VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 3 −Community life−





LastAction −共同生活−




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 皆、一様にそれに視線を注いでいた。

眼前まで迫りくる巨大な氷塊を流氷の欠片へと昇華させ、悠然と佇む機体。

青緑色のガス雲に身を包まれて、機体は朦朧とした辺り一帯において一際光り輝いていた。

背中に巨大なキャノンを搭載させて融合戦艦前で堂々とした姿には、凛々しさすら感じさせる。

幻想的とも言える光景は、艦内の麗しき女性クルー達を強烈に惹きつけた。


『間一髪って所か。危なかったな、お前ら』


 呆然とディータ機とカイ機の合体機を見つめていたブリッジクルー達は、その声にはっと我に返った。

これまでにないフォルムを備える機影にさしものマグノも驚きを隠せない様子であった。


「その機体、あんた一体どこから持ってきたんだい?」


 大方の予想はついているものの、マグノは通信モニターに映るカイに問い正した。

興味津々に自分を見つめている艦内のクルー達の様子を察して、自然と態度をでかくする。


『ふ、聞きたいか。そうかそうか、まったく仕方がないな。
大サービスで教えてやるとす・・・・・・』

『お頭ーーー!聞いてくださいよぉ〜!!
ディータと宇宙人さんが合体できたんですよぉ!すっごいでしょう!』


 モニターいっぱいに乗り出してにこにこ笑顔でべらべら喋るディータを、カイは乱暴に隅に押しやった。


『あっさりばらすなよ!有り難味がねえだろうが!!』

『だってだって、皆に教えたかったから・・・・』

『子供か、お前は!』

『ディータ、大人だもん!』


 先ほど間一髪で助けた時の威風堂々は欠片も見当たらず、カイはディータと口喧嘩を始める。

通信を通して大声で筒漏れになっている会話内容に、思わずベルヴェデールはクスっと口元を緩める。


「二人とも子供じゃないの」

『こらぁ!聞こえたぞ、そこの金髪!』


 新型のコックピットより通信回線を開いているカイが、ベルヴェデールに指を突きつける。

映像上とはいえ男に指差しされて、不快そうにベルヴェデールは表情を歪める。


「アンタ、いい加減その呼び方やめなさいよ!
私には『ベルヴェデール・ココ』っていう可憐な名前があるのよ」

『何が可憐じゃい!俺だってカイ・ピュアウインドっていう男らしい名前があるんだぞ。
神妙に覚えやがれ』

「あんたなんかあんたで十分よ!男の名前なんて覚えるだけで汚らしいわ」

『何だと!俺だって女の名前なんぞ覚えたくねーよ。
脳みそが腐っちまうよーだ』


 そう言って舌を出すカイに顔を真っ赤にして、ベルヴェデールは言い募ろうとする。

だが一瞬早く、マグノは両者を諌めた。


「二人とも喧嘩はおやめ。
それでディータが無事な所を見ると、救出はうまくいったんだね」

『ああ、ばっちりだ。もう一人の方も無事保護してあるぜ』


 カイは一つ頷くと、すっとモニター横よりガスコーニュの姿がホログラミング化される。

ビジュアル度の高さにより、ガスコーニュの具体的な顔色も綺麗に表示されていた。


『お頭、心配かけてすいません。
仕事はきっちりこなしてきたんで、それでチャラって事で』


 大柄な笑みを浮かべて手にデータディスクを掲げるガスコーニュに、マグノは苦笑して頷いた。

二人の元気そうな様子に安心したのだろう。


「・・・よくやってくれたね。感謝するよ、坊や」

『よ、よせやい。俺はただ義理を果たしただけだ。
っと何か怪我してたみたいだから、青髪に応急手当だけしてもらったんだ。
念のため、ドゥエロに見てもらったほうがいい』


