ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 18 "Death"






Action2 −子種−







 ガスコーニュの忠告を受けて、カイは再び地球母艦との戦闘について一から想定する。地球母艦並びに無人兵器をガス星雲に誘い込み、戦力ダウンを図る。ここまではいい。

地球母艦も無人兵器も脅威ではあるが、どれも無人機。高度な学習能力を持っているが、プログラミングされている以上磁場が乱れた地帯ではコントロールは確実に乱れる。

敵のプログラムにバグが生じれば、行動不能にまで追い込めると考えるのは楽観的にしても、まず間違いなく緻密な動きは取れない筈だ。刈り取りシステムにも多大な影響を及ぼせるだろう。


何しろ自分達だって、この前の――


「そうだ、あれを使えば!」

「難しく考え込んでいたかと思えば、何なの急に」

「いい手を思いついた。お前が役に立つ」

「へえ、なかなか面白そうじゃん。聞かせてよ」


 ガスコーニュとのゲーム後も、何となく一緒にいる二人。カイと連れ立って歩いていたミスティは、興味津々で耳を寄せる。

タラーク・メジェールそれぞれの価値観を考えればありえない距離感だが、両者の関係はそれほどまでに縮まっていた。


男と女――良い意味でも悪い意味でも性別を意識せずに、二人は付き合っている。


「――という風に、敵を追い込むんだ」

「ああ、なるほどね。ガス星雲で敵の動きを鈍らせて、工作を仕掛けるのね。でもそれって、危険じゃないの?」

「敵は『母艦』だからな、当然危険度は高い。なのでピョロと、ソラかユメを連れて行くつもりだ」

「連れて行くって……もしかして、あんたがやるの!?」

「当たり前だろう。俺が発案者なのに、他人任せにしてどうするんだ」


「……一応言っておくけど、仲間の為に死ぬのって全然かっこよくないわよ」


「お前らしい激励だよ」

「ふん」


 カイの作戦を聞いてミスティは全面的に賛成はしなかったが、反対もしなかった。彼の唱える作戦は、以前ミスティもその脅威を思い知っているのだ。

自分でも体感したからこそ、敵にも効果的だと肌で感じ取れる。作戦実行者の危険は増すが、実れば敵を追い詰めることも不可能ではない。


カイはニコニコ顔で、手を差し出した。


「何よ、この手。握手なら勝った後でならしてあげてもいいわよ」

「そんなもん、いちいち求めるか。お前が持っていた"例の物"、かしてくれ。作戦に使う」

「実質返ってこないでしょうに――でも"あれ"、持ってないわよ」

「はあ!? お前の持ち物だろう!」

「人が寝ている間に勝手に取り上げたのは、あんた達でしょう。その後あんな騒動が起きたんだし、回収する暇がなかったのよ」

「じゃあ今、誰が持っているんだ!?」

「あの眼鏡をかけた、機関士さん」

「げげっ、バラされているかも!?」


 カイが提唱する作戦に必要な物は、危険物。下手をすれば、このニル・ヴァーナさえ停止させかねない代物。だからこそ敵に有効的なのだが、そんなものを放置するはずがない。

眼鏡の機関士、パルフェなら丁重に分解して廃棄している可能性もある。それ自体は正しい処理なのだが、今処理されたら折角の有効打が消え去ってしまう。

のんきな顔をしているミスティに、カイは横目で睨む。


「何でお前はそうあっけらかんとしているんだよ。無くしちまったら、えらいことだぞ」

「あたしはあんまり賛成出来ないもん」

「うぬぬ」


 ――賛成出来ない理由はカイが危険だから、という少女なりの優しい理由なのだが、普段から口喧嘩が絶えない関係なので意地悪とカイは受け取ってしまう。

ミスティはそんなカイを見やって、乙女のように小さく息を吐く。無人兵器という思考も無い敵の動きまで分かるのに、女の子の微妙な気持ちの揺れには気付かないらしい。


だからこいつは嫌いだと、ミスティは心の中で舌を出してやった。


「しょうがないわね、ヒントをあげる」

「何のヒントだ、何の」

「うるさいわね。機関士さんは今、エズラさんの赤ちゃんを見に行っているわよ」

「でかした!」


 ミスティはともかく、カイには今セキュリティ権限がない。マグノ海賊団の仲間入りを拒否したので、ニル・ヴァーナ全システムへのアクセス権が与えられていないのだ。

もっとも今となってはカイ一人の意地でしかなく、申請すれば与えられる。それに機関士見習いのソラがシステム介入可能なので、主の為とあれば全システムを開放するだろう。


――そんな事実を露とも知らないカイはエレベーターにも乗らず、長い廊下や高い階段を駆けて無駄に体力を費やしていた。















