ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 18 "Death"






Action11 −隔絶−







 ガスコーニュ・ラインガウとガヴィ・ラインガウ、二人の仲睦まじき姉妹は同じ学生時代を過ごし、同じ進路を選び、同じ職業に就いた。もっとも当時、職業の選択は非常に限られていたが。
メジェールという船団国家を守る、軍部に所属。辛く厳しい職業ではあったが、彼女達は自分達が生きるメジェールを愛していた。国家を尊重し、民を守る。誇りある仕事だった。

軍人における職業意識とは国家によって異なるが、姉のガヴィには崇高なる使命を持っていた。彼女の非凡な才は妥協を許さず、それゆえに軍務における意識も強くなっていた。


同じ生き方を選んだはずの妹ガスコーニュとは、その点において絶対的なまでの差が生じていたのである。



『ラインガウ少尉。君はさっきから言い訳ばかりだな』



 メジェール正規軍の軍司令部。正式な軍人となった二人だが、同じ職業であっても階級が異なる。それだけであり、それが絶対。階級差こそ優劣の差であり、立場の差であった。

妹を睨む姉の目に、柔和な優しさはない。どこまでも厳しく、鋭く、追求するのを躊躇わない。同じ血を引く家族であろうと、軍人となれば特別視は出来ない。


姉はどこまでも軍人であり、妹はどこまでも――妹であった。


『気まぐれな同情心や、怒りに任せた判断の甘さが、多くの命を危険に晒すんだ。それが分からないのか!』

『……っ』


 二人に違いが無かったのは、幼少時までの頃。人間とは成長する生き物であり、成長には個人で差が生じる。血を分けた妹と姉であっても、成長速度に違いが出るのは当然であった。

士官学校で優秀な成績を収めたガヴィはエリートコースを突き進み、若くして左官クラスにまで昇進していた。彼女には部下がいて、問われるべき多くの責任を背負っている。

一方妹のガスコーニュは成績は悪くはなかったのだが、努力あっての賜であり、目を見張るべき才覚ではなかった。士官も出来ず、見習いとして姉の下で所属していたのだ。


同じ上下、同じ姉妹でありながら――二人は、遠い。


『で、でも……姉さん!』

『わきまえろ、少尉!』


 その差が、ガスコーニュには我慢ならなかった。姉への尊敬は昔も今も、何も変わっていない。優秀な姉に対して嫉妬などせず、純粋にその背中を追ってきたのだ。

姉の言う通りに、姉のように生きれば何の問題もない。そしていつかは、姉のようになりたい。人間としての理想像を、ガスコーニュは姉に求めていたのである。


だからこそ、姉の容赦無い叱責が胸に突き刺さっていた。怒っているのではない。ただ、哀しいのだ。


昔のように、優しく接してほしいとは言わない。自分とて軍人であり、大人だ。社会に出れば、時と場合を意識して行動するなど当たり前のことだ。

普段ならばきちんと弁えていたその態度も、他でもない姉からの追求を受けてつい甘えが出てしまったのである。


そんな妹の甘えを、看過できない姉ではなかった。


『任務において、我々は上官と部下の関係でしかない』

『! も、申し訳ありません。ラインガウ中佐!』


 規律の乱れは、自身の乱れに繋がる。他ならぬ姉からの注意を受けて、ガスコーニュは慌てて敬礼を取る。その後も叱責は続いたが、尾を引かなかった。それがまた、悲しい。

最初から最後まで徹底して厳しい上巻であり続けたガヴィに、ガスコーニュはただひたすらに縮み上がるだけであった。期待に応えられず、間違えてばかりの自分が恨めしい。


感情任せの判断と、気まぐれな行動方針――注意を受けたそのどちらにも心当たりがあり、彼女なりの言い分があった。


振り返ってみても、完全に間違えていたとは思っていない。ただ、最善と思える決断では決してなかった。実際、任務は失敗してしまったのだから。

ならばあの時、あの瞬間、どう行動すればよかったのか。冷水を浴びせられて冷静になっても、分からなかった。姉は答えを教えてはくれなかったから。

昔とは、違う。聞けば答えを教えてくれる、優しくも甘い時代は過ぎてしまった。子供から大人になった以上は、自分で考えて答えを出さなければならない。


振り返らずに去っていった姉の背を目で追いながら、妹はただ途方に暮れていた。















『恥ずかしいね、自分の昔の恥を晒すってのは』

「……あんたは」


 ガスコーニュは照れ笑いを浮かべながらも、どこか懐かしそうにしている。過去の恥だと言い切りつつも、今となっては良き糧としている証拠だった。

今語った事だけではない多くの失敗を経験に、今の成功へと導けている。カイはその真っ只中にいるだけに、尊敬の念を覚えながらも歯噛みする思いだった。


感情任せの判断、焦りにより生じる強硬姿勢。今まさに、カイが直面している問題であった。


ガスコーニュは姉であるガヴィに諌められ、カイはそのガスコーニュ本人に諭されている。他ならぬ彼女が言うからには、まぎれもなく正しいのだろう。

地球母艦に、偽ニル・ヴァーナ。当時ガスコーニュが直面していた問題とは質が違うのだろうが、答えを導き出す手掛かりは同じに見える。

どうすればいいのか。自分の判断を確信できる決め手がない。すなわち、覚悟がない。


メイアやガスコーニュの指摘通り、この決意は気持ちでしかないのだろう。


『カイ、アタシだって同じだよ』

「……」

『いーぱい、失敗してきた。悩んだことも、悔やんだことも、数知れない。姉さんにはいつも怒られっぱなしだったさ。
自分の失敗で、大勢の人に迷惑をかけちまう。だからこそ、失敗なんて出来ない。絶対に、成功させなければならない。

