VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 4 −Men-women relations−





Action6 −仕事−




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 融合戦艦メインブリッジ、海賊団頭目マグノ=ビバンがいるその場所は異様な雰囲気に包まれていた。

ブリッジクルーであるアマローネ・ベルヴェデールの両名は黙々と仕事をこなしているものの、

背中からでも分かる二人の不快指数の高さは、見つめるマグノに疲労感を与える。

ナビゲーション席の周囲の枠に腰掛けているバートも居心地が悪いのか、しきりに足をフラフラさせている。

いつもならここでオペレーターであるエズラがコーヒータイムを入れるのだが、

生憎とエズラは子供を身篭っている為、今は医療室で検査中であった。

いつもほんわかとした優しい笑顔を絶やさないエズラがいないとあって、普段以上にピリピリとしていた。


「ふう、困った事になったね・・・」


 ブリッジはこうまで修羅場じみた雰囲気になっている原因は全てはっきりしている。

カイ=ピュアウインド。

自分だけの判断での出撃によりクルー達の反感を買い、尚且つ非を認めていない。

正直争い事がここまで大きくなるとは、マグノ自身予想してはいなかった。

普段ならばカイが相手をせずに打ち切るか、クルー達側が呆れてそのままにするかどちらかである。

ところが今日に限ってカイは頑として譲らず、結果アマローネ達とは完全に対立。

メジェール・タラーク両星の男女の対立以前に、個人的な関係としてカイとアマローネ達は絶縁した。

普段は明るい表情を絶やさないベルヴェデールがカイの頬を打ち据えた時、根の深さを実感したマグノ。

同時に、カイの精神がまだまだ未発達である事を感じ入った。

カイの言う夢がどれだけ壮大で、どれだけ無鉄砲な絵空物語であるかはマグノ自身分かっている。

だが、今日のカイの態度や暴言を見て些かがっかりさせられたのも事実であった。

海賊である自分達を頭ごなしに一度否定したものの、その後自分なりに考え直したカイ。

船の危機を命がけで救い、クルー達の身をも案じて行動に出たカイ。

今後の男女共同においてもひょっとすると、と若干の期待があったのかもしれない。

結局の所、マグノの期待は裏切られた。

ベルヴェデール、アマローネ、メイア、ディータとは完全に離縁状態。

今日のカイの行動が他のクル−に伝われば、男への非難はいっそう高まるだろう。

そうなれば男女共同はおろか、男三人を追放しようという動きにさえ出るかもしれない。

完全なる男女の決別は時間の問題だった。


「今は一刻も早く故郷へ向かわないといけないんだけどね・・・・・」


 未知の敵による『刈り取り』という暗号作戦を持ってしてのタラーク・メジェールの壊滅。

それを阻止せんがために遠く離れてしまった故郷へ向けて旅をしている最中である。

一人でも多くの力が必要なこの時期に対立を迎えてしまっては、何の意味もない。

旅の先行きの暗さに、マグノは艦長席で一人心を痛めていた。

そこへ艦長席手元のコンソールより個人回線による通信モニターが開かれる。


『お頭、突然失礼します』

「メイアかい。ちょうどよかった、あんたに繋げようと思ってたところだよ」


 モニター先から丁寧に一礼するメイアに、穏やかな表情で答えるマグノ。

マグノの言葉にメイアは身を乗り出して尋ねる。


『あの男、やはりそちらへ向かいましたか』

「ああ。あんたの先見の読みに狂いはなかったよ。いきなり怒鳴り込んできたさ」


 カイとの対峙の少し前、マグノはメイアより通告されていたのだ。

自分を突き飛ばして出て行ったカイの次の行動を予測し、メイアは手早く先手を打ったという事になる。

チームリーダーを任されているメイアの有能さは遺憾なく発揮されたという事だろう。

喧嘩している状態であるとはいえメイアは冷静さを保ち、カイの次の行動を読んだのだ。


『申し訳ありません。お頭にまでご迷惑をかけてしまいました』

「いいさ。あんたの言い分は間違えていない。そうだろう?」


 まるで真意を確かめるかのように、マグノは言葉に含みを持たせる。

メイアは暫し視線を迷わせ、そして口調強く答えた。


『あの男の身勝手は基準を大きく逸脱しています。懸命な処分を願います』

