VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action14 −限界−






 ディータ・リーベライの決意表明。艦内放送を通じて、一人の少女の呼びかけが全部署に伝わった。

仕事に勤しむ者、諍いを起こす者、立ち尽くす者、項垂れる者、状況を打開せんとする者――全てに。

嵐のような苦難の連続の中での、唯一の静寂。皆手を止めて、黙って耳を傾けた。

仲間を守る為に、一人で戦おうとする少女の悲痛な決意は、仲間達全員に確かに届いたのだ。


そして、時は動き出す――


「――許してよかったのか、リーダーさんよ」

「黙れ! 同じパイロットだからこそ、ディータの気持ちは痛いほどよく分かる。
踏み躙れる訳がないだろう、リーダーとしても。一人の人間としても」


 カイ達の住む監房の隣にある、第二医務室。多くの怪我人が寝かされている空間で、戦士達が集っている。

主だった面々が集まっての、作戦会議。ディータは此処で状況打開策を聞いて、決死隊を申し出た。

最初はドレッドチーム全員が反対したが、ディータは決して曲げなかった。自分の決心を何度も訴えた。

メイアはリーダーとしてとても厳しい上司だが、鬼ではない。冷静冷徹な仮面の中に、深い優しさを隠している。


彼女は最後まで説き伏せたが、結局最後は折れてしまった。危険な役目でも、一人は絶対に必要だから。


「ねえ、カイ! 本当に、ディータを死なせるつもりなの!?
  そんな事したら、絶対にアンタを許さないわよ!」

「俺だって死なせるつもりはねえよ! そういうお前こそ、死なせないアイデアを出せよ!?」

「うう、専門外だケロ……ぐす、カイ、お願いだよ。ディータを、絶対に死なせないで。

ディータは、パイの大事なお友達なの。今までカイに酷い事言ったのは謝るから、お願い……おねがい!」

「――お前の友達を傷つけたのは、事実だ。俺も悪かった。一緒に助ける方法を探そうぜ」

「うん」


 地球母艦及び無人兵器の大群を倒す、大戦略――ガス惑星の恒星化。

重力と電磁波に満たされた惑星の中心核を点火、重力で固められた流体金属状の重水を破壊する。

破壊した中心核は圧縮されたガス雲を飲み込んで加熱し、惑星全体が猛火。大爆発を起こす。

惑星丸ごと飲み込む一億度を超える大火力を持って、敵勢力を消滅――それがカイの立てた起死回生の策だった。

作戦決行に必要な処置として、第一にガス惑星の中心核を攻撃しなければならない。重要で、危険な役目だ。

中心核への攻撃自体に、然程の火力は必要ない。このガス惑星は非常に不安定で、何時恒星化しても不思議ではない。

ドレッドがビームを照射し続ければ中心核は点火されて、内側から大爆発を起こす。

中心核から放たれた星の猛火は急速に惑星全体を飲み込み、火の海と化すであろう。

ガス惑星に篭城するニル・ヴァーナを包囲する無人兵器の大群は、ひとたまりもない。


――中心核を攻撃するドレッドも、搭乗するパイロットも。


「ドレッドの速度では惑星の爆発からは逃れられない。役割を変更するべきだ。
私とお前の合体によるヴァンドレッドの速度ならば、安全圏までの時間も距離も稼げる!」

「ドレッドのシールドでは防げなくても、ジュラとアンタの合体なら大丈夫でしょう。
星丸ごと覆えるのよ、惑星の爆発程度ではビクともしないわ!?」

「……ヴァンドレッド・メイアの武装では、中心核への精密な射撃が出来ない。
ポイントがずれたら、予想外の災害が起きる危険がある。

ヴァンドレッド・ジュラのシールド力は認めるが、一億度の火力にも耐えられる保証がない。
防御力に特化している分、あの機体は足が遅い。燃え盛る星の中心で、丸焦げになるまで待つのかよ」


