VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 4 −Men-women relations−





Action8 −医療−




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 キューブ数機による奇襲戦終了後、融合戦艦は何事もなく宇宙の航海を続けている。

故郷メジェールへの進路も滞りなく、バート設定による自動操縦によって一直線に進んでいた。

だが、艦内ではお世辞に穏やかとは言えなかった。

突然の男女共同生活による、価値観のすれ違い。

海賊である女性クルー達は元々生まれた時から、男とは何たるかを徹底的に叩き込まれている。

「男はばい菌」、「男は最低の生き物」である。

決して共存できる生物ではなく、女には害になるだけの存在である、と。

冷静に突き詰めると、根拠のない強迫観念に近い男蔑視の信仰に過ぎないのだが、

男へのそうした差別意識はクルー内において、最早押し付けられた価値観ではなくなりつつあった。

カイ=ピュアウインド。

独断で出撃し好き放題に暴れ、アマローネ達と揉めまい、メイアに楯突き、ディータを悲しませた。

さらには海賊船側に乗り込み、何の関係もない女性クルー二名を脅迫した。

起こしたトラブルの数々は瞬く間にクルー内に伝わり、噂は噂を呼んで広がっていく。

本当の男を知らない女達はカイに烈火した怒りを胸に抱き、嫌悪を増長させていった。

クルー達の一部には、カイの追放を上げる声すら出始めている程である。

海賊船内カフェテリア「トラペザ」、そこでは噂を聞きつけた女性クルー達による密談が行われていた。


「それでね、ジュラがちょっと注意しようとしたら睨みつけて出て行ったのよ!
このジュラを、よ!」


 長い金髪を振り乱し、ジュラは激昂してテーブルを叩いた。

対面には湯気が立ち上るコーヒーを入れたカップを置いて、バーネットが座る。


「そんな事があったんだ・・・・」

「そうよ!メイアを思いっきり突き飛ばすわ、ディータを通路で泣かすわ、散々だったんだから!
しかもあいつ、それで悪びれる事もなくそのまま去っていったのよ!」


 よほど格納庫でのカイの態度が許せなかったのか、ジュラは感情を剥き出しにして叫ぶ。

時折子供の様に振舞うジュラであるが、怒りを露にする事はほとんどない。

マグノ海賊団では一番のジュラの親友であるバーネットは、表情を険しくする。


「そいつ、船から追い出したほうがいいんじゃない?
もともとただの捕虜なんでしょう。
男なんだし、追い出しても全然かまわないじゃない」


 融合戦艦からの追放は死とイコールである。

どこかも分からない宇宙の辺境で彷徨えば三日と持たずに発狂するか、補給がなくなり衰弱死する。

その意味が分かっていながらも、バーネットはそう提案した。

ジュラの聞いていた他のトラペザ利用者達も、同様の反応を見せる。

各部署で騒ぎを起こした事もあって、カイを弁護する者はこの場に誰もいなかった。


「そうよね!バーネットもそう思うでしょう!
どう?ここは一つ、皆でお頭に直訴しに行くっていうのは、
ジュラ、男との共同生活なんて真っ平ご免だもん。
汚いし、玉のお肌が病気になっちゃいそう。皆もそう思うでしょう!」