「ああ、こっちでも散々吠えていたよ。お陰で大喧嘩さね」

『そ、そうでしたか。あの男はそこまで・・・・』


 通信モニターからでもはっきり分かる静かながらも怒りに満ちた表情に、マグノは苦笑するしかない。

余計な口添えは逆効果になる事を、マグノは身に染みて理解しているからだ。


「だが、もう心配はないよ」

『?どういう事ですか?』

「レジに移動させようと思ったんだけどね、きっぱり断られてたのさ。
ドクターの仕事を手伝うか、この船から出て行く。
坊やに残された選択肢はその二つしかない。
どちらにしろあんたや他のクルーに関わる事はもうないだろうね」


 マグノの言葉の裏には、次に問題を起こせば船からの追放も辞さないと宣言しているのと同義であった。

決断をはっきり聞いたメイアは少し目を伏せ、やがて頷いた。


『お手間をかけました。あの男の勝手はクルー全員に悪影響を及ぼしかねませんから。
御英断、感謝します。では、失礼します』


 もう一度小さく頭を下げ、メイアからの個人回線は閉じられた。

既に消えてしまったコンソールの手元を名残惜しげに見つめつつ、マグノは口元を緩める。


「相変わらず固いね。
もう少し考え方を柔軟にできれば、もっと視野が広まるって言うのに」


 さしものマグノもメイアの生き方そのものに深い干渉はできなかった。

結局自分の生き方は自分で決めていくしかない。

まじてや頭目という立場である以上、個人ばかりに割く事はできない。

マグノ自身、それが自分の器量の限界のように感じていた。

なかなか変わる事のないメイアのの頑なさに、マグノは閉口気味に呟く事しかできなかった。

一方、こっそりと座りながらも話を聞いていたバートはマグノを剣呑とした視線で見つめていた。


「ひええ〜、厄介になったらすぐ追放かよ。
さすが女。やる事がえげつないぜ・・・・」


 自分は無関係の立場を貫いているとはいえ、追い込まれているカイに同情を隠し切れないバート。

明日は我が身である事をひしひしと感じているからかもしれない。

だが、そんなバートの様子を見逃すマグノではなかった。

ゆったりと見物気分で修羅場を聞いていたバートに、艦長席より鋭い叱責を向ける。


「あんた、いつまで聞いてるんだい!自分の仕事はきっちりやりな!」

「は、はい!!ただいまやらせていただきます!!」


 性根が臆病なバートは身をびくつかせ、慌てて敬礼を向ける。

妙にサマになっている敬礼のポーズは、バートの士官候補生としての軍機の有り様を髣髴させる。

カイのとばっちりを食らってはたまらないと判断したのか、そのままマグノの答えを待たずに、

バートはナビゲーション席へ飛び込んだ。

視界が閃光に満たされるのと同時に、青緑色の六角形のクリスタル空間にバートは包まれる。

もはやすっかり慣れきったバートは真っ裸であるのも気にせずに、さっそく手元を操作し始める。

すると幾つかの画面が展開され、それぞれに独自のデータ表示が行われた。

実質融合戦艦の操舵手を担っているバートにとって、船はまさに彼そのものだった。

こうして若干の操作を行うだけで、船のコントロールを掌握出来るほどになっている。

やがて全ての画面に『自動走行モード完了』という表示がなされ、バートは満足そうに頷いた。

操作を終えたバートはナビゲーション席から飛び出して、直立不動の体勢をとる。


「自動走行に切り替えました!
後は船が進路へ向けて自動的に航海していきます」


 びしっと敬礼をして返事を待つバートに、マグノは溜飲を下げた。


「ご苦労さん。休憩とっていいよ」


 初めは船のコントロールも満足にできなかったバートも、今では自分の仕事をしっかりとこなしている。

当たり前といえば当たり前だが、それでもマグノはしっかりバートを労った。


「は、はい、ありがとうございます!失礼します!!」


 てっきりまた何か文句を言われるのではないかと思っていたバートはやや面食らいつつも、

それ以上追求する事もなく、ナビゲーション席からブリッジ出入り口へと走っていく。

その途中ちらりと黙々と作業をしているアマローネ達を見たが、バートと目を合わせようとすらしなかった。

常日頃から女から男へ向ける態度は冷淡ではあるが、今日はそれに増して冷たさが宿っている。

相手にしていないというより、存在そのものを無視しているといった所か。


(ま、男と女なんてそんなものかな)


