ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 18 "Death"






Action4 −声援−







「ニル・ヴァーナの針路上に、広範囲に渡るガス星雲を感知しました」

「ガス星雲に突入――システムに重大な影響を及ぼしています」


 メインブリッジに、ざわめきはない。ニル・ヴァーナを操舵するバート・ガルサスも、分かっていて飛び込んでいる。固唾を呑んでいるが、ブリッジクルー全員平静であった。

ベルヴェデールは周囲の警戒に終始し、アマローネはガス星雲内の磁場の影響度合いを分析。セルティックが艦内全システムの防衛と再構築に全力を注いでいる。

オペレーターのエズラも出産後現場復帰し、各所の部署と連携を取って態勢を整える。優秀なクルー達のおかげで、ブザムも作戦の推移にのみ集中。万全の指揮を取るべく、構えている。

艦長席に座るマグノも、今のところ静観していた。


「今のところ、予定通りだね」

「ガス星雲突入に向けて、パルフェ達が予め対策を施していたのでシステムダウンも起きておりません。ペークシス・プラグマも、安定した出力を保っています」

「寝る子は起こしたくないからね、このまま平穏に終わってほしいものだよ」


 マグノの洒落た言い方に、作戦遂行中のブザムも苦笑してしまう。ペークシス・プラグマだけではない、ようやく寝付いたカルーアの事も指してマグノは言っているのだ。

実際のところ戦いが始まれば、戦況は間違いなく激化するだろう。作戦そのものは念入りに計画しているが、到底楽観できる相手ではない。苦戦を覚悟で挑まなければならない。

敵が誰か分かっている分、右往左往しないことだけは救いといえよう。


「後は肝心の敵さんが餌にかかってくれるかどうか、だね」

「カイの戦略とミッション側から提供を受けた情報を考慮すれば、ほぼ間違いなく我々に食い付くでしょう」


 磁場の荒れ狂うガス星雲にわざわざ飛び込んだのだ、敵側からすれば露骨な罠に見える。待ち伏せの可能性を、無人兵器であれど考えつくだろう。普通は、わざわざ飛び込んでこない。

罠に見せないようにするのも重要な戦略の要素ではあるが、今回敢えてカイは浮き彫りにした。細工は無駄な労力であると、断じたのである。

リズの情報によれば母艦の規模はマグノ海賊団が以前戦ったものとほぼ同等、無人兵器も大量に搭載。結晶体ほどではないが、ペークシス・プラグマも保有している。


圧倒的な戦力、そして貪欲なまでの刈り取りへの執念。敵は獲物のみを見据えて行動しており、罠であろうと何であろうと踏み潰してかかってくる。


加えて、例の偽物シリーズ。ヴァンドレッド・ディータ、ヴァンドレッド・メイア、ヴァンドレッド・ジュラの模倣。母艦同士連携できているのなら、戦闘データも送られているはずだ。

偽物シリーズは本物ほどの機能は持ち合わせていないが、並みの兵器より強力である。今回は大量生産して連れてくるかもしれない。

これほどの規模であるのならば、ガス星雲になど恐れず飛びかかってくるだろう。こちらは文字通り、餌にすぎないのだから。


釣り針が刺さろうと、餌を噛みちぎるつもりでいる。


「――バカにされたもんだね、アタシらも」

「学習能力は高くとも、敵の基本戦術はあくまで戦力頼みのゴリ押しです。まずはガス星雲を包囲した上で、籠城する我々を潰しにかかってくるでしょう」


 退路を断つ、嫌らしいまでに徹底して刈り取りを行おうとしている。半年以上戦い続けた敵だ、無人兵器の種類が変わっても戦法の傾向は掴めてくる。

先の作戦会議でカイは作戦の根幹を説明、ブザム達ベテランがその作戦を叩き上げて形とした。母艦の規模は凄まじいが、今のところこちらの読み通りに動いている。

後は罠だと悟ってもこちらの思惑通りに突撃してくるか、その一点なのだが――


「! 敵、針路が変わりました。こちらへ向かってきます!?」


 ベルヴェデールの報告に、お頭と副長が顔を見合わせて頷き合った。


「動きがやや早いですが、予定通りです」

「やるしかないね、ここで」


 艦内に、派手な警報が流れる。いつもは緊急事態を告げる不吉な鐘なのだが、今回は作戦開始を鳴らす号令である。総員恐怖に震えず、闘志に燃え上がっている。

準備万端なだけに艦内も落ち着いたもので、皆無言で各持ち場につく。作戦通りであっても、長い戦いとなる。長期戦は回避する段取りだが、何事も思い通りにはいかないものだ。

