VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 4 −Men-women relations−





Action17−支え−




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「見習いの人権は無視かよ。ひでえ職場もあったもんだ」

「いつまでもぼやいてないで行くよ、ほら」


 強制的に連行された事がよほど不服だったのか、連れられるカイはしきりに愚痴っている。

ガスコーニュが向かった先はレジ上部に位置する整備工場だった。

数々の兵器が縦横無尽に運搬用コンテナによって行き来しており、特に戦闘時にはここは活気に満ちている。

現在ウニ型との難戦によりパイロット達からの注文が殺到しており、

オーダーがレジクルー内の働きにより次々と用意され、工場中央に位置するシャトルに積み込まれていた。

このシャトルこそ戦場へと出向く補給機であり、ガスコーニュの愛機でもあった。


「へえ・・・青髪達の船の倍はあるんじゃねーか、これ。
図体に見合った大きさなのかね」


 からかい気味にそう言うと、ガスコーニュは笑顔でカイの頭を叩いた。


「補給物資を積みこまないといけないからね。大きさは必然と必要になるのさ。
戦いにおいて補給は長期戦への何より生命線となるから、船も頑丈でなくちゃいけない。
防御シールドも装備されているんだよ」

「いてて、乱暴な野郎だな・・・」


 力任せに叩かれた頭を痛そうに抑えつつ、カイはシャトルを見上げる。

シャトルは存在感あふれる大きさを有し、楕円形のフォルムを備えていた。

整備工場の天井にぴったりと張り付いた形で、シャトルは待機している。

先程の言葉ではないが、ドレッドを優に倍は超える大きさにはカイは感嘆を隠せなかった。


「デリオーダー、準備完了しました!」

「ご苦労さん。さて、アタシらの出番だ」


 データプレート片手に報告を行ったレジクルーに労いの言葉をかけ、ガスコーニュはシャトルへ乗り込む。

シャトルのコックピットはドレッドや蛮型のような一人専用ではなく、

運転時のサポートや補給作業のため、多人数用タイプとなっている。

自らで改造した大型シートに腰掛けるガスコーニュに続き、カイはそのまま助手席へ収まった。


「一気に行くよ。振り落とされない様にしっかりと掴まりな」

「俺を誰だと思ってやがる。たかがこれぐらいどって事ねえよ」


 悪態をつきながら、カイはシートベルトも付けずにでんと構える。

自分に不本意で事態が進められている事に面白くないのか、

蛮型出撃時での昂揚感や使命感もなく、カイは不機嫌そうにしていた。

横目でカイの態度を見ていたガスコーニュはやれやれと困ったような笑みを浮かべて、

素早くコックピット内の動作確認を行い、手元のスロットルレバーを握り締めた。


「システム状態、良好。ロック解除。発進!」


 融合戦艦との接合を切り離し、丸みを帯びた大型の通称デリ機は力強い鼓動を高める。

ガスコーニュという長年の主人の命令に従って、工場より飛び出た船はブースターを加速させた。

途端猛烈なスタートを伴って、デリ機は戦場の真っ只中へ急接近を行う。

一定規格を大幅に越える大きさをもつ筈のデリ機ではあるが、その加速力は高速タイプに匹敵していた。

当然ながら前向きなベクトルへの反動は半端ではなく、船全体に重い制限が圧し掛かってくる。

見る見る内にメイア達が戦う舞台へと近づいていく船だが、コックピット内はその代償を受けていた。


「ふぎぎぎぎぎぎぎ・・・・・!!!」

「お〜や、どうした?顔色が良くない様だよ」


 まるで万力で身体中を押さえ込まれているような圧力に、カイは苦悶の表情を浮かべていた。

対してまるで問題にもなっていないのか、運転しているガスコーニュは余裕綽々である。

カイは額より汗を浮かべながらも、へっと悪態をついた。


「な、何でもねえよ。てめえは前見て運転しやがれ。事故ったら殺すぞ」

「ふふん、アタシはベテランだよ。この程度目を瞑っても平気さ」


 口ではそう言いながらも、ガスコーニュはカイに呆れ半分感心半分であった。

慣れないGへの身体の負担は想像を越え、カイ自身かなりの呼吸困難に陥っている筈である。

実際レジを初めて担当する者や、他クルーを初めてデリ機に乗せた時、

大半は悲鳴や助けの声を上げるか、仕事への辞退を泣きながら申し出る者が殆どである。

なのに当のカイは声はおろか、表情にさえ必死で己の苦難を隠そうとしている素振りすら見られる。

ガスコーニュに弱みを見せまいとするカイなりの見栄なのだろう。

男と言う存在への認識はガスコーニュ自身もメジェールの常識の領域は出ないものの、

カイを見ている限りそれほど汚らわしい存在には見えなかった。

それどころか、 


(男の意地って奴か。生意気だが、可愛い所があるじゃないか)


