ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <後編>






Action6 −改変−






生きる事にこそ理由がいる、死ぬのに言い訳は必要ない――

一度は閉じてしまった人生を思いながら、俺は偶然に積み重ねられた奇跡で与えられた生活を顧みる。

与えられた時間は山ほどあるが、選ばなければいけない選択は少ない。

――唯一の窓から見える、無愛想な灰色の建物の群れ。

どれほど美麗に言葉を飾ったところで、一つの価値観で閉鎖された空間は狭く小さい。

空へと長く伸びる灰に塗られた煙突より吐き出される煙は、雄大な空を汚し続けている。


「また、牢屋の中か・・・・・・何度やり直しても、俺は進歩しないな」


「最初の歴史」では中佐に願い出てタラーク最新鋭の母艦に乗船、海賊達に捕えられて監房へ幽閉された。

歴史は繰り返すと言うが、本当にやり直す機会を与えられても同じ過ちを犯すらしい。

少年は自嘲気味に呟くが、自分が取った行動に悔いはなかった。

――差し伸べた手を、拒絶されたとしても。


未決囚を一時収容する拘置所――貧民街より飛び出した最初の一歩は、厳酷な牢への収監だった。


罪状は士官候補生への傷害、階級では上位に位置する一等民への明確な犯行の意思。

通報により首都防衛隊が現場へ急行、エリート達は保護――少年は捕縛された。

散乱する死体の数々、殺人現場に残された銃器、訓練を受けた士官候補生、無力な三等民。

現場のあらゆる状況証拠が経緯と詳細を物語っていたが、事件は表沙汰にされず闇に葬られた。

理由こそ明らかにされなかったが、犯人以外の当事者である少年は簡単に推測出来る。

士官候補生達はタラークの将来を背負うエリート達、彼らは輝かしい未来の象徴である。

メジェールとの情勢が不安定な昨今、栄光を汚す要素があってはならない。

不安に揺れる国民達の希望を、殺戮の血で汚してはならないのだ――真実が如何様であっても。

無論、エリート達への言及は免れない。政府から真犯人とその血族へ厳しい追及が行われる。


――だが、結局それだけ。


死した者達の無念は決して晴らされず、彼らは報われないまま抹消される。

軍事国家からの恩赦は何一つなく、ただ関係者に死んだ事を伝えるのみ。

皮肉にも犯人達が述べていた通り――歯車が幾つ欠けても、交換すれば済む話。

三等民は所詮国家の奴隷、発達したクローニング技術や見事に成立した国家の意思が人間の価値を軽くした。

罪を犯した犯人達はこのまま明るい道を歩き――少年は闇への下り坂へ突き飛ばされた。


(腐ってやがる・・・・・・先祖も、子孫も、俺達も――この世界も)


 少年――カイ・ピュアウインドは、思い出した。

偉人"ヒビキ・トカイ"の身代わりとして生み出された自分、不完全な遺伝子と断定されて時空の彼方に破棄。

広大な時間の海の漂流先はタラーク、旅の果てに傷付き倒れて酒場の主に介抱された。

カイ・ピュアウインドとして育てられ、本当の心を手に入れた新しい自分は夢を追い求めて旅立つ。

女達だけの海賊、暴走するエネルギー結晶体、融合する船、たった三人の男達――臓器を刈り取る、無人艦隊。

ソラとユメ――理性と本能の、愛らしい少女達。

壮絶な戦いの果てに、自分は自分の夢ではなく――


誰の為に? 何の為に?

この殺伐とした軍事国家の為に?

マグノ海賊団を見捨てた船団国家の為に?

半年間対立し続けた、今も尚許し難き海賊達の為に?

少しの間御世話になっただけの、美しき肌の人達の為に?

結局話す機会すら少なかった、男二人の為に?

正体不明、謎に満ちた奇妙な少女達の為に?


