ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 18 "Death"






Action16 −即発−







 無人兵器に、感情はない。使命感もなければ、倫理観もありはしない。あるのは地球にプログラミングされた刈り取り、刻まれた命令一つで兵器達は狂気を実行していく。

新型兵器偽ニル・ヴァーナも、例外ではない。偽ニル・ヴァーナが建造された目的は、地球母艦の守護。人間達より学習したやり方で、母艦を守るべく徹底する。

ヴァンドレッド・メイアの妨害に始終したのも、母艦狙いであるのは明らかだった為。変形して手の内を全て晒したのも破壊ではなく、妨害に徹する為であった。

その全てが無視されて、みすみすヴァンドレッド・メイアを行かせてしまった。明らかなミスであり、失敗。けれど、偽ニル・ヴァーナに無念も後悔もない。何もない。


プログラミングされた命令だけが、絶対。母艦を守るべく、ヴァンドレッド・メイアの追跡に移った――が。


「全機、宇宙人さ――突入隊を、援護して下さい!」

『ラジャー!』


 新人リーダーが、それを許さない。変形にこそ泡食ってしまったが、無人兵器にはない強い使命感が心を落ち着かせた。拙いながらも、必死で命令を下す。

リーダーを任されたディータは、胸に手を当てる。正直に言えば、カイと一緒に行きたかった。彼と共に戦い、勝利するのは生きる何よりの喜びでさえある。

自分の気持ちを優先していたら、それこそ偽ニル・ヴァーナと並走してヴァンドレッド・メイアを追っていただろう。正直、そんな気が全くないといえば嘘になる。

しかし、今の立場が個人の我儘を許さない。もしも自分の勝手でチームを傷つけてしまったら、自分が許せそうになかった。


『よく我慢したわね、あんた』

「宇宙人さんに、お怪我させちゃいけないから」


 サブリーダーとして新人リーダーを補佐するジュラが、個人回線でディータに声をかける。何か言わずにはいられなかったのだ。

リーダーとしては当たり前の判断、褒める程ではない。その当たり前を、ディータはきちんとこなした。ならばせめて、労いくらいはしてあげよう。

新人であってもリーダー候補、その心を汲んで労えるのは、サブリーダーだけだから。


ジュラの気持ちが嬉しくて、ディータは汗を流しながらも爽やかに笑った。


『そこまで任務に徹さなくても、リーダーにだってある程度の裁量はあるのよ。現に、予定外が出ちゃってる』

「あの偽物のお船さんだね。折角、ディータやジュラの偽物をやっつけたのに!」

『……正直、倒せたアンタには驚かされたわ』


 何と、ディータの指揮でヴァンドレッドシリーズの偽物を打破したのである。ドレッドチームのみで、偽物であってもヴァンドレッドを倒したのは大殊勲賞であった。

火力、加速力、防護力。それぞれに特化した機能を持つ、ヴァンドレッドシリーズ。ディータがこの偽物シリーズを自分達に引きつけた上で、一機ずつ丁寧に倒していった。

着目点は、チームワーク。特化された機能であるがゆえに優れた長所と、顕著な短所が存在する。その点に目をつけて、彼らを孤立化させた。

短所を補うのは長所、彼ら三機がチーム編成で動かれたら隙が無くなる。逆に言えば一機一機を分断させてしまえば、弱点が剥き出しになるのだ。


ドレッドは特化された機能こそないが、万能的に動ける。そして何より、チームワークに最適な機体。フォーメーションを最大限に活用すれば、火力も速力も補える。


ヴァンドレッド・メイアは加速に特化した、機体。ならば、と数で取り囲んで動きを封じて、集中砲火を浴びせて撃破した。
ヴァンドレッド・ディータは火力に特化した機体。ならば、と最大速度でフォーメーションを駆使して、速度に物を言わせた攻撃で撃破した。
ヴァンドレッド・ジュラは防御力に特化した機体。ならば、と一撃一撃を地道かつ確実に与えて消耗させ、粘り強く撃破した。


