ＶＡＮＤＲＥＡＤ連載「Eternal Advance」
Chapter 4 −Men-women relations−
Action11 −レジ−
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今日一日で、カイは融合戦艦内ほとんどを駆けずり回っていた。
海賊達、大きな視野で言えば女そのものを少しでも理解しようと、カイは行動している。
カイの思い立ちは海賊達への筋を通すために、そして自分なりの反省をこめての決意の現れだったが、
口で言うのと実際に行動するのでは、全く違う。
これまで海賊達のさまざまな仕事を見習いとしてこなしたカイではあったが、
受け入れられた部署は概ねカイに好意的ではあったが、受け入れられない部署は明らかに嫌悪された。
海賊の仕事を理解したいと言うカイの姿勢はマグノも受け入れたのだが、
クルー達の気持ちはと言うとそうはいかない。
何しろカイは人間以下とされる男であり、今ではこの船の問題児なのだから。
仕事を見学したり、実際に作業をしたりしていても、明確にクルー達の対応の差は出ていた。
親切にしてくれたり、親身になってくれる女性達はいた。
逆に蔑んだ目で見つめられたり、露骨に拒絶する女性達もいたのだ。
「女ってややこしいな、本当によ・・・・」
カイは疲労感の溜まった身体を鳴らしながら、通路内を歩いていた。
多くの仕事をこなした事への肉体的疲労もさることながら、精神的疲労も蓄積していた。
「これだったら命がけで戦っていた方がマシだよ、たくよ・・・・」
もしあのままタラークで酒場の手伝いをしていれば、人生はそのまま終わっていただろう。
タラークの労働階級である三等民には出世こそないものの、最低限の生活保障はされている。
生まれ持った身分経歴やＤＮＡ情報すらないカイは、その中でもはみ出し者である。
しかし工場で厳しい労働を強いられるよりは、マーカスとの酒場での静かな生活は平穏であった筈だ。
戦いであれ、同じである。
敵はただ倒せばいい、何も悩む事はなく倒せればそれでいい。
論理も、主張も、権利も何もない。勝てば生き残り、負ければ死ぬ。
生死を分かつこそあれ、常に勝利してきたカイにとっては単純な世界であった。
だが、人間関係はそうはいかない。
特に相手側はタラークにとっては敵側である女なのだ。
怒鳴ればいいというものではない、隔てたままでは何も見えてこない事はカイ自身痛感している。
数奇な運命と言えばそれまでだが、カイ自身が起こした行動の結果である。
悔やんでも仕方がないし、カイ自身も後悔はしてなかった。
周りからの切り詰められた状況に、ただ半ばウンザリとしていただけである。
カイは気を取り直して、本日最後の仕事場へと向かう。
『うちにはレジシステムっていう仕事場があってね、そこだったらあんたの力も発揮できる筈さ』
マグノの含みのある言葉が思い出される。
融合戦艦の第二船区に舞い戻ったカイは、その足でレジへと一直線に向かった。
「あいつがいれば案内させるんだが、あの野郎パルフェとどこかに行きやがったからな。
後できついお仕置きをしてやるぜ」
今頃呑気に艦内をはしゃいでいるであろうピョロを思い浮かべ、カイは表情を険しくする。
何しろ海賊船内部は不慣れな上に、日頃は立ち入る事もままならないのだ。
広い船内では方向すら判断がつきにくいので、案内図を頼りに進んでいくしかない。
誰かに聞けばいいのだが、当然艦内にいるのは女性クルーのみ。
カイの尋ねに答えてくれる者は若干数のみであろう。
カイ自身がどうとかではなく、男であるから。
ただそれだけの理由といえばそれまでだが、メジェール人である彼女達には絶対的不可侵だった。
タラーク人として自覚があるカイには否定する事はできない。
そんなこんなで迷いながらも、カイは最下層に位置する一つのフロアの扉前にたどり着いた。
