VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 4 −Men-women relations−





Action5 −感情−




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 どこをどう走ったのか、自分自身も分かってはいない。

闇雲に、ただ逃げるように艦内を駆け抜けたカイは気がつくと見た事のない区域の通路内にいた。

流れる汗を拭い、カイは呼吸を整えて周りを見渡した。


「女のエリアか・・・・」


 融合戦艦はそもそも男の船イカヅチと女の船海賊母船の二つより成り立っている。

旧艦区に居住を構えているカイ達三人のように、女性クル−達もまた海賊母船に居住区がある。

もっとも先のペークシス暴走の際に部屋を壊されたバーネット達のような例外もいるのだが。

カイの今いるその場所は海賊母船側の一フロアであった。

細かなインテリアに照明が隅々まで明るく照らされてはいるものの、カイの心に和みはない。


「くそ・・・・・」


 ブリッジでのマグノの会話を思い出し、カイはぎりぎり歯軋りを鳴らす。

悔しかった、情けなかった。

あんな朽ち果てた老人に非難された上に、さも自分が正しいかのように説教をされた。

冷静に考えてみると、聞く耳もたずに無視すればよかった。

所詮は海賊。

そしてマグノはその親玉であり、結局のところ彼女達の味方だ。

男である自分の正当さを理解してもらおうと考えたのが間違えていたのだ。

カイはけっと唾を鳴らして、忌々しげに通路の壁面を殴った。


「どいつもこいつも、俺を非難しやがって!何様のつもりだ、あいつら!」


 少なくとも自分は必死で戦った。

迫りくる敵から単機で飛び出して、自分の力で叩き潰した。

初期の戦い振りから比べても確実に成長し、自分自身の力で確実に夢の実現への道を歩んでいる。

男と女の協力関係の上でも自分は役に立っている筈だ。

何も間違えてはいない。どこも自分に非はない。

なのに・・・・





『・・・・・最低』

『・・・あんたって本当にどうしようもないわね。男ってこんな奴ばっかりなのね』

『そうか、なら我々には関わらないでもらおうか。迷惑だ』

『そ、そんな!?せっかく、せっかく仲良く戦えると思ったのに!!』





ベルヴェデールの冷めた視線、アマローネの見下した言葉。

メイアの疎んじる叱責、ディータの媚びる様な態度。

関わって来た全ての女性がカイに怒り、侮蔑し、嫌悪している。

そして極めつけはマグノからの重い、重い諭りの声。


「今のお前さんは強くなんてない。ヒーローでもない。
ただの子供さ」



・・・・・強くなんて・・・・ない・・・・・



「嘘だっ!俺は勝ってる!敵を倒している!!!」

 弱い筈がない。

自分はあんな口だけで成果も出していないメイア達とは違う。

船の危機を二度も救ったのは自分。

人命救助をしたのも自分なら、敵を倒したのだって自分。

ペークシスの暴走で引き起こされた数々の事件に対し、自分が行った功績は大きい筈。

他の面々は何をしたというのだ。

ただ右往左往し、事態の成り行きに流されていただけではないか。

なのに、何故自分ばかりが非難されている?

どうして自分は今こんなに悔しい思いを味わっている?

何が不満なのだ?何がいけないというのだ?

カイは陰鬱に表情に陰を落とし、通路の壁にそっともたれかかった。


「あの時のばあさんの顔・・・・・」


 子供だと言って、カイを今までにない優しい微笑を浮かべたマグノ。

慈愛に満ちた表情は老齢差をあってか、まるで聖女のような神々しさすらカイは感じた。


「まるで・・・・・
俺の全てが包み込まれるようだった・・・・・・」


 いくら逆らっても飲み込まれそうな、いくら足掻いても惹きつけられそうな雰囲気。

今の自分には持ち合わせていない感覚。

自分はあの表情を見て逃げた・・・・逃げ出してしまった・・・・・・!

そう、逃げてしまったのだ・・・・この自分が!