兵器にはなく、人間だけにある強さ。集団で生きる生き物であるからこそ、敵には学習できない戦い方で勝利できる。


「宇宙人さんの作戦あってこそ、だよ。宇宙人さんを信じていれば、怖いものなんてないんだ」

『だから、腰を据えて粘れたんだね。あんたにしちゃ、随分我慢してると思ったら』


 自分より強い敵を相手に消耗戦を挑むには、よほどの精神力が必要となる。蛇に睨まれた蛙と同じく、恐怖は気力も体力も削り取るからだ。

ディータが強敵に恐れずにチームを率いて立ち向かえたのは、必ず勝てるのだと信じていたから。信じられたのは、他ならぬカイが立てた作戦だから。

確かにガス星雲内で戦えば、偽ヴァンドレッドシリーズの機能は低下する。勝機は出るだろうが、それにしたってヴァンドレッドは強い。自分達が頼っている機体だから、尚更に。


誰かを信じる、強い気持ち――大勢の部下を預かるリーダーには不可欠な、素養である。


『まさか、とは思ったけど……意外とむいているのかもね、あんた』

「なになに? 褒めてくれてる!?」

『リーダーの目が確かだったと言うだけよ。あんただけを、褒めたんじゃない』


 言い換えればディータも褒めているという意味なのだが、表面的に受け取ったのかディータはションボリしている。新米の素直な態度に、ジュラは声を立てずに笑った。

情けなかったディータがこれほど頼りになるとは思わなかった分、この成長速度には正直恐れすら感じていた。嫉妬ではなく、純粋な畏怖によって。

自分の座を脅かされたと、焦る気持ちはない。ジュラとて、成長はしている。自分の弱さを、この半年で思い知らされているのだ。ディータを笑えないし、妬いたりもしない。


ただ、新米がリーダー候補に抜擢されるのは異例である。ましてメキメキと頭角を表したとあれば、嫉妬より畏怖を感じてしまう。


ひ弱な小虫のように思えていたからこそ、魔人だと知った時の恐怖は半端なものではない。自分の知るディータは擬態でしか無かったのかと、恐れてしまった。

そんな彼女が自分の嫌味一つで落ち込んでいるとあれば、そのギャップに安堵混じりの苦笑いが出てしまう。


『ほら、さっさと行くわよ。アタシやあんただって、突入隊へ回る必要が出てくるだろうから』

「作戦会議でも必要に応じて――と言われてたけど、やっぱり宇宙人さん達だけじゃ危ないのかな」

『偽物は倒せたけど、あのデカブツは手強いわよ』


 突入隊のカイ達は悠々と駆け抜けて行ったが、足止め役となるディータ達はそうはいかない。食らいついてでも、偽ニル・ヴァーナの足を止めなければならないのだ。

人型変形はディータ達にとっても、好都合ではあった。ニル・ヴァーナの速度はドレッドでも太刀打ち出来ないが、火力であればまだ対抗する術はある。

足を止めるのに速度は脅威だが、火力は大きな問題ではない。強敵に違いはないのだが倒すことに固辞せず、直撃だけを避けて戦えばいいのだ。


そういう点では偽ニル・ヴァーナも戦える相手とも言えるが、人型変形は予想外である事に違いはない。ジュラに、侮りはなかった。


作戦は順調に進められてはいるが、予想外が加わった以上念には念を入れておくべきであると考える。となれば、突入隊への援護も視野に入れなければならない。

ジュラとディータが加わればヴァンドレッドへの移行も可能で、戦術にも大きな幅が出てくる。母艦の内部工作を行う上で、新たな予想外の脅威が出てくる可能性もあるのだから。