 言葉の裏にドゥエロの監房からの自由を促している事を察したマグノは、鷹揚に頷いた。

怪我をしているとあっては、一番の最適な治療はドゥエロであろう。

だが、一つだけ引っかかる点があった。


「それはかまわないが・・・・メイア、そこにいるのかい」

『は、はい。
申し訳ありません、お頭。事後報告という形ではありますが、二人の救出の任務完了しました』


 テキパキ救出の際の経緯を説明するメイアだったが、マグノの訝しげな視線に言葉を慎む。


『お、お頭何か問題がありましたか?』

「いいや。
ただ男のヴァンガードに乗っているのが不思議に思えてね・・・・」


 その言葉に他のクルー達も、一様に頷いた。

普段孤立を望んでいるはずのメイアが、カイと同行しただけで珍事と言える程であった。


「よりによって男と一緒なんて・・・メイア、不潔よ!」


 口元を抑えて嘆かわしいとばかりにそう言うアマローネであるが、どこか楽しそうであった。

普段冷静沈着で冗談の通じないメイアを囃し立てるいい機会だと思っているのかもしれない。

そんな彼女の思惑は見事に功を奏した。


『何を馬鹿な事を言っている!私は任務を優先しただけだ!』


 指摘されて慌てて戒めるメイアに、傍らのベルヴェデールもほぐそ笑む。


「あやし〜い。さっきの戦闘でもそいつと一緒で・・・」

『わー!わー!!違う違う、ちがーう!
こいつはただ赤髪ともう一人が心配で助けに言ったんだよ。なあ?』


 合体の事をばらされてはたまらないと、慌てて事情を説明してメイアに同意を求めるカイ。

だが、まったくの逆効果だった。


『お前まで何を言っている!私はただ任務を遂行しただけだ。
個人的な感情など関係ない』

『てめえ、人がせっかく庇ってやったのに』

『頼んでなどいない』

『かぁ〜〜〜、どうしてそうお前は可愛くない事ばかり言うんだろうね』

『お前こそ馬鹿げた言動しか出ないのか、その口からは』

『ふ、二人とも喧嘩は止めようよぉ〜』


 おろおろしてカイとメイアの間に入るディータだったが、勢いは止められない。


「メイア、ガンバレー!
男なんてこてんぱんにしちゃって!」


 手でメガホンを作り円らな口元を覆って、無責任なエールを送る。  

『こら聞こえたぞ、そこの金髪!』

『名前で呼びなさいって言ってるでしょう!』

『うるせえ!それより後で勝負しやがれ!』

『私は忙しいの。あんたみたいな暇人の相手なんてできないわよ』 


 あちらこちらと飛び火が立つ口喧嘩に、さしものマグノも呆れて物が言えなかった。

コックピット内で騒ぎ立てるメイア達、ブリッジから囃し立てるアマローネ達。

広がる喧騒であったが、意外な形でに終止符が打たれる。


『喧嘩するのもいいけどね・・・・いい加減降ろしてくれると嬉しいんだけど?』

『あ・・・・・・」


 胸の怪我を抑えて苦しそうにしているガスコーニュに、一同は沈黙した。















 一連の事件はようやく幕を閉じつつある。

艦内の不純物の中和も完了され、フルコーティングされた新しい装甲を有した融合戦艦。

船のナビゲーションを担うバートも新モデルの装甲完成により、身体の怪我は回復した。

バート自身が操縦する『個人主導走行』、プログラミングにより自動的に船を進める『目標自動走行』。

二つの基本的操縦マニュアルを何とか体得したバートは、心機一転で船の操縦を行う。

融合戦艦は彼の指示通りに氷塊の流れを進み、ガス雲を飛び出した。

星が煌く宇宙空間を一際輝いて航海する船の勇姿には、一糸の迷いもない雄々しい姿であった。

基本的ベースを旧艦区に海賊母船を下部に取り込んだ形をして、新しい船は今をもって誕生したのだ。

そして船の制御、そしてシステムは完全に復旧され、クルー達は一心に後始末を行っていた。

旧艦区の全体的な把握に結晶の残骸清掃、居住区の一身改装。

システム類の安定化に成功はしても、まだまだ一日は終わりそうになかった。

無論、それはカイ達も同様である。

バートは船の操縦、ドゥエロはガスコーニュを含める一連の事件の怪我人の治療。

