ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action19 -失速-








「……どうだ?」

「マーカー機能は停止、通信システムも使えないようだ」


 緊急脱出装置に事故で載せられてしまった、カイとメイア。宇宙空間に放り出されたまま、アテもなく漂う時間を過ごしている。

二人とて歴戦のパイロット、不慮の事故でも取り乱す真似はしない。仲間達が必ず救出に来てくれるのだと信頼しているので、下手な真似はせず救助を待つ方針を取った。

ひとまず脱出装置に搭載されているコンソールを用いて、システムへアクセス。コンピューターについてはカイよりも、メイアが詳しい。早速チェックをしてみた。


結果としてこの有様、コンソールは結局何の役にも立ちそうになかった。


「通信システムも使えないというのは、幾ら何でも問題じゃないのか」

「動作テストを行っているのであればシステム制限も――むっ、少し待て」


 項目チェックを行っていたコンソール画面から出力されるのは、エラーメッセージの数々。眉を顰めて、メイアは急ぎ分析作業を行う。

ブリッジクルーの天才少女達に比べれば、メイアのシステム解析能力は凡庸である。とはいえ、エラーの内容自体は読み込める。

出力されたエラーの数々について原因が分かった時、ハッキリとした形でメイアは大きく嘆息した。


嫌な予感がするが、目の前の危機を恐れて現実逃避しているようではパイロットは務まらない。カイが聞き出すと、


「よりにもよって、我々はどうやらハズレを引いたらしいな」

「ハズレ……?」


「廃棄処分が決定された脱出装置だ、これは。動作テストで問題が発覚して、処分の烙印が押されている」


「えっ、ということは――」

「この脱出装置は、正しく機能しない。何が起きるか分からない上に、処分扱いなので向こう側も認識しない」

「何だよ、その最悪のタイミング!?」


 動作テストがまだ始まっていなければ、脱出装置は少なくとも認知はされていた。動作テストが昨日の内に終わっていれば、脱出装置はもう廃棄されていた。

メイアやカイが乗っている脱出装置は、よりにもよって廃棄処分を待っていたガラクタだったのである。

粗大ゴミとして置かれていた状態で、事故により乗ってしまった形だ。不良品確定であり、当たり前だが必要なエネルギーは充電されていない。


ほんの束の間のタイミングで、カイ達は事故に遭ってしまったのである。


「どうするんだ、脱出してしまった後だぞ。マーカー機能が働いていないのに、俺達を見つけられるのか!?」

「宇宙デブリと変わらない状態だ、識別は極めて困難だ。やれやれ、厄介なことになってしまった」

「……?」

「? どうした」


「何でそんなに落ち着いているんだ、お前」


「お前が先ほど私を落ち着かせたじゃないか。下手に動かず、大人しく救出をまとうと決めた筈だ」

「いや、それはそうだけど!?」


 事態が悪化した、いや最悪の事態なのだと認識させられたのである。事態としては同じでも、自覚しているのといないのでは雲泥の差だ。

廃棄処分が決定された装置を、わざわざ使えるように修理する馬鹿はいない。廃棄が決定したのには、明白な理由があるはずだ。

欠陥たらしめる理由がこの脱出装置に放置された状態なのに、危機感を抱かなくてどうするのか。カイにはサッパリ分からなかった。


カイの動揺を目の当たりにして、メイアは口元を緩ませた。


「お前がそうして取り乱すのを見るのは、随分と久しぶりだな」

「そ、そうか……? 照れ臭いというより、何だか恥ずかしいのだが」

「近頃は個人プレイもなくなり、チームとして戦うようになったからな。人を率いる側へ回り、腰を据えるようになった。
良い傾向なので歓迎はしているのだが、そうして取り乱す様子を見せられると何だか懐かしく思える」

「俺はどちらかと言えば、お前が取り乱す方が珍しいくらいなんだがな」

「この旅では色々なことが起きたからな。目の覚めるような出来事が連続して、感覚が麻痺しているのかもしれない」


 カイもメイアも年頃の人間、自分で自立したとはいえ生き方にはまだまだ悩みを抱える世代である。

心情面としてカイやメイアには譲れないものが存在しているが、だからといって何事にも冷静沈着に事を進められるほど成熟していない。

相手を見て、自分を知り、そうしてまた一つ発見する。繰り返しに見えて、一歩ずつ着実に歩いて行けている。


ただ道半ばな状態であるが故に、立ち止まってしまうとこのまま歩いていいのか不安になる。


「救難を待つ以上、助かるかどうかは仲間達にかかっている。仲間を信じ、自分に出来ることを探す他はあるまい」

「結局は運任せなんだけどな」


 自分達で事を動かす立場となったからこそ、自分で動けない事に歯がゆさを感じる。成長しているがゆえの、ジレンマであった。

それこそ可能性さえ廃棄してしまえば観念するしかないのに、可能性を追求してしまうから焦れてしまう。

廃棄処分が決定された装置だと判明したのも、助かる可能性を追求したからだ。諦めて待っていたら、知らずに済んだだろう。


メイアにも、カイにも、ミスはない。だからこそ、何が悪いのか分からなくなってくる。


「仲間の救出を待ち、我々で出来ることを手探りでやっていこう。それしかあるまい」

「ふむ、それでどうする?」

「他に使える機能がないか、チェックしてみる。お前はカルーアを頼む」

「げっ、この野郎、上手く任せやがったな」


 メイアがコンソールをチェックしている間は、作業に集中しなければならない。今はカイがカルーアを抱いて、大人しく座っていた。

二人として懸命にあやした結果、何とか今は落ち着いている。相変わらずニコリともせず、脱出装置の内部を不思議そうに見渡していた。

親が居ないので不安がるかと思ったが、そうでもないらしい。自分達としてはありがたいのだが、複雑でもあった。


「……ピョロやユメに任せたままってのは、本当らしいな」

「カルーアの話か」

「赤ん坊の時くらいは、親に甘えてもいいと思うんだけどな」

「考え過ぎだ、カイ。たまたま今落ち着いているだけで、別に親を必要としていないのではない」


 メイアの言い分は、カイとしても分かってはいる。幾ら何でも生まれて半年も経たない子が、精神的に自立したりしないだろう。

親恋しさに泣かれるのは、確かに困る。だが少なくとも今、この子は親を求めていない。いないように見えてしまうのだ。

何とかしてあげたいとは思うが、パイロットでしかない自分に何が出来るのだろうか。育児ノイローゼにかかったエズラのために、何か役立てないか。


カイの悩みを呼んだわけではないのだろうが、相棒としてメイアは声をかけた。


「諦めたりはしないさ、後でピョロやユメに何を言われるか分からないからな」

「……はは、そうだな。案外、あの二人が俺達を慌てて探してくれるかもしれないぞ」


 ようやく、カイは思い知った。今感じている焦燥、保身では決してないこの焦りは一体何なのか。

仲間を待つこと、仲間を待たせること――それは今まで、カイが仲間達に強いてきた事だ。自分が良かれと思って、常にヤキモキさせてきた事なのだ。


信頼していると言っても、待つ事は本当に辛い。そんな気持ちを押し付けるような人間は――



断じてヒーローではない、痛感させられた。























<to be continued>







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