ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action54−暗炎−






    次々と無人兵器の群れを排出する母艦。

キューブ型は三桁を超えて尚増殖を続け、ピロシキ型の大群が尖兵を生み出している。

ウニ型は艦そのものを守るかのように、無尽蔵の数が巨大な母艦を周回している。

膨大な数の敵が蠢く中で、規律正しい動きを見せているのが鳥型。

正規艦隊に負けない適律な動作と、目で追うのが困難な俊敏さ――

峻烈な鳥型と比較して、愚鈍なユリ型はどの無人兵器よりも遅く背走している。

とはいえ母艦クラスの牽引力を持つこの機体は侮れず、ゆっくりとした動きに威厳を感じさせる。

特殊なタイプのクモ型も敵前衛の影を縫うように動き回り、敵の隙を窺っている。



敵。



――すなわち、カイ機を。


(…簡単に倒せるほど甘くはないと分かっていたが――くそっ)


 国家の正規軍を難渋させる、敵の本営。

蛮型一機で簡単に情勢を覆せるなら、苦労はしない。

遠距離兵器ホフヌングはペークシスを利用した世界初の武器だが、無敵と誇れる力はない。


――ペークシスは無限の力を内包しても、扱うのは有限なる人間。


SP蛮型より遥かに劣る兵器では、思い通りの力を活用出来ない。

逆を言えばペークシスの完全な制御に成功すれば、ホフヌングは無類の兵器と成り得る。

少なくともその可能性は有しており、カイも未完の力に懸けていた。

緒戦の結果は――無残と言っていい。


「…正面からやりあうしかないか…ホフヌング、起動」


 ホフヌングを再起動。

弓形の兵器から純粋な力が溢れ、芳醇なエネルギーを蓄え始める。


「待って。


――戦うつもりなの?」

「今更逃げられない。分かってるだろ? 
俺が逃げたら、敵は俺達を脅威と思わなくなる。
優先順位は覆されて、敵は優先的にメラナスを襲う。

見てみろ、あの敵の様子を」


 モニターに映し出される画面処理率を超えつつある、敵戦力。

宇宙空間を埋める膨大な数は、真空の世界に敷かれた絨毯のように広がっていた。


「戦線に残ってるのは俺一人なのに、あれだけの数を排出している。
敵母艦のプログラムが能無しとは思えない。

――あくまで、俺を脅威に感じている証拠だ」


 敵の執拗さはこの度で常々思い知らされているカイ。

温い考え方はしない。

敵は完全に殺すまで――カイを刈り取るまで、本気で攻めて来るだろう。

余裕や嘲り、御遊びや手加減の概念は存在しない。


「でも、少年君の切り札は通じなかったんだよ?
この機体の能力は、整備した私が知ってる。
バラバラにされて、終わりだよ」


 カイがここで簡単に殺されたら、同じく敵はカイ側を脅威に思わなくなる。

認識を即日改めて、刈り取り対象へ無慈悲な牙を向ける。

最終的な結果が同じなら――


「――逃げるなら、本当に今だよ…?

今を逃したら、もう今度こそ逃げられなくなる」

「だけど、それじゃあお前の故郷は――!」



「――分かってるよ、そんな事!!」



 コックピット内で、息を荒げる二人。

互いの思いは同じ、命の価値も同じ。


何も違っていないのに――睨み合っている現実。


命を天秤にかけられない。

それはカイもセランも同じだ。

セランからすれば、メラナスは故郷。

彼女が宇宙の外へ出て来たのは、大切な故郷と仲間を守る為だ。


だけど――カイも大切。


彼の命を見捨てられないから、彼女は残ったのだ…

今カイが死ねば、故郷も危うい。


ならばせめてカイだけでも――


――そう考える事は、罪なのか…?


カイは自問自答して、頭を振る。

断じてない、そんな事は。

カイは深呼吸して、思考を落ち着かせる。

自分一人の命ではない。

この状況で冷静さを失えば、セランやメラナスが滅んでしまう。


「…聞いてくれ。
ホフヌングは通じない訳じゃない。
敵の攻撃で相殺されただけだ」

「同じでしょう? また攻撃しても繰り返しになるだけ」

「パターンを変えて攻める。
敵の武装は把握出来てないけど、ホフヌングの利点は生かせると思う。
この兵器は如何なる場所・如何なる動作を行っても、エネルギーを充填出来る。
戦いながらでも、力を蓄えられるんだ。