「よっしゃ。ここはばあさんお墨付きの仕事場だからな。
まずは嘗められない様にビシッといくぜ！」
無意味に指をポキポキ鳴らしつつ、扉より中へ飛び込んだ。
中央に青いガラスが填められている特長的な自動扉を開閉させて、カイが中へと入る。
「お邪魔するぜ。俺は・・・・・・」
『いらっしゃいませ〜〜！』
「えっ！？」
突然華やかな声での挨拶を耳にし、カイは呆然と佇む。
これまでさまざまな仕事場を巡っては来たが、このような対応をされたのは初めてだった。
レジと呼ばれるその場所は、風変わりな内装を催している部屋である。
自動扉から部屋の真ん中に沿って一直線に通路が伸びており、対称側の扉二つに繋がっていた。
通路の脇には左右に長いカウンターが設置されていて、ずらりと会計システム装置が並んでいる。
そのシステム装置こそ今回の職場において重要なファクターを占めており、
レジという呼称がつけられる由縁となっていた。
会計システム、正式名レジにはそれぞれクルーが立っており、それぞれに愛らしい微笑みを浮かべている。
見る者を惹きつけるその表情に、カイは対応に困るしかなかった。
「え、え〜と、ここで働く予定のカイって者だけど・・・・」
「あなたが、カイさんですね。店長よりお話が伺っています」
はきはきとした分け隔てのないクルーの口調に安心してか、カイも自然と普段通りになっていく。
「ここがレジで間違いないんだよな？」
「ええ、そうですよ。ちなみに男が来たのは初めてです。
話には聞いてますけど、相当変わってますね。男なのにレジをやりたいなんて」
入り口近くのレジに立っている茶色の髪をしたレジクルーが、珍しそうにカイを見つめる。
ボブカットの髪が似合っているその少女に、カイは堂々とした態度で答えた。
「女の仕事が知りたくて、色々回っているんだ。
ここは特にばあさんがすごい仕事だって言ってたからな、期待しているんだぜ！
今日はよろしく頼むよ」
レジ周りのクルーのほとんどが、カイをおっかなびっくりな様子で見つめている。
怯えたり、邪険にした態度が見えない所が、レジを取り仕切るチーフの教育の良さを感じさせる。
女である自分にあけすけに接するカイに少し戸惑いながら、茶髪の少女は営業スマイルを浮かべる。
「分かりました。では、さっそくカイさんには仕事をしてもらいましょう。
はい、どうぞ」
にこやかに差し出された物を見つめ、カイは露骨に表情を引きつらせる。
「あ、あの・・・」
「はい、何か？」
「・・・・・やっぱり着ないと駄目か？」
少女より渡されたものは、少女自身や周りのレジクルー全員が着こなしている制服だった。
カイは見た目のデザインだけで鳥肌が立つくらい、拒否感が体の奥底から沸いてくる。
「当たり前ですよ。ね、皆♪」
『そうで〜〜〜す！私達はこの服でお客様をお出迎えするんです！』
見事に唱和された意見に頭痛がして、カイは頭を抱えた。
例えば機関部のように作業服とかだったら、男であるカイも違和感なく着れるだろう。
問題なのは、レジクルーの正式な制服のデザインだった。
可愛らしいフリルの付いたリボンに、ピンクのミニスカート。
正に女の子としての魅力を強調したウエイトレスのような服装なのだ。
男であるカイが否定的になるのも無理はなかった。
「お、俺には宇宙一似合わないと思うから、やめた方が懸命じゃないかとか思うんだが・・・」
エステクル−やブリッジクルーをある意味超える女としての制服に、必死で妥協させようとするカイ。
だが、レジクルー達は皆天使の微笑を浮かべて一言こう言った。
『義務ですから』
「・・・・・・はい」
立場の弱いカイは心の中で泣きながら、服を持って更衣室へと入っていく。
さすがのカイも女性の笑顔に逆らえないようであった。
「へい、らっしゃい！お客さん、ささ、どうぞこちらへ。