 ヴァンドレッドシリーズを使う事は、この作戦を立てた当初に検討済みだった。結論は、どちらも星の点火に適さない。

理由は今カイが述べた通りで、中心核への攻撃には精密さが第一だった。

蛮型で出撃する場合はソラによる正確なナビゲートで攻撃、ドレッドの場合はビームによる精密射撃。この二つの方法しかない。

ヴァンドレッドは高度な機能が搭載された機体だが、万能兵器ではない。特化した性能を持つ分、不得手な面もある。



「――ブースターは考えたのか?」



 若者達が顔を並べて悩み込んでいる場に、大人の女性の声が入り込む。

威厳を感じさせる存在感に一同が顔を上げると、威風堂々と第二医務室へ入室する人間が現れた。

マグノ海賊団副長を務める切れ者、ブザム・A・カレッサその人である。


「探せば、予備のパーツはあるだろう」

「……ドゥエロ」

「その案も計算に入れてみたが、脱出には後20秒足りない」

「そういう事だ――わざわざ副長さんが自ら顔を出したのは、それを言いに来ただけじゃないだろう。

マグノ海賊団に喧嘩を売った俺を、捕まえにでも来たのか?」


 カイが問い質したその瞬間、第二医務室に居た女性陣が顔色を変える。

怪我や疲労で寝込んでいたクルーが顔を上げて、拒絶に近い非難の目を向ける。

看護婦のパイウェイは愛用のカエルを構え、ジュラやドレッドチームパイロット達は一斉に取り囲む。


全員が思い出したように、マグノ海賊団を裏切ったカイを――守るように、身構えている。


「……何のつもりだ、お前達?」

「お願いします、副長。カイはこの状況を打開する為に、不可欠な人間なのです。
私が全ての責任を取ります。彼と共に戦う許可を頂きたい」

「何言っているのよ、メイア。サブリーダーのジュラだって、責任を取る義務があるわ。
地獄の底まで付き合ってあげる」

「カ、カイは、ディータを助けてくれるって、パイに約束してくれたの! 絶対に、渡さないケロー!」


 彼女達の行動に、迷いは見受けられなかった。メイア達は既に、覚悟を決めている。

カイがマグノ海賊団と敵対する意志を固めたのは知っている。ドレッドチームと戦争したのは、つい先日の事だ。

男女協力関係は完全に決裂、再同盟を結ぶのは不可能。昔と同じ関係には、もはや戻れない。

だからこそ、彼女達は行動に出た。今度こそ、間違えない為に。

本当に大切なものは何か、大切に想ってくれた人は誰だったのか――二度と、見失わない。


部下と上司の睨み合いは、一瞬で決着がついた。


「……何を言っているのだ、お前達は……誤解しているようだが、私はカイとお前達の協力関係を高く評価している。
素直に褒めに来たつもりだったのだが――まさか睨まれるとは。どうやら、私は信頼がないらしい」

