ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action21 -花蔵-








 コンピューター関係に精通していないカイは当初の予定通り救援を待っていたが、メイアは強い責任感が働いていて事態を静観する事は出来なかった。

事故で乗り込んでしまった脱出ポットが廃棄予定だと判明した以上、何が起きるか分からない。せめて状態だけでも確認しなければならない。

そこで役割を分担してカイがカルーアの面倒を見て、メイアが脱出ポットの面倒を見る事になった。コンソールを操作して、ポットの状態をチェックしていく。


コンソール画面に流れる文字の羅列はカイには到底分かりようがなかったが、メイアの表情で芳しくないことは分かる。


「一応聞くけど、何とかなりそうな感じか?」

「……下手に弄れば余計に調子が悪くなるな」


 メイアも計器類については職務上何度も手を入れた経験があるのだが、廃棄処分予定のポットとなるとそもそも機能が上手く働かなくなる。

当然である、廃棄するのだからわざわざメンテナンスする必要はない。整備なんて時間の無駄であり、故障していようと知った事ではない。

機械には愛着があるとはいえ、パルフェも海賊の一員として責任がある。最期まで見捨てないという愛情も、最期が来れば切り捨てなければならない。


事故とはいえ、切り捨てられた機械に乗り込んでしまったカイ達が不幸だったのだ。


「下手に触れれば機嫌が悪くなるという意味では、こいつと同じか」

「不謹慎だぞ、カイ。見ろ、カルーアは気を悪くしたではないか」


 カイとしては場を和ませる冗談のつもりだったのだが、本当にカルーアが泣き出してしまってカイは慌ててなだめにかかった。

メイアもカイの気遣いは承知の上なので、責め立てたりはしない。この男の気の良さは、もう十分に知れている。

相変わらずカルーアは一度も笑顔を見せてくれないが、それでもカイやメイア相手には癇癪を起こしたりはしなくなった。


ホッとするべきかどうかは、今後の状況次第となるのだが。


「廃棄処分のポットとなると、赤ん坊と同じく慎重に扱うべきと言い換えるかな」

「ふっ、確かにそれだと今に適した意見となるな」


 状況は改善されていない。いつ何が怒るのか分からないという意味では、時間が経過するに連れて摩耗していくだろう。

時間が経てば仲間達が行方不明となった自分達を発見してくれる。時間が経ってしまえば、ポットが壊れて自分達が死んでしまう。

待つという時間を長いか短いかの違いは、希望の有無だろう。死に近付いているという解釈であれば、時間の経過は絶望にしかならない。


カイは仲間達の救援を待ち、メイアは自分達の打開を望んでいる。一見前向きではあるが、何処へ向かっているのか定かではない。


「――人は」

「あん?」

「人は、いずれ死ぬ。特に我々のような人種は危険が多く、長生きできるとは限らない」

「藪から棒にどうした」


「危機に陥る度に思うのだ、私は一体何処へ向かって生きているのか」


 この旅では一つ危機を乗り越えても、次にまた危機が訪れる。死にそうになった時は、一度や二度ではない。

毎回死に瀕すると、このまま抵抗する事に意味があるのか考えてしまう。次に生があるから、その先に希望があるから人は生きていける。

けれど結局、最期に人は死ぬ。パイロットであれば、寿命より先に死ぬ危険性も高い。そうまでして生きる意味が、何処かにあるのか。


メイアの感覚は言葉としては分かるのだが、すんなりと受け止められるものではなかった。


「生きる為に頑張るというのは、人間として当然じゃないのか」

「けれど、こうして常に死の危険が訪れている」

「いやまあ、それはそうだけど、故郷へ辿り着くまでの辛抱じゃないか。かなり近くまで帰って来れているんだぞ」


「その故郷へ向かって、地球の総力が押し寄せてきている」


 そう、故郷はゴールではあるのだが、ハッピーエンドではない。ゴール地点に、地球が総力を持って待ち構えているのだ。

それは人で言うところの終わり、死に近付いていると解釈も出来る。決して、大袈裟な表現ではないのだ。

カイも必死で仲間や戦力を集めているが、思い切った戦略は練れていない。スーパーヴァンドレッドは切り札ではあるが、地球にだって切り札はあるだろう。


今必死で頑張っても故郷へ着けば、死に等しい絶望が待っている。ならばこうして抗うのは無意味ではないのだろうか。


「おいおい、本当にどうしたんだ。このまま諦めるのは無責任じゃないのか」

「全員死ぬのであれば、責任の所在など関係ない」

「自殺を容認することにはならないだろう、いくら何でも」


 メイアの言いたいことは理屈として分かるのだが、何故今こんな理屈を並べるのかカイにはサッパリ分からなかった。

そんな事を今更言い出されても、変に正しい分返答に困る。自分達だからこそ感じられる絶望に、理解を示してしまいそうになる。

カイだってそう思った事は一度もないとは、言い切れない。母艦戦では確かに自分達では倒せないと、諦めかけてしまったことだってある。

故郷で戦いとなるであろう総力戦に、決定的な決め手がないことも承知だ。殺されるかもしれないと悩むのは、無理も無いとは思う。


だが、その言葉をメイアの口から聞きたくなかった――カイは失望とともに眉を顰めて、



コンソールに表示されている、警告メッセージに気付いた。



「おい、青髪。画面に表示されているそのメッセージは何だ」

「……」

「絶望するのはお前の勝手だが、カルーアを巻き込んでいい理由にはならないぞ」


「ポット内の酸素が、もうすぐ尽きる」


「なっ――!?」

「大人二人に、赤ん坊一人。この人数では数分しか持たない、救助を待つ時間は確実にない。仮に今発見されたとしても、救助が来るまでに酸素は尽きて死ぬ。
いいか、カイ。繰り返して言うぞ。

我々全員、助かる術はない――カイ、お前やカルーアを犠牲にしてまで私が生きる理由を教えてくれ」


 ――仮に、もし仮にだが。

メイアとカルーア、『二人』だけであればあるいは助かったかもしれない。酸素は何とか保ったかもしれない。二人共、救われたかもしれない。


だが、このポットには『三名』居る。一人多いというだけで、酸素は急激に失われていく。救助はもう、絶対に間に合わない。



誰かを犠牲にしなければ、生き残れない。























<to be continued>







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