メニューはこの通り万全に備えてますぜ。
何？カミカゼセット？
お客さん〜、これから仕事しようって人がそんなけち臭くてどうするんです！
ほら！男だったらホーミングミサイルの一つや二つ買っていってくださいよ〜
毎度ありがとうございました！またのご来店をお待ちしています！！」
『おおおお〜〜〜〜〜〜〜』
渋々ながら制服を着こなしたカイは一時レジクルーの爆笑に耐えながらも、
レジシステムについての簡単な説明をしてもらった。
基本を一通り指導されたカイが試しにと接客練習を行った所、レジクルー全員からの歓声と拍手を受けた。
「すごいじゃないですか！やった事があるんですか！？」
「ちょ、ちょっと変な所もありましたけど・・・・なんか慣れてた様な感じがしました」
口々に褒め称えるレジクルー達に、カイは得意げに解説を入れる。
「はっはっは、そんなに褒めるな皆の集。
接客する上でこれくらい当たり前だろう」
ビシッと指を突き刺すと、うっと本場である筈のレジクルー達は迫力と威厳にたじろいだ。
「な、なんか謙遜してる・・・・・」
「男って侮れないわ・・・・・・」
底知れない脅威を感じるレジクルー達に、カイは駄目だこいつらと言わんばかりに首を振った。
普段ならカイの気取った態度に腹を立てるであろうレジクルー達も、固唾を飲んでいる。
「いいか、てめえら。これだけは頭に叩き込んでおけ。
接客は真心が命！
お客様を如何にして喜ばせるか！
それこそが最重要じゃないかね、あ〜ん？」
「た、確かに・・・・」
「前はパイロットって聞いていたけど、本当は接客のエキスパートだったんじゃないのかな、この男？」
「隠れ蓑だったってわけ？なるほど、納得がいくわ・・・・」
勝手な憶測を想像しながらも、レジクルー達の瞳にはカイへの尊敬の色があった。
あっという間にレジ内の信頼を勝ち得つつあるカイは、内心で育ての親マーカスに感謝していた。
（親父、てめえのシゴキも役に立つんだな・・・・）
カイが拾われてから数年の間、カイはマーカスより接客の基本を叩き込まれた。
態度が悪かったら殴りを入れる、酒の入れ方がまずかったら殴りを入れる。
何を教えるのにも言葉より拳が飛んで来て、カイは必死になって覚えたのだ。
元来マーカスも接客に関してはあまり良いとは言えず、最終的にはカイの方が客さんの受けは良かった。
シゴキの数々を思い出したカイはげんなりしつつも、ふと懐かしさにとらわれる。
（皆、元気にしてっかな。
親父、俺が海賊達と生活してるなんて夢にも思わないだろうな・・・・・
アレイクさんも今ごろどうしてるか？無事にタラークに帰れただろうか？
それに・・・・・）
酒場での生活を思い出す。
身寄りのない、記憶もないカイにはお客との話だけが他人とのコミュニケーションだった。
そんな酒場での常連客の中には、カイを思いやってくれた人がいたのだ。
（大関のおっさんやジンさん。あの人らもまた酒場に足を運んでくれているのかな・・・）
カイはそれほど不思議には思わなかったが、マーカスには世代や階級を超えての友人がいた。
うわばみの様に来ては酒をかっ食らう気の良い髭顔の中年、大関。
手伝いをしていたカイに、いつも野太い声で男の在り方を語ってくれたのは覚えていた。
時折ふらりとやってきては静かに酒を楽しむ老人、ジン。
身元はマーカスも語ってはくれなかったが、カイを本当の孫のように可愛がってくれた。
記憶のないあやふやな日常の中で、二人の不器用な優しさと思いやりはどれほど自分を救ってくれたか。
あの二人は階級や身分を超えて、カイを一人の男として扱ってくれたのだ。
もしカイが宇宙一のヒーローになったその時は、何より報告したい人に二人は含まれていた。
「ふ〜ん、一人前に接客はできるんだ。これは意外だったね」
過去に思いを寄せていると、突然ハスキーな女性の声がレジ内に飛び込んでくる。
