VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <後編>






Action11 −宣告−






九十九式SP蛮型撲撃機――ヴァンドレッドと比較すれば見劣りするが、通常の機体とは一線を画す人型兵器。

主武装の二十徳ソードは汎用性に優れ、近距離戦では豊富な戦術を駆使出来る。

頑丈な装甲はペークシス・プラグマの加護を受けており、ドレッドのシールド以上の防御力でパイロットを守る。

陸上戦用から宇宙戦対応可能となり、欠点とされていた鈍重な機動力も改善。

飛躍的な性能の向上に反比例して、操縦の難易度は低下。素人でも必要最低限には使用可能。

何より特筆すべきは、パイロットの少年が考案した遠距離兵器『ホフヌング』の存在――

無限なる力を持つペークシス・プラグマの断片を宿した、弓形の兵器。

ペークシスの力を人為的に制御する為エネルギー放出に時間は必要だが、その威力は従来のレーザーとは桁が違う。

無人兵器の破壊はおろか、星を砕く隕石の撃墜や巨大戦艦の大砲撃を相殺まで可能とする。

謎の多いペークシスゆえに、完成にまで漕ぎ着けたのは一基のみ。

その武器を携えた人型兵器――英雄の機体が悪魔の兵器となって襲い掛かる。


「・・・・・・性質の悪い冗談はほどほどにしてもらいたいもんだねぇ・・・・・・」


 荒れ狂う宇宙空間の戦場にて、ドレッドチームの補佐役兼指揮担当デリ機が舞い踊る。

硝煙弾雨の中を駆け抜ける操縦は見事だが、パイロットである本人は極度の緊張と不安に汗を掻いている。

トレードマークの長楊枝を小刻みに揺らして、ガスコーニュ・ラインガウは外部モニターを睨みつけた。


「恨んで化けて出たってんならまだ可愛げがあるが・・・・・・コイツはちょっと、悪ふざけが過ぎるよ」


 ガスコーニュの分析では、戦況は二極化しつつあった。

同盟を結んだメラナス軍は無人兵器艦隊、マグノ海賊団主力ドレッドチームが敵母艦と主力。

すなわち――ヴァンドレッドシリーズにSP蛮型、敵が生み出した最強の刺客。

キューブタイプをベースに作り出された贋作品だが、性能は本物とほぼ同等。

チャラーク・メジェールを遥かに凌駕する科学力で誕生した兵器、その神懸りな力は今まで恩恵に与った彼女達が一番知っている。

メラナス軍は無尽蔵な数の暴力に、マグノ海賊団は驚異的な能力に追い込まれていた。

両軍が協力し合えれば少しは戦況を変えられるかもしれないが、所詮は急ごしらえの同盟軍――呼吸を合わすのは難しい。

数の差はあれど両者の戦力は拮抗している、立場の上下はない。

問題はそれぞれの部隊の心理状態、チームワークには互いへの歩み寄りが必要なのだが・・・・・・彼らの精神状態は芳しくない。


「あの子達の動揺が手に取るように伝わってくるね。喧嘩した後じゃ、特にね」


 メラナス軍は何度も地球艦隊に追い詰められて、敵母艦そのものに恐怖を抱いている。

圧倒的な戦力差は変わらずだが、今回の戦闘では敵母艦が痛手を被っている。これほどの機はない。

この戦闘こそ母星の命運を賭けた聖戦であり、最終決戦――次はない、断じて。

彼らの悲壮な決意が報われようとしない今の苦境が、星を想う気高き心までプレッシャーで潰れようとしている。

マグノ海賊団は、そんな彼らよりも苦しい心境に追い込まれている。


ヴァンドレッドシリーズにSP蛮型――かつて彼女達の希望だった機体が、敵となって襲い掛かってくる。


これまで地球が放つ刈り取り部隊を倒してきたのは、ドレッドチームではない。この眩くも強き機体なのだ。

そして本物である自分達の希望は、翼が折れて墜落してしまった。最早誰一人、この場にはいない。

ヴァンドレッドを操るパイロット達の不在――彼女達の末路は悲惨そのものだ。


ディータ・リーベライは事故の負傷により記憶の退化、無力な子供に戻ってしまい治療法は存在しない。
メイア・ギズボーンはバート・ガルサスの死で廃人、監房の中で闇に閉じこもっている。
ジュラ・ベーシル・エルデンはカイ・ピュアウインドの死で精神錯乱、夢の世界で呆けてしまっている。