カイは脱獄した事へのマグノ達への釈明と救出時の出来事の説明、そしてパルフェとの互いの結果報告。

メイア機同様にディータ機との合体での心身疲労にプラスしての後始末に、

さしものカイもぐったりとして、メインブリッジ内にてへばっていた。


「だらしがないぴょろね。男ならしゃんとするぴょろ」

「お前はいいよな・・・ただ黙って座ってればよかったんだからよ。
こっちは今日一日で色々ありすぎてヘトヘトじゃい」


 自分がこれまで生きてきた日々全てが覆される程の一連の騒動。

今日の朝一番では、まだ自分はタラークの酒場の手伝いに過ぎなかったのだ。

振り返ってみるとまだ一日も過ぎていないのに、こうして海賊達のメインブリッジにいる。

昨日の自分では到底想像もできなかったに違いない。


「僕だって役に立ったぴょろ!船は完全に復旧したんだぴょろよ」

「はいはい、お前は偉いよな〜」


 相手をするのも億劫になって、カイはメインブリッジの床に転がった。


「ちょっと、そんな所で寝ないでよ。邪魔よ、邪魔」


 カイのだらしない姿を見咎めたベルヴェデールは、自分の仕事場からカイを非難する。

カイはごろりと半回転して、だるそうな目でベルヴェデールと視線を合わせる。


「しょうがねえだろう。疲れてるんだからよ」

「監房で寝ればいいでしょう。どうしてブリッジにいるのよ、あんたは」

「今の今までばあさんに色々質問されてたんだよ。
まったく年よりは話が長いから大変だったぜ・・・・」


 元はといえば自分気ままに行動をしたカイにも原因があるのだが、今の所それは棚の上に置かれている。

手元でコンソールを操作しながら、アマローネは疑問の声をあげる。


「どういえばどうしてこんな所で寝てるのよ。男は監房入りの筈でしょう?」


 役に立ってはいるものの、立場的には捕虜である。

アマローネが疑問視するのはもっともだった。

全身に疲労を滲ませながらも、カイは義理堅く答える。


「何か大切な話があるから、ここにいろって言われたんだよ。
お前らにも説明しないといけないほどの重要な話なんだってよ」

「私達にも?」


 ベルヴェデールが更に問いただそうとすると、ブリッジ隣室の会議室より二人の女性が出てくる。

強い眼光をひめた厳しい表情をしているその二人は、マグノとブザムだった。

ブリッジにいる者全てが固唾を飲んで見つめる中、ブザムはマグノに視線を向ける。

艦長席に座ったマグノが重々しく頷くと、ブザムは手元のコンソールを操作する。

するとブリッジのメインモニターから艦全体の通信施設、マルチモニター全てにアクセスが行われる。

以前カイがマグノ達に自分の決意を語った際に行ったシステムと同じである。


『こちらブザム。これより艦内全てのクルー達に緊急に知らせねばならない事がある。
きわめて重要な話だ』


 機関部内で作業を続けるパルフェ達が手を止めて、作業室内のモニターを見つめる。


『お頭との重ねた協議の結果、現在の状況そのものを今より説明する事にした』

「ほう・・・・・」


 胸に包帯を巻いたガスコーニュが、レジシステムのマルチモニターへ視線を向けた。

ブザムのこれまでにない程の深刻な表情に、彼女自身も感じ入る何かがあった。


『敵の残骸から入出したデータを分析した結果、一部ではあるが我々を脅かす敵の正体がわかった』

「えっ!?悪い宇宙人さんの事!?」


 旧艦区格納庫内でドレッドの整備をしていたディータが、驚いたように顔をあげる。

傍らで同様に作業をしていたメイアは、静かにブザムの説明の続きを待った。

それは他のクルー達全てにおいても同様である。

未知なる敵の正体、突然襲い掛かってきたあの敵は想像を越えた産物であったからだ。


『今よりデータに保存されていた映像を送る。これを見てもらいたい』


 ブザムの言葉と同時に映像の彼女の姿がシャットアウトされて、記録映像がモニター全てに映し出される。


「何よ、これ!?星、かな?」

「変な形をしているぴょろね・・・・」


 ブリッジ内にて映像を見つめるアマローネとピョロから、軽い驚きが混じったコメントが飛び出した。