 比較的タラークの常識を信じているバートは心の中でそうコメントする。

今のバートにしてみれば自分の保身さえ約束されれば、女との関わりを持とうとは思わなかった。

何しろ相手は『魔物』である女であり、略奪非道の海賊なのだ。

男女共同の旅にしても、自分の役割さえちゃんとしていれば生きて故郷へ帰れるとしか認識していない。

ましてやあえて危険に飛び込むつもりはさらさらなかった。

だからこそ、カイがマグノ達と言い争っている間も干渉はしなかったのだ。


(さ〜て、休憩休憩!さすがに疲れた)


 そのままブリッジを飛び出して与えられた自分の部屋に帰ろうとしたその時、

バートは通路の真ん中を同じく走ってきていた対向者と思いっきりぶつかって、情けなく尻餅をついた。


「いてて・・・誰だ、ちきしょう!ちゃんと前見て・・・ってカイ?!」

「あたたた・・・・って何だ、お前か」


 同じような体勢で尻餅をついて額を摩っているカイに、バートは目を見開いた。

さっきブリッジを飛び出したのにも関わらず、また戻ってきたカイが理解できなかった。


「お前、またなんで・・・・こっから先はブリッジしかないぞ」

「いいんだよ。ブリッジにいるばあさん達に用があるんだから」


 腰元を手で払いつつ、カイはそのまま立ち上がる。

カイの言葉を聞いたバートは顔を真っ青にして、慌ててカイの首元を掴んで引き寄せる。


「な、何だよ!?こら、離せ!」

「いいからちょっと来いって!!」


 そのまま通路の端までカイを引き寄せると、バートは周囲を見渡しながら小声で話し掛ける。


「何でここに戻ってきたんだよ、お前!」

「何で?って、ばあさん達に話があるからだよ」


 耳鳴りがしそうな程頭をくらくらさせて、バートはやや強い口調で言い放つ。


「やばいって!?お前、さっきの事もう忘れたのか!
あの女達、すっかり殺気立ってるぞ!」

「え・・・そこまでか・・・?」 


 恐る恐る尋ねるカイに、しっかりと頷いてバートはひそひそと話す。


「特にあの海賊のお頭。お前を船から追放するとかなんとか言ってたぞ」

「げっ!?そこまで印象悪いのか、俺って・・・・」

「当たり前だろう。ビンタまで食らったくせに」


 痛いところを突かれて、カイは冷や汗混じりに頬を掻いた。

自分の数々の言動と相手からの嫌悪と怒りがこもった文句が耳元で響く。

改めて冷静になって考えてみると、確かに少し言い過ぎた。

あそこまで言うつもりはなかったのだが、今となっては後の祭りである。


「そうか・・・じゃあなおさら話し合わないとな」


 カイにとって、アマローネ達に言った言葉の全てが暴言ではない。

自分が心の中で思っていた事、溜め込んでいた事が感情による爆発で口から飛び出したのだ。

嫌な意味で本音をさらけ出したと言える。

だがそれでもアマローネ達を傷つけたのは紛れもない事実だった。


「話し合ってどうするんだよ。また喧嘩になるだけじゃないか?」


 バートの懸念はもっともだった。

先程までのカイは自分の意見のみを主張し、相手の立場をまるで考えてはいなかった。

苦情や文句を自分への嫉妬としか見ていなく、邪念からの暴言にしか聞こえなかったのだ。

これ以上男の立場を悪くするのは、バートは御免蒙りたかった。


「大丈夫。もう頭は冷えている。喧嘩を売るつもりはもうないよ」

「本当だろうな?
これ以上トラブルを起こしたら、女共も黙ってないぞ」

「分かってるって。自分が犯した事が自分で決着をつける」


 いつになく真面目に語るカイに先程のトゲはないと感じたのか、バートはカイを離した。

そのまま通路の奥へ足を進めようとし、一度だけ振り返った。


「揉め事は起こすなよ、もう!本当だぞ、約束だぞ」

「おうよ!男の約束だ」


 にっと笑って親指を立てると、カイはそのままブリッジに向けて走っていった。

カイのそんな背中を見つめ何故か安心感を感じてしまい、バートは首を傾げつつそのまま歩み去った。















 シャッターが左右にスライドされてカイがブリッジ内へ入ると、途端に緊迫感が満ち溢れる。

振り返り一瞥するアマローネ・ベルヴェデールは何しに来たのかとばかりに冷たい。

逆に艦長席よりカイを見つめるマグノは、やや驚いた表情をしていた。

まさかブリッジへ再び戻ってくるとは考えてはいなかったのだろう。

すたすたマグノの元へ向かうカイは、一同の視線を気にする様子は見せない。


「ばあさん、悪いけどもう一度話をさせてほしい。今、いいか?」

「ああ、かまわないよ。こっちへおいで」


 促されるままに艦長席前へと向かったカイは、先程と同じくマグノの正面に立った。

そのままじっと視線を向けるカイを一目見て、マグノは眉を動かす。

荒々しく出て行った時の殺気立った雰囲気が消えており、瞳から強い決意が伺えたからだ。

マグノは視線を厳しくカイを見据え、静かに尋ねる。


「それで?話ってのはなんだい?
さっきの苦情だったら後にしてもらいたいがねえ」


 やや皮肉を込めて発言するマグノにも、カイは眉一つ動かさなかった。


(ほう、一体どういう心境の変化かね・・・)