「くそ、くそ、くそっ!!!」


 ドカドカドカと連続して壁面を殴り、拳を打ちつけて行くカイ。

許せなかった・・・・屈服してしまいそうになった自分が。

マグノが正しいと頷いてしまいそうになった己の弱さが、カイは許せなかった。


「女海賊のお頭、マグノ。いや、あいつだけじゃねえ!
他の奴らも皆許さねえ・・・・・」


 毒々しい呪詛を呟き、虚空に憎しみの視線をじっとむけるカイ。

呼吸を荒げて立ち竦むその姿は、腹が減って飢えている獣同然だった。

渦巻くやり切れなさは負の感情へ変換されていき、カイの胸の奥にヘドロのように沈殿していく。

そのままフラフラと特にあてもなく、カイは虚ろに通路を徘徊する。

そこへタイミング悪くと言うべきか、二人のクルーが対向側より連れて歩いてきた。


「それでさ、そのファンデーションが肌にすっごく綺麗でさ・・・・」

「うんうん!じゃあ今度エステで・・・・
ええっ!?どうしてこんなところに男がいるのよ!」


 統一された制服を着ている所を見ると、二人は同じ職場の人間であろう。

カイを見て、露骨に嫌悪と非難が交えた視線を向ける。

クルー二人の驚きは当然である。

いくら男女共同生活と言っても、普段の私生活は共に関わりのない日々を送っている。

男が住んでいる区域に女がくる事は無ければ、女が住んでいる区域に男が来る事は決してない。

仲良くするどころか、あくまでタラーク・メジェールに則った敵同士である事に変わりはないからだ。

カイがこうして海賊母船内を堂々と歩くのは、痴漢行為に匹敵する。


「早く出て行きなさいよ!男なんて入っただけで汚れるわ!」


 男蔑視のメジェール生まれであるならば当然の発言も、この時のカイは怒りを掻き立てるに充分だった。


「俺がいるだけで汚れるだと・・・?」


 腰から十手を引き抜き、銀色に輝いた先端を鋭く相手二人に突きつけた。

たちまち二人の顔色は蒼白に染まり、身体を振るわせる。


「そうか、そういう事か・・・・・・・・・・
結局、俺はお前らにしてみればゴミ扱いか。
分かったよ、所詮お前らは敵だ。俺は間違ってた。
女なんぞ助けるに値しない存在なんだな・・・・・・」


 全てが馬鹿馬鹿しくなった。

今まで頑張って来た自分は何だったのだろうか?

忌み嫌われて、蔑まれ、邪魔者扱いされている自分。している女達。

助ける意味がどこにある?守るに値する価値がどこにある?

――何もない。


「ちょ、ちょっと・・・保安クルー呼ぶわよ!」


 声をびくびく震えさせながらも、必死で虚勢を張るクルー。

カイはそんな彼女達に薄ら笑いすら浮かべて、ずいずいと近づいていく。


「やってみろよ。今の俺は機嫌が悪い。
手加減しねえかもしれないぜ・・・・・・」


 カイに実戦経験はない。

もし保安クルーが駆けつけて取り囲まれたら、カイに勝機なぞあるはずがない。

せいぜい怪我人数名、軽傷者が続出する前にカイは袋叩きにあうのが落ちである。

だが、もう関係なかった。

どういう結果が後に訪れようとも、今は目の前全てだけ。

もやもやしている気持ちさえ晴らせたら、もうカイには他はどうでもよかった。


「さあ、どうした?やれよ・・・・・助けでも何でも呼んでみろよ!」

「だ、誰かッ!誰かすぐに来てーー!!」


 クルー一人が上げた金切り声が、通路内に反響して奥まで響き渡る・・・・・















海賊船唯一のカフェテリア『トラベザ』には、キューブ戦の厳戒体制後とあってか、

比較的大勢のクルー達がたむろって休息の一時をすごしていた。

各テーブルから聞こえる談笑は雰囲気を和やかとし、ほのぼのとした空間を作っている。

そんな中、一同はふと入り口から入ってくる二人に目を止めた。

先程ジュラ達と話していたパルフェとピョロである。

上下のツナギを着ているパルフェにナビゲーションロボであるピョロの異彩なコンビは、

クルー達の目を挽きつけて止まない様だ。

一同が見つめる中、ピョロは持っていたノボリをおもむろに宙へと浮かんで高々と掲げる。

それぞれがノボリを見て、誰がともなく読み上げた。


「戦艦のネーミング大募集!採用者にはトラベザの食券一年分をプレゼント・・・?
一年分!?」


 賞品の豪華さに目を見開いて、一同は色めきだった。

一同の反応が上々だった事にパルフェは口元を緩めて、持っていたスピーカーで声を張り上げる。


「その通り!新しく生まれ変わったこの船に、新しい名前をつけようというこの企画!!
立案者こと私パルフェと助手のピョロ君が活動しています。
皆さんのご協力をよろしくお願いしま〜す」


