VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action3 −退団−






 恒星になりかけている惑星の内部に飛び込み、重力と電磁波の世界に身を隠す。

傷付いた身体と機体を癒し、態勢を立て直す時間を稼ぐ策。ここまでは読めていた。

予想外だったのは、この最近縁のなかった幸運に恵まれた事――


「……少しは我々にも運が回ってきたか」


 復活したばかりのニル・ヴァーナを引き寄せる、惑星の強大な重力波。

ガス惑星から放たれる波に意思は無く、ただ近付くものを貪欲に飲み込んでいく――

全長三キロメートルを超える戦艦すら逃れられない重力に、ドレッドサイズ以下の無人兵器が抵抗など出来ない。

ニル・ヴァーナに群がっていた無人兵器は次々と飲み込まれ、重力に潰されて破壊された。

掃除機に吸い込まれるゴミのような光景に、メイアは苦笑を禁じえない。


「ニル・ヴァーナは間もなく惑星圏内に突入する。全機、急ぎ帰艦せよ!」

『ラジャー!!』


 チーム全体に簡単かつ実直な指示を送り、メイア・ギズボーンは深く息を吐いた。身も心も疲弊している。

弱音など吐いている場合ではないが、今後を思うと暗澹たる気分にさせられる。

今回の戦闘は敗北、同盟軍は大きな痛手を被った。再編は不可能だろう。

メラナス軍は母星の防衛、マグノ海賊団はガス惑星の内部で篭城。

敵は依然として健在、主力の母艦は傷付いているが同盟軍による功績ではない。


「それでも、まだ……私達はやり直せる。生きている限りは」


 カイ・ピュアウインド、バート・ガルサス、ドゥエロ・マクファイル――三人の男達の生還。

ブリッジからクルー全員に正式に生存報告が入り、落ち込んでいたクルーを活気付かせた。

皆も気付いたのであろう。


奇跡の体現者の正体を。それを成した者達の価値を――


生きていると知った時の大きな安堵と安心は、これまでの人生で経験の無いものだった。

――人間死んでしまえば終わりなのだと、これほど思い知らされた事は無い。


「この私が自暴自棄になるとは――

何が起こっても動じない……、強くなれたと思ったのに……っ」


"大切なものなんていらない。そんなものがあるから人は弱くなる"