 あえて怒らせるように挑発したにもかかわらず、カイは怒る様子も見せない。

じっとマグノを無言で見つめていたかと思うと、重い口を開いた。


「事を荒立てるつもりはない。あんたに頼みがあって来た」

「頼み?」 


 真意が読めず首を傾げると、カイはしっかりと頷いてこう言った。


「さっき言ってたよな。『これからどうするんだ』って」

「ああ、確かにそう言ったね。
それであんたはドクターの仕事を手伝うと言ってたけど」

「その事だ。
実はだな・・・・・・ちょっと申し出を変えたいんだ」

「変える?まさかレジをやりたいと?」


 マグノが提案したレジの仕事を、先程カイは一度はねつけている。

だが何らかの心変わりがあってレジをやりたいと言うのではあれば、むしろ好都合だった。

メイアの頼みとしても、カイのこれからにしてもレジの仕事はおあつらえ向きだったからだ。

だが意に反して、カイは首を振った。


「いや、ちょっと違うんだ」

「?じゃあどうしたんだい、あんたは」 


 ますます訳が分からなくなり、マグノは法衣の下より鋭い眼光をのぞかせる。

カイは正面からしっかりと視線を受け止め、こう言った。


「全部やらせてくれ」

「えっ?」

「だから、アタッカー以外の全部の仕事を俺にやらせてくれ」

「全部の仕事だって!?」


 さすがにそう言われるとは思わなかったのか、今度こそ驚愕に満ちた表情でカイを見返すマグノ。

それは聞いていたアマローネ達も同じだった。

一堂の反応に気を良くしてか、カイは本当に楽しそうに笑みを浮かべている。


「そういう事。全部やらしてくれ」

「全部って言ったってね・・・・」


 カイの頼み事にマグノは心底困り果てる。

確かにそれぞれの部署でクルーの役割は違う。

エステ、保安、機関部、ドレッド、レジ、イベント・・・・・・

多種多様に仕事の種別は違い、それぞれに仕事をこなすのにはある程度の才能が必要となってくる。

だからこそ、クルーは一人一仕事を懸命に行い励んでいるのだ。

それをカイが全部一人でこなしたいと言うのである。

無謀を通り越して、狂言にしか聞こえない提案だった。

何よりマグノにはカイの真意がまったく見出せなかった。

考えなくして申し出ているのではないと分かるのだが、何故こんな事を申し出るのか理解できない。

何しろ先程までは女とこれ以上一緒に戦うのはご免と言っていたのだ。

一体何があったのだろうか、とマグノが考えるのは無理もなかった。


「いきなりな申し出だね。全部って簡単に言ってはいるけど・・・」

「分かってる。半端じゃないほど大変で色々な仕事があるんだろう。
パルフェみたいな機械の仕事とか、船の安全を保障する仕事とか、あるいは・・・・・・・」


 そこでカイは後ろを振り返り、こちらを見ているアマローネ達を一瞥してにっと笑った。


「ブリッジの仕事とかさ」

「!?ま、まさかあんた・・・・」


 カイが何を言いたいのか分かったのか、ベルヴェデールは身を乗り出す。

カイはしっかりと頷いて、無意味に親指を立てる。


「言っただろう、全部って。ここの仕事もやらせてくれ」

「冗談じゃないわよ!何考えてるのよ、あんた!」

「何って・・・ここの仕事もやりたいって言ってるだけだよ。