 最後に二人が一礼すると、和やかな拍手がカフェテリアにわき起こる。

そしてパルフェの元へ集まった来たクルー達にピョロへの名前の入力の仕方を教え、

今日一日の終わりで艦内放送にて採用者を発表する事を説明した。


「私、何にしようかな〜?レモンディーなんてよさそう」

「駄目よ!もう少しクオリティが高い名前にしないと」

「ううー、なかなか思いつかないよ〜」


 ワイワイと盛り上がる一同を、パルフェは遠巻きに穏やかな表情で見つめていた。

元々海賊はクルー全員が女性という事もあってか、こうしたイベント類は歓迎される。

仕事関係に『イベントクルー』という専属の人間がいる事からもそれがうかがえよう。

海賊とはいえまだまだ年端のいかない人間が多く、何も好んで荒事に身を投じているわけではない。

生き残るために海賊業を行わなければいけないとはいえ、それだけではあまりにも哀しい。

ゆえにマグノ達首脳陣もこういったイベントは積極的に奨励しているのだ。


「よかった、これだけ喜んでくれて。私もやった甲斐があるってもんだわ」


 今回の立案者であるパルフェは、何も思いつきでこのイベントを行ったわけではない。

故郷を無理やりに離されてしまった事への理不尽さ、日々襲い掛かる謎の敵への恐怖、

男との生活による不安等によるストレスを解消しようと立てたイベントでもあるのだ。

どうやらパルフェの目的は成功しつつあるといえよう。

明るい笑顔を浮かべてアイデアを練っているクルー達を見れば、一目瞭然であった。

だが、そんな和やかな雰囲気は突如響く一声に壊される。


「だ、誰かッ!誰かすぐに来てーー!!」

「!?な、何、今の声!?」


 聞こえてきた助けを呼ぶ声に騒然となるカフェテリア内。

左手の通路の奥から聞こえてきたのだと判断したパルフェは、いち早く行動に移した。


「私が見に行く!ピョロ君、お願い!」

「合点承知!パルフェさんはピョロが守るぴょろ」


 モニターに映る真ん丸の瞳に使命感を燃やして、ピョロは胴体部分にドンと拳を当てる。

男流の任せとけというポーズに、パルフェは苦笑する。


「何かカイ君に似てきたよ、あんた」

「ええっ!?冗談じゃないぴょろ!
あんな奴に似たくなんかないぴょろよ!」

「カイ君もきっと同じ事いうよ」


 クスクス笑って、パルフェはそのままピョロを連れ立って出て行った。

残されたクルー達はどうしていいか分からずに、右往左往する。


「悲鳴が聞こえたみたいだけど、何かあったのかな?」

「お頭や副長に知らせたほうがいいじゃ・・・」

「それより保安クルーを呼んで、現状を確認したほうがいいと思うけど」

「騒ぎが大きくなるわよ。もし大した事がなかったらどうするのよ」

「うーん・・・・・」


 何が起きたか判断できないクルー達は、それぞれに意見を述べ合う。

そして誰がといわず興味本位や事態の確認にと、パルフェに続いてがそれぞれカフェテリアを出て行った。















「え〜と・・・あ、あそこだ!」


 通路内を一直線に駆け抜けると、やがて通路に立ちふさがっている三人が視界に入るパルフェ。

見たところ通路脇にクルー二人が身を縮めており、もう一人が何かを突きつけている。

どちらが被害者でどちらが加害者か看破したパルフェだったが、加害者が誰か分かった時仰天した。


「カイ君っ!?何してるのよ、あんた!」


 リズム良く進む足取りを止めて近寄ってきたパルフェに、カイは目を見開いた。


「パル・・・フェ、か?」

「あー!警告、警告!!女の船に男侵入!!」


 パルフェの背後からうるさく騒ぐピョロを一瞥し、再び視線をパルフェに戻すカイ。

その驚愕と戸惑いに満ちた目を見つめ、パルフェはずれそうになったぐりぐり眼鏡を戻す。


「一体何がどうしたのよ。何でその娘達に十手なんて突きつけてるの?」

「いや、これは・・・・」

「パルフェ、助けて!私達脅されてるのよ!」


 カイの声を遮る様に泣き声を上げる二人に、パルフェは表情を険しくする。

一方的な悪者にされたカイは眉を吊り上げて怒鳴った。


「お前らが人を害虫扱いしたからだろうが!」

