VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <後編>






Action22 −姉妹−






どうにも認め難いが……何度も撃たれた経験が活きたらしい。

新手の警備兵と出くわした瞬間、何か言われる前に身体が動いていた。

死の宣告と共に発砲――行動に出た警備兵より一瞬早く、懐に飛び込めた。

相手はプロ、手加減など片隅にも浮かばない。

無我夢中で膝蹴りを入れて、そのまま一気に逃げ出した。


「痛っ……何度も撃たれてもいてえな……」


 完全に回復出来ず、弾丸が脇腹をごく僅かだが掠めてしまう。

肉の一部を抉られて、走る度に真っ赤な血が零れる。

失われた記憶が戻った後も士官候補生達との戦闘や強制連行で尋問に幽閉、心身共に傷付いている。

――ディータ・リーベライの不慮の事故から、心休まる時間などなかった。

記憶喪失の時期が一番平和だった事が、何とも皮肉だ。


「……別れの一つも言えなかったけど――元気でな、親父」


ヒビキ・トカイ博士の代替品としてクローン培養され、結果失敗作として時空の彼方に捨てられた自分。

一度目は地球側の時空転移実験材料として、二度目はホフヌングの臨界突破によって――タラークに落ちて、親父に拾われた。

ペークシス・プラグマによる時空転移が歴史にどのような影響を与えるのか、一個人に分かりようが無い。

自分一人で出来る事なんて、高が知れている。

今回の一連の出来事で、つくづく痛感させられた。


「ドゥエロ、バート、マグノ海賊団、メラナス――セラン。生きていてくれよ、皆!」


過去を変えるのではなく、辛い現実を見据えて、より良い未来を目指す。

奇跡は起こせる、男と女が手を組めば。

組めればの話だけど――カイは自嘲気味に笑う。

敵対して追い出された事実に足が遅くなるが、幸か不幸か悩む時間は無かった。


「いたぞ、捕まえろ!」

「極秘の建造艦だ、捕縛が無理なら殺せ!」


舌打ちする。分かっていたが、素人の一撃で無力化は出来なかったようだ。

応援を呼んだのか、足音や人の気配が増えている。しかも殺気立っている。

視界に入った瞬間、銃弾の雨に襲われるのは間違いない。

考えるのをやめて、カイは一目散に走った。

建造中の不案内な艦の中を痛みを抱えて走り回り――ようやく目的地へ辿り付く事が出来た。


「ハァ、ハァ……やっと見つけたぞ、ペークシス・プラグマ!」


古き時代地球より旅立った植民船、長い航海を力強く支えた動力源。

すっかり寂れた保管庫に、天にも届かん巨大な結晶体が鎮座していた。


ペークシス・プラグマ、未知なる可能性を持つエネルギー体。


「後は動かす方法だけど……どうやら一か八かに賭けるしかないようだな。
毎度の事だけど」


血の跡でも辿って来たのか、確実に迫り来る警備隊。

そう遠くない内に、この保管庫に流れ込んで来るだろう。

出入り口は一つ――逃げる道も隠れる場所も無い。


「……俺が船に取り残されたあの時、赤髪は心配してくれた。
青髪も金髪も、海賊だけど悪い奴等ではなかった。
ペークシス……お前が船を飛ばしてくれたあの時から、俺達は始まったんだ。