何が起きても対応できるように、全員が気を引き締めている。作戦があっても、誰一人油断はない。敵を、ただまっすぐに見据えている。


前回と今回の、大きな違い――男女が一致団結して、戦おうとしている。















「ガス星雲に突撃してきたか、思った通りだな。動きの鈍った連中から叩いていくぞ、青髪」

『お前と私で一機でも多く叩き、母艦の注意を引き付けるのが主目的だ。敵にばかり囚われないように気をつけろ』

「分かってるよ」


 主格納庫に保管されている各機体に、それぞれ既に乗り込んでいる。カイも専用エンジニアであるアイが整備したSP蛮型に乗り込み、コックピット内の計器をチェックしている。

地球の母艦に一度は破壊されて、生まれ変わったSP蛮型。新型遠距離兵器ホフヌングは母艦との戦いで完全に大破したが、新しい機体には蒼と紅のペークシス・プラグマの結晶が積まれている。

紅の結晶は、敵側の破片を奪取して搭載した動力源。敵の母艦が出てきて正直影響が出ないか気にしていたが、特に変わりなく安定している。


安定しているからこそ、安心が出来ない。相反する結晶が積まれているのに、どうしてこうもバランスが整っているのか判明されていないのだ。


「この分だと、今回の出撃にも耐えられそうだな。よく暴走しないもんだ」

『マスター、ご武運を。貴方の勝利を、心からお祈りしております』

『ますたぁー、がんばってね! 今日もいっぱい、ユメが応援してあげるね!』

「はいはい、ありがとう――うーん、何か理由があるのかな……?」


 二人の少女の心からの声援を聞きながら、二つの結晶が協力してくれる理由に悩むカイであった。


『おい』

「ツバサじゃないか、どうした?」


 割り込み回線で、愛らしい容姿にツリ目が不釣り合いな少女が画面に出てくる。先のミッションで無理やり乗船してきた、ツバサである。

あまり他人には懐かない可愛げの無さも、世の中よりはみ出した海賊達には可愛く見えるらしい。つっけんどんな少女に群がって、マグノ海賊団の女性陣がいたく可愛がっている。

今後少女が住む部屋についても同室を希望するクルーが多数でなかなか決まらず、呆れ果てた少女はこうして名付け親に懐く形となってしまった。


子供だてらに頭が良く、こうして通信機の扱いも覚えている。


『敵が来たみてえだな、今から出るのかよ』

「そうだよ。なーに、軽く片付けてくるから、お前はシャーリーと遊んでいろ」

『ガキの面倒見るのは飽きた』


 病の惑星よりバートが引き取った少女シャーリー、実は彼女の方が歳上なのだが完全に見下ろしていた。シャーリーも同世代の新入りが嬉しいのか、毎日のようにツバサに話しかけている。

バートが家族となったとはいえ、シャーリーはまだまだ子供。海賊だらけの環境もあって、気後れしている面もあったのだ。良くしてくれても、新参者はなかなか馴染めない。

そこへ来て、同年代の少女が新しく入ってきたのだ。シャーリーが喜ぶのも無理はなかった。何とか友達になろうと、一生懸命なのが微笑ましい。


ツバサは邪険にはしているが――悪い気は、していないらしい。


「そこはお前、器量を見せてやれよ」

『器量……?』

「ミッションのボスであるリズは、大人数を纏め上げていたぜ。大物になりたいのなら、まずは子分を育ててみろよ」

『! な、なるほど、子分だっていうんなら面倒見てやらないといけねえな。しょうがねえな、うんうん』


 友達なんて嫌、けど一人なのはちょっと寂しい。子供なりに思い悩んでいたのか、回答が得られて満足気に何度も頷いている。分かりやすい少女であった。

この調子なら、ちゃんとシャーリーの面倒を見てくれるだろう。案外、シャーリーの方がいずれお姉さんぶるかもしれない。

そんな二人を、見てみたい気がした。


『あいつさ、船漕いでる優男に今連絡取ってやがるんだよ。応援するんだとよ、けっ』

「それで、お前も俺の応援に来てくれたのか」

『ば、馬鹿じゃねえの!? キンタマもがれて死んじまえ!』

「洒落にならねえだろう、こら!」


 タラーク・メジェールの住民が狙われている臓器は、生殖器である。もし負けてしまえば、男は容赦なくえぐられる。

想像するだけで、股間がひやりとさせられてしまう思いだった。少女の下品な悪口に、カイは顰めっ面をする。


恐らくバートの方は、シャーリーより心温まる声援を受けているだろう。羨ましくて、仕方がなかった。


『フン――まあ、なんだ』

「何だよ」

『死ぬんじゃねえぞ』


 そう言って、さっさと通信が切れてしまう。最初から最後まで、悪態をつくだけ。可愛げがないにも、程がある。

一方的に言われて、カイは何だか今から疲れてしまう。年頃でもない女の子の気持ちは、どうも分からない。あの元気さに、ただ振り回されるだけだった。


でも何だか、その声援を聞けてやる気が出てくる――カイは力強く、操縦桿を握った。


「よし、いくか!」



























<END>







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