「何よ!本当の事じゃない!!」

「この野郎、いい気になってやがると痛い目見せるぞ!」

「い、嫌ぁぁーー!」

「ちょっと待ってよ!落ち着いて!!」


 対立する両者の間に入って、パルフェは大きく両手を広げた。

そこへカフェテリアからパルフェを追って出てきたクルー達が、次々と現場に詰め掛けて来る。

通路内に詰め掛けるようにして、クルー達が集まり始めた。

状況を把握しようと見つめる一同だが、十手を突きつけているカイを見て一目で状況を理解した。


「どうしてここに男がいるのよ!?」

「すぐに保安クルーを呼んで!男を捕まえるのよ!!」

「やっぱり男を放し飼いにするなんて間違っていたのよ。すぐにお頭か副長に申し出ましょう」


 口々にカイを非難し、罵倒するクルー達に殺気立った目を見つめるカイ。

いまや完全にカイは害悪とされていた。


(俺は・・・・今まで何をしていた・・・?
こんなやつらのために戦ってたってのか・・・・)


 宇宙一のヒーローを目指して頑張っていた。

自分自身の最終目標であり、輝ける憧れの姿でもある象徴。

なのに、今の自分は何なのだろうか?

一方的に罵倒され、憎まれ、疎まれている自分がいる。

自分を認めようとしないクルー達の嫌悪のこもった視線の数々に憎しみすらわいてくる。


(上等だ・・・・・こいつらは敵だ。
だったらやる事は一つ。叩き潰すためだ!)


 何もしないくせに他人を見下す女達が許せない。

カイは唯一の武器である十手を握り締め、ずいっと前に出る。


「俺を捕まえる?やってみろよ」

「な、何よ・・?」


 近づけば切れそうな程のピリピリとした殺意に飲まれてか、一同は一歩後ずさった。

ほら、見た事か。

ちょっと自分が敵対すれば、途端に喚くのも止めて怯える。

何もしないくせに口だけでは達者な女達に、カイは嘲りの笑みすら浮かんできた。

守る価値もない。

今まで頑張った自分に腹が立ってくる程であった。


「その代わりにそれ相応の覚悟はしてもらうぞ。俺だってただじゃやられない。
お前らもろとも道づれだ・・・・」


 十手を一閃し、カイは敵意を込めてクルー達全員と対峙した。

もうすでに覚悟は決まっている。

襲い掛かられたら、逆に襲い掛かる。誰であろうと叩きのめす。

カイにはもう女は敵にしか、憎悪の対称にしか見えなかった。


「何考えているぴょろ!やめるぴょろ!この船から追い出されるぴょろよ!」

「うっせえ!離れろ、こら!
こんな船、こっちから出て行ってやるよ!」


 ジタバタと押さえ付けようとするピョロの思わぬ力に驚きつつ、カイは無理やり振りほどこうとする。

そこへ静観していたパルフェがゆっくりとカイへ歩いてくる。

パルフェの静かな迫力に、カイは先程のベルヴェデールを思い出して身構える。


(パルフェ・・・・・お前も、か)


 まだ熱さが残る頬にそっと手を当てて、カイの心に迷いが走る。

そんなカイの動揺にも意を介さず、足取りを緩めずに、パルフェはカイへと寄ってくる。

このままではカイの懐へパルフェを接近させる事になる。


(やめろ、パルフェ!
それともやっぱりお前も・・・・敵・・なのか?)


 出合った時から自分に友好的に接してくれたパルフェ。

男と女の隔てりはないかのような奔放的なパルフェに、自分をどれほど力づけてくれた事か。

そんなパルフェにまで叱咤されるのだろうか?

やがて、パルフェはカイの眼前に立った。

殴られるか?それとも罵られるか?

一同が固唾を飲んで見守る中、カイはどうするべきか焦っていた。


(どうする・・・・どうする?攻撃するか?いや・・・・)


 じっと厳しい表情で見つめるパルフェに、カイは十手を握る手すら振るわせて硬直していた。

すると数秒後、パルフェは一変して破顔した。


「十手で攻撃しないの?」

「え・・・・?」

「一応私女なんだけど、攻撃しないの?」

「え・・あ・・・・・」


 そうだ、女だ。攻撃しろ。敵なんだろう、女は。

ぐるぐると思考が本流するが、パルフェを攻撃するという意識はなぜか浮かばない。

あれほど女に憎しみすらわいていた筈なのに、何故十手を振るわない?

