ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 20 "My Home Is Your Home"






Action33 −羽片−








 昨日は子供達を連れて来ていたので詳しく調べられなかった、不完全生体区画。無人兵器工場が乱立している母艦で、唯一と言い切ってもいい生体用保管庫。

最重要施設と確信したマグノ海賊団は引き続きメイアをリーダーとした調査班を派遣、お頭自ら同行しての検分となった。

実に大掛かりだが、少人数での調査活動。その分地球の根幹に触れている面々を連れて来ており、申し分のない調査班である。


二日目――再び施設へ訪れたカイ達だったが、調査を行うべく施設内へ入ろうとしたミスティをマグノが押し留める。


「待ちな、ミスティ。少しアタシに時間をおくれ」

「どうされたんですか、お頭さん」

「昨日のあんた達の調査で、この施設の中に眠っているものは分かっている――海賊のお頭なんて罰当たりな家業をしているが、これでも坊主の端くれさね。
ただでさえ汚い手で触ろうってんだ、せめて供養はしてやらないとね」

「……あっ」


 死者への供養、当たり前だが思い付きもしなかった行い。死に慣れてしまったのか、死を拒絶し続けたゆえなのか。

ミスティだけではない。最前線で生死を分かつ職務に就いているカイ達も驚いた顔を見せている。何故、昨日思い浮かばなかったのか。

地球の秘密を暴き立てる事に躍起になってしまい、死者を臓器としか見ていなかった。人間として恥ずかしいことだ。


死体であっても、人間を臓器にしか見えないなんて――まるで、地球のようではないか。


「バアさん、あんたその為に此処まで足を運んでくれたのか」

「そこまで殊勝な人間じゃないよ、アタシは。もののついでさね」

「も、申し訳ありません、お頭!」

「別に謝ることはないよ。作法も何もあったもんじゃないが、せめて束の間この子達のために祈ってあげようじゃないか」


 法衣を着た老僧が古びた杖を手に、不完全生体区画の前で祈りを捧げる。ほぼ見よう見まね、うろ覚えではあるがメイア達も死者の供養を行った。

タラークやメジェールには宗教の概念そのものは存在する。マグノのような第一世代は宗教観が強く、世代を超えた敬意が神への尊敬と繋がっている。

ただし彼らはまだ若き世代であり、死への概念については乏しい。神には頼らず、神には祈らず、自分達の力で厳しい時代を生きている。


そんな彼らだったが、今この時ばかりは祈りを捧げた。誰とも知れぬ者達だが、運命さえ違えば自分達が此処で殺されていたかもしれない。


カイ達はこの母艦を相手に、つい先日戦ったばかりだ。もしも敗北していれば臓器を奪われて、此処に保管されていたかもしれない。

明日は我が身であるからこそ、自分達にあり得る運命に向かって黙祷を捧げる。死者の無念は、今も戦う自分達にもよく分かっている。


黙祷を行い――ミスティを筆頭に、調査班は不完全生体区画へと立ち入った。


「――カイ」

「どうした、バアさん」

「今まで言いそびれていたけど、いい機会だ。お前さんには、礼を言っておくよ」

「急に何の話だよ」


「この辛くも長い旅が始まって――幸いなことに、まだ死人は出ていない。アタシの可愛い孫達は、今日も元気に頑張って生きている。
我ながら実に思い切った決断だと思ったが、お前さん達と組んだのは正しかったよ」


 カイ達タラークの男と、メイア達メジェールの女が、共通の敵を前にして同盟を組んだ。その決断を下したのは、他ならぬマグノだった。

ペークシスの暴走によるワームホールで宇宙の彼方に飛ばされて、幾星霜。無人兵器に狙われて、毎日のように苦難と戦い続けてきた。

重傷者を出した。反目も起きた。決裂もあった。新参者も入った。異星人が現れた。あらゆる人間関係が、彼らを大海原で翻弄させた。


色々な出来事があったけれど、旅も半ばを過ぎて今――皆、一致団結している。


「……俺個人に礼を言うことじゃないだろう」

「バートやドクターを軽視しているつもりはないよ。あの子達だって、立派なもんさ。
ただ少なくとも、この母艦を奪えたのは間違いなくお前さんの功績だ。男と女の関係だって、お前さんが上手く繋いでくれている」

「それを言うなら、俺もあんた達には色々助けられているよ。お互い様だ」

「あんたは手間がかかるからね……ただまあ、ガスコーニュはそういうあんたが弟のように可愛いんだろうよ。
先の戦い、バーネットや――ガスコーニュが命を拾ったのは、あんたのおかげだ。ありがとうよ、カイ」

「……」

「アタシはこんななりをしているけど、死者への供養とかてんで苦手でね……特に、自分の部下の供養なんてそれこそ死んでもしたくないよ。
この歳になっても、まるで慣れない。あの子達の位牌を並べずに済んでよかったよ」


 法衣こそ着ているが、マグノはいわば破戒僧なのだろう。戒律を知りながら、戒律を重んじるのを嫌う。

死者への冥福は言わば義務であるはずなのに、生きる意味の尊さを知るゆえに忌避してしまう。この老僧にとって、死は何より嫌うものなのだろう。

自分の心が傷付くのが嫌なのではない。むしろ逆、死を受け入れる強さを持っているからこそ、死を受け入れられる事を恐れる。


彼女にとって、不完全生体区画は――


「あんたにとって此処は、霊安室なんだな」

「辛気臭いもんだろう、年寄りの見方は」

「いいや、その心を忘れてはいけないんだろう」


 カイは人の命を奪ったことがない。人を救い続けた彼は、人を死なせることを恐れる。だが同時に、人は死ぬことも分かっている。

水の星では、人は自ら死のうとした。病の星では、人は望まぬとも命を落とした。砂の星では――人は、生きていなかった。

全ては、地球の狂気。刈り取りは平気で命を奪い、命の価値を無くしてしまう。


彼らを知ることは、彼らの価値観を知ってしまうことになる。


「昨日、ミスティに覚悟を求めたのはこの為か?」

「冥王星は残っているかもしれないが、あの子の故郷はもうない。だからこそ、あの子は今必死で痕跡を負っている。
地球の狂気を暴くことで、地球に滅ぼされた人達の命を無駄とならないようにしている。

だからこそ知っておいてもらいたかったんだよ――自分が今触れようとしている秘密とは、命そのものなのだと」


 もしも昨日マグノから覚悟を促されなければ、ミスティは死者への冥福も軽視してしまっていただろう。

臓器なのだから無意味だと、切り捨てるのではない。彼女は優しい、死者への想いは十分通じる。

けれど此処は彼女にとって待ち望んでいた、地球の秘密なのだ。命だと分かっていても――それでも。


『情報』として、取り扱っていた。


「その辺りの線引は難しいな……俺も無人兵器だから、引き金を引けているが」

「ミスティと同じく、お前さんもいずれ覚悟を問われるだろうよ」


 カツンと音を立てて杖を突き、マグノは不完全生体区画へと入っていく――カイは、足を止めたまま。

死者への冥福と聖者の命の価値観を知る、老僧。彼女の忠告が、耳から離れない。


パイロットにとっては基本であり――人としては、永遠の命題。



「お前さんの敵は、地球"人"なのだから」



 ――無人兵器ではなく、もしも敵が地球人ならば――人ならば、パイロットして戦うことが出来るのか?

命を"奪った"ことも、命を"奪われた"こともない、自分に。























<to be continued>







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