かつて父に裏切られ、母をなくし、慕ってくれた人達から迫害された少女の答え。

裏切られるくらいなら、最初から信じなければいい。孤立すれば、あらゆる束縛から解き放たれる。

マグノ海賊団に入ってからも一人だったメイアを――バートが庇った。

自分は一人、そう思っていたのは自分だけ。独り善がりでしかなかった。

孤立していた命を他人に救われた時、メイアは気付いたのだ。

自分の命は、自分だけのものではないと。


「何をしていたのだろうな、今まで……お前達は大切なもののために、命すら懸けているのにな」


 大切なものを捨てた自分は誰かに守られ、仲間を死なせて自滅しかけた。

大切なものを見つけた男達は死すら乗り越えて、仲間を待って今も戦っている。


持つ者と、持たない者――どちらが強いのか、誰の目にも明らかだった。


そしてこの敗戦、悔やんでも悔やみきれないが俯いている場合ではない。

今度こそ自分の果たすべき役割を果たし、犠牲を出さないようにしなければならない。


最低な敗北を、最悪な結末にしない為に。


その為なら苦い過去も噛み締めよう、苦しい現実を見よう――強くなる為に。

死ぬ気は既に無い。仲間を生かす為に生きて戦い続ける。


『やっほー、メイア。加勢に来たわよ』

「ジュラ!? 何をしに来た、帰艦命令が出ているんだぞ!」


 追撃の手を逃れて帰艦する中、流れに逆らってわざわざ艦から発進するドレッドが一機。

流麗なフォルムと独特のカラーリング――そして何より、チームリーダーに気安く声をかけられる女性。

わざわざプライベート回線で話しかけて来た女性に、メイアは険しい目で見つめ返す。


『状況は把握しているわ、まだ追っ手があるんでしょう。
今まで仮病使って休んでいた分、働かないと怒られちゃうわ』

「馬鹿な事を……! 青褪めた顔をして何が仮病だ!?」


 モニター越しに見えるジュラの表情は明るいが、顔色が非常に悪い。

いかにも病み上がりといった顔で、気丈に振舞っているが誤魔化しきれていない。

それでもジュラは笑顔を絶やさずに触れ合う。


『もう大丈夫よ。ジュラね、今までに無いほどやる気があるの。
もうメイアがいなくたって、ジュラ一人で敵全員倒せちゃうわ』

「いいから艦へ戻れ。露払いに二人も必要ない」


 帰艦命令はリーダー格のメイアにも適用される。急いで戻れなければ、ニル・ヴァーナがガス惑星内に突入してしまう。

そうなれば後を追うのはまず不可能、重力に潰された無人兵器の二の舞になる。

ドレッドにはシールド機能が備わっているが、長くは耐え切れない。

不可能ではないが、重力による負荷で間違いなく機体に大きな損傷を負うだろう。それは望ましくなかった。

戦いはまだ続くのだ、これ以上のダメージは次に繋げられなくなる。


そして――それは、人の身体にも同じ事が言える。


『そういうメイアだって、血の気が引いて不自然に顔が白いわよ。
睡眠どころか、休息の一つも満足に取ってないでしょう。お肌の大敵よ』

「……私は大丈夫だ」

『ジュラも平気、ドクターから許可は貰っているわ。メイアも診てもらえば?』

「くっ……」


 男女関係が崩壊した今でも適用されるのか分からないが、船医は特別な権限を持っている。

ドレッドはチームプレイが命、パイロット一人の調子が悪ければチーム全体の戦力が落ちてしまう。

その為医者が出撃不可能と判断すれば、ドクターストップをかけられる。

メインブリッジにドゥエロ専用のシートが設けられているのは、その為である。最前線のパイロット達を管理する権限があるのだ。

自分の事は自分が一番よく分かっている。

今のメイアをドゥエロが診断すれば――間違いなく、強制帰艦命令が下される。

無視する事も出来なくは無いが、根が生真面目なメイアには大きな罪悪感を感じてしまう。

まして男達に引け目があるともなれば、拒否は限りなく不可能だろう。

同じく体調不良のジュラに何故出撃許可を出したのか、メイアは疑問を感じてならなかった。

――本当は黙認に近いのだが、本人が告げなければ知る由も無い。


『……どう? アタシ達だけで勝てそう?』


 お茶らけた態度が消えて、憂いを帯びた顔でジュラが訊ねて来る。

切り替えが早いのがジュラの良いところであり、悪いところでもあった。

元より気を引き締めているメイアは、即座に首を振った。


『そう……やっぱり最初から、カイ達と協力すればよかったわね』

「お前達は協力していただろう。――私達が意地を張っていただけだ。
彼らの協力無くして生還はありえないと、お頭にあれほど念を押されていたのに……」


 マグノ・ビバン、あの偉大な老女はこの未来が来ない事を願っていたのかもしれない。

故郷への旅路についた時、男と女の共同生活を最初に唱えたのはマグノである。

人は未来を知る事は出来ない。けれど、過去を見る事は出来る。