 口々に、賛成の言葉が各テーブルから上がる。

絶大なクルー達の信頼を誇るマグノの命令とは言え、今回ばかりは聞き入れる事はできそうにないようだ。

ジュラの提案を口火に、男への不満が賑やかに場を支配する。


「ジュラにしては積極的じゃない。私も応援するわ」

「本当っ!?嬉しい〜、バーネット!!
もうっ、あなたって最高だわ!!」

「ちょ、ちょっと!?コーヒーが零れる!?」


 甘える様に抱きついてくるジュラに戸惑いの微笑を浮かべながら、そっと背中に手をまわすバーネット。

太陽と月の関係に近い二人だが、仲の良さは本物だった。

同姓同士とは言えメジェールは女同士の恋愛は当たり前にあり、二人は友情と愛情の境目にあるようだ。

カフェテリア内にカイの追放を求める動きが具現化しつつあるその時、一声が場を静寂に戻した。


「あの男は船から出て行くか、男側の職場に完全に属する。
我々に関わりを持つ事は二度とない」


 声には感情もなく、たた冷静に入り口より発したのはメイアだった。

一同が息を呑んで見つめる中メイアはすました顔でキッチンカウンターへ向かい、空のカップを手に取る。

カウンター内にはバイキング形式で一本のコンベア上を流れる料理の数々に、

数ある種類の飲み物を供給できるドリンクバーが設置されていた。

繊細な指先で自分のカードを入力装置にスライドさせ、メイアはホットコーヒーをカップに注ぐ。


「・・・それ、本当なの?」


 沈黙に耐え切れなくなったのか、ジュラが恐る恐る尋ねる。

ほんのり広がる温かみを有したコーヒーを手にもって、メイアは小さく頷いた。


「お頭よりそう聞いている。あの男自身がそう言ったそうだ」

「なら、大丈夫ね。あいつの顔を見なくてすむなんてせいせいするわ」


 ようやく安心とばかりに、ジュラはいつもの余裕のある笑みを取り戻す。

逆にバーネットは腑に落ちないという表情で、メイアに問う。


「いやに呆気ない感じがするけど、本当に?」

「嘘を言っても仕方がない」


 話はそれまでとばかりに、メイアは空いているテーブル席に座った。

他のクルー達のテーブルにも空いている席はあるにも関わらず、メイアは一人の席を選んでいる。

メイアのこうした態度は今に始まった事ではなく、海賊団に入団してからずっとこの調子である。

彼女が友人関係を気づいている姿を見た者は誰もいないだろう。

クルー達も心得ているのか、敢えてメイアと共に時間を過ごそうとする者は誰もいなかった。

話をすかされたバーネットは不満顔ながらも、追及せずに自分の席に座りなおした。


「結局、直訴するまでには至らないみたいね」

「いいわよ、別に。ジュラの視界に入ってこなければどうでもいいわ」


 結局徒労に終わったせいか清々しているジュラに微笑みかけ、バーネットはコーヒーを口に運んだ。

他のクルー達もそれぞれに会話に華を咲かせ、カイの話題は消えつつある。

ところが、次の瞬間カフェテリア全ての女性陣が凍りついた。


『あー、マイクテステス。おお、ちゃんと俺の声が放送されているじゃねーか!!』

『ちょ、ちょっとカイ!?もう始まっているわよ!!早く、早く!』


 突然の艦内放送から流れる声に、カフェテリア内一同は声も出なかった。

何しろ先程までの噂の人物が、艦内放送をしているのだから。

さしものメイアも予想だにしなかったのか、驚きを隠せない様子であった。

皆が呆然としている中、放送の向こうから話し声がダイレクトに聞こえてくる。


『分かってるよ。って、そういや何を言えばいいんだ?
俺、内容知らないぞ』

『だ、だからさっき言ったでしょう!敵の脅威が無くなったのを全クルーに知らせるのよ』

『なるなる。こういうのってアドリブでいいんだよな?アマローネ』

『ま、まあ内容が伝わればそれでいいけど・・・・きちんと話しなさいよ。
ちゃんとした仕事なんだから』

『任せろよ。俺は男だぞ。一度引き受けた仕事は責任を持ってやり遂げるぜ』

『たかだが一度の放送でそんなオーバーな・・・』

『ちょ、ちょっとちょっと!!もう放送は流れているんだけど、アマロ』

『ああっ!?は、早く言いなさいよ、カイ。
あたしまで恥かいちゃったじゃない!』

『俺のせいかよ!?大体いきなりアドリブって・・・・』

『早く言いなさいって!流れ続けてるのよ、これ!』

『分かってるよ!たく・・・いちいち細かいな、ベルヴェデールは。
こほん!この度新しく見習いとしてブリッジクル−に就任したカイ=ピュアウインドだ。
夢は宇宙一のヒーロー、あえて言うなら宇宙一かっこいい男って言・・・・』

『余・計・な・自・己・紹・介・は・い・ら・な・い・の!』

『あたたたたたっ!耳引っ張るな、耳!!
え〜と・・・さっき俺が華麗に撃退した雑魚どもは完全に沈黙した。
愚かな報復もしないようなので、皆の集安心するように。
以上!』