そう――極めつけはカイ・ピュアウインド、彼の壮絶な死こそがマグノ海賊団に絶望のどん底に叩き落した。

最前線で戦うドレッドチームには苦痛の極みだろう。

彼女達はつい先日本物のSP蛮型と――カイ・ピュアウインドと戦ったのだ。

半年間燻っていた互いの理念をぶつけ合って、文字通り命を削って死闘を繰り広げた。

レジ店長であるガスコーニュはパイロットと接する機会が多い。それゆえに、彼女は知っている。

奔放な生活と大胆な行動で女性陣をいがみ合う事も多かったカイだが、ドレッドチームのパイロット達には信頼されていた事に。

共に戦い、幾度となく戦場を駆け抜けて、数多くの危機を乗り越えた彼の戦果を彼女達は高く評価していた。

広く自由な宇宙で戦うパイロット達は、故郷の古い教えよりも純粋に実力を見る。

人間命の際で本性をさらけ出す――絶体絶命の危機に陥った時のカイの考え方や行動を、彼女達は身近で見てきたのだ。

他人を寄せ付けないメイアとさえ仲良くなっていた事もあり、尊敬すらされていたと言っていい。

そんな彼との仲違いは辛く、不本意な戦闘は勇猛果敢なマグノ海賊団ドレッドチームの戦意すら削ぎ落とした。

それでも最後まで戦いを止めなかったのは、少年の理念を心から理解していたが為。

略奪を止める――海賊の意義を否定する彼の信念を汲み取ったからこそ、彼女達は海賊の旗印を掲げて本気で戦えたのだ。

勝っても負けても悔いはない、心身に痛みこそあっても清々しさがあったのだろう。


比べて――今のこの戦いには、何の意義もない。


今戦っているのは英雄の醜悪な模倣、初めて尊敬出来た男の勇姿を汚す悪魔。

カイ・ピュアウインドの命を奪うだけではなく、彼の正義まで踏み躙るというのか!