――男と女が同じ世界で住んでいた祖先の星、地球の出身者。


遠い過去地球がどのような環境だったのか、知る由は無い。

メジェール生まれのメイア達も、この旅が始まって知った事実である。

ただ水の惑星アンパトスやメラナスの人達を見れば、男と女に垣根が無いのはもう明らかであった。

世界を知らぬ者に、世界を知る人間の世界を否定出来ない。己が無知を笑われるだけである。


『ジュラ達だって同じよ。カイには助けられてばかり。
メラナスの時だって、結局アイツを一人置いて逃げるしかなかったもの……』

「……」


 その男達は自分達以上に疲労しているのに、今も戦い続けている。

カイは敵と戦い、バートは艦を守り、ドゥエロは人を助けて――

まるで長年の親友であるかのように、三人は己が役目を果たして互いを補っている。

彼らの素晴らしい関係には、嫉妬すら感じてしまう。


『ねえ、メイア……聞いてくれる?』

「どうした?」



『先の事まで考えた訳じゃないけど――

私ね、この旅が終わったらマグノ海賊団を辞めようと思うの』



「なにっ!?」


 コックピットのシートから思わず身を乗り出して、メイアはモニターを見やる。

滅多に見られないリーダーの驚愕に満足したのか、ジュラは柔らかな微笑みを浮かべた。

それは決して揺るがない、決意の証だった……


『自分の罪をちゃんと償って、新しくやり直すつもりよ』

「メジェール本星に投降するつもりか!? 馬鹿な! どれほどの罪になると思って――」

『そう言うメイアも、自分の罪は自覚しているでしょう?』

「……」


 義賊などと呼ばれても、彼女達が多くの人達を犠牲にした事には変わらない。

政府から物資を奪い、軍に攻撃を仕掛けて、多くの艦を蹂躙した。

望まぬ略奪ばかりではない。大物ならば喜んだ事さえもあった。奪う事に快感を覚えていた。


そんな自分を今一度振り返って――ジュラは決心したのだ。


「お頭や副長が許すと思っているのか……?」

『違うの。誰かが許すとか、許さないとかじゃない。
ジュラが、自分を許せないの。自分を許せないままで、これから先の人生は歩めない』

「ジュラ……カイの言葉に引け目を感じたから、ではないのだな?」

『それもあるわ、勿論。少なくとも、この気持ちはアイツと出逢って生まれたものよ。
でも、勘違いしないで。カイの言う事だけを鵜呑みにしているのではないの。

アイツだって、完璧な人間じゃない。ジュラにはジュラで、譲れないものがある。

ジュラ達が海賊をやって、救えた命だって多くあるでしょう?
……こうしてメイアとも、一緒にチームで頑張ってこれたしね。

覚えてる? ジュラとバーネットと、メイア。三人で最初にチームを組んだ時の事』

「……お前達が行方不明になった時は、本当に心配させられたよ……」


 まだ戦闘中であるにも拘らず、思い出話に花を咲かせる二人。

二人の間に悲壮もなければ、喜びも無い。

いずれ来る別れを感じて、ただ寂しく思う気持ちだけだった――


「カイに――カイに相談してみろ。結論を出すのはまだ早い。
バーネットとも仲直りしていないんだろう? 今のお前の話を真剣に聞かない人間なんて、うちには一人もいない。

我々は確かに罪人だ……けれど、今のメジェールも私は信用出来ない。
そしてそんな政府の所へ、大事な――


……。


……っ。


大事な・・・友人・・を、預けられない……」

『――っ、ありがとう、メイア……ごめんね……』


 尊厳も見栄も何もかも捨てて、メイアは搾り出すように自分の心を伝える。大切な人に、声を震わせても。

真剣で温かな真心に、ジュラも薄ら涙を滲ませて頭を下げた。

何処で間違えたのか、今も尚分からない。


だったら――今から、過ちを正せばいい。


『メイア、あれ!!』

「!? ……フン、図々しく他人事に首を突っ込むのは本物譲りか」


 次々と無人兵器がガス惑星に吸収される中、我関せずと急速に迫り来る人型兵器。

ニル・ヴァーナを今も守るメイア達に気付いたのだろう、手強しと睨んで急接近してくる。


贋作の遠距離兵器を持つ、SP蛮型のニセモノ――カイの声を真似た、腹立たしき機体。


偽りの"希望"に矢を番えて、攻撃を仕掛けようとしていた。

カイ自身は生きていたとはいえ、その存在自体が醜悪に思えてならない。

まして――本人との関係が深い者となれば、尚更だった。


『メイア、ジュラね――基本的に負けるのが嫌いの』

「ああ、私もだ」


 湿っぽい空気も何処へやら、二人は不敵な笑みを向け合う。

海賊の本性とは恐ろしくも厄介。それでいて頼もしい――



自分達の誇りを取り戻すべく、乙女達は宇宙を駆ける。





























<to be continued>







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