そういう凝り固まった"気持ち"を――自分なりの覚悟だと、勘違いしてしまった』


 仲間のためにも失敗はできない。一見、尊い責任感に見える。純粋なる決意に、見えてしまう。嘘偽りないからこそ、余計に錯覚してしまうのだ。

自分だけのことを考えて生きてきた過去があるからこそ、仲間を思える自分を偉く感じてしまう。変わったのだという確信そのものが、昔には戻りたくないという意地を生んでしまう。

気持ちを持つのは大切だ。仲間への想いは確かに掛け替えはない。素晴らしい変化ではあるのだろう。


しかし、それに拘泥してはいけない。


『あんたにとっちゃ、辛い局面だ。作戦の失敗は、仲間の死を意味する。だからこそ、作戦を上手く成功させたい。順調に進めたい。
偽物相手に特攻を仕掛けようと思ったのも、一刻も早く作戦を進めたいからさ。そいつはいいんだが――

作戦を指揮する人間は決して、自分の感情で動いちゃいけない。時には自分自身を殺してでも、じっくり構えないといけないんだよ』

「それが、上官だったあんたの姉の姿勢だったのか」

『気付いたのは、似たような立場になった頃だけどね』


 実の妹である妹にも厳しく接したのは、妹可愛さに贔屓にするような真似をしてはいけなかったからだ。自分を律していたからこそ、より厳しい態度になったのだろう。

自分自身の気持ちさえも、殺す。感情を冷たく凍らせて、心を鬼にしてでも、人の上に立つ立場として職務に望む。それでこそ、人々を守れる。


今の自分とは、真逆――カイは、己の未熟を痛感せざるをえなかった。


自分の判断そのものは、間違えていない。ならば、そのまま行動しても良かったのか。正しいことを理由に突き進むのは、仲間を守ることに繋がるのか?

メイアが自分を止めたその姿勢こそ正に、自分を殺す冷静な判断であった。仲間を傷付ける結果になったとしても、一か八かになんて挑めない。

作戦を失敗したくないのではない。成功させなければいけない、のでもない。


必ず、成功してみせる。その結果を鋭く見つめて、途中経過を疎かにせずに遂行する。


「……悪かったな、青髪。さっきは色々突っかかったりして」

『お前が作戦に参加した我々の事を考えて行動しようとしていたのは、分かっている。短慮だと責めるつもりはない』


 カイの謝罪に、メイアは穏やかな表情で首を振った。カイは覚悟そのものがまだ完全には出来ていなかったが、仲間を思う気持ちだけは本物だった。

焦りが生じたのは、仲間を死なせたくなかったからだ。その為に自身の危険を省みようとしなかったから、メイアは諌めたのである。

立場が逆なら、カイは怒鳴り散らしてでも止めてかかっただろう。相棒だからこそ、互いの姿勢を見て冷静になれる時だってある。


カイは既にメイアにとって、正反対の人間ではなくなっていた。


『あんた達、本当にいいコンビになったもんだね。メイアもとうとう年貢の納め時かい』

『な、何の話ですか! こんな時にからかうのはやめて下さい』

『アタシも、もうちょっと相手を見るべきだったね……大切に思っていた、あの人を』

「お、おい!」


 止めようとした。この話の顛末なんて、聞くまでもなく分かる。ハッピーエンドで終わったのならば、この局面で自分の失敗を赤裸々に語るはずがない。

恥を晒してまで失敗を気付かせてくれたのだ、これ以上語らせてはいけない。これ以上聞いても、学ぶべきことはない。

自分の為にここまで話してくれた人に、心の傷をさらけ出せたくなかった。


『いいんだよ、カイ。聞いておくれ』

「だけど、それは――」


『聞いて欲しいんだよ、あんたに』


 初めて見る、表情――ガスコーニュの儚げな表情に、カイは言葉を失った。いつも強く、威勢がよく、頼もしい女性の一面。心の痛みに増える、女性の姿。

言葉にも出来なかった。大いなる隔絶が、そこにある。遠い過去、手の届かない時間。何をどうしようと、もう変えることは出来ない。


自分の弱さを会えて、自分に聞かせようとしている。彼女の心の惑いに、カイは唇を噛み締めた。


聞かなければいけない。聞いて、心に刻まなければいけない。彼女の心に、今こそ触れる時が来たのだ。

いつしか、尊敬していた女性。姉のように、頼りになる人。そんな人の弱さを知れば、いずれは叶うのかもしれない。


この人を、守れるようになることも。


「分かった、聞かせてくれ」

『ありがとう、カイ』


 お互いに涙を堪えて、悲しい過去を共有する――

そんな関係を、人は家族と呼ぶのかもしれない。



























<END>







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