VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action17 −招待−






『万全な状態に仕上げておいた。思う存分、暴れ回って来るがよい!』


 華やかな着物を着た少女より激励を受けて、カイは改良型の愛機"ヴァンドレッド"へ搭乗した。

ニル・ヴァーナを逃がす為に殿役を買って出て、無人兵器の大群相手に単機で挑んだ。

2つのペークシスの同時起動に偽ヴァンドレッドとの死闘と、改良型とはいえ随分な負担をかけてしまった。

それでも短時間で整備を行ってくれた者達――頼もしい裏方の存在に、頭が下がる。

苦労一つ見せずに笑顔で見送ってくれたアイ達の為にも、作戦は成功させなければならない。


「綱渡りの連続だけどな……たく、あの副長。俺以上に無謀な作戦を立てやがって」


 憎まれ口を叩いているが、その口元は緩んでいる。作戦上の課題を見事クリアーしたブザムの頭脳に尊敬の念を覚える。

不確定要素は多いが、実現可能な段階には辿り着いている。

ブザムだけではない――コックピットに転送されたデータの数々に、目を細める。


「……あいつら、いつの間に……」


 ブリッジクルーのセルティックより"頭の悪い男"へ、と一言添えられたメッセージと共に送り届けられたデータファイル。

作戦実行時予測される現象を洗い出し、問題点の指摘と具体的な改善点が挙げられている。

バートを含むブリッジクルー全員が補佐に回り、作戦成功の為に全力を尽くす事を約束してくれた。

パルフェはソラと一緒にニル・ヴァーナ圧壊の危機を打開するべく、ペークシスへの働きかけを行うらしい。

他の部署のメンバーも持ち場へつき、施設の建て直しに懸命になっている。過ちを正す為に。

カイは彼女達に直接干渉するつもりはなかった。餅は餅屋、彼女達なら安心して任せられる。

今は、自分の成すべき事に専念しなければならない。


そう――自分が、やらなければならない事を。



『宇宙人さん』



 作戦のシュミレートをしていると通信画面が開かれて、ディータ・リーベライが顔を出す。

決死隊に出願した彼女だが、今は悲壮な決意は表情に出ていない。

メイアやバーネットも参戦すると聞いて、ディータは涙ながらに頭を下げていた。


「作戦の事なら青髪に聞いてくれ。お前に分かるように説明するのは、難しい」


『違うの。あのね……これが、終わったら。

ディータのお部屋に、遊びに来て欲しいの』

「は……?」


 思わず馬鹿みたいに、そのまま聞き返してしまう。突然何を言い出すのかと思えば、他愛のない願い事だった。

女の部屋に遊びに行く事に、今更抵抗はない。タラークの教育など、もう頭の片隅にもなかった。

血生臭い事件が続いていただけに、平和なやり取りに面食らってしまう。


「何で今、そんな事を聞くんだよ。自分の役目、分かっているんだろうな?」

『今だよ! 今、約束して!』


 頑なに懇願するディータ。カイにはよく甘えを見せるが、これほど強く迫れた事はない。

気迫すら感じられるディータの顔を画面越しに見て、カイはようやく気付いた。


――怖いのだと。


どれほどの決意で固めても、どんなに仲間がいても、危険な役目である事に違いはない。

全員一丸となっても勝利は危うい敵。一度は敗北した相手。自分達の祖先、地球。

自分が、仲間が死ぬのではないか――誰もが危うい作戦だからこそ、不安は大きくなる。


ディータは未来に繋がる、確かなモノがほしいのだ。


「――いいよ、別に」

『絶対だよ! 待っているからね!』

「その代わり、俺からもお前に頼みがある」

『なになに!? 何でも言って!』


 カイはコホン、と咳払いする。この少女の記憶が退行して以来、目の前に振り回されてばかりだった。

男女決裂にメラナスとの出逢い、セランの重傷に過去への跳躍、思い出からの脱出と現実での死闘――

連鎖する悲劇に打ちのめされて、いつしか俯いてしまっていた感がある。


たまにはディータを見習って、少し前を見てみよう。


「泊めろ」

『ふえ……?』

「寝る場所がないんだ、今晩から」

『えっ、えっ、どうしてそんな……あっ!? そっか、宇宙人さんのお家が……!?』


 カイ達が住んでいた監房は、敵からの攻撃を受けて瓦礫と共に埋もれている。

水道管も破裂して水浸し、修繕よりも撤去した方が早い。もはや、住める所ではなかった。

ドゥエロから話を聞いた時は、不幸の連続にカイはガックリさせられた。


『うん、いいよ! ディータのお部屋で一緒に寝よう』

「悪いな、助か――」


『ちょっと、待ちなさい!』

『聞き捨てならないわ、今の話!』

『――』


 コックピット内での二人の会話に、三つの通信画面が飛び込んでくる。

アマローネにベルヴェデール、セルティック。ブリッジクルーの三人娘である。

驚くよりも先に呆れた顔をして、カイは三人を一瞥する。


「……何で人の会話を勝手に聞いているのだ、お前ら」

『か、監視よ! 私達に宣戦布告した以上、アンタはまだ敵なのよ!』

『ごめんね、カイ。準備は出来ているんだけど、ちょっと落ち着かなくて……そろそろ作戦決行だからさ』


 強気に反論するベルヴェデールと、苦笑いを浮かべて両手を合わせるアマローネ。

口実と本音を言い表しているような二人の言い分に、笑ってしまう。

そこへ、愛らしいクマさんが割り込んできた。


「なに……監房の隣で、一人寂しく籠もればいい?

