ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"






Action4 −勝負−







 カイ・ピュアウインド、メイア・ギズボーン、ピョロ、ガスコーニュ・ラインガウ、バーネット・オランジェロ。五名の事故と行方不明の報は、マグノ海賊団に衝撃を走らせた。

最前線で戦うパイロット達は勿論のこと、ニル・ヴァーナ内の非戦闘員達にも大きな動揺を与えた。明確な訃報ではない分憶測が飛び交い、不安と恐怖が艦内を伝染する。

パニックにならなかったのは、彼ら五名に絶大な信頼があったからだ。前の母艦戦にはまだ足りなかったものが、今の彼女達の心に確かな形
で存在していた。


巨大な地球母艦、大量の無人兵器、そして死という圧倒的な恐怖――心を漆黒に染める絶望にも負けない、希望が在る。



「主任、聞きました? カイ達の事」

「ソラちゃんが慌てて確認しに行ったよ」


 刈り取り戦において、ペークシス・プラグマは生命線である。無限のエネルギーを生み出すこの結晶体の制御を失えば、ニル・ヴァーナの貴重な動力が消失してしまう。

前の母艦戦では完全停止した上に、停止した原因も不明なままとあって、本戦においては機関士クルー総員でペークシス・プラグマの制御と維持に取り組んでいた。

当然見習いも現場に引っ張りだされており、機関士クルー見習いを務めるソラも作業に取り組んでいた――つい、先程まで。


持ち場にいた少女の姿が、無い。


「……その、どう思います?」

「生きているか、死んでいるか、で言えば、生きてると思うよ」


 機関士クルー主任、パルフェらしくない言い回し。イエスでありながら、ノーの可能性を考慮した意見。恐る恐る問うたサブチーフが、首を捻っている。

サブチーフとしては、カイ達は生きていると明言してもらいたかったのだろう。パルフェも望まれていると悟りながらも、明言は敢えて避けた。

自分の心の内、事実と希望の見極めをするのはパルフェであっても難しかった。なまじ分析能力に長けているだけに、尚の事区別するのは難しい。


結局のところ、パルフェ本人も混乱していたのだ。自分の知る事実の中で、好材料となるものだけを列挙する。


「この前カイがうちのクルー達と大喧嘩して艦を出て行った時、ペークシス君が完全停止したでしょう」

「え、ええ、原因は不明でしたけど――もしかして!?」

「確証は全然なくて単なる推測なんだけどね、その理由はカイにあったのかもしれない」


 カイがニルヴァーナを飛び出した途端ペークシスは停止して、仲直りして帰還するとペークシス・プラグマは再起動した。これを偶然だと決め付ける方が難しい。

ならばカイがペークシスを何らかの方法で制御しているのか、それも考えられない。ペークシスをコントロール出来るのならば、これまでの戦いはもっと楽に勝てた筈だ。

偶然とは到底思えない、ただ必然性がない。とどのつもり、推測の域を出ない。皆うすうす勘付いていながらも口に出さない理由は、そこにあった。

パルフェがカイ生存の根拠と出来なかったのも、同じだ。サブチーフも、表情は晴れなかった。


「現在のペークシス・プラグマの制御率は、80%前後。戦闘開始時と比べて、やや乱れてはいますね」

「でも停止はしていない、でしょう」


 ペークシス・プラグマは若干不安定ではあるが、制御可能な域で運用出来ている。予定外の事故で圧倒的不利な状況に立たされている中、唯一と言っていい安心材料だった。

今は作戦決行中により、強力な磁場を発するガス星雲の中にいる。この状況下でペークシス・プラグマが停止してしまうと、磁場を浴びてニル・ヴァーナ艦内の乗員に悪影響を与えてしまう。

カイ達が事故を起こしたと聞いて、パルフェ達機関士クルーは青褪めた。正直な話カイ達の安否より、ペークシスの停止及び暴走を懸念したのだ。


不幸中の幸いにも、ペークシス・プラグマはまだ制御出来ている。真っ先の懸念事項が解決してから、次の不安材料に悩んでいる。


「後はやっぱり、あの子達かな」

「ソラちゃんとユメちゃん、ですか?」

「あの二人、何処の誰なのか今だに教えてくれないけど、カイと深く通じ合っているのは分かる。それこそ、お互いの生死を確認出来るくらいに。
もしも、だよ。彼女達が人間じゃないとすると――その正体は限られてくると思うんだ」