 必死で歯を食いしばって耐えているカイを横目で見ながら、ガスコーニュは口元を緩める。

デリ機は飛び交うミサイルやレーザーをガスコーニュの見事な操縦テクニックで掻い潜り、

残存するドレッドチームの中央へ一定のポジションをとった。

手早い援護を買って出たデリ機に飛びつく様に、バーネット達主要ドレッドが集結する。


「来たね。いいかい、手早く行くよ!」


 コックピット内のメインモニターが出力され、デリの補給ラインの様子が映像化する。

同時に大型サイズのデリ機下方部から飛び出した六本のアームが、ドレッド達をデリ機へ接舷。

ディータ、ジュラ、メイア、バーネット機が、デリ機の各緊急保管庫であるコンテナに保管された。


「五十秒で済ませる。デリ、開始!」


 ガスコーニュの声に合わせるように、六本のアームがドレッド船体各所に伸びる。

それぞれ注文した兵器や装甲がアームの念密な作業で破損部分や各兵器設置箇所に、

隅々まで手抜きなく搭載されていく。

コックピットで作業効率を確認するガスコーニュも心得たもので、操作にはまったくの迷いもない。

傍らで様子を見ていたカイだったが、何気なく外部モニターを見て顔色を変える。


「お、おい!ちょっと!」

「何だい?今忙しいんだがね・・・・」

「そんな事言ってる場合か!モニター見ろ、モニター!」


 カイの焦っている声に外部モニターを覗き込み、ガスコーニュはカイの言いたい事を把握した。

戦場の中心でドレッド達を寄せ合っている所を発見したのだろう。

母艦への執拗な攻撃を繰り返していたウニ型が、攻撃目標を変えてこちらへと向かって来ているのだ。

何機かの別ドレッドがウニ型を阻もうと躍起になっているが、勢いに乗った敵は止められない。

あっという間に迫りくるウニ型を外部モニターで見て、カイは急かした。


「何してんだよ!避けるなり、攻撃するなりしないとやられるぞ!」


 危機感をもつカイだったが、対するガスコーニュは落ち着いたものだった。

手元のスロットルレバーを右九十度に回転させて、機体を傾けた。


「馬鹿か、お前は!こんな体勢でかわせる訳がないだろうが!
敵は的確に攻撃をこなしているんだぞ!」

「かわす?何を寝ぼけた事を言っているんだい、あんたは」

「そりゃあお前だろうが!」


 全身を掻き毟りたくなる程の苛々を必死で堪えて、カイは尚も言い募った。

だがガスコーニュは眼前にまで迫っているウニ型など眼中にすらない様子で、デリを続けていた。


「アタシらはデリをしに来ているんだ。仕事を途中でほっぽり出す訳にはいかないよ」

「なっ!?」


 信じられないものを見るような目で、カイは呆然とガスコーニュに視線を送る。

結局回避行動すら取らなかったデリ機はウニ型の体当たりをまともに食らって、船体を揺らした。

凶悪な刺に削られたデリ機だったが、そこは規模を有する特別な機体。

全体的な観点で見ると、ダメージとしては軽傷だった。

ウニ型は衝突後も一定の速度で進み、反転してこちらへ向かってくる。


「余裕かましてる場合じゃないぞ!また来てる!」

「あんた、ここは戦場だよ。覚悟無くして仕事はこなせないさ」


 敵の攻撃を受けるのも覚悟の上だと、ガスコーニュは平然とそう言った。

その言葉を聞いて、カイはガスコーニュの裏方の仕事への誇りと責任感を強く感じた。

堂々とした態度と心がまえで、目の前の女は仕事を勤めているのだ。


「これも・・・・黒子の仕事だって言うのか?」

「そうだよ。パイロットは一人で飛んでいる訳じゃない。
アタシらも伊達に裏方をしている訳じゃない。
互いに互いを助け合って、一つの舞台を成立させているんだよ」


 一見地味と派手、主要と凡庸と相反するように見えるパイロットと裏方達。

その実は互いの協力をなくしては行えない、密接な繋がりがあったのだ。

今日一日各仕事をそれぞれ行ってきたカイだったが、ガスコーニュのこの言葉でようやく思い知った。

