ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 15 "Welcome new baby girl"






Action1 −新星−






 宇宙の彼方へ飛ばされて、半年。故郷へ向かう旅の途中、マグノ海賊団一行は宇宙に漂っていた救命ポットを見つける。

ポット内の生命反応を確認した彼女達は、無人兵器襲撃のリスクも考慮しての回収作業を敢行。

案の定刈り取り兵器が救命ポットを奪いにやって来たが、メイア達の活躍により無事に回収する事が出来た。


救命ポットの中で冷凍睡眠していたのは、一人の少女。タラーク人でも、メジェール人でもない、宇宙人――


彼女の存在が男と女の舟ニル・ヴァーナに、新しい変化をもたらそうとしていた。















「……騒ぐだけ騒いで寝るとはどういう神経をしてるんだ、こいつ」

「長い冷凍睡眠から醒めたばかりであれだけ言い争えば、少ない体力も尽きる。今は、目覚めるのを待とう」


 回収という形ではあるが、この舟に新しくやって来た宇宙人をお披露目するパーティ。このイベントは予想外の形で、大盛況となった。

冷凍睡眠より目覚めたお姫様は何と、美しい王子様に恋をしてしまう。怜悧な美貌のパイロット、メイア・ギズボーンに。

女同士の恋はメジェールでは一般的、しかも美少女同士の恋愛となれば花が咲こうというもの。大いに、盛り上がった。


尚且つ面白いのは、昨今マグノ海賊団で一番の注目株である宇宙人を――新しい宇宙人が、恋敵と認識してしまった事。


パーティは華やかに盛り上がり、少年と少女の口喧嘩を女性陣は囃し立てた。新しい宇宙人への警戒なんて、あっという間に消失した。

大波乱の果てに少女は疲労で気絶、少年は渋りながらも少女を医務室へと運んだのである。


「それで、この頭がお花畑の馬鹿は何処のどいつだ? 救命ポットに身元情報があったんだろう」

「少女の名前は、"ミスティ・コーンウェル"――年齢は十四歳と、なっている」


 口喧嘩イベントは楽しげに見物していたドゥエロも、医務室へ来れば真面目なお医者様。倒れた少女の介抱を、適切に行なっている。

救命ポットについては機関部のパルフェとエンジニアのアイが解析を行い、登録されていた身元情報を確認している。


救命ポットに登録されていた情報は少女の名前と年齢、そして心身の状態。


「正確に言えば十四歳と、六十三年の冷凍冬眠だケロー!」

「これは失礼」

「六十三年も冷凍冬眠していたのか!? ババアじゃねえか!」


 大人ぶったパルフェの指摘にドゥエロは苦笑して謝罪するほのぼの光景も、カイの目には届かない。時間の長さに驚くばかりだった。

科学の発達により人間の寿命は延びているが、若者にとっては六十年ともなれば気が遠くなるほど長く感じられる時間だった。

騒ぎ立てる少年を、同じ星から来た同姓の友達が怪訝に見つめる。


「カイ、何か君妙にこの娘に絡むね。女が敵だ、なんて君らしくもない事を言うつもりじゃないよね」

「男とか女とか、そんなの関係ねえよ。俺はこいつが、気に入らねえだけだ」

「例えば、どんな所が?」

「た、例えば? え、えーと……な、何か生意気じゃねえか!」

「因縁付けているだけじゃない。相手にされなかったからって大人気ない奴ね」


 通常業務終了後のアフターを利用して、同じく医務室へ来たベルヴェデールが呆れた顔をする。カイはぐぬぬ、と唸るばかり。

初対面から言い争ってはいるが、少女自身に問題がある訳ではない。言い掛かりはつけられたが、怒り心頭になるような事でもない。

出会ってから半年マグノ海賊団の女性陣と衝突し合っていたが、それは国家観の価値観によるもの。今回の件には、当て嵌らない。


「宇宙人さんが初対面の人に大声で怒鳴るのって、ディータ初めて見ました」

「……脳天気なお前には、最初から怒鳴りまくっていた気がするんだが」

「ディータはいいの。宇宙人さんに馬鹿って言われるのも、何だか嬉しいもん」

「それはそれでどうなのよ、あんた……」


 ディータと比較的仲がいいアマローネが、怒られて喜ぶ友達に嘆息する。ディータが相手なら、口喧嘩にもならない。

