ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"






Action16 −裏方−







 己の機体ごと延々と強制搬送されていたその時、突然の急停止。いよいよ処刑場に到着したのかと肝を冷やすが、事態を呑気に生還するようなタマではない。

生と死はコインの裏表、最悪のピンチこそ最大のチャンス。艱難辛苦を乗り越えてきた海賊達にとって、幸運と不運は簡単に裏返ることを経験で思い知っている。

半ば大破していたデリ機を、強制起動。精密な動きなど、必要ない。分かりやすく、シンプルに、機体を振り回せばいい。無茶苦茶でも、動いてくれればそれでいい。


ただそれだけで、自分達を掴んでいた敵の手を振り解けるのだから。


「ガスコさん、大丈夫。何が起きているのか分からないけど、こいつら完全に停止しているわ!」

「オッケー、バーネット。シートにしがみつきな!」


 デリ機をほんの少し宙に浮かせて――急落下させる。神輿のごとくデリ機を運んでいた無人兵器達は、重い機体に勢いよく乗っかられてぺちゃんこになった。

動いていれば抵抗の一つでもしていたのだろうが、停止していたらどれほど強力な兵器であっても置物と変わらない。無抵抗なまま、破壊されてしまった。

無人兵器の恐ろしさは機能もあるが、何よりも数。一機でも破壊されたら、あっという間に他の無人兵器が大量に押し寄せてくるのだ。

いざとなれば無理にでもデリ機を動かして逃げる算段だったが、待てど暮らせど援軍が来る様子がない。


「……ふむ、やっぱり何かあったみたいだね」

「カイ達が作戦を成功させたのかも」

「作戦通りいけば確かに止まるだろうけど、随分都合よく止まってくれたもんだね」


 カイ達とガスコーニュ達の違いは、状況の認識にある。カイ達は比較的自由に動けたが、ガスコーニュ達は敵に捕まって身動きが取れなかった。

母艦及び無人兵器の停止という事象も、こうした両者の違いで解釈が異なってくる。何しろ状況だけを見れば、作戦の実行結果と同じなのだから。

ただそのまま作戦成功だと浮かれて、警戒心を無くしたりはしない。現実はそう都合良くはない、人生で躓いた者達の猜疑心は強い。


事実、その認識は間違えてはいなかった。


「バーネット、お頭達に連絡を取っておくれ」

「で、でも、連絡の取りようが――」

「通信系が軒並みイカれていると言いたいんだろう? 分かっているよ。音声や映像に変換せず、さっきのように緊急信号をそのままダイレクトに伝えるんだ。
信号そのものなら母艦の装甲に遮断されても、信号を送った形跡は残るからね。母艦が停止している今なら、堂々と自分達の無事と位置を知えられる」

「了解!」

「カイの作戦が無きゃ思い付かなかったね、信号なんてアナクロな連絡手段は」


 ガス星雲の磁場を利用する本作戦において、マニュアル操作が義務付けられている。言わばレトロ感覚での作戦遂行は、昔ながらの連絡手段を思い出させてくれた。

今では目には見えないネットワークや通信ラインでの連絡が当然とされている。音声や映像でのリアルタイムでの連絡手段があるのに、信号のみ送るやり方は無駄そのものだった。

ガスコーニュは古き良き時代を愛するタイプの人間だが、信号による連絡手段は軍事教育でしか習っていない。レトロ感覚がなければ、危機的状況でも思い付かなかっただろう。

世の中、何が功を奏するか分からないものだ。


「信号を送ったわ。母艦には知られない程度に、こちらの位置は伝わったと思う」

「お疲れさん。敵さんはまだ止まっているようだけど、無防備に待ちぼうけするのは危険だ。ひとまず、この場から離れるよ」


 母艦の停止、このチャンスを逃す手はない。カイやメイア達は自分達の捜索よりも、作戦の遂行に専念するだろう。

薄情とは全く思わなかった。むしろのこのこ自分達を助けに来ていたら、内心感謝しつつも怒鳴り散らしていた。こういうのを、人助けとは認められない。

予想外やアクシデントで、作戦に支障が出てしまっている。だが、骨格はまだ維持できている。ならば今は、作戦に専念するべきだ。

母艦を倒しさえすれば、結果的に自分達も救われる。手をこまねいていれば自分達も、外の仲間達も殺されるのだ。

ひとまずその場を離れ、気圧のあるフロアへと逃げこむ。どこもかしこも空調が利いているとは限らないので、酸素の確保は急務だった。

出来れば資材も探して半壊したデリ機の修理をしたいのだが、さすがにそこまで運に恵まれていない。

一作業を終えて、二人は息を吐いた。負傷もしているが、急場は何とかしのげた。


「これからどうしよう、ガスコさん。助けが来るまで、待ってる?」

「ガスコじゃないよ、ガスコーニュ。いい加減、自分の上司をちゃんと呼びな。
――で、そういう風に聞くってのは、あんたなりに何か考えがあるのかい」

「考えってほどじゃないけど……このまま大人しく隠れたままには出来ないわ。ジュラ達が今外で、戦っているのよ。
アタシ達は今、敵の懐の中にいる。単なるアクシデントだけど、この機会を何とか利用できないかな?」