映し出された映像はややぼやけてはいるものの、一つの星の映像であった。


『これが敵の本星だ。星系も座標もまったく不明だが、どうやらかなりの戦力を有しているらしい。
我々がこれまで相手をした敵とは全く性質が異なる敵だ』



 映し出されている星は、ブザムの言うとおり異質な星であった。

星そのものが全体の覆わんばかりの歯車に包まれており、外側の大気を掻き回すさんばかりの巨大さは、

映像として映し出されているにも関わらず、奇妙なリアリティを感じさせる。

歯車に連動してメカニックな機械が星を覆い尽くしており、趣味の悪い不傾げなアートにも見えた。

見入っている艦内のクルー達もあまりに異様なその星に、それぞれに当惑の表情を浮かべていた。


「なんか変な星よね・・・うん?どうしたのよ、あんた」


 ブリッジにて胸元で腕を組んで首を捻るベルヴェデールだったが、ふと気がついて視線を向ける。

そこには・・・・・・・





―――――ドクンっ





「はあ・・・はあ・・・・」





   ―――――ドクンっ





 苦しげな吐息。





―――――ドクンっ





 駆け抜ける鼓動。





―――――ドクンっ





 波立つ呼応。





―――――ドクンっ





 荒げる内面。





―――――ドクンっ





 沸き立つ不快感。





―――――ドクンっ





 そして・・・・・





―――――ドクンっ





 そして・・・・・





―――――ドクンっ















 ――――――――――憎悪















「ちょっと、ちょっと!しっかりしなさいよ!!
聞こえてるの!ねえ!!」

「っは!?」


 目を見開くと、どこか戸惑った表情のベルヴェデールが目に入る。

そこでようやく気がついた。

手の平を汗でびっしょりと濡らしている自分の姿に。

朦朧とする頭を振って再び視線を戻すと、モニターには既に記録映像は残されてはいなかった。


「何だ、今の・・・・?」


 モニターに映る謎の星を見た途端に襲われた急激な圧迫感。

カイ自身も分からない感情の渦が自分の身体を暴れ回る不可思議な感覚。


「気持ち悪い・・・・」


 なぜこんな訳の分からない気持ちになったのだろう?

突然湧き上がった心の狭間の理性と感情のぶつかり合いに、自分自身が当惑していた。


(あの星の映像が原因か?だけど、俺はあんな星は見た事もない筈・・・・)


「本当に大丈夫なの?顔色、真っ青よ」

「どうしたんだぴょろ?元気なさそうだぴょろよ」


 カイがはっと顔をあげると、ブリッジクルー全員が自分を見つめている事に気がつく。

ブザムも説明の手を止めて、カイを訝しげに見つめていた。

一呼吸してなんでもないという風に手を振り、カイは口を開いた。


「悪い、悪い。説明の邪魔をしちまったな。
俺のことは気にしなくていいから話を進めてくれ」


 どうも疲れているみたいだ、と力なく笑って、カイはその場に再び座り込んだ。

まだ気持ちは落ち着かないが、これ以上気遣いを避けるのも何となく悪い気がしたからだ。


(今日はハードだったからな・・・疲れていたんだろう)


 こじ付けではあったが、自分をそう納得させて説明を聞き入る体勢に入るカイ。

ブザムは気を取り直して真剣な表情に戻り、説明を続ける。

『不幸な事に我々はこの未知なる敵の領域に入ってしまっており、侵入者として攻撃を受けている。


我々が今後メジェールへの進路を取るとなると、今後も同じ理由で敵の攻撃を受ける羽目になるだろう』


 話も架橋へ入り、固唾を飲んで聞き入る艦内の全クルー達。

想像を絶する過酷な状況に陥っている事に気がついた事もあってか、皆の顔色は優れなかった。


『その理由は敵側が我々の星、そして男の星タラークに対して
「刈り取り」という暗号作戦を展開している事が判明したからだ。
作戦内容はいまだ不明ではあるが、一つだけはっきりしている点がある。
彼らは我々、そして本星そのものの壊滅を目論んでいる』