 ぷつっと切れよく放送が終わり、再びカフェテリア内に静寂が戻る。

だが、どのクルー達も声が途絶えても唖然とするしかなかった。

まるで理解できなかったのだ。

あれほど自分達と衝突していた筈のカイがどういう訳かブリッジクル−の見習いに就任。

しかも放送内容からすると、アマローネとベルヴェデールとは仲違いが消滅している。

むしろ、どこか親しげにすら聞こえてきた。


「な、何がどうなってるのよ・・・・」


 一同の疑問を代表するように、ジュラは虚ろな声で呟く。

だが、どこからも返事が返ってくる事はなかった・・・・・・・・・・
















「へっへっへ、どうよ?ばあさん。俺の初仕事ぶりもなかなか捨てたもんじゃないだろう」

「そうさね、あらゆる意味で前代未聞だったね」


 得意げに親指で自分を指差すカイに、やや投げやりにマグノはコメントする。


「す、すいません、お頭。カイに任せたあたしの責任です」

「どういう意味だよ!俺はちゃんとやっただろう!」


 申し訳なさそうにマグノに謝罪するアマローネに、納得がいかないのかカイは詰め寄った。

そこへ隣の席に座っているベルヴェデールが冷静に横槍を入れた。


「私達は任務に忠実でなければいけないのよ。
仕事を淡々とこなし、完璧に完了させて初めて一人前なの。
なのに、見習いのあんたが自己主張してどうするのよ」

「せっかくだから挨拶の一つや二つかましておいた方が・・・」

「それが余計なのよ」


 正当性を主張するカイの言葉を遮って、アマローネは頭痛を抑えて呟いた。

どうやらカイのブリッジクルーとしての初仕事の点数は良くなかったようだ。

マグノは三人のそんなやり取りをしばし見つめて、半ば肩を落とす。


「まあ、いいさね。慣れない仕事なりに坊やは精一杯頑張ったんだ。
自分から進んで仕事を学ぼうとした姿勢は立派だよ」


 単にお世辞ではなく、マグノは心からそう賞賛した。

敵ともいえる立場の人間の仕事を知り、少しでも理解しようとする。

簡単なように見えて、なかなかできる事ではない。

だが、カイはそれを自ら申し出て積極的に取り組もうとしたのだ。

アマローネやベルヴェデールとの対立が解消されたのにしても、カイが考えを改めなければできなかった。

微笑みながら、マグノは一つ言葉を付け足した。


「それにブリッジクルーの制服まで着込んでしてくれたんだ。
褒め言葉の一つや二つくれてやってもいいだろう」

「あ、それはそうですね♪」

「カイのその服装、すごく似合ってるもん♪」 


 三者三様に笑みを浮かべる女性達を見つめ、カイは全身をわなわなと震えさせる。


「うっさいわ!お前らが着ろって言うから、仕方なく着たんだろうが!!
艦内放送が音声オンリーじゃなかったら、俺はこの仕事やめてたぞ!!」


 郷に入れば郷に従え。

職場にそれぞれ規律があるように、それぞれの仕事に見合った制服を着用する。

マグノの命令に、自分の我侭を聞いてもらったカイは渋々ブリッジクルーの制服に着替えた。

頭にワッカのアクセサリーがついたヘアバンドに、胸元にリボンが装飾されている緑と紫のライン入りの服。

下は太ももまでのミニスカートとくれば、男のカイが嫌がるのも無理はなかった。

カイも自制心をフル活動させて、仕事中は自分を顧みない様に努力をしてきたのだ。


「あはは、その格好で怒っても怖くないわよ」

「くっそう〜〜〜!!ブリッジの仕事はこれで終わりだろう。
さっさと着替えてやる!」


 ベルヴェデールに散々笑われて、カイは顔を真っ赤にして悪態をついた。

いつまでも着込んでいては恥ずかしくて仕方がないからだ。

頭のヘアバンドを取りながら今度の段取りを考えているカイに、席に座っていたアマローネが見上げる。


「どうだった、カイ。私達の仕事は?」

「え・・・?」


 きょとんとしてアマローネを見つめると、隣のベルヴェデールも興味津々にカイを覗き込む。