この少女に限らず、カイはこれまで女性陣との関係に明確な形を意識した事はない。仲良くなる以前の問題だったからだ。


敵ではない。ならば、彼女達はどんな存在なのだろう――仲間、友達、家族。どの言葉も適切であり、不適切だった。


「それよりも、ハッキリさせておきたい事がある」

「何ですか、お姉様」

「その呼び方はやめろ、頭痛がする。ともかく、この場できちんと答えてもらおうか。

ジュラがお前の子供を生むと、明言している――この話は本当か!?」

「本当よ。故郷へ無事に帰ったら、カイはジュラと結婚するの」

「結婚する本人が今初めて聞いたわ!」


 何故か自信満々に公言するジュラに、カイが目を剥いて反論する。事実無根、根も葉もない話だった。

ジュラ・ベーシル・エルデンとの関係は確かに良好だが、婚姻まで結ぶ間柄ではない。戦友という言葉が一番、当て嵌まる。

高い好感情を抱いているのは事実だが、結婚ともなると話が違ってくる。そんな関係まで意識した事はない。


少年の悶々とした悩みも、少女達の繊細な心では理解出来ない。


「男と結婚して子供を生むなど、前代未聞だ! 非難の的になるぞ!」

「そう、ジュラが新時代のヒロインになるの。男の子種を貰って、立派な赤ちゃんを生むわ。
その子こそ、これからの男と女の新しい関係を象徴する存在となるのよ!」

「ジュラ」

「ドクター、頼む。のぼせ上がったジュラに一言、言ってやってくれ」

「出産には是非立ち会わせてほしい。私が必ず、君達の元気な赤ちゃんを無事に出産させてみせる」

「何を言ってるんだ、ドクター! 正気か!?」


 メイアがこれほど取り乱すのは、今までにない事だ。絶望的な状況に言葉を無くす事はあっても、冷静さを失う事はない。

とはいえ、ジュラの話が異常極まりないと感じるのも無理はない。女の星メジェールに前例のない出産なのだから。

ドゥエロが興味津々なのも頷けるのだが、女性陣には理解不能かつ到底容認出来ない話だった。


「ジュラばっかりずるい! ディータも宇宙人さんの子供が欲しい!」

「お前自身がまだ子供のくせに、余計な興味を示すな!」

「男が、女にもてるなんて……どうなってるの、この舟……

カイと出会ってからというもの、本当色々な事がありすぎて頭が麻痺しそうだわ。責任、取ってよね」

「どうしろっていうんだよ、俺に――痛い、痛い!? 頭突きはやめて――あだだだだ!!」


 クマの着包みを着たセルティックに追い回されて、カイは悲鳴を上げて逃げる。大きな頭で無言で頭突きをするので、かなり怖い。

カイの事は頼り甲斐のある友達だと思っていただけに、過去からの劇的な関係の変化を改めてアマローネも思い知らされる。


男の事を友達だと思うこの感覚も、本来なら異常だという事に。


「……ねえ、ドクター。男の種ってどうやったら貰えるのかな?」

「興味があるのなら、この本を読んでみるといい。私の愛読書で――」


 などと、女のバーネットと男のドゥエロも地球の本を参考に相談し合う始末。もう、てんやわんやだった。

誰かに言われなければ、誰かが騒ぎ立てなければ、互いに意識し合う事はなかっただろう。


カイ達男三人とマグノ海賊団、彼らはあまりにも啀み合い過ぎた。嫌悪は憎悪となり、敵意は殺意となって殺し合いにまで発展した。


共通の敵が彼らから争いを無くし、同じ目標が仲間意識を生み出した。そして、戦い合った時間が関係を進展させた。

タラークの男と、メジェールの女。本来結ばれる事のない関係だからこそ、何よりも特別に感じられる。

この関係をもう壊したくないと思うが故に、直視しようとしなかった。触れれば、壊れてしまいそうだから――


言葉に出来ない、両者の関係。気付かなければ、そのままに出来た思い。それを否が応にも意識させたのは、



「むっ、意識が戻ったようだな」

「……っ……」



 この少女、ミスティ・コーンウェルだった。

タラークの価値観、メジェールの価値観、どのどちらも持ち合わせていない人間。



誰が健全で、誰が不健全なのか――新しい価値観が、見定めてくれる。






























<END>







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