ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 14 "Bad morale dream"






Action1 −赤光−






 ――人は夢を見る生き物だ。

性別に関係なく、男も女も、夢を見る。良い夢も、悪い夢も、等しく。

夢の中は非現実的で、それでいて何処かで見たような光景ばかり。



その日、カイ・ピュアウインドが見た夢は――戦場だった。



地球の襲撃、刈り取りとの戦闘。男と女の、共通の敵。人類の臓器を狙う、異端者。

戦場は、血に濡れていた。真っ赤に染まった宇宙で、カイとマグノ海賊団が死に物狂いで戦っていた。

ドレッドはチームワークを生かし、カイはSP蛮型のポテンシャルを最大限に駆使して。

戦って、戦って、戦い抜いた。敵を倒して、砕いて、壊した。生きる為に、ただ懸命に生きていく為に。

男と女は手を取り合って、戦った。ヴァンガードとドレッドの合体兵器ヴァンドレッドが戦果を上げていく。

自分達が協力すれば、誰にも負けない。自惚れに似た確信を抱いて、彼らは戦う。ヴァンドレッドこそ、勝利の証――



栄光の旗印を、"赤い光"が撃ち抜いた。



ヴァンドレッドが――男と女が、二つに引き裂かれる。強制的な分離、暴力による断絶。

チームワークが分断され、各個撃破されていく。攻撃は全て赤い光に飲み込まれ、少年と少女達を次々と血に染めていく。

"赤い光"が、告げる。これが戦場の、現実と。


人が死なない・・・・・・戦争など、ありえないのだと――


仲間の死、奪われた命、刈り取られた臓器。赤い光は全てを奪い去っていった。

少年は、独りとなった。守りたいものは全て奪われた。何もかも、徒労に終わった。


血に濡れた身体で――少年は、膝をつかない。


"どうして戦うの? 守りたいものは全部奪われちゃったのに"


 少年は折れた剣を手に、宇宙という大地に力強く踏み出した。



"奪わせない為に、戦うんだ!!"















 ――自分の叫び声に、飛び起きる。目覚めて、初めて自分が夢を見ていた事に気が付いた。

全身が汗でグッショリ濡れている。眠っていたのに、目眩がするほど心身共に疲れ果てている。

血に濡れた感覚、引き裂かれた痛み、仲間を殺された慟哭。何もかも覚えていた。


「夢、だったのか……?」


 生々しい感覚に、身震いする。自分が傷付けられた事よりも、仲間をやられた事が悲しくてたまらない。

故郷への旅が始まって半年、行程は半分の所まで辿り着いている。死人はまだ出ていない。

この現実こそが、異常なのかもしれない。戦死者を出さずに済んだのは、本当に奇跡だ。

この前の母艦の戦いでも、仲間達が死にかけた。無傷だった者は一人もいない。

男達は瀕死の重傷を負い、女達は苦しみと悲しみに喘いだ。紙一重の差が、生死を分けた。

それでもまだ半分、故郷への道程は遠い。戦いがこれからも続けば――


「……宇宙人さん、大丈夫?」

「もしかしてあんたも見たの? 気持ち悪い……どうしてジュラ達全員、同じ夢を見てるのよ」


 可愛いパジャマのディータ、大胆なネグリジェのジュラ。二人が心配そうに見つめている。

二人の顔を見て、カイは愕然とした。顔色が悪く、不安に表情が沈んでいた。

――自分と同じ夢を見たのだと、カイは察した。


「"赤い光"、血のように赤い光に殺される夢を見た。お前らも……?」

「うん、みんな殺されて……本当に、怖かった」

「何なの、あの光……っ――アタマ痛い……」


 一人ならただの悪い夢で片付ける事も出来るが、ディータやジュラまで同じ夢を見たとなれば話は別だ。

一体、何が起きているのか? 夢の内容が何を意味しているのか?