ドキっとする程艶やかな女の視線に、カイの鼓動が本能的に跳ね上がった。


「私も聞きたいかな。私達の仕事を知ったカイの感想」

「あ、あのな・・・・さっきの失言なら・・・」


 まだ怒っていたのかと口添えをしようとしたカイに、艦長席のマグノがフォローを入れる。


「馬鹿にした事を悔やんでいるなら、聞かせてやってもいいんじゃないかい?
他ならぬあんたの口からさ」

「ば、ばあさん・・・・・・・」


 カイは困った様に周りを見つめると、ベルヴェデールもアマローネもじっとこちらを見ている。

二人の瞳には憎しみも侮蔑もなく、透明感のあふれる素直な輝きを放っている。

後方のセルティックは手元の作業に熱心の様子だが、明らかに注目はカイにあった。

憎まれていた先程とは雲泥の差である事に気がついて、カイは真剣な表情になる。

一瞬の沈黙後、カイは姿勢を正して答えた。


「アマローネ、ベルヴェデール、セルティック。
お前達の仕事振り、俺は心から凄いと思った。
馬鹿にして、本当に悪かった」


 自分の領域から離れて、他人の領域に立ち入る。

遠くからでしか黙視できなかった光景も、歩み寄る事でまた違った景色へと変わる。

言葉少ないながらカイは精一杯の気持ちを込めて、不器用ながらに言って頭を下げた。

不思議と、少しも屈辱を感じなかった。

カイの真摯な姿勢にベルヴェデール達は顔を見合わせて嬉しそうに口元を緩め、

視線を向けられたセルティックは表情こそぬいぐるみに隠れて見えなかったが、戸惑っているようだった。


「ふふ、分かってくれたならいいわよ。ね、アマロ」

「そうね・・・・・・
見習い中も真剣に取り組んでくれていたし、制服まで可愛らしく着てくれたから」

「そこにふれるなよ!気にしてるんだから!」


 地団太を踏むカイを、優しげにマグノは見つめている。

少しずつ変わりつつある関係に、カイのささやかな一歩前進を歓迎するかのように、マグノは目を伏せた。

カイは胸元のリボンを弄びながら、ぶつぶつと愚痴をこぼす。


「まさかドゥエロも着替えろとかいわねえだろうな・・・」

「ドゥエロ?ああ、あの男ね。
ドクターの仕事を次はやるの?カイ」


 目をぱちくりとして尋ねるベルヴェデールに、カイは苦笑して答えた。


「医療関係はさすがにやばいだろう。人の命に直接関わるからな。
好奇心からの見学と、ドゥエロとちょいと話がしたいだけだ」


 たった半日足らず過ぎたばかりの今日であるが、カイの周りでトラブルが多発しすぎている。

カイ自身女への認識やモヤモヤとした感情が灯火のように残っており、ゆっくり整理したい気分だったのだ。

そういった意味で、理性的なドゥエロは数少ないカイの相談相手だった。


「医療室に行くなら、エズラの様子を見てきてくれないかい?」

「エズラ?ああ、あの腹にガキ抱えてる」

「あんた、もっと言い方があるでしょう・・・」


 あけすけなカイの言い様に、呆れた様にアマローネは額を抑える。


「だって、腹の中にガキが出来ているんだろう?
だんだん腹が大きくなって、その内に身体から飛び出して来るってどうもな・・・・」


 妊娠という言葉の概念そのものを認識していないカイには、エズラは理解しがたい存在だった。

ある意味で、一番男とは反すると言える。

妊婦とは男と女の違いの象徴のように、カイには分かり難い存在だった。

タラークの異種族的扱いをしている女への概念に則ると、奇怪だと断定できるかもしれない。


「だったら、いい機会じゃないか。
ドクターの所へ行って、きちんと妊娠について教えてもらってきな。
あるいは、エズラと話をするのも悪くはないかもねえ・・・・」


 マグノの言い分はもっともである。

分からないなら自分から知りに行く、カイが一連の騒動で学んだ教訓だった。

カイは大きく頷くと、颯爽と敬礼する。


「そんじゃあ、早速行って来る!
世話になったな、アマローネ、ベルヴェデール。
