ、こうなったら飛び込んで――』

『待ちな、バート。勝手な真似は許さないよ!』

『あいつを見捨てろと言うんですか!!』


 メインブリッジにいた全員が、目を見開いた。あのバートが、お頭のマグノに公然と反論したのは初めてだったからだ。

バートはお調子者だが年長者を敬い、第一世代に該当するマグノについては格別の敬意を払っている。

その上相手は怖い海賊のお頭とあれば、バートも頭を下げるしかない。どんな命令であっても、バートは時に嫌がりながらも実行してきた。


そんなバートが猛然と食って掛かっても、マグノは叱責せずに静かに諭した。


『お前さんが背負っているのは、アタシら全員の命だ。その覚悟があっての判断だろうね』

『僕たちはカイに、何度も命を救われた。今度は僕達が、あいつのために命をかける番だ!』


『もっともな意見だ、アタシらだってあいつに恩は感じている――でも、あいつはどうなんだい?

アタシらを危険な目に遭わせてまで、自分を救ってほしいと思うのかい』


『……っ、だからってあいつを見捨てていい理由にはならない!』

『落ち着けと言っているんだよ、バート。敵だってまだ残っているんだ、まずはそっちを叩くことを優先しな。
それが結果的に坊やを助けることになる。そうだろう?』

『りょ、了解っす! あ、あの、ついカッとなってその……』

『フフ、いい啖呵だったよバート。少しは男前になったじゃないか』


 マグノの適切な助言に納得したバートは、冷静になって恥ずかしそうに頭を下げる。そんなバートを見る、マグノの目は優しい。

背負っているのは仲間達の命だけではない、磁気嵐に飛び込めばニル・ヴァーナ本体にダメージを受ける。そうなれば、バートだって傷づく。

本人もそれを知らぬ筈はないのだが、それでも助けるのだとハッキリ断言した。そんな若者の決意を、何故叱れるというのか。


恐縮するバートに、マグノは労いの言葉を惜しまない。いい男になったものだと、感心していた。


『お頭の言う通りです、皆さん。まずは作戦を立て直して、皆で協力して敵を倒しましょう』

『……ディータ』


『大丈夫です、宇宙人さんは絶対こんなことで死んだりしません。絶対の絶対に、生きてるに決まってます!
今までだってそうだったじゃないですか、こんな事で負けるような人じゃないんです』


 ディータの言葉を聞いていた副長ブザムが、目を閉じる。震える声を押し殺している自分の部下が、居た堪れない。

普段あれほど慕っているディータだ、きっと真っ先に救出に向かいたいのだろう。けれども、自分の立場と役目が身勝手を許さない。

人助けという崇高な行為であろうと、チームリーダー候補である以上単独行動は出来ない。チームを率いる者が勝手な行動に出れば、部下達も乱れてしまうからだ。


マグノやディータの言う通り、敵はまだまだ残っている。作戦は失敗したのではない、停滞させられただけだ。


『宇宙人さんを襲った敵が、目の前にいるんですよ。ディータ達海賊がすることはなんですか!』


 素晴らしいまでの、海賊としての一喝であった――ディータの怒りが、全員に伝播する。

そう、全員がしっかりと見ていた。合体が解除されてしまった瞬間を襲った、卑劣な敵の光景を。

彼女達は、宇宙を狩場とする海賊である。女々しい人間など、この場には一人もいない。ディータの叱咤に、メイアもまた心を揺さぶられた。


初めてと言い切れるかもしれない――これほどまでに、敵を殺したいと思ったのは。


「フォーメーションをβからαに移行、以後ニル・ヴァーナを中心とした編成に組み直して作戦を続行する。
一機たりとも逃がすな、カイが負けたなどという愚かしい記録をこの世から消し去ってしまえ!」

『ラジャー!!!』

「ディータ、お前にチームは預けたぞ。あの偽ヴァンドレッドは、私がこの手で仕留める」

『任せてください!』


 カイの安否を振り切って、報復に乗り出した海賊達。一般人から見れば、異常とも言える感覚かもしれない。

されども、彼女達は一切気にしない。あらゆる悲しみや苦しみを怒りに変えて戦えるのが、海賊。


海賊であるからこそ――奪われることを、何よりも許さない。























<to be continued>







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