己がいかに一人で足掻いていたか、如何に助けられてきたか。

見え始めた全体像は自分が思っていたよりも大きく、広かったのだ・・・・・・・


「辛くねえのか、お前らは」

「ん〜、そうでもないよ」


 ガスコーニュは光る汗をそのままに、カイに清々しい笑顔を見せる。


「大変なのは皆同じだろう。誰かが楽している訳じゃない。
前線で死ぬ思いで戦っている連中にしてみれば、これ位なんて事はないよ」


 ウニ型の攻撃を再びくらって船ががたつくものの、デリ作業に余念はない。

カイは手元のデリの状態を見て、何故船を傾けたのかが理解できた。

敵の攻撃を回避する行動にしては、あまりに稚拙で若干の行動。

それは全て現在最下部で保管され、補給をしているドレッド達を守るためだったのだ。

行き届いたガスコーニュのやり方に、カイは尊敬の念すら覚える自分に戸惑っていた。

そしてようやく作業完了のシグナルが伝えられ、全ドレッドが補給完了となった。


「デリ完了!ドレッド全機の修復と補給はオッケーだ。
皆、辛い所だろうけど敵さんも必死なんだ。気合入れて頑張っておいで!」


 全ての作業を終えて、最後にパイロット達を思いやる言葉を投げかけるガスコーニュ。

暖かい励ましの言葉に、バーネット達の疲労の蓄積した表情に若干の和らぎが戻る。


「ありがとう。デリ、助かったわ」

「ガスコさん、お陰でお腹いっぱいになったよ!」


 バーネットとディータの通信回線越しのお礼を聞き、ガスコーニュもまた口元を緩める。

一言それぞれお礼を言って、メイア達は再び戦場へと舞い戻った。

ウニ型もドレッド達が再攻撃を掛けて来た事で、デリ機から目標を変更する。

戦場の真っ只中において、作業が完了したデリ機は一種の真空状態となった。


「どうする?一旦戻るのか」


 結局あまり大した手伝いも出来なかったが、カイは機嫌は良くなっていた。

レジの仕事の重みに裏方の徹底した覚悟が見れた事に、カイ自身満足していたからだ。

再び仕事へ戻った時は、より一層の力をこめた仕事が出来そうだった。


「アタシの仕事はこれで終わりだよ。後はあの子達次第さ」


 ガスコーニュは手元の操作パネルを弄りつつ、そう言った。

デリオーダーは全てパイロット達に届け、補給作業も全て完了した。

なのに今だ作業を続けている事にガスコーニュに疑問を持ち、カイは彼女の手元を覗き込む。

そこには先程のデリ作業率のモニターが映し出されており、最下方の緊急保管庫の様子が表示されていた。

保管庫は総勢で六個分有しており、メイア・バーネット・ジュラ・ディータ分は全完了となっている。

残り二つ分は必要がないために空の筈なのだが・・・・・・


「おい、何だその表示。一個余ってるじゃねーか」


 カイの指摘する先には点滅を繰り返す一つの保管庫が表示されていた。

オールグリーン。即ち、一機体分の出撃に必要な物資が置かれている事を意味する。


「誰か補給してない奴がいるんじゃねーか?
呼びかけるなり何なりしないと、無駄になるじゃねーか」

「確かにそうだね。せっかく持ってきたものは無駄にしちゃいけないね〜」


 どこか面白そうにそう言うガスコーニュに、カイは不信げに見つめる。

付き合いこそ今日数時間に過ぎないが、カイは何とはなしにガスコーニュという人間を理解し始めていた。

こういった物言いをする時のガスコーニュは何か企んでいる。


「てめえ、何考えてやがる?」

「う〜ん?別に何も考えちゃいないさ」

「じゃあこの補給分は何だよ。誰が注文した?」


 カイが表情を険しくして問い詰めると、ガスコーニュはにやりと笑みを零す。


「この注文はアタシのオーダーだよ」

「お前のだぁ?どういう事だよ!
いったい何を積んで・・・・・!?」


 カイは真意を吐かせようとして、ふと合点が言った。

ガスコーニュが何を注文して、何を保管庫に積んできたのかがはっきり分かったのだ。

カイは険悪な顔をして、厳しい声で断言する。