あそこはドゥエロが占拠していて、血と消毒液の匂いが満載なんだけど」

『……、……』

「いやいや、通路とか寒過ぎるだろ!? 見回りの連中に蹴飛ばされそうだから嫌だ!」


『……だから、何で会話が成立するのよ』

『……もういい加減脱ぎなさいよ、セルも』


 身振り手振りもなく、顔を合わせるだけで会話が通じている二人。

実は心が繋がっているのではないかと思うほど、少年とクマは賑やかに言い争っている。

この期に及んで口喧嘩する二人に、アマローネとベルヴェデールは微笑みを交し合う。


「とりあえず、お前らが話しかけてくれたのはちょうど良かった。
マグノ海賊団全員に伝えたい事がある。俺のコックピットから皆に話せるように、調節してくれないか?」

『ちょっと――作戦前なのよ。皆の心を揺らすような事を言わないでよ』


 カイの頼み事は、ディータが先程艦内全域に伝えた放送と原理は同じだ。

自分のコックピットから直接話す手段が今いち理解出来ていないので、専門家に頼んだのである。

彼女達にとっては朝飯前だが、いい顔はしなかった。両者の関係を思えば、無理もない。


「分かっている。マグノ海賊団が今だまとまらないのは、俺が原因だって事は」

『……宇宙人さん……』

「あれほど高度な解析データを用意してくれたお前達なら、分かるだろう?

この作戦は――今のままでは失敗する」

『――』


 確かに主だった面々は一致団結して、作業に当たっている。才ある者達が実力を発揮して、成功確率を上げている。

でも、まだ百パーセントではない。不具合が生じている。作戦の土台に、まだ亀裂が入ったままだった。


男女共同生活の破綻――協力関係の、決裂。カイとマグノ海賊団との、決定的な対立。


思えば、この亀裂はこの旅が始まった最初から小さく刻まれていた。誰も直そうとせず、少しずつ亀裂を広げていった。

結び付きが強くなる一方で、絡まってしまい諍いが生じる事もあった。

心が近付けば、誰もが愛せる訳ではない。近付く事でその人を知り、より嫌いになってしまう事もある。


始まりの問題――決着をつけるとするならば、やはり当事者だろう。


『――分かりました。繋げます』

『セル、ちょっと!?』

「……ありがとう、クマちゃん」

『責任を果たしてください』


 セルティックの強い口調に、アマローネやベルヴェデールは黙り込んでしまう。

息を呑む緊張感の中で、ディータは静かにカイを見つめている。

口出しするべきではない。これは、彼の戦いなのだから――



「――この声が聞こえるか? 既にみんな、今から決行する作戦について聞いていると思う。
作戦を提唱した者として、話しておきたい事がある」



 信頼の重みと共に今、マイクが託される。


  「タラーク・メジェールの祖先、地球――こいつは、俺達の敵だ。全員で力を合わせて、打破しなければならない。
全員だ。一人でも手を抜けば、俺達全員が殺される。自分達の故郷が、家族が、友人が――皆、殺される。例外はない。
その上で、言わせてもらう。


自分だけが特別だと、思うな!」


 自分なら英雄になれると、信じていた。仲間を全員守り通せると、心の何処かで自惚れていた。

そして、セランに重傷を負わせた。ドゥエロやバートを、危うく失いかけた。

重力と電磁波に荒れ狂うガス惑星にまで追い詰められて、ようやく現実を思い知った。


「苦しいのは、全員一緒だ。自分だけが特別なのではない。
隅っこに隠れて吠えたり、周りに八つ当たりしてる暇があったら、前に出ろよ。

自分の舞台に、立つんだ。誰のものではない、自分で作る未来の為に。

俺達が、俺達の手で、俺たちの為に創る未来だ。他人に任せてどうする!?
負けるな! 諦めるな!
どんなに納得いかなくても、どんなに不公平だと感じようと――今、目の前にあるものが全てなんだ!」


 ここまで追い詰められた事、敵に敗北した事、その何もかもが自分達の責任だ。

この艦にいる誰もが皆、間違えた。皆バラバラになってしまい、勝手な行動を取って、自分の仲間を傷つけた。

もう誰が悪いだの、責任を押し付けあっている場合ではない。


もう、本当に――自分で何とかしなければ、死んでしまうのだ……


「絶望から顔を背けて何を見る! 厳しい現実を乗り越えないで何が語れる!!

生きる事にこそ理由がいるんだ……死ぬのに、言い訳なんか必要ない!!」


 生きていてくれて良かったと、ソラやユメは涙を流して喜んでくれた。

おかえりなさいと、迎えてくれた人達の顔は未来永劫忘れない。


喪いたくないと、思った。悲しい思いをするのも、させるのも、心の底から嫌だった。


「前にも言ったな! 俺は、絶対に奪わせない!
お前らが奪うのも……お前らを・・・・奪われる・・・・のも、俺は嫌だ!

奪わせず、繋いでいくために――俺が命をかけて、戦ってみせる!!


俺達全員一人も失わず、故郷へ帰るぞぉぉぉぉーーーー!!!」


 大号令。全てをぶちまけて、カイは果敢に吼えた。

絶対に死なせないと、ただその誓いだけをここに。


それは百万の虚言よりも――確かな真実となって、皆の胸に響いた。






























<to be continued>







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