猛烈な怒りはある、殺したいほど憎い、全てを奪い破壊しつくしても何一つ後悔しない。


――けれど、その姿だけは憎たらしいほど似ていて・・・・・・


少年はもう死んでいると分かっていても――いや、分かっているからこそ辛い。

少年の機体を模した無人兵器の機械的な殺意すら、自分達が追い込んだ少年の無念に思えて――

ドレッドチームの足並みは乱れ、救助を求める声でデリ機の通信回線がパンクする。

目に見える彼女達の混乱や、耳に聞こえる悲鳴がガスコーニュの胸を引き裂いていた。


彼女だけではない――彼女が守ろうとしていた、居場所までも。


「BC、お頭・・・・・・くっ、通信回線は死んじまってるか・・・・・・
かといって船に戻ろうにも、ここを離れたらあの子達が危ない。どうすればいいんだい!」


 初の戦死者に味方の誤射による仲間殺し、とどめには上下真っ二つにされた不沈艦――

男と女の船が融合した戦艦が、男女共同生活崩壊と共に二つに引き裂かれたのである。

戦況を大きく一変させたのが、希望を関した武器の贋作なのだから笑い話にもならない。

不幸中の幸いにもペークシスの結晶で構成された連結部が破壊されただけのようだが・・・・・・船が沈みつつあるのは確かだ。

かつてのメジェール艦は、旧イカヅチにあるペークシスのエネルギーを切断されてシステムの一切が停止。

かつての旧イカヅチは操縦不能となり、果て無き宇宙空間の闇に墜落している。

これ幸いとばかりに、無人兵器が次々と分断された二つの艦に群がっていた。

艦内には多数の非戦闘員――今まで安全だった者達にも、とうとう危険が迫って来ている。

一刻も早い救助が必要だが、現場を離れる事は目の前のドレッドチームを見捨てるに等しい。

メインブリッジからの連絡が途絶えた以上、チームに的確な指示を送れるのはガスコーニュ以外に存在しない。

経験豊富な彼女が導き出した正解が、彼女自身を大いに苦しめた。

このままではジリ貧、けれど打つ手立てはない。

普段は上司や部下に頼られる姉御肌のガスコーニュも、この戦況には心の底から誰かに頼りたい気分だった。

自分の仲間を守ってくれる誰かがいるなら――神にでも縋りたい。

苦々しい顔で頭を振る。現実逃避している場合じゃない。

チーフクラスのほぼ全員が動けない状態、組織は既に崩壊寸前。少しでも気を緩めれば、大勢の仲間が死ぬ。

自分達だけならば既に全滅してもおかしくはなかった状況を、ここまで持ち堪えられたのは少年が残した遺志によるもの。

敵母艦の痛手に頼もしい味方との協力関係、何より少年が命懸けで足止めした結果が今の戦況をギリギリ繋いでいるのだ。

自分にまだ残る弱さを厳しく叱咤して、ガスコーニュは檄を飛ばす。形振りかまわず、通信をオープンに。心を開いて。


その隙を、悪魔は逃さない。



『――オ前達ハ、ワレワレノ一部となるもの。ソレ以外に、如何ナル理由モ存在シナイ――」

「! この声、は・・・・・・!?」



 広げられる範囲までリンクした通信網から、音声が飛び込んでくる。

コックピットの中で飛び交うクルー達の声は一瞬で消えて、その声だけが浮かび上がった。

送られてくる通信範囲は広大――恐らくは、この宙域にいる全ての者達に。


歯を食い縛って戦う者達の、心に突き刺さる。



『――我々ハ、地球ヨリ遣ワサレタ――』



 終わった――ギリギリ繋ぎ止めていた彼女の理性が宣告する。

どれほどの苦難が訪れても平然と笑っていた屈強な店長が、膝を折って倒れんばかりに青褪める。

これまで謎とされていた敵から、突如突きつけられた明確な意思。

気を抜けば仲間が死ぬと分かっていても、立ち向かう力は抜けていく。

敵に対しての恐れではない。祖先の星への畏怖や恐怖でもない。

彼女が恐れるのは、その程度の次元ではない。


マグノ海賊団にとって、一番の脅威は――


ガスコーニュの口から・・・・・・長楊枝が零れ落ちた・・・・・・















『――我々ハ、地球ヨリ遣ワサレタ――』



運命の使者が、静かに語りかける。唐突に、冷徹に、無機質に。

その絶対的な声の主は回線を通じてなお圧倒的で、絶大な存在感を宿していた。

強制介入された通信はセキュリティすら突き破り、この空間内に居る全ての人間に突きつける。

逃げ道のない、降伏宣言――確定された未来を。



『――オ前達ハ、我々ノ糧ノタメニノミ存在ヲ許サレテイル――』



 マグノ海賊団に容赦なく、無慈悲に襲い掛かってきた者からの言葉。

半壊した融合戦艦ニル・ヴァーナに――艦内でパニックになっている女性達全員に、その声は届いた。

雑音がやや混じっているが、突如飛び込んできたにも拘らず声はハッキリと耳に響く。



『――運命ニ甘ンジテイレバヨシ――』



 ――マグノ海賊団が今まで略奪を続けられたのは、戦術を含めた戦力が相手より上回っていたからだ。

築き上げてきた実力は実績と経験による確かな強さなのだろうが、如何な事情があろうと力ずくで奪って生きて来た事に変わりは無い。

奪い合いは基本的に力が強い方が勝つ。シンプルなゲーム、負ければ全額没収。

自分達より強い存在が現れれば負けであり、敗北すれば全てが奪われる。

自分達が助かる為、故郷を追い出された他の難民を救う為――理由があれど法が許さず、現実は執拗に罪を追求する。

彼女達は今奪われようとしている。自分達より強い人間から。

嘗て彼女達が奪った人達が味わった苦痛を、今まさに味わっている。



『――未来ヲ否定スル行為ハ、地球ノ秩序ニ反スル――』



 そもそも刈り取り部隊の驚異的な強さなど、最初に襲われた時から分かりきっていた。

だからこそマグノ海賊団は男と一時的にも手を組んで、男女力を合わせて故郷を目指す旅に出たのだ。

自分達だけでは乗り越えられない現実を、知って。

彼女達はその前提を、自らの手で壊した。未来の破滅より、現実の不満を優先してしまった。

結果、先送りにしていた破滅は急速に接近した――温かく守ってくれていた壁を、自ら壊して。

どれほど辛くても自分達は負けない、皆最後は無事に故郷へ戻って幸せになれる。

彼女達の夢物語は、少年達の死が残酷に終わらせた。

初めての戦死者、負ければ命が奪われる――当然だった現実が、この半年間の常勝で浮ついていたのかもしれない。



『――ソノ場合、アガラウ者ノ未来ハ――』



 だからこそ――この一方的な宣告は、他のどんな言葉よりも残酷に響いた。

機械的な音声であれば、無慈悲であれど否定は出来ただろう。

敵は無尽兵器、地球の意思を代弁しても所詮は機械。冷徹に聞こえて、当然――そう思えたかもしれない。


だが、違う。違うのだ・・・・・・



『消滅アルノミ』



 通信先は眼前の敵――その両の瞳を真紅に光らせる、一体の機体。

希望まで模倣された人型兵器、SP蛮型。

地球側からのファーストコンタクトは、彼らをここまで支えてくれたパイロットにより宣告された。



カイ・ピュアウインド、彼の声で――





























<to be continued>







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