多分――その全ての、為に。


死ぬつもりはなかった、やるべき事も沢山あった、必ず勝つと約束もした。

でも――大切な何かの為に、俺は笑って自分の命を使った。

自分という物語の最期は、本当に悲惨だったとは思う。

全てを捧げる意味なぞなかった。

半年間の旅は苦しいだけで、結局実りもなく終わってしまったのだ。

女達とは結局分かり合えず、不思議な共同生活は簡単に幕を閉じた。

海賊達とは最後まで心を交えられず、互いに傷付けあって憎しみ合いながら別れた。

刈り取りは現在も行われたまま、地球は傷一つつかずに存在している。

母艦は倒せたのか定かではないが、あれが地球の戦力の全てではないのは確かだ。

何一つ成し遂げられないまま、俺の第二の人生は終わった――


――そして今、此処に居る。


(遠距離兵器ホフヌングは、ペークシス・プラグマの力を利用した兵器。
ミッションで手に入れたディスクの情報が本当だとすると――

刈り取り母艦だけではなく、あの瞬間・・・・・・時間と空間を吹き飛ばした事になる)


 宇宙の遥か彼方に存在する<フォトン・ベルト>――「光子」の意味を冠するフォトン、天文学的な光エネルギーに満たされた空間。

無限ともされる陽電子と電子の衝突により、多次元の振動数を持つ次元間エネルギーを生み出す。

フォトンは世界を構成する『空間』と『時間』に大きな影響を及ぼし、時間の流れを操作する力を秘めている。


エネルギーの流れが生み出す奇跡は、螺旋――


宇宙全体は太陽系と同じような構造を持つ星系が存在するが、その起源にこの螺旋運動の繰り返しによる壮大な「宇宙暦」が存在する。

生き物が発生してから辿ったたどった進化の道のりのスピードは、「螺旋」のパターン――

宇宙全体も時間と同じ構造、つまり渦巻状のフラクタル構造となっている。

フォトンもまたこの宇宙空間の中から、渦巻状のエネルギーを放出し続けているのだ。

博士は「フォトンと同じ力を持つ物質」を解明出来れば、時空の構造を解明出来ると提唱していた。


恐らくその物質とは――ペークシス・プラグマ、ホフヌングのエネルギー源。


俺は母艦との激戦時、ホフンングのリミッターを解除した。

危険だと分かっていたが、少なくとも後悔はない。むしろ感謝すらしていた。

希望を冠した兵器をフルドライブした瞬間、俺のちっぽけな命が宇宙を焦がすほど燃えていたのだから――

ヒビキ・トカイ博士が提唱した『時空螺旋転移理論』が本当なら時空間が捻じ曲がり、一瞬だが生み出されたのだ。


――タラーク母艦イカヅチと海賊母船を宇宙の彼方へ吹き飛ばした、あの『ワームホール』を。


あの時は空間のみを突き破るのに留まったが、今回はパイロット自身の意思で行った限界突破。

パイロットの安全を無視したエネルギーの爆発は時間すら破壊して、時の流れを一時的に逆行させた。

幸か不幸か時空間トンネルに墜落した俺は、その時発生した宇宙空間の爆砕に巻き込まれずに済んだのだろう。

とはいえ母艦との死闘で重傷、ワームホールから放り出された時には既に瀕死。

偶然通り掛ったアレイクの救助のお陰で、ギリギリだが生き延びる事が出来た――


――半年間の経験と取り戻した記憶を元に、カイはそう推理した。


それならば過去とはいえ、この広大な宇宙空間の中で自分がタラークに落とされた理由も僅かにだが納得出来る。

地球に捨てられた一度目は偶然だが、二度目はタラークからペークシス・プラグマにより飛ばされた。

とはいえ所詮古びた記憶と現状を顧みて立てた推測だ、アテにはならない。


何とも壮大で、馬鹿馬鹿しく――ファンタジックな、絵空事でしかない。


(俺はタラーク育ちのカイ・ピュアウインド、それでいい。
けれど、過去とは――地球とはケリをつけないといけない。

実質この国だって、地球の支配下に置かれているんだから)