カイがはっとして視線を向けると、左右に散っていくレジクル−達の間より一人の女性が出てきた。
ガスコーニュ・ラインガウ。
ここレジシステムの店長であり、マグノ海賊団の上級仕官にあたる人物である。
「あんたか。怪我はもう大丈夫なのか？」
ガスコーニュは、カイとは以前面識がある。
ディータを伴ってのピロシキ調査の際に、危機一髪だった所をカイが救助に駆けつけたのだ。
メイアの応急手当にドゥエロの治療もあってか、ガスコーニュは元気のいいニヒルな笑顔を見せる。
「アタシは丈夫だからね。あれぐらいじゃびくともしないさ。
あの時は世話になったね」
もう怪我は完治していると分かってか、カイも安心したように笑った。
「かまわねえよ。義理を果たしただけだ。
で、あんたがここのチーフなのか？」
「チーフってのは行儀が良くていけないね。店長って言ってもらおうか」
「店長？店って事か、ここが。
こいつらも言ってたけど、レジってのは接客が大切なんだってな」
半ば不思議そうに尋ねるカイに、ガスコーニュは当然とばかりに頷く。
「当たり前さ。死地へ向かうパイロット達を、笑顔で見送る。
笑顔なしではやってはいけないよ。
あんたはその点は合格のようだね。経験はあるのかい？」
「・・・タラークにいた頃、客商売してたからな」
懐かしみの含まれた笑みで答えるカイに、ガスコーニュは逆に不思議そうな表情をする。
「客商売やってて、パイロットに移行かい？
随分思い切った転職をしたもんだね」
「うっせえな！
ま、何というかパイロットこそが本当の俺の人生のスタートって所か」
「で、また客商売に逆戻りって事か。波乱万丈な人生送ってるね、あんた」
「やかましいわ！色々あったんだよ、こっちだって！！」
痛い所をつかれて怒鳴るカイに、ガスコーニュは楽しそうに対応する。
「お頭から事情は聞いているよ。今日一日で随分派手にやったそうじゃないか」
「お、俺の事はいいだろうが！
それよりここの仕事を教えてくれよ！ちゃんとするからよ」
焦る気持ちのままステップを急かすカイの姿に、ガスコ−ニュは過去のバーネットが浮かばれる。
己に自信を持ちながらも、気持ちの余裕がなかったあのころの彼女を。
目の前の男もまた壁にぶつかっているのだと察したガスコーニュは、大人の姿勢を保った。
「基本的な説明は受けているのかい？」
「ああ、そこの茶髪に教えてもらった。ちょっと分かり辛い所もあったけど」
ガスコーニュが視線を向けると、少し照れくさそうに頭を下げる茶髪の少女。
彼女に労いの視線を送り、ガスコーニュは補足として簡単にレジの概要を話す。
「ようするに、パイロット達を全般的に手助けするのさ。
海賊の生業はパイロット達が操縦する尖兵の役割を話すドレッドが、大きな役割を果たすからね。
あんただってその目で見てきただろう」
「ああ、思っっきり実感としてな」
タラーク軍の母船イカヅチを襲撃してきたマグノ海賊団。
階級下の手伝いとして乗り込んでいたカイは、蛮型を無断で駆り出して出撃している。
その際メイア達ドレッドに散々苦しめられて、結果自機を大破させたのだ。
苦々しい思い出が蘇り、その時のメイアと今のメイアとの憤りが一つに凝縮される。
「ドレッドはそもそも素体はコックピットと動力源の推進器のみだからね。
パイロットの使用に合わせて、個人の希望でそれぞれの武器をコーティングするのさ」
「え〜と、つまり・・・・
原盤である蛮型に、新しい武器を装備させて強くするようなもんか。
で、武装は本人が決めていいと」
物分りの早いカイに、満足そうにガスコ−ニュは頷いた。
「そういう事さ。その際に武装をオーダーするのがこの場所なんだよ。
このポイントカードを使ってもらってね、自分の稼いだポイントに見合った装備を買ってもらう。
その対応をするのが、アタシらレジの役割なのさ」