と・・・・」


 カイはふと思いついたように走り抜け、後方左舷に位置するブリッジクルー席のセルティック前へと立つ。

いきなり近づかれて、カイへの恐怖と嫌悪に身を振るわせるセルティック。

クマのぬいぐるみを着込んでの警戒は、どこか愛らしさを感じさせる仕草があった。

緊張を解かないセルティックにカイは肩を竦め、すっと頭を撫でた。


「仕事、お疲れさん。短い間だったけど、世話になった。
いつかちゃんと話してみたいと思ってる。その時には今日の礼は必ずするよ」


 ポンポンっと軽くクマの頭を叩き、カイはにっと明るく笑う。

突然のカイの仕草にセルティックは言葉も無く、身体を固まらせていた。

カイはそのまま背を向けて、中央の艦長席のマグノを一瞥して通り抜け様に言った。


「ドゥエロとの話が終わったら、色々とまた職場関係を廻ってくるよ。
レジだっけ?ばあさんの推薦先も拝んでくるつもりだ」

「ふふ、すごい職場だよ。あんたもきっと気に入る筈さね」

「その言葉、期待しているぜ。
アマローネにベルヴェデール!仕事さぼんじゃねえぞ!」

 二人には振り向かずに言葉を投げかけると、カイの背中越しに彼女達二人の明るい声援が飛び込む。


「あんたこそ頑張りなさいよ!」

「他の職場でも問題起こさないようにね!あたしたちの責任にもなるんだから!」


 いつものカイとベルヴェデール達の悪態のついた言葉の応酬。

出会いより始まった異性への陰鬱と嫌悪が含まれているぶつかり合い。

表面上では、まったく変わりなきやり取りがここにあった。



しかし――



 言葉を投げかけるカイの、返答するベルヴェデールの、言葉を重ねるアマローネの表情は、










偽りのないまっさらな笑顔であった。















 一連のカイの騒動が融合戦艦内に広まる中で、医療室は静かな環境を保っていた。

幸いにもキューブ戦ではカイ一人の出撃のため、怪我人はゼロ。

先日のペークシスによる暴走の犠牲を被ったクルー達も無事に職場に復帰し、

現在、医療室を訪れている患者は一人のみだった。


「これが妊娠に使用される器官か・・・男には備わっていない部分だ」


 治療台の傍らで医療器具の一つである身体センサーを手に持つドゥエロが、まじまじと患者を見つめる。

煩悩のない真剣な視線に、治療台に寝かされているエズラが若干頬を赤くする。


「子宮って言うんですよ、ドクター」


 好奇心をくすぐられたのか、ドゥエロはさっそく往診を始める。

持っているセンサーを膨らみ始めたエズラのお腹と触診し、先端から放たれる光を当てる。

するとセンサーに繋がっている治療モニターにお腹の中の様子が拡大され、モニタリング化された。


「ほう、実に興味深い・・・・」


 微弱ながらに動く胎児の様子が映し出されており、初めてのドゥエロは興味に尽きない様子である。

実物とは違う機械のデータ出力映像であるとは言え、胎児の様子に仄かな命の光景が伝わってくる。

エズラも我が子の順調な成長に嬉しさもあってか、瞳に慈愛が浮かんだ。

そこへ遠慮のない足音が近づき、静かな医療室に元気な男の声が乱入した。


「ドゥエローー!!いるか?」

「カイか。今は往診中だ。静かにしてくれ」

「と、悪い悪い。仕事中だったか」


 申し訳なさそうに頭を掻いて、カイは医療室に入ると手短な椅子に座る。

ドゥエロはそのままエズラの様子を診察しながら、口を開いた。


「君がここへ来るのは珍しいな。
先程艦内放送より君の声が聞こえてきたが、トラブルにでも巻き込まれたのか?」


 頭脳明晰なドゥエロだけあって、カイの大体の現状を理解したような先手をうった話し方をする。


「そういえばさっきの放送、男の子の声だったわね。あなたが放送したのかしら?」


   治療台に寝かされたまま、視線をカイへと向けるエズラ。