ジュラの懸念を、親友とも言うべき女性が敏感に察した。


『ジュラ、ディータ。行って、ここは引き受けるわ』

『バーネット、それにガスコさんも!?』

『ガスコじゃない、ガスコーニュ! たく、どの子も手間がかかるね』


 レジクルー見習いとなっているバーネット。彼女はデリ機に乗り込んで、ガスコーニュの助手として急遽駆けつけたのだ。

彼女自身が愛機で出れば前線における強力な援護となるのだが、以前の母艦戦で精神を病んでしまい、半ば引退した身。ガス星雲という特殊な戦場では、戦えなかった。

だいぶ癒えているとはいえ、心の傷はまだ残っている。戦場に出るのは辛いだろうに、駆け付けてくれた彼女の気持ちがジュラには嬉しかった。


迷いもせず、ハッキリと頷いた。


『行くわよ、ディータ。カイ達を援護するわ!』

「ラジャー!!」


 そうして全機、偽ニル・ヴァーナとの攻防に移った。無人兵器の大群はニル・ヴァーナが行い、ドレッドチームが偽ニル・ヴァーナ本体と積極的に戦う。

足止めは何とか上手くいったが、その先がやはり厄介であった。全長三キロのニル・ヴァーナが人型と化したのだ、超重量の人型兵器ともなれば圧巻の一言。

加えて強力な火力と例の赤い光も攻撃手段とあって、一進一退の攻防戦は激化する一方。ガス星雲の強力な磁場がなければ、死者が出ていたであろう。


歴戦のパイロット達が、傷だらけで戦い続ける。味方に大きな損傷こそ出なかったが、敵にも痛手は与えられない。ニル・ヴァーナ本体を相手にしているのと、同じなのだ。


良いニュースもある。カイ達突入隊が地球母艦に接近しつつある。このまま足止めできれば、内部工作という主目的は達成できる。

悪いニュースもある。ディータとジュラが、先に行けない。彼女達二人が抜ける隙を与えてくれない。良い意味でも、悪い意味でも、硬直状態に陥ってしまっている。

ニル・ヴァーナ本体にも、戦況はリアルタイムで伝わっている。バートが、艦首を傾けた。


『しつこいな、こいつ! これでも――喰らえ!!』


 ホーミングレーザーを一斉掃射、母艦が放った無人兵器を大量に撃ち落として敵前線を破壊。出来た隙を見計らって、ペークシスアームを出現させる。

伸ばされた光の腕が巨大人型兵器の胴体を鷲掴み、派手に暴れ回っていたワンパクメカを止めるのに成功する。敵も抵抗するが、ペークシスの力には叶わない。

敵の動きを止めたバートは、得意げな顔でディータ達に声を投げかける。


『よっしゃ、食い止めたぞ。ほら、今の内に行け!』

「あ、ありがとう、運転手さ――あ、駄目!?」

『へ……?』


 ディータが気付いて、バートが気付かなかった事実。最前線に居なければ、咄嗟に分からない脅威。敵には、学習能力がある。

変形しているので認識を見誤りやすいが、敵は偽ニル・ヴァーナ。本物のニル・ヴァーナほど、見本となる存在はない。



人型変形している偽ニル・ヴァーナが――腕を、伸ばした。



『ぐッ!?』

『きゃあっ!?』


 ペークシスアームの真似をするのは不可能、カイが示した認識に間違いはない。だが人型変形した腕であれば、伸ばすことは難しくはない。

偽ニル・ヴァーナを構成しているのは、大量のキューブの塊であり集合体。部品さえあれば、継ぎ足しするのは朝飯前なのだ。その点を、大きく勘違いしていた。

誤認していたのは、バートだけではない。その場に居たもの、全員と言っていい。無理からぬ話だが、致命的でもあった。


伸ばした腕が掴んだのは、デリ機。ドレッドほどの加速力がない為、不幸にも捕まってしまったのだ。


『ちっ……バーネット、脱出しな!』

『何言ってるのよ、ガスコさん!? 置いていけないわ!』

『バカ言ってんじゃないよ。この状況で――なっ!?』


 そして一番の勘違いは、偽ニル・ヴァーナの目的。この敵はマグノ海賊団の討伐、デリ機の破壊――もっと言えば、刈り取りを目的としていない。

"仲間を、守る"――カイ達より学んだ強さを、今こそ発揮する。


掴んだ獲物を振りかぶって、思いっきり投げ飛ばした。



――母艦への突撃を試みた、ヴァンドレッド・メイアに向けて。















そして、灰になった。



























<END>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします





[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]

Powered by FormMailer.