白銀色のカードを見せて、ガスコーニュは説明する。
ポイントとは価値としてはお金と同価であり、カフェテリアの食事や装備を購入する際に必要とされる。
ポイントを貯めるには仕事を通じて手柄を立てる事が必要で、
仕事量の分だけポイントもまた加算されるシステムとなっており、
自分のポイントはカードにデータとして入力され、管理側は隅々まで把握している。
マグノ海賊団内においての、物資の無駄を省く合理的なシステムなのだ。
説明を聞き終えたカイは若干考え込む素振りを見せて、手を上げる。
「質問があるんだけど」
「何だい？年齢以外なら答えるよ」
「誰がお前の年齢なんぞ聞くか！
ポイントに見合った分の武器の装備が可能って言ったよな？
って事は、自分の好みに合わせて装備ができる訳だ。
その割に、あのドレッド達の装備はそれぞれ違いすぎているように感じたんだけど」
説明によるとドレッドがそれぞれタイプ違うのは、パイロット本人による用途の違いと言う事になる。
だが、カイがこれまで出会った三人にしても、
ディータは火力重視、メイアが速度重視、ジュラが防御力重視と分けられていた。
自分で装備を決めるにしても、それぞれの機体のタイプが違いすぎている。
人の個性は星の数程に枝分かれはするが、相似的な違いもないのにはカイは納得がいかなかったのだ。
何しろ、メイア達ドレッドチームは数が多い。
編成されたチームにしても、自分の好みを出していれば統一感が損なわれる可能性もある。
カイの質問はその点をついていた。
そしてガスコーニュも、一番大切なその点をカイに説明したかったのだ。
思っていたよりカイの理解度が高い事に驚きを感じつつ、ガスコーニュは丁寧に答える。
「それは当然だよ。パイロットは一人で飛んでいる訳じゃない。
多くの手助けと仲間の助けがあって、初めて戦えるんだ。
チームとしての協調性があるからこそ、装備もまたそれぞれに考えているんだよ」
メイア達の自機がそれぞれに長所が明確に違うのも、
パイロットであるメイア達本人の希望と彼女達なりの役割があるからである。
一人だけの自分勝手な行動は、全体を乱す事に繋がる。
ドレッドチームのメンバーは一人一人がそれを基本として理解しているのだ。
ガスコーニュはカイをじっと見つめ、言葉を付け加える。
「自分の役割って奴を、しっかりと認識する事が大切なのさ。
特に団体行動じゃ、一人の足並みの乱れが全体の乱れに繋がる。
戦いにおいて、全体的な乱れは致命的になりかねない」
「・・・・・・・・・・・・・」
ガスコーニュの重みのある言葉に、カイは自分自身のこれまでを思い出す。
自分の独断での出撃に、自分を叱責したメイアの言葉。
『お前の単独行動は危険すぎる。次からは私の指示で動いてもらう』
あの言葉がチームを優先するリーダーとしての責任から出た言葉だったとしたら？
全体的な和を乱そうとしているカイに我慢ならなかったとすればどうだろう？
少なくとも、メイアは仲間をきちんと取り仕切っている事にならないだろうか。
もしそうなら・・・・・・・・・・・
『自覚がない奴ほどいざという時に足手まといになる。
分かったら、私の指示に従ってもらおうか』
高圧的に受け取れるメイアの言葉に、カイは納得しそうな自分に活を入れる。
メイアに従う事など冗談ではなかった。
目の前のガスコーニュを見つめ、カイは口を開いた。
「個人が優れているとしたらどうだ？」
「どういう事だい？」
「戦いに出た際にその人間の判断一つで、戦況が変わったとしたら？
団体行動にしても、まとめているリーダーが絶対とは限らない筈だ。
個人の独断で戦いがスムーズに進むケースだってあるじゃないか」
少なくとも、今までのカイの戦いはそうだった。
キューブ戦とピロシキ戦、二つの戦闘の際に独自での出撃で敵は倒せている。