「言っておくけど、俺は行かないからな」

「・・・・・・・・・・・・・・」


 黙りこむガスコーニュを見て、カイは自分の閃きが正しい事が分かった。

助手席に座り込むと、カイは腕を組んで顎を突き出した。


「帰ろうぜ。俺等の仕事は終わった筈だ」

「アタシの仕事は、ね。あんたはまだだ」

「ふざけんな。俺はレジの見習いだ。パイロットは辞めた」


 未練がない訳ではない。

自分が誇りを持って今まで戦って来て、自分の夢を果たせるのではないかとさえ思った程だ。

しかし、メイアとの確執でそれまでの全てが無意味だったと思い知った。

結局全て自分の一人相撲で、メイア達は自分が戦う事を望んでなどいなかったのだ。

ならば自分に戦う事に意味はなさない。

それにメイアと協力して戦う事は死んでもご免だった。


「いいのかい、このままで。戦いはメイア達に不利な状況だ」

「てめえのケツはてめえで拭け。俺の育ての親の言葉だ。
あいつは俺なしで戦えるとはっきり言い切った。
必要としてない以上、戦う事に意味はない」


 メイアの言い切った言葉は今でもはっきりとカイは覚えていた。

完全なる拒絶に無慈悲な拒否。

メイア達に迷惑をかけた事は、カイも自責はしている。

だが自分の態度を差し引いても、メイアの冷酷とも言える言葉は許せなかった。


「戦いに負ければ、あの娘達は死ぬんだよ」

「言葉が矛盾しているぞ。さっきは頑張れば勝てるような事を言ってたじゃねーか」

「現実は如何なる事に厳しいからね。どんな可能性も苦慮しなければいけない」

「戦いに出ている以上、自分の責任だ。
覚悟なしで仕事は出来ないんじゃないのか」


 カイの言葉は先程のガスコーニュに準えた意味を含めていた。

確かに自分から出撃している以上、死への責任はそれぞれの自分にある。

如何に言葉を言い換えようと、どうしようもない正論だった。

ガスコーニュは深いため息を吐いて、カイを見やった。


「アタシの言いたい事はそうじゃない。あんたがどうだって聞いてるんだ」

「どういう意味だ?」

「さっきも言ったよね。メイアの死にあんたが納得できるのかって」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 一度投げかけられた問い。

メイアを本当に疎んじているのではあれば、死んでも関わりたくないと思っているのであれば、

すぐにでも『イエス』と言える筈である。

だが、肝心の答えは二度目ですら無言だった。


「どうして悩んでいるんだい?あの娘の事は嫌いなんだろう」

「当然だ。いつもつんけんしていやがるし、なんかっつうと自分が正しいみたいな言い方をしやがる」

「あんただって似たようなもんじゃないか」

「俺が?どこがだよ!」


 カイがつっかかると、ガスコーニュは肩を竦めて言った。


「自分の方が正しいって思っている所がだよ」

「・・・・あいつのほうが正しいってのか?」

「どうしてあんたかメイアが正しいって言えるんだい?
ひょっとしたらあんたもメイアも間違っているかもしれないじゃないか」


 ガスコーニュの指摘に、カイははっとなった。

自分が正しいのか、メイアが正しいのか。

二者択一と決めていたのは自分自身に過ぎず、またメイアも同じだった。


「あんたら二人を見ているとさ・・・・」

「なんだ?」

「お互い、自分の主張を剥き出しにしていがみ合っているだけにしか見えないよ」

「・・・・・・・・・・・・」


 自分が正しい、相手が間違っている。

メイアもカイも同じようにそう思い、ずっとずっとぶつかり合っている。

このまま続けば果てしないすれ違いの上に、永劫の平行線にしかならないであろう。

何故ならどちらも自分が正しいと思っているから。

自分の主張を主とし、相手を見ているに過ぎないのだから。

メイアが正しいと誰が決める?カイが正しいと誰が決める?

誰かが決めればお互いに納得できるのか?分かり合えるのか?