頼む、ここで終わりにしないでくれ!」


マグノ海賊団とカイとの戦い、切り離されたイカヅチ内で彼らは睨み合っていた。

カイの戦略で終結しかけていた略奪戦は、タラーク首相の判断で撃ち込まれたミサイルで何もかも吹き飛んだ。

救ってくれたのはペークシス・プラグマ、発生したワームホールで彼らは危機を脱した。


男と女の物語は、宇宙の果てから始まった――


眠っていたペークシスが何故突然起動したのか、今でも判明していない。

メイア達を救ってくれたのか、ミサイル直撃による自分自身の消滅を感じたのか――

何にせよ、偶然とは考え難いタイミングだった。


「!? 動力部にまで踏み込むとは!」

「何たる失態! 恥は雪がねばならん――殺せ!」

「撃て、撃て!」


警備隊の怒りに満ちた殺意、全身に突き刺さる銃口の数々――

本能が悲鳴を上げる、身体が全力で回避を訴えている。

喉元までこみ上げる恐怖や不安を無理やり飲み込んで、カイはその場に踏み止まる。

ペークシス・プラグマに手を当てて、目の前の死から決して目を逸らさない。

命を投げ出す行為――

時間と空間を越える、半端な覚悟では絶対に不可能。

身も心も相手に預け、自分の全てをこの機に賭ける――

信頼とは、そこから生まれる。


「応えてくれ、ペークシス・プラグマ!!」


……カイが意識を保てたのは、ここまでだった。

鼓膜を震わせる銃声と、網膜を焼く閃光――

死への甘い誘惑か、生への力強い呼びかけか。

身体の芯に至るまで飲み込まれて、カイの視界は闇に閉ざされた。













 ――自分を振り返る旅は、これで終わり。

過去を知り、現実を見て、未来を求める。


もう、夢は見なかった。













眠りから覚めてようやく生を実感する、そんな経験はこれっきりにしたい。

目を開けてすぐに自分の身体を確認――穴だらけになっておらず、ホッとする。

世界は景色を消し去り、カイ・ピュアウインドは光の空間を漂っていた。


「何度か夢で見た事があるような気がするが……ペークシスの中だったのか。
操舵席のバートもこんな感じなのかな。風呂に入っているみたいで、気持ちいいな……」


 隅々まで透き通る光は世界を明るく照らし出し、心地よい浮遊感を与えてくれる。

  バートから聞いたクリスタル空間と似た構造なのだろう。

ニル・ヴァーナと――ペークシス・プラグマと繋がる空間。

生死が交差した瞬間、恐らくペークシスが起動して、自分を救ってくれたのだ。

想像を超えた話だが現実に見える光の世界――もはや、疑いようが無かった。


「……俺を救ってくれてありがとう、ペークシス・プラグマ」





『勿体無いお言葉――マスターを御守り出来て、無上の喜びを感じております』





陽光に満たされた空間に――空の妖精が浮かんでいる。

この世のものとは思えない、美しい少女――

全てを見据える双眸に、見た事の無い暖かなものが溢れ出ていた。

幻想の少女は少年の下へはせ参じて、その場に膝をつき頭を深く下げた。


『ご無事で……ご無事で何よりです、マスター!
主の危機に何も出来なかったこの身を、これほど心苦しく思った事はありません。
本当に、申し訳ありませんでした……!』

「そ、そんなに真剣に謝らなくてもいいだろ!? 留守を押し付けて悪かったな、ソラ。
遅くなったけど……ただいま」


人知を超えた知識を基盤としたロジカルな思考に、亀裂が走る。

どれほどの言葉を尽くせば、今の想いを表現出来るのだろうか……?

実体無き身であるのに、主に言葉をかけてもらうだけで胸がいっぱいになった。


『……おかえりなさい、マスター』


白い花が咲き開いてゆくような笑顔――初めて見る微笑みに、心が奪われる。

少女の満面の笑顔は、世界中のどんな薬よりも元気が出る。

感情を知らぬソラの喜びに満たされた心の現れは、長く続いた悲劇を覆す良い兆しに見えた。

ようやくの再会を喜び合っていると、



『う、うそ……本当に、ますたぁー……』



憩いの空間の中で異彩を放つ、暴力的な美貌を持つ少女。

真紅のルージュドレスを着て、血より紅い瞳を驚愕に染めている。

カイ・ピュアウインドの心の拠り所、空と――夢。

大切な名を与えられた少女は生を知り、ルビーの瞳に涙を浮かべて抱きついた。


『びえええええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜ん、ますたぁーーーーーー!!!』

「うわっ!? 何だ、どうした!?」

『うええええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜ん、びええええええぇぇぇぇ〜〜〜ん!!』

「……激しく泣いてやがるな……どうしたんだ、ユメ。泣いていたら分からないだろう」

『ふぇ、ぐす……だってぇ、ますたぁーが死んじゃったって……
世界から、消えちゃったからぁ……ふぇぇぇぇ……』


――どういう原理か分からないが、彼女達は自分の現在位置が分かるらしい。

地球母艦との激戦で反応が消失、その後影も形も無くなれば死んだと思うだろう。

この世を去って過去の時代へ飛ばされる――自分でも今だに信じられない経験だった。

二度は起こせぬ現象が、二つと無い命を救ったのだ。


「ごめんな……心配してくれたんだな」

『やだぁ……ユメを置いて行っちゃやだ……ますたぁーが一緒じゃないと、駄目なの!』

「やれやれ――甘えん坊だな、ユメは」


善悪の区別がつかず、人間が大嫌いな殺戮少女。

二言目には物騒な事を口にするが、最後まで見捨てずに傍にいてくれたのもこの女の子だ。

帰って来て良かった――マグノ海賊団の事ばかり考えていた自分を、改めて恥じた。


『ますたぁー、怪我してる……痛い? 誰にやられたの、ユメが殺してあげる!』

「……気持ちだけ、受け取っておくよ」

『む〜』

「不満そうな顔をしないの。俺はユメやソラがいるだけで、元気になれるから」

『えへへ……ますたぁー、大好き』


ご満悦の様子で、ユメはカイの胸の中で幸せそうに頬擦りしている。

少女と直接触れ合えるこの空間は、ユメやソラと出逢った世界と同じなのかもしれない。

二人の存在を含めて聞きたかったが、優先すべき話は他にある。


「ソラ、今の状況はどうなっている。
メラナスの連中やピョロ達は、マグノ海賊団と無事に合流出来たのか?」

『もういいよ、ますたぁー! 此処に居れば安全だよ。
ユメが絶対にますたぁーを守ってあげるから!』

「駄目だ。俺は戦う為に戻って来た。一人安心な場所でのんびりできない」

『どうして!? あいつらのせいで、ますたぁーが死にそうになったんだよ!
助ける必要なんてどこにもない。
あいつらなんて……皆死んじゃえばいいんだ!』

「ユメ、いい加減にしろ!
……心配してくれる気持ちは嬉しい。牢屋に入れられた時も助けてくれたもんな。
マグノ海賊団が、俺の敵なのは理解してる。だからこそ、だよ――

