ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action29 -安穏-








 ――目覚めたら猿轡を噛まされた上に、全身を縛り付けられていた。



「モゴッ!?」

『油断大敵だったな、青髪』


 メイア・ギズボーンが目覚めたのを確認して、カイは言葉を書いたメモ帳を突き付ける。口をつぐんでいるところを見ると、少しでも呼吸を減らすつもりなのだろう。

カイが普段着ている上着が無く、メイアの身体に巻き付いていた。手頃な縄がなく、自分の上着で代用したのだろう。その点も、メイアにとって腹立たしかった。

海賊という生業上、縄抜けの技術は必須である。メイアも体得しているが、ド素人が上着で強引に縛り付けてしまえば、縄抜けも何もあったものではない。


人を殴り倒しておいて、カイに悪びれる風はなかった。


『お前には実に申し訳ないが、助けが来るまでそのままで居てもらう。安心しろ、救助が来た段階で解いてやる』

「モゴッ、モゴォ!」

『騒ぎ立てると無駄な酸素を消費して、俺達のみならずカルーアの生存率を下げるぞ』


 メモで指摘されて、メイアは慌ててカルーアを見やる。緊急時に関わらず、すっかり熟睡していた。カイが寝かしつけたのだろう、ひとまず安堵する。

一応の状況は確認したが、メイア本人だけが悪化している事態である。自ら命を断つことを阻止したのだろうが、問答無用すぎて文句の一つも言いたくなってくる。

自殺者への対応としては、ひとまず間違えてはいない。説得に応じないのであれば、力づくで阻止するのも一応は救命に該当する。


本人の意志を無視した行為ではあるが、命には変えられない。賛否両論あったとしても、批判には当たらないだろう。


『状況は理解出来たな、お前は絶対に死なせない。生存率を下げることになろうと、仲間達が助けに来るまで俺達は大人しく待つ』

「モゴゴッ!」

『全員は助からないと言いたいのだろうが、俺はそれでも未来に見切りをつける選択はしない』


 ――自分に見切りをつけているのと同じであると、カイはその目で指摘する。猿轡をされていなくても、メイアは言い返せなかった。

自殺なんて真似は、メイアだってしたくはない。ただ今この危機的状況化においては、全員助かる道はない。酸素不足になれば、まず真っ先にカルーアが死んでしまう。

カルーアもカイも死なせたくはない、だったら自分が犠牲になるしかない。合理的だと軽はずみに言う気はないが、それでもメイアとしては最大限考えた結論だったのだ。


メイアは、首を振る――もうそのつもりはないのだと、その意志を伝えた。


「……」

「……」


『どういう心境の変化だ?』

「むーむー!」


 拘束を解け、猿轡を外せと、必死でメイアは訴える。カイは即座に首を振った、メイアは唇を噛み締めようとして――舌を噛まないように配慮したのだと、悟った。

単純に言葉を封じたのではなく、自殺を防ぐために猿轡までかましたのだ。彼なりの配慮だと分かって息を吐くが、本当にもう死ぬつもりはないので必死で首を振る。

どう言えば伝わるのか、考えて心の中で嘆息する。自分の意志を伝えたことは、今まで殆どなかった。本心を見せず、他人に距離を置いて生きてきた。


その結果がこれなのだと分かると、脱力するのを止められない。決して誤解ではない分、心境の変化には自分でも戸惑っている。



ならば――態度で示すしかない。



「っ――!」

「おわっ!? こら、何をする気だ!」

「……」

「お、おい……?」


 全身を縛られた状態で、メイアはタックル。カイは思わずメモ帳を投げ出して、猛烈な勢いで後ろに倒れてしまう。メイアはそのまま、カイの胸元に飛び込んだ。

攻撃しているのではないのだと、すぐに分かってカイは戸惑う。メイアは単純に抱き着いて来ただけ、全く危害を加えずにカイの胸に擦り寄っている。

まるで犬の求愛行動であるかの如き行為にカイは混乱してしまうが、メイアは力を抜いている。身を任せている、自分の全てをさらけ出している。


羞恥に頬を染めながら――メイア・ギズボーンは、カイ・ピュアウインドに自分の全てを預けた。


「お前……俺に、命運を託すというのか?」

「むぐ」


「先程も聞いたが、どういう心境の変化だ。自分に救われる価値はないのだと断じておいて、何故急に救われる気になった」


 メイアの温かい思いを感じながら、カイは何とか無理な態勢から彼女の猿轡を解いた。彼女の気持ちは伝わったが、言葉にしなければ分からない思いはある。

メイアとしても衝動的な行動だったので、冷静に聞かれるとすごく反応に困る。不自然なほど心臓が高まり、気分が高揚するのを押さえられない。


初めてかもしれない、自分の本心を告白するのは。


「……今頃になって、やっと気付いた――自分がどれだけ両親に大切にされてきたのか」

「親御さん……お袋さんと、親父さんか」

「今度は、私の番だ。母さん達にもらった沢山の愛を、次の世代に託していく――そう決めたんだ」


「……なるほど、思い出を振り返ったのか」


 殴り倒した手柄ではないにしても、カイには思い当たる点はあった。夢のメカニズムは判明していないが、自分自身から生み出されるのは間違いない。

その多くは記憶によって構成されており、メイアも意識を失って過去の思い出を見つめたのだろう。カイもそうして、自分の記憶をおぼろげだが思い出したのだ。

不幸中の幸いだったのかどうかは、生き残ってみなければ分からない。このまま死んでしまえば、本当の意味で無駄な犠牲となるだろう。


昔であれば、安穏だとカイに激怒したかもしれない――だが。


「この子やお前の為ならば、自分を犠牲にしてもいいと言う覚悟は今も変わっていない。だが、お前はそれを望まないのだな」

「ああ、それはカルーアだってきっと同じだ」


「ならば、後はお前に託す。運命ではなく、お前の決意に身を委ねよう」


 全員生き残るべく、仲間の救助を待つ。到底間に合わないだろうが、カイがあくまで信じて待つというのであれば彼に身を預ける。

運命に委ねているのではないと告げたのは、彼女が自分で選んだ決断だからだ。愛された自分を、自ら放棄する真似は決してしない。最後の最後まで生き足掻く。

けれど今は足掻いても無駄、だったらカイと共に仲間の救助を待つしかない。それは自分が選んだ行動であり――


心の底から、自分自身を委ねた結論だった。


「そうまで託されてしまうと、なんだか緊張してしまうな」

「女一人背負える男になれ。ヒーローを目指しているのだろう」

「そうだな、それに」

「それに?」


「お前を幸せにすると、約束したからな」



 ――この時に。


彼女は、自分の本心を自覚した。























<to be continued>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします





[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]

Powered by FormMailer.