「ええええええぇ!?そ、そんな・・・・・・・・・」


 あまりに重大な話を聞かされて、バートはナビゲーション席上で力なく悲鳴を上げる。

今まではどこか他人事だと感じていた事が、もう他人事ではなくなったのだ。

半ば強制的な運命を虐げられている己の身の上に嘆きたくなるのは無理もなかった。

クル−達の戸惑いと不安を察してか、ブザムは神妙に瞳を閉じる。

そしてモニター映像が切り替わって、海賊団お頭を務めるマグノが姿を表した。


『皆、聞いてくれたね。ブザムの言う通りの現状が我々に降りかかっている。
・・・・アタシらは海賊だ。メジェール、タラークにも義理はない。
このまま見捨ててしまっても、アタシらは痛くも痒くもない』

「ばあさん!お前な・・・・・!!」


 突き放した言い方をするマグノに怒りを露に立ち上がりかけたカイだったが、

マグノは落ち着いた様子で話の続きを行った。

『しかしだ。せっかくのお得意さんをむざむざ潰されるってのも面白くはない。
よってアタシらは敵より早く故郷へ戻り、この危機を伝えようと思う』


 見捨てる訳ではないと語るマグノに、ようやく落ち着いたようにカイは座りなおした。

ところが次の一言でカイどころか、艦内全ての人間がひっくり返る事になる。


『そのためにも男の力は必要だ。
よって捕虜となっている三人を今後クルーの一員として取り入れようと思う』

「ええーーーーー!?こんな奴が仲間に!?」

「まじか!?海賊の一味になれっていうのかよ!?」


 カイとベルヴェデールがそれぞれに嫌悪感剥き出しで叫び、顔をあわせる。

その一瞬後、フンとそれぞれにはっきりと視線を逸らした。


「う、嘘でしょう・・・?男なんかが仲間になるの・・・・」


 呆然とアマローネが佇む背後で、バートはナビゲーション席上に寝転がりながらもコメントした。

「は、はは・・・・ようやく僕らの価値が分って下さいましたか」


 捕虜という厳しい立場から一転して、同じ仲間としての扱いとなる。

命と待遇の保証をされて、さっきとは一転してバートは喜びを噛み締めていた。


『この船といい、あのでかいロボットといい、分からない事はたくさんある。
この旅を続けていく内に、一つ一つ判明していくしかない。
クル−全員の協力に期待する!・・・・以上』