室内が暗い空気に包まれる中、部屋の自動扉が音もなく開閉する。


「ジュラ。消灯時間中にすまないが、少し話を聞いて――何故、ディータとカイが一緒に寝ている!?」

「俺の部屋は前の戦いで瓦礫の山になったから、泊めてもらってる」

「ディータは遊びに来ましたー」


 ここはジュラ・ベーシル・エルデンの、プライベート・ルーム。一つの部屋に、三人の男女が並んで眠っていた。

カイやバート、ドゥエロが宿にしていた監房が、刈り取りの襲撃で崩れ落ちたのはメイアも知っている。

ドゥエロが我が身を呈して救ってくれた事を、この先も決して忘れる事はない。

とはいえ、男と女が同じ部屋――半年前にはありえなかった光景に、メイアは目眩がした。


「大体二人とも何だ、その格好は!? 男の前だぞ!」

「そういうお前は寝ている時も、スーツなんだな。窮屈だろう」

「この旅は何時何が起きるか、分からない。有事に備えておくべきだ」

「少しは頭が柔らかくなったかと思えば、こいつは……」


 身体にフィットするインナースーツ、機能性を重視しているがくつろげる服装ではない。

刈り取りは昼夜問わず襲って来るので心構えとしては正しいが、見習うべきかどうかは判断に苦しむ。

下手に言い返すと追求されそうなので、カイはその点には触れずに、


「このタイミングからすると……お前も見たんだな。あの夢を」

「単なる夢とは言い切れないものを感じた。それにこの四人――共通の体験がある」


「――ペークシス・プラグマ。あの結晶に巻き込まれた時の影響か」


 無尽蔵のエネルギーを発する謎の結晶体、ペークシス・プラグマ。融合戦艦ニル・ヴァーナを生み出した、船の動力源である。

男達の星タラーク最新鋭の軍艦、イカヅチ。三等民として乗船していたカイと、軍艦に襲撃を仕掛けたマグノ海賊団が戦った。

戦いの果てにカイとメイア、ディータにジュラが、ペークシスの覚醒と暴走に巻き込まれてしまったのである。

同じく巻き込まれた彼らの愛機は、改良されていた。もし彼ら自身にもペークシスの影響を受けているのだとすれば――


「ジュラ達、明日ドクターに診て貰った方がいいんじゃない?」

「そうだな、職務に支障がないとこれまで放置していたが……真っ先に調べてもらうべきだったかもしれない。
明日休暇を取り、我々の身体を調べてもらおう。お頭や副長には、私から連絡しておく」

「また医務室行きか……いい加減ウンザリなんだが」

「一緒に診てもらおうよ、宇宙人さん!」


 ペークシス・プラグマの暴走に巻き込まれたのは四つの機体と、四人の人間――

暴走後身体に異常はなく健康だった為、四人共に特に気にせずにこれまで旅をしてきた。

ここへ来ての急な変調――考えてみれば確かに、巻き込まれた機体には変化があって、人間には何もないというのも不可解な話。

男女の不仲が解消されたからこそ、落ち着いて自分達の置かれた状況を客観視する事が出来た。


「それにしても全員同じ夢か……どんな意味があるのかな」

「――何かを伝えようとしているようだった。あれほどの悪しき夢、現実に起こると思いたくはないが……」

「ペークシス・プラグマによる悪影響なら、ペークシス本体に何かあるのかもしれないな。
俺が出ていった時も、急にペークシスが止まったんだろ?」

「パルフェが直したと聞いたけど……こう何度もおかしくなっちゃたまらないわよ。ジュラは安全に旅したいの」

「ペークシスさん。ずっと働いてばっかりだし、休ませてあげたいね……」


 ペークシス・プラグマは無尽蔵にエネルギーを放出するが、無制限に稼働し続ける保証はどこにもない。

実際地球母艦との大戦中一度停止し、システム全般がダウンしてしまった。

機関長のパルフェが毎日のようにメンテナンスを行っているが、解明出来ていない部分もあり、手探りな面もある。

故郷への旅も半分を過ぎた、一度全て整備や検査をしておくべきかもしれない。


「お前らと合体する時も妙に疲れるし……パイロットに影響あるという青髪の考えが正しいかもしれないな。
明日一日全員休んで、ドゥエロに診てもらうか。訓練もやめようぜ」