『し、失礼しました!?』


 大仰に溜め息を吐く副長に、メイア達一同は慌てて頭を下げる。

若さに任せた青臭い行動だと自覚しているだけに、真摯な大人の態度に若者達は恐縮してしまった。

やはり役者が違うようだ、女性陣に守られた少年は苦笑する。


「バーネットから正式に、パイロット復帰の通達が届いた。お前達の作戦に協力するらしい。
ディータと共に出撃すると、要請があった」

「あいつまでディータと一緒に!?」

「お前の作戦も聞かせて貰っている。
カイ、それにお前達――好きなようにやれ。責任は全て私が取る。お頭にも、私から直接伝えよう」


 男と女が手を結ぶ事を、実質の総責任者が承諾する。その事実に――第二医務室より、歓喜の声が上がった。

男に対してマグノ海賊団が賛成派と反対派に分かれて争っていたのは、どちらの派閥にも正当性があった為である。

賛成派は男女共同を唱えたマグノの、反対派は女尊男卑を唱えるメジェールの常識が後押ししていた。

チーフクラスはともかく最高幹部達が口を噤んでいたので、両者の言い分は均衡して争いが激化する一方だった。


その派閥争いに対し、マグノ海賊団副長が今判定を出したのだ。男を認める、と――


これまで派閥争いに関わらなかったのは、最高幹部が口出しする事で公平性を欠いてしまうからであった。

全てのクルーに対して、上に立つ者は平等でなければならない。どちらにも言い分があれば尚更だ。

匙加減が難しい分、煮え切らない面もあった。ゆえに、この苦境を招いてしまった。

この危機には男女が一丸とならなければ、立ち向かえない――副長であるブザムは、決断を下した。


怜悧冷徹な副長の背中を熱く押したのも、ディータ・リーベライの一声があったからかもしれない。


「その代わり私の大切な部下を必ず助けてもらうぞ、英雄」

「当然だ。俺達は、必ず勝つ」

「迷いは吹っ切れたか、いい返答だ。ならば、私も知恵をかそう」

「何かいい案があるのか!?」

「ああ。そもそもカイ、お前は一つの物事に囚われすぎている。
一つ一つを目を奪われるのではなく、全体を観るのだ。今の話だと――」


 人間に、限界はない。けれど個人には、限界はある。

自分以外の他人を知る事で、見えてくる現実がある。他人と共にする事で、可能性は広がっていく。

自分の限界に悩む若者達を導くべく、大人が今可能性を示した。















『――これが、あいつが立てた作戦の概要。実に杜撰で、大雑把。
あの男が死ぬのはいいけど、このままではディータは死んでしまう。力を貸してほしいの』

「盗聴せずに普通に聞いてきなさいよ、セル……」


 ニル・ヴァーナ艦内に設立されている、自然公園。そのベンチに座り込んでいる、女性二人。

彼女達の前には通信画面が展開されていて、幼さの残る可愛い女の子が表示されている。


ベルヴェデールにアマローネ、そしてセルティック。将来有望な、ブリッジクルーの三人。


「ガス惑星の点火、か……相変わらず大胆不敵というか無茶な作戦を立てるわね、あいつは。
恒星化させて、敵戦力を一気に焼き払うつもりなのね。でも――」

「――あの母艦には通用しない。惑星を包囲する無人兵器は全て破壊出来ても、巨大戦艦には届かない。
そういう事ね、セルティック」

『うん。ガス惑星を中心に、広域観測を行ってみたの。このデータを見て貰えれば分かる。
地球の母艦を倒すには、中心核より生み出される火力を直接誘導しなければならない』


 恒星化した惑星が生み出す火力は大規模なものだが、影響範囲が広い分破壊力が分散されてしまう。

それでも惑星を包囲する無人兵器を全て飲み込む程の威力があるのだが、それでも母艦の完全破壊にはまだ足りない。


それが最年少でブリッジクルーとなった、セルティック・ミドリの計算結果だった。


「恒星化した惑星の炎を誘導するには、随時最新のデータを計測する必要があるわね。
分かった、すぐにブリッジに戻るわ。

アマロ、貴女はどうするの? もう決断するべき時だと、思うわ。
ディータはもう選択している――自分が死ぬ事を」

「……」


 この自然公園にも、ディータの声は明確に届いていた。

彼女達三人はディータと交流があった。だからこそ、声を通じてディータの心境が理解出来た。

彼女は仲間の為に死のうとしている。

そして自分が死ぬ事を、心から怖がっている。涙を噛み殺して、無理に笑おうとしている。


――ベンチに座ってただ震えているだけの、自分とは違って。


「死なせないよ」

「アマロ!?」

「死なせない。ディータも、カイも――誰も死なせない!!」


 自分の為には戦えなかった少女が、仲間の為に恐怖を震えながら立ち上がった。

感情が赴くままに人を傷つけるのも、何もかも諦めて俯くのも、もう沢山だった。

自分が死ぬのは、怖い。けれど何もしないまま、仲間が死んでしまうのはもっと嫌だった――

若者らしい、感情。それもまた、戦う理由となりえる。






























<to be continued>







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