 マグノはそこで全ての話をまとめ、通信を打ち切った。















「ふう・・・・・・」


 全ての説明と連絡を終え今後の多難な道のりに、艦長席にて全身の力をぬくマグノ。

男と女の共同生活の案は、マグノにしても一か八かの賭けであった。

何しろ元々はそれぞれに男女蔑視として互いを憎みあうよう教育された者たちばかり。

生まれた時から植え付けられている異性への嫌悪は、根底からの差別を生み出しているのだ。

今のカイとベルヴェデールとの関係やメイア等がいい例である。

マグノとて全てがうまくいくと楽観視している訳ではなかった。

しかしながら、現状況はとんでもない危うい状態にあるのも事実。

外面からは未知なる敵、内面は男女の問題と、悩むの種ばかりであった。

今後が見えない不安にマグノは遠い目をしているとブリッジのシャッターが開き、一組の男女が入ってくる。


「お頭、仕事の途中なのに申し訳ありませんでした。持ち場に戻ります」


 しずしずとおしとやかな声で頭を下げたのはエズラであった。

傍らにはドゥエロが付き添っている所を見ると、トラブルで休止していた治療が無事に済んだのであろう。

倒れた時に比べて、エズラの顔色はすっかり元通りであった。

エズラの元気そうな様子に一安心したのか、マグノは穏やかな声で尋ねる。


「気にする事はないよ。それより原因は分かったのかい?」

「え、ええ。その、実は、あの・・・・・」


 何故か頬を染めてもじもじとし始めるエズラに代わって、ドゥエロが前に出る。


「彼女の体内に別の生命体が寄生している事が判明した」

「別の生命体!?
それってウイルスとかの類って事か・・・?」


 ドゥエロの謎の発言に想像力を膨らませて、カイは尋ねた。

同時に聞いたマグノも驚愕に表情を歪め、傍らのエズラが慌てて言葉を直した。


「ち、違います!言い方は間違っていませんが、それでは誤解されますよ・・・・
え、えーと・・・・私、実は・・・・・赤ちゃんができたみたいなんです・・・・」

「ええっ!?本当に!?」


 別の意味で驚愕の告白に、ブリッジ内は俄かに色めき立った。

先ほどまでの深刻な雰囲気は消し飛び、口々に明るい声が生まれる。


「もうっ!いつからファーマになったのよ!」

「私も知りたーい!オーマは誰よ、エズラ」


 興味深々に瞳を輝かせて、アマローネとベルヴェデールはエズラに近づいた。

逆に意味が分からないと言う様に、カイとバートはそれぞれに顔を見合わせた。


「あ、あいつら、何言っているか分かるか?」

「全然。赤ん坊って工場で生まれるんじゃなかったっけ?」

「あいつらの口ぶりからすると違うみたいだぞ、バート」

 二人が首を傾げるのは無理もない。

男の星タラークでは当然女は一人もいないがために、工場にてクローン化されて生まれるからだ。

女性の胎内より育成され、出産されるという事実はまさに未知の領域だった。

二人のそんな困惑を代表するように、ドゥエロは元来の好奇心旺盛さを浮き彫りにする。


「女は胎内で複製を作るとは聞いていたが・・・・本当だったのか」

「ええ。オーマが卵子を提供して、ファーマが母体で育てるんですよ」


 つまりオーマが父親役、ファーマが母親役という訳である。

もっとも女の星メジェールゆえに女同士という事になるのだが・・・・・・


「今日は色々とあったけど、最後の最後で嬉しい報告が待っていたね」


 話を聞いたマグノも、自分の事のように嬉しそうだった。


「申し訳ありませんでした、お頭。
この仕事が終わったら報告するつもりだったんですが・・・・」

「いいさね。いい子を産むんだよ、エズラ。立派な母親におなり」

「はい!ありがとうございます・・・・・」


 慈愛のこもったマグノの言葉に、エズラは涙ぐんで俯いた。

はしゃいでいる皆の様子を笑みを浮かべて見つめつつ、カイは呟く。


「ふーん、女ってそうして子供を産むんだな・・・・」

「そうよ。男みたいに野蛮な育ち方はしないのよ」

「あん?お前がそんな上品に育ったようには思えませんけどね、ボク」

「何よ!どういう意味よ、それ」

「そのまんまだよ、そのまんま。ちっとはあっちの人を見習ったらどうだ?」

「こいつ・・・やっぱり男って最低!」


 第二回戦開始とばかりに口喧嘩を始めたベルヴェデール達に、周囲の目はだれたように見つめる。


「あいつら、どうしてあんなに元気なんだ・・・・」

「僕にいわれても困るぴょろよ」


 バートとドゥエロがそうコメントして、エズラはくすくすと笑って二人の様子を見つめていた。


「もう!いい加減やめなさいよ、ベル」

「ちょっと待って。こいつだけは徹底的にやらないと気が済まないわ」

「上等だ。やれるものならやってみろ、この!」


 アマローネが呆れて止めようとするが、二人の耳には入ってこないようだ。


「やれやれ・・・心配は杞憂だったみたいだね」


 自分にとっては部下であり、可愛い孫同然であるクルー達が、カイを中心にしてぶつかりあっている。

感情こそそれぞれ別箇だが、今まで決して見られる事のない男と女の風景。

これから先長く辛い旅路を予感されるものの、その果ては決して絶望ではない。

一つの目的を持って始まる新しい共同生活に、明るい兆しが心に刻まれたマグノであった。


















そして一同がカイ達を見つめる中で・・・・・・・



――――カシャっ





 ブザムは無言でコンソールからあるディスクを人目につかない様に引き抜いた。

マグノの目にも止まらないその一連の動作には、まったくの淀みも見受けられない。
引き出したディスクとは例のガスコーニュが持ち帰ったデータディスクだった。
先程とはうって変わって、冷たさを瞳宿す彼女の様子に気がついた者は、





・・・・・・一人もいなかった・・・・・・・・





















< −Community life− end>

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