今日からよろしく♪」

「ふざけないで!さっきまで散々馬鹿にしてたじゃない!
お頭、こんな奴の言う事なんて聞かなくていいです。
もうとっとと追い出しましょう」

「私も賛成です。人を馬鹿にするのも程があります。お頭、どうか賢明な判断をお願いします」


 年頃の魅力あふれる容貌を怒りに滲ませて、ベルヴェデールとアマローネは口々に進言する。

マグノはじっくりと考えこみ、やがてカイに視線を向ける。


「理由を聞こうじゃないか。どうして仕事全てをやってみたいと思ったんだい?」

「・・・・・・・・・・・・」


 一同の視線が注がれる中、カイは真剣な表情になって答えた。

瞳に浮かぶ決意の強さはマグノ達へ艦内放送を持って独白した以上の鋭さがあった。


「俺は・・・自分の夢を叶えたいと思い宇宙へ出た」

「ほう・・・」

「そして相棒に出会い、これまで宇宙を駆け巡って立ちふさがる敵を倒してきた。
相棒と共に戦っている内に自分の可能性に気がつき、俺は自分が成長していると思った。
そして、そんな自分を誇らしく思った。
敵を倒し、生き残る。自分はやれると実感できた」


 ピロシキ型、キューブ型と戦っている時の自分。

誰もができる訳ではなく、自分こそが秀でて結果を今まで出してきた。


「全ては結果だと思った。だからこそ、結果も出さない周りを嘲笑っていた。
周りが自分を認めない事に腹を立てて、馬鹿にしていた。
結果も出してないくせに何言ってやがるってな。

だけど・・・・パルフェがさ、言ってくれたんだよ。


『カイは自分の仕事を皆が認めないと怒っているのに、他人の仕事は認めていない』って。


恥ずかしい話、俺は指摘されるまで気がつかなかった・・・・・」


 自分しか認めず、そのくせ周りを馬鹿にしていた自分。

自分が馬鹿にされたら怒るのに、他人を馬鹿にする事に何も感じていない。

滑稽な程に見苦しい姿を、カイは今までさらけ出していたのだ。


「パルフェがそんな事を・・・・・」


 聞いていたベルヴェデールが、小さく呟いた。

肩を落とし、自分が恥ずかしいと言っているカイ。

その後姿にカイの物悲しさと自責を感じ、不思議と罵る気持ちは失せていた。


「俺は自分がやっている事しか分かっていなかった。
敵を倒し、船を守る。
それしか分からない、それしかやっていない。
なのに、俺は全てを理解していると思っていた。
知ろうともしなかったくせに、知ったかぶりをしていた。
俺は・・・・そんな自分すら見えてなかったんだ・・・・・・

ばあさん、あんたの言うとおりだったな。
へ・・・まったくしょうがねえほどクソガキだったよ、俺は」 

「ふふ、気がついただけでもめっけもんさね」


 ようやくマグノは理解した。カイの何故こんな事を申し出たのかを。

そして自分が伝えたかった真意をカイがしっかり受け止めた事を嬉しく思っていた。


「だからさ、俺は自分の周りを、自分以外の他人がどんな仕事をしているのか。
どれほど自分を賭けて自分のできる事を誇りとしているか、俺は知りたい。
別に全部の仕事を完璧にこなそうとか考えてない。
今日一日だけ!見習とかの待遇で全然かまわない!
頼むよ、ばあさん!!
いや、えーと・・・マ、マグノど・・・・ガッ!?」