「しゅ、主任、それってひょっとして!?」

「多分あると思うんだ。地球側にも私達と同じ、オリジナルが」



 カイをマスターと呼ぶソラは、今もまだ戻って来ない。















 戦闘中、医務室ほど慌しい職場はない。たとえ悲痛な事故が現場で起きたとしても、仲間の誰かが死んだとしても、医療活動を続けなければならない。

犠牲者が出てしまったからこそ、新しい犠牲者を出さないように努力する。そう奮起して、今この瞬間だけは仲間の死に目を瞑って、仲間を救うべく治療を行っていく。

ドクターであるドゥエロは勿論のことだが、ナースのパイウェイも同じ心構えでいるのに、仲間の誰もが驚いている。まだ子供だというのに泣き喚くもせず、必死で看護を続けている。


成長であることに、違いない。けれど、十歳の少女に必要とされる胆力ではない。ドゥエロには彼女が頼もしく、そして悲しかった。


「パイウェイ、今の内に少し休憩を取っておけ。今戦いは硬直状態、もし急患が来れば連絡はする」

「ありがとう、ドクター。でも、大丈夫だから」


 働く手を決して緩めない。作戦は開始されて随分経つ、列挙する程ではないにしても患者は増えている。スタッフが限られている以上、個人の負担はどうしても大きくなる。

激務の中でパイウェイの処置は適切で、慌しいというのに粗もない。目を見張る適切な治療で患者の傷を癒やし、痛みを和らげていた。


短期間での医療技術の向上、その要因はやはり病の星での救助活動であろう。あの星は、医療関係者にとって地獄であった。


持ち得る医療技術の全てを駆使しても、助けられなかった患者が多く出た。重い病に冒された彼らを救えたのはテラフォーミングという科学であり、医療ではない。

それに病こそ治せたが、彼らの心に巣食う絶望は払えなかった。医療で病を治せず、治療で心を癒せなかった。ドゥエロやパイウェイはあの星で一度挫折したのだ。


成功による、自信ではない。失敗による、成長――ゆえに短期で技術は向上し、心は驚くほど磨かれた。


「――それに」

「それに?」

「今じっとしていると、泣いちゃいそうだから」


 ドゥエロは、ハッとする。自分の助手を、二重の意味で見誤っていた自分が不甲斐ない。パイウェイは強くなったが、まだまだ弱くもあったのだ。

失敗による成長は確かに著しいものであったのだろうが、それでも失敗であり挫折である。どれほど辛く、悩み苦しんだのか、想像も出来ない。


人の死に触れてしまった少女は、死に対してタフにはなったが、同時に死を恐ろしく感じるようになってしまった。


医者にとって死は身近であり、死を感じ取れるようになるのは決して悪いことではない。死を現実として捉えられないようでは、医療は務まらない。

死というのが分かるようになったからこそ、医療の価値を理解できるようになる。パイウェイはナースとして一人前に近付いているが、思い悩んでもいる。


だからこそ、仲間の死が人一倍怖いのだ。人が死ねば、決して取り戻せないのだから。


「カイは、強い男だ。運にも、恵まれている。少なくとも私は彼の死体を見るまでは、死亡診断書を作成するつもりはない」

「ドクターは信じてるんだ、カイのこと」

「君も、メイア達のことを信じているのだろう。同じことだ」


 ドゥエロに微笑まれて、パイウェイも気恥ずかしさに頷く。信じてはいるが、信じ抜けてはいない。不安に思う気持ちはどこかにあって、それが恥ずかしかった。

信頼はドゥエロと同じく持っているが彼と違いがあるとすれば、意識であろう。ドゥエロにとって、カイは親友なのだ。

パイウェイにとってメイア達は仲間ではあるが、親友とまで呼べるかそれこそ自信はない。男達のような関係が、羨ましく思う。


そう思っていると、パイウェイはふと顔を上げる。


「そういえばあの子、居ないね」

「私も、気になってはいた」


 エズラの子供カルーアが眠る、ベビーベッド。母親が仕事中の間、一番安全な医務室に預けられている。赤ん坊は医務室内の喧騒の中、一人静かに眠っている。

戦闘中も遊んであげていた少女、ユメの姿がない。カイ達の事故前後に、姿をくらませてしまった。ドゥエロ達は治療に忙しく、気付くのに遅れたのだ。

パイウェイは、思う。あの子にとって、カイは特別な存在だった。恐らく自分自身よりも大切で、心から愛していたのだろう。


世界の誰よりもカイを信じる少女は今、何を思っているのだろう?


「私が思うにもしもカイが死んでいれば、あの少女は決して黙っていないだろう」

「うーん、すごく泣き喚きそう」

「我ながらどうかと思うが、あの子が静かだからこそ、カイはまだ無事だと思えるのだよ」

「……説得力があるような、ないような」



 カイをますたぁーと呼ぶユメは、今もまだ戻って来ない。















「……っ……」


「――ター、マスター!」

「ますたぁー、起きて!!」



「だー、うるさい! 耳元で騒ぐな!」



 彼女達の居場所は、いつも――主の傍にある。



























<to be continued>







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