 "カルーア"――マグノ海賊団お頭、マグノ・ビバン直々につけたエズラの子供の名前。性別は女の子、カイとミスティに見守られて停止したエレベーターの中で産まれた。


トラブルの中での出産であったが、二人の努力によって問題なく元気に生まれ育っている。生後間もないのでまだ眠る時間の方が多く、今もベットの上でスヤスヤ眠っている。

出産時のトラブルもあって一ヶ月間は医務室で寝かせていたのだが、ドゥエロの許可を得て退院。ようやく、お披露目となった。


「どう、キマってる?」

「文句なしの、バッチグー! どこから見ても、聖母って感じよ」

「でしょ、でしょ!? ジュラったら、何やっても似合っちゃうのよね。どうしましょう、困っちゃうわー!」


 カフェテリアでの、撮影会。主だった面々、というより暇しているメンバーが集って、エズラの赤ちゃんを取り囲んでいた。

ジュラは早速赤ん坊のカルーアを抱き上げて、決めポーズ。久し振りに休憩時間を共にするバーネットがカメラ片手に囃し立てていた。


本人達は可愛い赤ちゃんを丁重に扱っているつもりだが、親馬鹿な面々はそうは取らない。


「笑っている場合じゃないピョロ、もっと優しく扱うピョロよ!」

『そうだ、そうだ! その子に何かあったら、お前を殺すからね!』


 今ですっかりお馴染みのコンビとなった、新部署ナビゲーションクルーのピョロとユメ。二人が揃って、ジュラやバーネットを責め立てる。

その親馬鹿ぶりは正真正銘の親であるエズラを苦笑させるほどで、目に入れても痛くないほどに彼らはカルーアを可愛がっていた。


ピョロはともかく、人間嫌いのユメが赤ん坊をこれほど大切にするとは夢にも思わず、今でもクルー達を驚かせている。


「うるさいわね、この親馬鹿コンビ。写真撮ってる時くらい、引っ込んでなさいよ!」

『カメラ向けられて魂でも抜かれたらどうするのよ、返しなさい!』

「こ、こいつ、迷信まで持ちだして……ジュラ、もう返してあげて」

「はいはい」


 激しくも理不尽な追求に言い返す気力もなくして、ジュラはピョロにそっとカルーアを預ける。ピョロは大事に、大事に抱き上げて、ベビーベットの上に寝かせる。

ユメに目配せすると喜び勇んで頷き、ニコニコ顔で赤ちゃんに子守唄を歌う。


『よしよーし、ユメお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんが見ていてあげるから、安心してねんねしてね―』

「ピョロも、今日はずっと側に居るピョロよ」

「……仕事しなさいよ、あんたら」


 新部署が立ち上がってピョロとユメが組まされたのだが、当時二人の仲は最悪だった。何かにつけて喧嘩をしては、職務放棄をして他部署にまで迷惑をかける始末。

カイがいるので他人に危害を加えることはないのだが、ユメはそもそも他人を信用しておらず、誰の指示も聞こうとしない。ピョロ本人は俄然やる気だっただけに、余計に悪化していた。


そんな二人がカルーア出産後、びっくりするほど意気投合。毎日子育て日記をつけて、ミーティングと称して職務後カルーアの育児について真剣に議論する。


子供の育成ナビゲーションと化していると、マグノ海賊団全員が呆れ果てる程に二人は甲斐甲斐しく面倒を見ていた。子供の育成に悪いと、喧嘩の一つもしなくなっている。

子はかすがい、とはよく言ったものである。


『ねえねえ、ママ。カルーアが全然笑ってくれないんだけど、ユメの顔こわいのかな……?』

「ユメちゃんはとっても可愛いわよ、安心して。まだ生まれて一ヶ月ほどだから、目がよく見えていないの」

『そうなんだ、よかった! うーん、人間の成長って時間がかかるんだね。機械だったら、いくらでも改造してあげるのに』

「赤ちゃんの取り扱いは、機械と同じくらい大切にしないといけないね」


 ユメとエズラの微笑ましい会話を聞きながら、赤ちゃんを見に来ていたパルフェが感慨深けに語る。機械を人と同じく愛する彼女なりの、最大限の敬意であった。

母子の様子を観察していたドゥエロも、パルフェと同じ認識。医者という職業をこの旅で何度も見つめ直して来た彼にとっても、生後間もない赤子の世話は半ば義務でもあった。


まだ手足も伸びきっていない、こんな小さな子供が命を宿している。あらゆる敵から守るのが自分達の責務だと、この場にいる誰もが強く思っている。


「おっ、いた。パルフェ、ちょっと相談が――」



『静かに!!!!』



「――は、はい……」


 未来の英雄であれど、赤ん坊の笑顔には勝てない。




























<END>







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