カイは一瞬警戒をしたが、エズラの視線に敵意がない事に気がついて身体の緊張を緩めた。

ここへ来る途中もすれ違う女一人一人が、不信をこめた視線でぶつけられて来たのだ。

改めて現状の女の自分への対応に気がつき、カイは何も文句を言わない様にするのが精一杯だった。


「あ、ああ、聞いてくれたんだ。どうだった、俺のブリッジクルー初仕事振りは?」

「ふふ、独特だったわね。副長が聞いてたら怒られてたかも知れないわよ」

「副長って、ブザムか。あの女厳しそうだもんな・・・・」

「規律には厳しい人よ。カイちゃんも注意したほうがいいわ」

「か、カイちゃん!?あんたな・・・・」


 今までちゃん付けされた事がない事もあり、カイはしかめっ面をする。

口から文句が言いかけた時、ふと思い当たる。


「俺ってあんたに名乗ったっけ?」

「あら、正面から自己紹介はしてなかったわね。
ごめんなさいね、カイちゃんは有名だからつい気安く呼んじゃったわ・・・・」


 真剣に謝罪をするように悲しそうな顔をするエズラに、カイは慌てる。

ディータとの諍いの事もあって、カイは女の悲しみの表情に過敏になっていた。


「お、俺はまあ別にいいからよ。
確かあんたとは一回話したっきりだっけ?」

「ええ。船の暴走事件の時、少し話したわね」


 融合戦艦が突如暴走を始め、ガス星雲に突撃して大騒ぎになったのがつい先日。

その時エズラが倒れ、ドゥエロが診察した後妊娠が発覚した。

ブリッジ内は祝福と興味でエズラの周りに人が集まり、たまたまブリッジにいたカイが会話を交えている。

もっとも大勢の中での交し合いであり、こうして落ち着いて話すのは初めてだった。


「改めて自己紹介した方がいいわね。
私はエズラ=ヴィエーユよ。好きに呼んでくれてかまわないわ」


 人を包み込むような柔和な笑みを向けられ。柄にもなくカイは照れた。

良くも悪くも、悪意のない対応をする人間はカイにとって少し苦手であった。


「俺はカイ=ピュアウインド。俺も好きに呼んでくれてかまわない」

「それじゃあカイちゃん、でいいかしら?」

「そ、その呼び方には何かこだわりでもあるのか!?」


 汗じと混じりに呟くカイに、エズラはやや惚けた様に小首を傾げる。


「そうね・・・可愛いからかしら」

「か、可愛い!?」


 今だかつて初対面で言われた事のない感想に、カイは仰天して腰を浮かせる。

一言一言面白いように反応するカイに、ドゥエロも口元を緩める。

「確かに君は面白いな。見ていて飽きない」

「でしょう、ドクター。カイちゃんって本当に可愛らしいわ」


 自分で思った事もない二人の評価に、カイは目を白黒する。

マグノとは別の意味で、カイにとってエズラは圧倒されてしまいそうな女性だった。

どう言いかえそうか悩んでいると、エズラは微笑みを交えて言葉を締めくくる。


「人を惹きつける魅力があるのかもしれないわね、カイちゃんは」

「人を惹く?俺がか?」

「ええ。ディータちゃんがカイちゃんを好きになるのも何となく分かるわ」

「・・・・・・・・・・・・・・」


 ディータの名前が出て、カイは口篭った。

エズラから発せられたディータの呼び方に、親しげな声色を感じたからだ。

突然表情を暗くしたカイに、怪訝そうにドゥエロは尋ねる。


「先程の質問ではないが、何かあったのか?」

「あ、いや、その・・・・」


 紳士的な対応でカイに身を乗り出すドゥエロに、カイは言うかどうか悩んだ。

そこへエズラが診察中であるのも忘れたように、優しくカイに接してくる。


「私でよければ相談に乗るわよ、カイちゃん」

「エズラ・・・・・うん・・・」


 心の中にあった鬱憤とやり切れない気持ち。

母性という暖かな光に心を照らされて、カイは今日半日の出来事を二人に語った。


















<続く>

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