「訓練は出来るだろう! これから共に戦っていく以上、フォーメーションを――」

「休暇を言い出したのはメイアよ」

「そ、それは……」

「嫌な夢を見たので、ディータも休みたいです」


 夢の中とはいえ、敵に撃墜されて臓器を刈り取られたのだ。その感覚も現実に痛々しく残っている。

そんな不安な状態で訓練をしても、成果は望めないだろう。

鬼のように厳しく部下を鍛えるメイアも、本物の鬼ではない。渋々、承諾する。


「ただし、検査は必ず受けるんだ。診断結果も確認する」

「はーい! 宇宙人さん、一緒に診てもらおうね」

「男女別じゃねえの!?」

「別々に決まっている!」


 気軽にカイを誘うディータを、メイアは猛然と詰め寄る。

男と女の不和は解消されたが、何もかも同列にするという事ではない。

性別が違うというのは、確固たる事実なのだから。


「そもそも、カイも他に空いている部屋があるだろう。そちらへ移れ」

「セキュリティゼロだと、ほとんど使えないんだよ」

「なっ――ま、まだ、権限が与えられていないのか!?」

「一応言っておくけど、マグノ海賊団に入った訳じゃないからな」


 この点が、カイの立場をややこしくしている。

カイが差し出した手は結局取られなかったが、マグノ海賊団とは新しい関係を築けた。

対等な立場で、共に地球と戦う決意を固めたのだ。もはや、揺らがない。

ただバートやドゥエロとは違い、カイは立場上マグノ海賊団と敵対している。

マグノ海賊団の重要機密に安々と見せる事は出来ず、権限が与えられないままになっている。


「つまりどの部署に行くにも、そこの担当者の許可がいるんだ」

「……そういう事か」


 つまり権限を持つ人間より許可を貰えれば、何処へでも行けるのである。

設備を使いたいのならチーフに、個人の部屋を訪ねるのなら各クルーの許可を貰えばいい。

人間関係による、権限システム――男女平等を訴えるカイには相応しいシステムかも知れない。

良好な関係を築けば、彼女達のプライベートにもお邪魔出来る。


「まあ、カイは仕方がないとしても……ディータはそろそろ自分の部屋に戻れ」

「ディータも一緒に、宇宙人さんと寝たいです!」

「……こうやって押し切られたのよ、ジュラも」


 分かりやすい理由に、メイアも嘆息するしかない。この熱意と行動力には恐れ入る。

天真爛漫な少女は無敵だった。


「ねえねえ、宇宙人さん。


その……ディータの部屋には、いつ遊びに来てくれるの……?」


「……約束していたな、確かに」


 地球母艦との決戦前、カイとディータは二人だけの約束をした。

決死隊として星の中心へ特攻するディータと、敵勢力に突撃するカイ。

次に生きて会えるかどうか分からない、命懸けの戦い――だからこそ、再会の約束は尊い。


たとえ照れ隠しでも、破っていい筈がない。


「分かった。明日は休みだし、検査が終わったら遊びにいくよ」

「本当!? 本当に、明日だよね!」


「――明日一日だけだぞ、休暇は」

「お子様よね、あんなに大はしゃぎしちゃって……」


 飛び跳ねるディータに、ジュラもメイアも思わず苦笑い。それだけ平和だということだろう。

いつのまにか悪夢を忘れ、四人揃って次の日まで賑やかに語り合った。


明日はメインパイロット四人が、出撃出来ず――それが意味するところを、この艦にいる誰もがまだ知らない。


悪い夢のような、過酷な旅が再開される。




























































<to be continued>







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