ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 16 "Sleeping Beauty"






Action24 −銀翼−







 それは、光だった。それは、翼だった。それは、生命だった。それは――まぎれもない、奇跡だった。

閉じ篭っていた殻を破り、銀色の船に大いなる翼が羽ばたく。古びた外装が一斉に剥がれて、融合戦艦に新たな息吹をもたらした。


『Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation』、レーザー兵器。主の命に従って、ニル・ヴァーナの翼が火を噴いた。


ペークシス・プラグマの光を増幅して放射されたレーザーは、漆黒の宇宙に無数の光条を刻み込んだ。敵は堪らず、逃げ出してしまう。

驚いたのは、敵の無人兵器よりむしろ味方のパイロット達だろう。数十、数百に至るレーザーは全方位に放射されたのだから。

どれほど優れた計算能力を持っていても、逃げ場がなければ何の意味もない。逃げ出した敵の背中を撃ち抜き、霧散させた。


そして味方に向かって放たれたレーザーは――自立的に進行方向を変えて、敵のみを次々と破壊していった。


「『HOMING LASER』――あんた、あれがサーチレーザーだと知っていたの?」

「俺が分かっていたのは、どんなに馬鹿でも俺のダチは味方を撃ったりしないという事だけだ」


 ホーミングレーザーは砲撃時、目標へ発射口を向ける必要が無い。それゆえというべきか、艦翼の至る箇所に砲塔が設置されていた。

直進性を保持しつつ角度を付けて敵を追尾、滑らかな曲線を描いて、稲妻のように敵を打ち砕く。ニル・ヴァーナの、新しい力。

けれど、この力は敵を撃つためにあるのではない。この兵器こそ――神を砕く、人の奇跡。


『この星から、出て行けぇぇぇぇぇぇぇ!!!』


 地球、刈り取り、無人兵器――眼中に、ない。たまたま敵がいたから、倒したというだけ。彼らの敵は、兵器などではない。

この星に纏わり付く災い、人々を苛む絶望、自然を蝕む病、そして死。どうにもならない現実を、今こそ打倒する。


バート、カイ、ジュラ、三人の叫び。全ての理不尽を否定して、彼らはトリガーを引いた。


ニル・ヴァーナより放たれるレーザー、ヴァンドレッド・ジュラより展開されるピット、"ヴァンドレッド"より放射される二つの光。

指向性に優れたレーザーは蒼と紅の光を飲み込んで収束、八つのピットに吸い込まれて増幅されていく。

膨大な電磁波が可視光領域の世界を生み出し、宇宙の真空すら侵略していく。惑星が丸ごと、光に飲み込まれて消えていく。


光励起、放電、化学反応、そして電子衝突。量子力学的エネルギーが構造を生み出して――















世界が、一変した。















「……大丈夫。赤ちゃんは立派な、健康体よ」

「こっちもオッケー、フィールドは安定してる」


 救命チームを指揮するドゥエロ・マクファイルの決断により、妊婦の出産が行われた。隔離施設にも運ばず、その場で懐妊したのである。

以前の失敗が生きたのか、出産における過程に何一つミスはなかった。女性が驚く手際の良さで、彼は赤ん坊を取り上げたのだ。

汚染区域での、危険極まりない行為。信頼に実績、何か一つでも欠ければこの決断はありえなかった。


「本当に、何と御礼を申し上げたら良いか――」


 病気に侵され、苦しみ抜いたこの惑星に、今も生きる人達は少ない。そんな彼らが、今日ばかりは全員外に出ていた。

国の代表者も老いた身体で杖を突き、集まった人達を代表して頭を下げた。人前ではあるが、その瞳に涙まで滲ませている。

礼を言われたパルフェは、申し訳なさそうに頭を下げる。


「そんな……あたし達に出来るのは、これくらいしか――」


 出来る事は少ないと知りながらも、出来ない事を心から恥じる。パルフェとは、そういう女である。

空を、見上げる。雲一つ無い、夜空。星は見えないが、空は満天に輝いている。宝石を、散りばめたように。


彼らの目論見は、全てを賭けたテラフォーミングは、


「……いいえ、これで十分です。貴方がたの功績は、大切な意味を持っている」



 失敗に、終わった。



「貴方がたは、この荒れ果てた大地を――聖地に、変えて下さった」



 世界は、変わった。



「漆黒の闇の中にいた我々に、大いなる光を与えて下さった。希望という、光を」



 星は、光に満ち溢れている。



「これから私達は子供を産み、育てます。そして健康に育った子供達が、この星を美しい緑の大地に変えてくれるでしょう」



 自然は、優しさを取り戻した。



「残念ながら、我々は――それを見届けることは、ない」





 けれど――人は、変わらなかった。





「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 彼らは今も、絶望している。折角星を綺麗にしても――汚す存在が居るのならば、何をしても変わりはしない。

実験の失敗、これが致命的であった。成功するのが遅かったせいで、招いてしまった。


彼らに、見せてしまった。今の地球の姿を、無慈悲に刈り取る無人兵器の存在を。



「我々が刈り取られても、此処に灯された希望の光は必ずや次の世代へ受け継がれていくでしょう。

ありがとう、本当に――ありがとう」



 人は、変わらない。そんなに簡単には、変わらない。希望を見せたところで、絶望が深ければ偽りでしかない。

星の人々は本当に、喜んでいる。世界が変わって、新しい命が生み出されて、本当に喜んでいる。


これで安心して死ねると――喜んで、いる。


「ごめんなさい――ごめん、なさい」


 戦いは、まだ続く。本当の意味で救われるのは、全てをやり遂げた後なのだ。それまでは、決して安心はできない。

気休めさえも言えない自分に、パルフェは心から恥じた。膝をつき、泣き崩れて、頭を垂れた。


希望があっても、救いがあっても、奇跡を起こしても――変わろうとしない限り、人は変わらない。


だから神様は、人を救うのをやめたのかもしれない。





























<to be continued>







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