整理がつかないままぐちゃぐちゃになっている心に惑わされていると、パルフェはあははと笑った。


「もう、できないくせに他人を脅かさないの」


 答えに詰まるカイの額を軽くぺしっと叩いて、パルフェは周囲に視線を向ける。


「皆、ごめんね。こいつは私が面倒見るから。
ほら、カイ君。皆に謝りなさい」

「えっ!?いや、だってよ・・・・」

「言い訳しない!」

「は、はいっ!」


 ピシャリと言われ、カイは反射的に返事をする。


「その、すんませんした・・・・」


 非難の視線を送っている周囲の面々に、渋々ながら謝罪した。


「ね?こう言ってるんだし、今回は許してやって。お願い!」


 カイの後頭部を無理やり下げさせて、パルフェは片手で謝りのポーズを示す。

腹ただしさは残るものの、パルフェの熱心な態度に一同は溜飲を下げた。


「しょうがないわね・・・・パルフェに免じて許してあげる」

「う〜ん,まあパルフェがそう言うんなら・・・・」


 船の機関類をいつも常にチェックし、クルー達の環境保全に勤めるパルフェには信頼があった。

カイに一様の視線を送りながらそれぞれ退去していくクル−達を見つめ、ほっとパルフェは一安心する。


「やれやれ、何とか収まった・・・」

「まったく面倒をかけるぴょろ。感謝するぴょろよ」

「お前が何したよ!」 

「ぴょろ〜〜!?許してぴょろ〜〜〜!!」


 偉そうに胸をはるピョロに、カイはぐりぐりとピョロのモニター部分に捻りを加える。

相変わらずな二人に苦笑し、パルフェは声をかけた。


「まあまあ、二人とも。で、カイ君何があったの?」

「え、何がって?」


 嫌がるピョロに攻撃する手を緩めずに、カイはパルフェの方を向いた。


「あんな怖い顔して怒鳴って。何かあったんでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・・・」


 苦々しい顔をして黙り込むカイに、パルフェはよほどの事があったのだと人目で理解した。

あえて急かさずに穏やかな態度で返答を待つパルフェに、カイはやがて口を開く。


「あいつらが・・・・あいつらが悪いんだ!
俺がせっかく、一生懸命・・・・・・・」


 次々と脳裏に浮かぶ嫌悪と非難のクルー達の表情。

苦味が広がる口元を抑え、カイはこれまでの事を淡々と語った。

ベルヴェデール、アマローネ、メイア、ジュラ、ディータ、マグノ、そしてクルー達。

彼女達の罵倒や非難、叱責と対立を語り終えた時、カイは力なく床に座り込んだ。


「ふ〜ん、そっか・・・・皆と喧嘩しちゃったんだ・・・・」


 考え込むように静かな口調で返答するパルフェに、カイは冷えついた感情が溢れたように口に出る。


「俺は・・・俺はちゃんとやった!敵は倒したし、守り抜いた!
それなのにあいつらは!!」

「・・・皆だってちゃんとやってるよ」

「え・・・?」


 パルフェはカイの視線に合わせるように屈み、言葉を続ける。


「皆だってちゃんと仕事はしている。自分にできる事を精一杯にね。
カイ君一人が頑張ってる訳じゃない。
ジュラだって、ディータだって・・・・・・メイアだって頑張ってる」

「だ、だけど、俺は命を張って・・・・!!」

「皆だって命を張ってるよ。この船を支えているのは皆だもん。
誰か一人じゃない」

「そ、それは・・・・だけどよ!」

「考えてみてよ」


 ピシッと人差し指を立てて、パルフェは詰問する。


「もしカイ君がアマロやベルの立場だったとして・・・」

「アマロ?ベル?」

「あ、えーと、あんたが喧嘩したブリッジの二人」


 解釈を入れるパルフェにカイが頷くと、パルフェは話を続ける。


「二人がカイ君のように戦っているとして、あんた見ててられる?」

「え・・・・?」

「正確に敵を把握して、お頭や副長に報告できる?
敵に攻撃されて味方が死んだ時、冷静に周囲の状況を把握できる?
頑張って戦っている味方をじっと見つめられる?
味方がやられたら悔しいよね?辛いよね?
自分が戦いたいって思うよね?
それを我慢できる?」

「あ・・・・・・・・・・」


 考えた事もなかった。

自分は精一杯頑張って、あの二人はただ見ているだけ、楽しているだけだと思っていた。

だが、もし二人の立場に自分が置かれればどうだろう?