決着をつけるためにも、俺は戻らないといけない」


彼女達は守られるだけの人形ではない。時代の荒波を乗り越えてきた、宇宙海賊だ。

守り守られるだけの関係ではない。

ゆえに助力ではなく参戦――同じ舞台に立ち、共に戦うだけの話。


『……マグノ海賊団は感謝しないかもしれません。余計な事だと疎まれる可能性もあります。
それでもマスターは、マグノ海賊団と共に戦われるのですか?』

「ああ。俺は……あいつらに、死んでほしくないんだよ……
奪われるくらいなら、恨まれた方がマシだ」


取り戻した記憶に価値は無かったが、カイ・ピュアウインドとして過ごした思い出が今の自分を支えている。

過去ではなく今、この瞬間に立ち向かわなければ未来には辿りつけない。

敵の正体は分かった、因縁もある。戦いは避けられない、断じて。

ユメはそれでも何か言いたげな顔をしているが、ソラは主の決断を受け入れた。


『分かりました、マスター。
私もこの身をかけて、マスターの御力となるべく尽くします』

『ソラ! ますたぁーが死んじゃってもいいの!?』

『失いたくないから戦う、それもまた人間です。マスターを失って、貴方も理解出来たでしょう?』

『……ん』


不安は心配から生まれたもの、信じているからこそ裏切られる事を恐れてしまう。

愛しい主の死が皮肉にも、ユメの心を育んだ。

顔を曇らせる紅の少女を抱き締めて、カイはソラを一瞥する。

ソラは承知して――主が去った後に起きた数々の出来事を語った。

神の視点で見続けた人々の感情、揺れ動く心が起こした悲劇と喜劇。

血と汗と涙に濡れた、男と女の哀しい物語が語られた――


「……ことごとくぶっ壊してくれたな、あいつら……」


自分さえ居なければ全てうまくいく――自虐的思考を嘲笑う、大波乱。

危ういバランスで何とか成り立っているが、舞台は間もなく土台から崩れ落ちる。

すぐに悟った、一人では打開出来ない事態だと。


「手伝ってくれるか?」


怪我や疲労を癒す時間も無い。急いで帰り、一つ一つ立て直さなければならない。

地道で苦労も多いが、責任を取るとは――案外、そういうものなのかもしれない。

少なくとも敵を道連れに自爆ではない、決して。己の過ちと共に、彼女を正す。


『イエス、マイ・マスター』


是非も無い。誇りを持って、主の命に従う。

ユメは自らの意思で応えたソラを哀しそうに――羨ましげに、見つめるのみ。

男女共同生活を始めて半年、得られたものは確かに在った。


「ユメは応援係だ」

『おうえん……係?』

「もう泣きたくなるほど、悲惨な状況だからな。俺やソラを元気付けてくれ。
元気良く『ガンバレー!』、てな!」


 ――加勢出来ない事情があるのだろう。天真爛漫な女の子の笑顔を曇らせる、何かが。

薄々、察してはいる。理解を超えて現象が続いているが、手に入れた情報もまた多い。

でも今、追及するべき時ではない。少女を悲しませたくなかった。


牢屋で励ましてくれた時――嬉しかった。本当に、嬉しかったのだ……


ユメが居なければ、挫折していただろう。

女の子に最優先でやるべき事は――


『うん! いっぱい、い〜〜〜っぱい、応援するね!』


――笑顔にすることだ。

ニコニコ嬉しそうに手を振るユメは、たまらなく可愛かった。

カイは苦笑して、ソラに向き直る。


「さて、この非常時に寝ている子を起こすか」

『彼らは大人に近しい年齢ですよ、マスター。ご案内します』


マグノ海賊団とユメ、両者の認識に大きな違いがある。

最悪な状況を一変する、切り札。

追い詰められて疲弊する仲間達に送る、強力な援軍の存在――


「……よく生きてたな、こいつら……」

『人間の生命力には、驚かされます』





メラナス軍所属整備士、セラン。

ニル・ヴァーナ操舵手――バート・ガルサス。





 カイの目の前に浮かぶ、結晶体。

クリスタルの棺に納められて、二人の人間が静かに眠っていた。



人が起こす奇跡に、妥協も手加減もありはしない。





























<to be continued>







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