そうではない。

自分が認めない限り、自分が引かない限り、何の解決にもならない。

結局の所カイもメイアも相手を認める事ができないだけであった。


「今のままじゃ何の解決にもならないよ」

「・・・・・俺に、俺にひけってのか!」


 ガスコーニュの言いたい事は分かる。

しかし理性が納得していても、感情が納得できなかった。

身を乗り出すカイに、ガスコーニュはふっと気を緩めた顔になる。


「さっきの賭け」

「あん?」

「賭け、まだちゃんと言ってなかったね。
確かアタシの言う事を一つだけ聞いてくれるんだったよね、あんたは」

「うぐっ!?お、覚えてやがったのか・・・・・・」


 レジ内で先程ガスコーニュに勝負を仕掛けられ、結果カイは負けてしまった。

その際にガスコーニュの命令を一つだけ何でも聞くと約束してしまったのだ。

改めて馬鹿な事を約束してしまったと、カイは心底後悔した。


「おやぁ〜?不満そうな顔だね。
男は一度口にしたら必ず果たすんだろう?」

「だあああ!!分かったよ!!約束は約束だ。
で、何だ。青髪と仲直りでもしろってのか!」


 頭を抱えたいのを必死で堪えつつ、カイは投げやりにそう言った。

そんなカイの様子を楽しそうに見ていたガスコーニュだったが、次の瞬間真面目な顔になる。


「・・・・あの娘達の支えになってほしいんだ、あんたに」

「支え?青髪達の事か?」

「メイア達だけじゃない。船にいる娘達全員の支えにだ。
その役をあんたにやってほしいんだ」

「俺に!?ちょ、ちょっと待てよ!
俺は男だぞ。頼む相手が違うんじゃねーか?
それに大体あんたが支えになっているじゃねーか。かなり信頼されているみたいだしよ」


 短期間であるがカイが見てきた限り、ガスコーニュへのクルー達の信頼は厚い。

便りになる上司として、支えてくれる姉貴分としても、ガスコーニュは数多くの人望を得ている。

伊達に上級仕官を勤め、マグノの片腕とされている訳じゃない。

そんな彼女に比べて、カイはまだまだクルー達から疎んじられている。

メイアとは相反しており、ジュラは露骨に嫌悪されていた。

もしクルー達全員にどちらを取るかと聞けば,全員が全員ガスコーニュを取るだろう。

カイの疑問はもっともだった。

しかし、ガスコーニュは悲しい顔で首を振った。


「アタシはこう見えて同じ女だからね。限界はある。
特にこんな状況下に置かれているんだ。
敵である男との共同生活に、いつ襲ってくるか分からない未知の敵。
ましてや故郷が襲われようとしてるんだ。
皆強がってはいるが、本当は不安でしょうがないんだよ。
あの娘達には本当の意味で身近に頼れる、時には甘えられる存在が必要だ」

「いやお前じゃなくても、ばあさんとかブザムとか・・・・・」

「言ったろ?同じ女である以上、限界はあるって。
それにね、あんたが男だからっていう理由だけで言っているんじゃない。
あんたなら、カイ=ピュアウインドならやってくれるんじゃないかって思えたからさ」


 カイは茫然自失になっていた。

ガスコーニュは男が必要なのではなく、自分が必要なのだと言っている。

自分という存在を、カイ=ピュアウインドと言う存在が必要なのだと見込んでくれているのだ。

口では賭けの権利と言っているが、カイはガスコーニュの信頼をひしひしと感じられていた。

信頼、今までこれほどまでに向けられた事があっただろうか?