 慣れない呼び方をしたせいか、思いっきり舌を噛んでのた打ち回るカイ。

あまりにも可笑しいカイのドジな光景に、

アマローネもベルヴェデールも身を震わせて笑いを堪えている。

マグノも緊張が全身からぬけて、すっかり口元が緩んでいた。


「そうさね・・・・じゃあ条件を出そうか」

「じょ、条件?」


 口元を抑えて、目元に涙を滲ませて尋ねるカイ。


「そう。何しろこっちは散々揉め事を起こした張本人に見習いをさせようと言うんだ。
当然、何かあってしかるべきだろう?」

「ま、まあ確かに・・・・・・・
何だよ、その条件って?こうなったら何でもしてやるぜ」


 カイの強気な姿勢に満足したように頷いて、マグノはブリッジクルー二人に視線を向ける。


「アマローネ、ベルヴェデール」

「は、はい?」

「何でしょうか・・・・?」


 突然呼ばれて面食らいながらも、おずおずと問い返す二人。


「カイにこれから海賊家業全ての分担されている仕事を体験してもらう。
当然、お前さん達ブリッジクル−仕事もだよ。
だけど、この坊やは今日だけで厄介な衝突をたくさんやらかしてくれた。
これから仕事をしてもらう上で、他の部署に迷惑がかからないとも限らない。
そこで、あんたらに決めてもらおうと思う。
カイが全ての仕事を行うのに、ブリッジクルーの仕事を行うのに賛成か、反対か。
賛成だったらアタシの一存で許可、反対だったら坊やを船から追い出すよ」

「ええっ!?で、でも・・・・・・・」

「坊やもそれでいいかい?」

「おう!元々俺がまいた種だ。こいつらにその権利はあると俺も思う」


 覚悟はできているとばかりに、カイはそのままどかっと座り込む。

唐突な選択を強いられ、アマローネもベルヴェデールも困惑気味に佇んでいる。

この条件、一見してカイは非常に不利だった。

何しろ先ほどまで大喧嘩を行った上、ベルヴェデールには痛烈に叩かれてさえいる。

いくら改心したとは言え、それはあくまで憎き男が言った事。

信じられる要素も何もない――


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 カイはあえて何も言わなかった。

自分を弁解する事も、ベルヴェデール達に卑屈になる事もない。

ただ純粋に、彼女達の決断を待っていた。

二人はなにやら考え込むようにじっとカイを見つめていたが、やがて年長であるアマローネが口を開いた。


「ねえ・・・・」

「何だ?」

「どうして私達の仕事までやりたいって思ったの。
私達をあれほど馬鹿にしてたじゃない。嫌いだったんでしょう?」

「・・・・ああ、軽蔑さえしてた」

「だったらっ!」

「変な事言っているみたいだけど・・・・」


 カイは顔をあげて、じっとアマローネを見て言った。


「その・・・・お前達のことも知りたいと思うようになったんだ」

「男のくせに私達を!?な、何でまた・・・?」


 隣にいたベルヴェデールが不思議そうに尋ねる。

カイは頭をぼりぼり掻いて、腕を組んで悩み、そして視線を九十度逸らしてぼそっと小声で呟いた。


「・・ちゃ・・・・・・・・・ちゃんと・・・・・あ・・謝りた・・かったから・・・・・・」

「・・・・・」


 そのまま今の自分の表情を見られない様にと、ベルヴェデール達に背中を向けるカイ。

だが、二人ともしっかりと見えていた。

カイがまるでリンゴのように顔を真っ赤にしていた事に。

二人は顔を見合わせ、やがてどちらともなく固い表情を崩した。

最低で憎たらしいだけと思っていた男の、カイの新しい一面にようやく二人は気づいたのだ。

戸惑いこそあれど屈託なく明るい笑顔を浮かべる二人に、もう憎しみはなかった。


「お頭、条件ですけど」

「結論は出たかい?」


 マグノの問いにアマローネ達は互いに一つ頷き、二人は揃って答えた。


















<続く>

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