 どれほどの空間を――時間を飛んだところで、逃げられない。

地球が生み出した刈り取りの狂気は、人間が息づく場所がある限り押し寄せて来る。

植民船が着陸した全ての場所を制覇しても、奴らは決して納得しないだろう。

エゴイズムは肥大する、狂気は加速し続ける。

刈り取った臓器の使用方法は分からないが、どの道ロクな事ではない。

結局記憶を取り戻しても――故郷に戻っても、安息はない。


(思い出したと言っても、親父やマグノばあさん達の記憶はともかく・・・・・・地球の事は曖昧だからな。
発達した技術で短期間で急成長させられたとはいえ、生まれたばかりのがきんちょ。
子供の頃なんぞ、記憶喪失じゃなくても完全に覚えている奴いねえよな。奴博士からの記憶情報の伝達だって、結局失敗。

思い出す前も、後も・・・・・・結局変わりはしねえか、俺は)


 記憶喪失であった頃は不確かな自分に怯えていたのに、曖昧にしか思い出せなかった事実に何故か悲嘆はない。

考えてみれば拾われた当時はともかくとして、ここ最近は記憶の回復にそれほど固執はしていなかった。

荒々しくも、毎日が退屈しなかった半年間――

理想と現実の違いに苦しみ、女達との確執に心を痛める日々だったが、男女共同生活は沢山の新鮮な記憶を与えてくれた。

それこそ、地球が喉から手が出るほど欲する知識だとしても――


「――待てよ・・・・・・?
俺がその技術で最初タラークに飛ばされたのしたら――研究はある程度完成している、のか?
時の解析は博士の死で不可能になった、としても。

『時間』と『空間』を捻じ曲げる技術――ワームホールを発生させる手段があるのだとすれば・・・・・・やべえぞ!?」


 惑星を蹂躙する強力な無人兵器を製造する技術、戦闘の度に進化する科学力。

博士の研究にペークシス・プラグマは不可欠、ならば研究の途中でペークシスに秘められた無限の力に注目しない筈はない。

無知な自分でも経験と拙い知恵で遠距離兵器を発想出来たのだ、地球でも当然製造は可能。

もしも完成していれば、あの時母艦を破壊した威力と同等かそれ以上――


――最悪、宙域丸ごと吹き飛ばす事が出来るのかもしれない。


「一刻も早く帰らないと! ――帰る・・・・・・どう、やって・・・・・・?
それに――」


   何処へ――?


生き方への答えは出た、これから為すべき事も見えつつある。

しかし思い出せ、自分よ。カイ・ピュアウインドよ。


男女共同生活を、粉々に破壊したのはそもそも・・・・・・誰だ?


お前が居たから、海賊をただ唯一否定し続けたお前が居たから亀裂が走った。

ディータを傷つけたのを忘れたのか。

バーネットを追い込んだのを忘れたのか。


マグノ海賊団に反旗を翻したのを、忘れたのか――?


自分が上手く敵母艦を足止め出来たんのなら、メラナス艦隊とマグノ海賊団は無事合流している筈。

ジュラ達も無事辿り着いて、仲間達との再会を喜んでいるだろう。

彼女達やメラナスの人達が取り成せば、残して来たバートやドゥエロの立場も少しは軽くなる。

二人はニル・ヴァーナに必要な人材だ、きっと力になれる。

敵母艦が今までになく強力だが、全員一丸となって力をあわせれば必ず倒せる。



・・・・・・俺さえ、居なければ・・・・・・



あの時敵母艦を命懸けで足止めした事に、悔いはなかった。

――その後悔の無さが、逆に少年を苦しめる。

役目を終えた役者が、自分勝手に舞台に上がるなど見苦しいだけ。

宇宙に出た事による少年の成長は、他者への思い遣りを生み――他人の心を踏み躙るのを、恐れてしまう。



少年は暗く冷たい牢屋の中で、絶望に蹲った。






























<to be continued>







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