「ど、どうしてあんたは俺を・・・・・?」


 心の底から湧き起こる熱い何かを懸命に抑え、カイは言葉を詰まらせつつ尋ねた。

ガスコーニュはそんなカイの肩を優しく掴み、瞳を交えて答えた。


「あんたの男気に惹かれたじゃ駄目かい?」

「!?・・・・・・・・」


 ガスコーニュにしても、明確な理由があった訳ではない。

頼れると言うのであれば、冷静に物事を把握するドゥエロもそうだ。

バートの本質は分からないが、本質を理解していないという点はカイも同じである。

まだまだ短い付き合い柄であり、男は敵と同じ未知なる存在なのだ。

だが一連のカイを見つめて、カイと言う男に何らかの可能性を見出したのもまた事実だった。

ガスコーニュは両肩に手を置いて、カイに短く尋ねる。


「引き受けてくれるかい?ヒーロー」


 ガスコーニュより掛けてくれる信頼に、カイはしっかりとした形で頷いた。

もう、迷いはなかった・・・・・・・


「分かった。その役目、俺が引き受ける」

「済まないね・・・・あんたにきつい役目をさせてしまう」

「なーに、どって事ねえよ。
何せ俺は宇宙一のヒーローになる男だぜ。ちょろいもんさ」


 にっと笑って、カイは助手席から立ち上がった。

話がまとまった以上、やるべき事は一つである。


「俺の相棒は直ぐに発進出来るか?」


 今だ使用されていない保管庫、格納されているであろう自分の機体を尋ねる。

ガスコーニュはしっかり頷いて、親指を立てる。

「当然だよ。仕事に抜かりはないさ」

「よっしゃー!ほんじゃあ、早速暴れてくるか!!」


 カイはそのまま後ろ出に駆けて、コックピットを飛び出そうとして足を止める。

  しばし立ち竦み考えると、カイは振り返ってこう言った。


「色々世話になったな、ありがとよ」

「ふふ・・・・カイ」

「ん?」

「あんた程黒子の似合わない男はいないよ。大きな舞台で精一杯やっておいで!」


 握り拳に腕まくりで、最大級の応援を送るガスコーニュ。

カイは胸の奥に生まれた温かい気持ちを持ってそれに応え、コックピットを出て行った。

最早その足取りに躊躇いはなかった。

残されたガスコーニュはしばらくの間カイのいた空間を見つめ、微笑む。

「さーて、どんな素敵な役者になるかね、あいつは」


 モニターを切り替え、ガスコーニュは持ち前の楊枝を揺らして作業に取り掛かった。















 保管庫内は外の宇宙とはまるで違い、静寂に満ちていた。

逸る気持ちを抑えて駆け込んだカイはそのまま相棒のコックピット内に乗り込んだ。

ガスコーニュ達がきちんと整備を行ったのか、状態も良好で動作確認は一瞬で終わる。

何時でも発進可能な状態となった時、カイは重々しく口を開いた


「相棒、俺今日色々な事があったんだ・・・・」


 操縦レバーをやんわりと握り締め、語る。


「お前も知っているだろう?青髪と赤髪。
あいつ等とさんざん喧嘩してよ、他の女とも険悪な状態になったんだ。
ほとんど俺の責任だけどよ・・・・・」


 まるで自分の半身に語りかけるように、本当のパートナーに相談するように、

カイは素直な気持ちでとつとつと話を続ける。


「それでさ、俺パイロット辞めようと思ったんだ。もう意味ねえかなってよ。
考えてみれば、ふざけた話だよな。お前をないがしろにしていたんだからよ。
本当、悪かった」


 初めての出会いで契りあった誓い。

自分とこの相棒と共に宇宙へ挑み、頂点へ立とうと決意した。

カイは自己の責任感から、そして狭い視野から誓いを押しのけてしまったのだ。


「でも、まったくの無意味じゃなかったんだ。
女ってさ、結構すごいんだぜ?
裏方の連中もそれぞれ自分の仕事を全うしててさ、正直な話俺あいつらをかなり見くびってた。
自分の仕事に誇りを持てるってすごいと思わねえか?」


 問い掛けるものの、当然返事はない。

しかし独白を続けるカイの表情は引き締まっており、瞳は生き生きと輝いていた。


「じゃあ、俺が誇りをもてる仕事って何かって考えたらさ、結局これしかなかった。
俺はやっぱお前とじゃなきゃ駄目みたいだ。
何の仕事をしていても、勉強にはなった。アマローネ達とも少しは仲良くなれたしな。
だけど、どうも他人の仕事を手伝っているって感じしかしなかったんだ」


 やがてデリ機の保管庫のシャッターが開き、ゆっくりと蛮型がせり出して来る。

コックピット内のモニターに宇宙空間が映し出され、カイは息を呑んだ。

深遠ある闇に広がる星の瞬き、メイア達ドレッドとウニ型の攻防の閃き。

今まで見つめてきたどれよりも広大で、どれよりも未知なる世界が広がっていた。

カイは忘れかけていた感覚が細胞から活気付いてくるのを感じて、闘志にあふれた笑みを浮かべる。


「ごちゃごちゃと考えるのはもうやめだ。俺は俺なりにやってやるさ。
ガスコーニュ、あんたの信頼には絶対に応えてみせる!
行くぜ・・・・相棒!」


 掛け声と共に背中のバーニナから凄まじい火力が噴出して、蛮型は勢い良く飛び出していった・・・・






















<続く>

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