じっとできるだろうか?

俺はずっとあの二人は呑気に人が頑張っているのを見ているだけだと思った。

本当にそうなのか?

ならば何故あの二人は怒った・・・・?

「・・・カイはそんな二人の仕事を侮辱したんだよ。
二人だって一生懸命頑張っているのに、それを馬鹿にしたんだよ?
カイ、自分のやっている事を皆が認めないって怒ってたんだよね。
じゃあカイはいいの? アマロやベルのブリッジクルーの仕事をカイは認めなかったのに・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 何も言えなかった。

染み渡るようにパルフェの言葉が心に響き、カイはパクパク口を上下させるしかできない。

パルフェもまた、自分が感情的になっている事に驚いていた。

カイの心を傷つけているのだと自覚してはあるのだが、言葉は止められそうになかった。

そして続く・・・・・・


「そしてカイは・・・・カイを認めてたディータも刎ね付けた。
ディータは確かにカイに無遠慮に接してたかもしれない。
あの娘、思いつめたら一直線な所があるから私もわかるよ。
本当に嫌ってたのなら仕方がないと思う。
でも・・・・・嫌ってたの?」


 そしてパルフェはずいっと顔を近づけて、一言こう言った。


「八つ当たりじゃないって言える?」

「!?」






『頑張ろうよ、ね?
リーダーやジュラだってきっと宇宙人さんの事分かってくれるよ!
ディータも一生懸命頑張るから!』





 あの笑顔は・・・・励ましの笑顔じゃないのか?

決別しようとしている自分を見かねて、あの女は必死で励ましていたのではないのか?

何故気がつかなかった。




どうして・・・・・





戸惑うカイに、涼やかにマグノの声が脳裏に響く。










『心が縛り付けられてしまえば、自分を見失う』











『自分を見失えば、当然他人なんか分かりはしない』











「俺は・・・・自分を見失ってたのか・・・・?」


 今日一日の自分の行動を振り返る。

わめき散らす自分、正当性を訴える自分、怒鳴り散らしている自分。

自分が認められないから、他人に当り散らして吠える。

それが子供じゃなくてなんだと言うのか?

愕然とするカイに、パルフェはゆっくりと言葉を締めくくった。


「カイは私達や他の他人を理解したいんでしょう?
だったら、もうちょっと他の人の事を考えようよ。
宇宙一のヒーローは、そんな狭い男じゃないんでしょう」


 優しさと暖かさがこめられたパルフェの言葉は、カイに痛烈な現実感を持って伝わった。

そしてカイは静かに頭を下げた。


「悪かったな、パルフェ。俺、ちょっとどうかしてた」


 頭は完全に冷えていた。

相手が非難するから、自分も非難する。相手が馬鹿にするから、自分も馬鹿にする。

相手が認めないから、自分も認めない。

それではただの子供ではないか。


「悔しいけど、ばあさんの言うとおりだ。俺はまだまだ子供だ」


 少なくとも、マグノならばそんな事はしないだろう。

考えてみると、一度だってあの老人は自分を敵対化はしなかった。

カイは改めてマグノの器の大きさを感じ、自分の矮小さを悟った。

認めていると、不思議ともう屈辱感はない。

カイは衝動のまま高らかに笑い、同時に頬に一筋の涙を流した。

パルフェは泣いた事に驚き、あたふたと謝罪する。


「ご、ごめん!私ちょっと言い過ぎたかな・・・・」

「そんな事ねえって。おかげで目が覚めた。
ありがとうな、パルフェ」


 今までの荒々しさが取れ、普段の明るい笑顔を浮かべるカイにパルフェはようやく安心した。


「ううん。私もカイ君にはいつものカイ君でいてほしいからね」


 気持ちがこもった礼を言われて、照れたように頬を染めるパルフェ。


「まったく感謝してほしいぴょろね」

「だからお前は何にもやってないだろうがぁぁぁ!!」

「のおおおおおお〜〜〜〜!?」 


 再び始まった二人のやり取りに、パルフェは苦笑しつつ尋ねる。


「でも、カイ君。これからどうするの?アタッカーやめちゃったんでしょう。
それとも復帰する?」

 パルフェの心配そうな様子に、カイはにっかりと笑った。

それはいつもの何かを思いついたような笑いだった。


「パルフェのおかげで分かったんだ。
俺はこれからしないといけない事がな」


 ピョロをぐりぐりしながらも、カイの表情は今までにない真剣さがあった。



















<続く>

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