メイアやアマローネ達が叱責した際のカイからの反論がこれだった。
結果として、敵は倒せている。船の安全は保障されている。
これがもし指示に従っていたとしたら、同じ結果に辿り着いただろうか？
そういった意味で、カイはメイアとの諍いに納得がいかなかった。
ガスコーニュはカイの言葉を黙って聞き、瞳を閉じて口を開いた。
「あんたの言っているのは結果に過ぎないじゃないか・・・・・・」
「結果が全てだ。違うのか？
夢だって同じだ。叶わなければ頑張っても、最後は惨めじゃないか。
結果が出せなければ、何をしたって意味がない！」
溜まっていたフラストレーションを吐き出すように、カイは声を張り上げる。
今まで悶々としてた気持ちが、ガスコーニュの言葉で噴き出てしまったのだ。
結果が全て、極論にではあるが一理はある。
どんなに過程が優れていても、結果は出なければ挫折感が大きい。
気持ちが成功への期待へと変換されればされるほどに。
だが、あくまでも極論としてである。
ガスコーニュは睨むカイを睥睨して、小さな声で呟いた。
「確かにあんたは男だ。アタシらの仲間じゃない。
言い換えればどんなにあんたが無茶しようと、アタシらに文句をいう筋合いはないね」
カイはチーム編成もされていなければ、海賊達との仲間ですらない。
あくまでも互いに手助けするだけの立場であり、互いに協力し合う義理はないだろう。
戦いに出ている時点で、カイのアタッカーとしての役割は果たされているのだ。
結果を出している分、働きとしては十分であるかもしれない。
捕虜という点を除けば、ガスコ−ニュの言葉はカイの立場を正しく言葉にしている。
「だろう？だったら・・・・・・！」
「・・・・小さいね」
「なっ！？」
突然の言葉に目を見張るカイに、ガスコーニュは真剣な視線をぶつけて来る。
どっしり構えた態度は貫禄があり、経験と責任を背負った一人の大人としての威圧感があった。
カイは気落とされまいと姿勢を正して睨み合う。
身長の差もあってか、カイが必然的に見上げる側ではあるが。
「俺が小さいだとっ！？もういっぺん言ってみろ、こら！！」
「何度でも言ってやるさ。
あんたは確かにあの手ごわい敵を二度に渡って倒している。
だけど、あんた自身の器は小さいよ」
「てめえぇっ！！！」
掴みかかろうとしたカイをあしらって、ガスコーニュはそのまま背を向ける。
大きな背中とあっさり背を見せた事に若干の戸惑いを感じつつも、カイは激昂する。
「逃げんのか、こら！」
「何言ってるんだい？周りを見てごらんよ」
「周りだぁっ！？あ・・・・・・・・・・」
ガスコーニュの指摘に周りを見渡すと、隅に隠れて震えているレジクルー達の様子が見えた。
皆それぞれにカイの怒鳴り声と剣幕に不穏な気配を感じて、遠のいてしまっている。
クルー達の様子に冷静さを取り戻し、カイは床に視線を落とす。
「自分ばかり見ているから、周りが見えなくなる。今のあんたがいい例だろう？」
反論できない事に、どこか沈鬱な目でガスコーニュを見やった。
そんなカイに悪戯っぽい笑みを向けて、ガスコーニュは自分の前を親指で指差した。
「言いたい事があるだろう？裏でゆっくり話そうじゃないか。
あんたには教えたい事がまだまだ山のようにあるからね」
「くっ・・・・・・・・・・・」
ガスコーニュは口元の長楊枝を揺らして、快活にそう言いのける。
悔しそうに拳を震わせてガスコーニュに続こうとし、カイはレジクルー達を見つめ、
「・・・・騒がせて悪かった」
小さな声ではあったがクルー達の耳に届き、一様に目を丸くするクルー達。
男が女に頭を下げるなど、考えられなかったからだ。
カイなりの素直な謝罪を横で見つめるガスコーニュの視線には、優しさが生まれていた・・・・
＜続く＞
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