だから――」

「敵主力武器の範囲外、もしくは隙をついて発射するってこと?」


 優秀なエンジニアだけあって、話が早い。

話が早い事に満足して、カイが頷く。


「馬鹿正直に、正面からやるつもりはない。
適当にあしらいながら、時間を稼ぐさ。

あれだけデカイ図体だ、隙なんて腐るほどあるだろう。

正面から叩けないなら、横っ腹に穴でも開けてやるさ」

「あはは、それいいね。なんか面白そう」

「だろ?」


 楽しげに笑う二人。

――笑えない戦況なのは、二人とも百も承知だった。

正面から戦わないといった所で、敵の隙をつくにはかなり接近しなければいけない。

カイ一機に、敵の陣営は千にも勝る数。

四方八方からビームを撃たれるだけで、致命傷となる。

加えて、敵には強力な主砲を備えている事も今分かった。

直撃すれば、機体ごと灰も残らないだろう。

生存率は今も尚、低いままだった。


けれど、二人は日常の延長のように軽く笑みを交わす。


覚悟は既に出来ている。

腹をくくった後で悩むのは無駄でしかなかった。


「…少年君って、本当に勇気があるね。
普通逃げるよ、こんな状況だったら」

「俺は臆病だよ。

――喪う事に、びびってる。

それだけさ」


 ホフヌングの力を維持する為に、形態の変化は出来ない。

十徳ナイフが使用出来ないとなれば、残るのは装甲頼みの殴り合い。

人型兵器ならではの、タラーク好みの戦法だった。

あれほど嫌がっていた故郷の熱血な戦法を、この土壇場で使用しなければいけない皮肉に笑える。


強く、拳を握る。


包囲網を展開した敵が一直線に向かってくるのが見える。


「行くぞ、てめえら!!」


 敵本丸に特攻――


タラークで育った少年が、故郷の戦法を用いて縦横無尽に暴れ回った。















 ――かつて、あっただろうか…?



これほどまでに、待ち遠しい五分が。



刻まれる秒が、怖ろしいほど長い――



「58…59…三分! 頑張って、後二――きゃっ!?」

「その辺に掴まってろ、セラン!

鬱陶しいんだ…よぉぉ!!」


 すれ違いざまにビームを撃つ鳥型を掴んで、遠心力で投げ飛ばす。

ずば抜けた機動力が災いして、次々と他の機体を巻き込んで鳥型は衝突を繰り返して四散。

投げた隙を目掛けて接近するウニ型を蹴飛ばし、ミサイルの雨を回避して拳を嵐の如く振るう。

キューブの群れはバラバラとなり、爆発の連鎖に巻き込まれてクモ型が破裂した。


「ハァ、ハァ…ぐっ」


 鼻血を拭い、痛めたアバラを押さえてカイは操縦桿を握り直す。

敵主力部隊と抗戦して、三分足らず。


カイは――翻弄され続けた。


弄ばれるかのように、倒しても倒しても敵は押し寄せてくる。

敵艦隊の洪水のような攻撃を前では、無力な人型兵器は流されるだけの木の葉でしかない。

連続攻撃を到底逃れられず、機体はボロボロだった。

機能や情報処理能力の改良は出来ても、装甲レベルの飛躍的な向上は不可能である。

元来のスペックが貧弱なのだ。

機体そのものを交換でもしない限り、ヴァージョンアップには限界があった。

手足がまだ動かせるのは不幸中の幸いだが、戦える分苦痛は長引く。

情報機器は危機と回避の警告を鳴らし続けている――

鳴り止まない警告音はむしろ苦痛で、精神を病みそうだった。


セランが今この場で励まし続けてくれなかったら、どうなっていたか…


血と汗に濡れた目をぼんやり擦って、カイは自嘲気味の苦笑を浮かべる。

この生き地獄を生き永えているのは、セラン一人のお陰ではない。


集団対個人。


――皮肉にも、あのマグノ海賊団との戦闘経験がカイを支えてくれていた。

四方八方から襲い掛かる攻撃の嵐を、目や耳だけで追うのは不可能だ。

類稀な感性と、集団戦の経験が物を言う。

執拗な攻撃に無理に対抗せず逃れ、攻撃と防御の切り替えを限りなく0に近い形で行う。

頬に深い裂傷、胴体を殴打された反発でアバラが数本壊れているが、もう慣れっこだった。

攻防戦を何度も繰り返しつつ、カイは操縦桿を傾ける。

猛烈な――ドレッドやSP蛮型に比べれば哀しいほど遅い――速度で、敵母艦に接近。

ホフヌングを至近距離で発射すれば、大打撃を与えられる。

周回するウニ型がすかさず阻み、全身の棘を放射――

回避不可能と瞬時に悟り、腕を交差させてガードしたまま特攻。


ザクザクと大穴を空けて、血飛沫を上げる両腕。


ウニ型の包囲を何とか突破して、母艦を視野に収める。

後少し――



――認識を超える速度で、進路上に鳥型が出現。



そのまま真っ直ぐにこちらへビームの放射を――



「こ…な、くそ――ぐあっ!!!!」



 最大速度を維持したまま、操縦桿を右に倒す。

コックピットの直撃は免れたが、一直線に放たれたビームの威力はカイ機を簡単に吹き飛ばした。


「うあわあああああーーー!!」


 最大速力が勢いに拍車をかけて、コックピット内を派手に揺らす。


右へ、左へ、上へ、下へ――


何度も何度も錐揉み舞いして、カイは操縦桿を固定したままシートや機器系統に身体をぶつける。

何とか落ち着いた頃には、打撲と裂傷で傷だらけになってしまっていた。

全身を苛む苦痛に喘ぎつつ、カイは苦渋の声を出す。


「――ツゥ…

ハァ、グウゥ…ハァ、ハァ…

だ…大丈夫か…?

セラ――





――、……」



 声を――失う。



――コックピットを覆う、大量の紅。



濃厚な匂い。

鮮烈な色。



コックピットの壁を荒々しく染める――血。



「…あ…ぁ…」



 冗談のように――



――全身を真っ赤な血で染めて…



…少女は、動かない…



瞼を、開けたまま――






色のない目を、カイに向けている…






「あ…ああああああああああああああああああ!!!!!」


































<to be continued>







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