 ガスコーニュは、満足気に微笑む。パイロットそのものは引退してしまったが、バーネットの牙は折れていない。いや、生え変わってきている。

自分もバーネットと、気持ちは同じだ。このまま大人しく助けを待つような性分ではない。やられたままではいられない。

自分達も、カイ達も助かったのは、幸運によるものだ。死んでいたって、おかしくはない。そして非があるのは、明らかに自分達だ。


突入しつつあったカイ達の足を引っ張ってしまった。事故そのものは偽ニルヴァーナのしわざだが、敵に捕まったのは自分達の不甲斐なさである。


もしあのまま何事も無く突入していれば、カイ達は無傷で作戦を実行できていたのだ。余計なダメージを与えてしまったのは、間違いなく自分自身。

反省や後悔はうなるほどあるが、ヘタレこんだりはしない。どんな状況であっても、巻き返しは必ず出来る。


そして今不幸中の幸いにも、自分達は敵の中にいる。


「母艦は止まっているんでしょう? 今の内に内部から、ありったけの弾丸をぶち込んでやるってのはどうかな」

「そうしたいのは山々だけどね、生憎とデリ機の武装はほぼ使用不能状態。
そもそもそんなのが使えるんなら、敵さんに大人しく捕まってはいないよ」

「くっ……腹の中から突き破ってやりたい」

「おっかない事を考えるね、あんたも。ま、気持ちは分かるけど」


 外から攻めるより内側から壊す方が、有効打を与えられる。当然の理屈だが、攻撃する手段がなければ意味が無い。

母艦の大きさに比べれば、デリ機は小石同然である。小石が腹の中で暴れれば痛いだろうが、身体全体を破壊するのは無理がある。

内側から攻撃――バーネットの意見に、ガスコーニュはピンときた。


「そうか、内側から攻撃してやればいいんだよ!」

「でも、武装がないんでしょう?」

「物理的に攻撃するんじゃないよ。今遂行している作戦を、思い出してごらんよ。母艦のメインシステムに忍び込んで、ウイルスを仕込んで破壊するのが目的だ。
そいつはカイ達に任せるとして、別にウイルス一本で責めないといけない理由なんてない。攻撃手段は多い方がいいだろう?」

「あっ、そうか! デリ機のシステムを使って、停止した母艦のシステムに接続すればいいんだ!!」


 巨大な母艦を動かすシステムは広大であり、堅牢――君臨する王城に闇雲に突っ込んでも外堀に落ちるだけだ。だが城門が開きっぱなしであれば、堂々と中に入って火をつけられる。

幸いにも今、母艦のシステムは停止している。となれば恐らく、セキュリティ全般も停止状態にあるだろう。システム全体は、無防備のままになっている。

たとえウイルスそのものはなくても、システムに介入できれば好き勝手に弄れる。今この瞬間だけは、やりたい放題だった。

思い掛けない反撃のチャンスに、ガスコーニュやバーネットも目を輝かせる。


「こうなったら、デリ機にあるプログラムを片っ端から無茶苦茶に突っ込んで動かしてやるってのはどうかな」

「誤作動を誘発させるのは面白いけど、寝た子を起こす真似はしたくないね」

「緊急事態発生でセキュリティが再起動するかもしれないもんね。うーん、じゃあ」

「なにかいい手は浮かんだかい?」

「無人兵器に反乱を起こさせようよ。レジには、パイロットからの注文をキャンセルする事もできるでしょう。そのシステムを利用して――」

  「母艦からの命令を、レジオーダー権限で一方的に"キャンセル"するってのかい!?」


 大胆かつ、大それた発想だった。システムの根幹に関わるバグである。ユーザーからの命令を一方的にキャンセルする仕組みなど、システムそのものの拒絶だった。

ガスコーニュは、豪快に笑う。笑うしかない。レジシステムに対する冒涜に等しい発想、店員がしていい考え方では断じてない。

今見習いだからこそ出来る、発想――レジ店長であるガスコーニュには思いつけない、思い付いたらいけない作戦であった。


「やれやれ、とんだレジ店員様だよ。育て方を間違えたかね」

「だったら生きて帰ってもっと色々教えてよ、ガスコさん。あたしも、生まれ変わった気分で頑張るから」

「まずは呼び方を叩き込んでやるよ、たく……ついておいで!」

「うん、店長!」


 苦境に立たされているというのに、バーネットの気分は晴れやかだった。やはり自分はジュラとは違い、表舞台に立つ人間ではない。

カイとの事もあってパイロットを引退したが、案外正しかったのかもしれない。戦うこと自体は好きだが、エースを張れる柄ではなかった。

今では舞台袖に引っ込んでいるが、出来る事は沢山ある。これから色々学んでいけば、可能性も広がってくるだろう。

バーネットは両手を上げて、大きく伸びをした。 


「カイ。あんたがヒーローでいられるように、アタシが黒子で支えてあげるからね!」


 カイとメイア――ヒーローとヒロインが表舞台で活躍するその間、黒子達は舞台袖から作業に取り掛かった。


























<to be continued>







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