VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 3 −Community life−





Action4 −夢−




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 静寂なる空間。

闇なる静謐、光なる透明さを有した世界の中心に、男はいた。

男の周りには色褪せた模様が広がっており、男自身の投影をより強く浮き彫りにしている。

男を包み込む模様はやがて光の膜となり、包まれた男はただ小さく瞳を閉じていた・・・・・・















「・・・は危険が高すぎます!実験をすぐに中止してください」

「何を言うんだい?成功すれば、飛躍的な戦闘力の増加となる。
宇宙空域一帯を消し飛ばすことも可能なのだよ」

「理論的に可能です。ですが、あまりにも無慈悲ではないでしょうか?
私にはとても納得ができません!」


 ダンっと強く叩く音が響き渡る。

蜃気楼のようにあやふやな光景の中で、一人の少年がじっと立っていた。

少年の見つめる先はある一つの部屋の中。

毒々しい色に染められた奇抜なデザインに溢れている部屋。

少年は大嫌いだった。

部屋も、そして部屋の主も・・・・・・・


「キミは相変わらず固いね。計画はもう決定されたんだよ。
僕達が生きていく上で必要不可欠な筈だ」

「・・・・・本当にそうでしょうか?」

「何がいいたい?」

「我々は本当にこの道しかないのですか?彼らは希望だった筈です!
人類が閉ざされた壁を切り開くために、そして新しい繁栄を気づきあげるために行われた」

「時代は変わるんだよ。それは君だって分かっている筈だ。
現状を見てみなよ。どこもかしこも・・・・・」


 一人は自分の一番大切な人であり父親でもある人。一人は最も嫌悪すべき人。

どうしてお父さんはあんな人にぺこぺこしているのだろう?

少年はいつも苛立っていた。


「・・・勿論分かっています。しかし私は・・・・・」

「もういいよ。君の話は聞き飽きた。下がってくれ」


 その後何度か取次ぎを試みたようだが、少年の父親は聞き入れてもられずに部屋から出てくる。

影からこっそりと話を聞いていた少年は、そのまま父親に抱きついた。


「お父さん!お話は終わったの?」

「おお、―――か。今、終わったよ。待っててくれたのか?」

「うん!」


 傍目から見ると、とても仲が良さそうな親子だった。

少年は父親を尊敬しているのか、父を見つめる瞳は輝いている。

息子を見つめる父の目もまた愛情にあふれた優しい目をしていた。


「お父さん、どうしてあんな奴の言うことを聞くの?」

「こいつ、話を聞いていたな」


 笑って少年の頭を小突くと、父親は続きを話す。


「あんな奴なんて言ってはいけないよ。あの人はお父さんの上司なんだから」

「でも、僕あいつ嫌いだ。いつもお父さんを苦しめてる」


 少年は知っていた。

あの部屋の主と話をすると、父はいつも苦悩している事に。

自分自身のどこかが納得しないかのように、延々と悩み続けている様子を少年は何度も目撃していた。

父と部屋の主の話の内容は少年にはさっぱり理解できなかったが、

それでも父を苦しめている人間は嫌いだった。


「あの人はね、懸命になって将来のために頑張っているんだよ。あの人なりに精一杯頑張ってるんだ」

「でもお父さんは嫌なんでしょう?」

「・・・・・・それはお父さんの我侭なんだ。
父さん一人の我侭で皆を困らせるような事はできないよ」

「どうしてだよ!嫌だったら嫌だってはっきり言えばいいじゃないか!!
でないと、ずっとずっと嫌な事ばかりしないといけなくなるよ!!」


 少年は少年なりに父を思い案じていた。

悩む父の力になりたいと必死なのだ・・・・・・・

そんな少年の真っ直ぐな姿に、父親は腰を屈めて息子と頭をそろえる。


「お前なら、きっと父さん以上に・・・・いや、
あの方以上にこの星を、人類の未来を変える事ができるかもしれないな・・・・・・」

「父さん?」

「・・・・いいか、―――」


 父親は力強く息子の肩を掴み、真剣な表情で息子に瞳を向ける。


「その気持ちを忘れるな。
理不尽だと思ったら、自分で何とかしなければいけない。
変えようとしない限り、何も変わりはしないのだから」


 その時の父の寂しげな言葉は強く、強く少年の心に残った・・・・・











「父さん・・・・・」


 父さん、僕は・・・うん・・・・?

父さん?

父さんってどんな顔をしてた?

どんな服装を身につけていた?どんな声でいつも話し掛けていた?

いつも、いつも俺を可愛がって・・・・・俺・・・・俺は・・・・・















「はっ!?」


 急激な覚醒感に頭をふらつかせながら、男は勢いよく顔をあげた。

同時にまとわりついていた光の幕は消えうせて、男の姿形がはっきりと形成される。

男はカイだった。


「ここは・・・確か見た事があるな」


 朦朧としていた意識は完全に回復し、カイは落ち着いた様子で周りを見渡した。

変わらず位置する中央より、カイを中心とする光の世界は火花のように明暗を繰り返している。

青緑色に輝く光は常に不明瞭で、天地上下左右関係のない不安定な場所でもあった。

だが何故かカイは不快にも、恐怖も感じる事無く静かに浮いていた。


『お前の・・・世界・・・お前の・・・場所・・・お前の・・・記憶・・・』

「誰だ!」


 突然響き渡る声にカイは油断なく警戒するものの、まるで聞こえていない様に声は続けられる。


『お前の・・・存在・・・お前の・・・命・・・お前の・・・証・・・』

「何がいいたいんだ!それより姿を見せろ、こら!!」


 一向に意図の見えない単語の羅列を繰り返されて、カイは苛立った声をあげる。


『お前は・・・・何者だ・・・・?』

「そうか、思い出したぞ・・・この声、あの夢の奴か!」


 絶体絶命の局地にて、カイはペークシスの暴走による光に包まれ、意識を失っている。

結果的に暴走により命は救われた形となったわけだが、その際にカイは不思議な夢を一度見た。

その時の夢の中で問われた声と今の声はまったくの同質だった。


『お前は・・・何者だ・・・?』

「お前こそ誰だ!人に聞く前にまず自分が名乗れ!」


 足元も頼りなき曖昧な空間の中、鋭い視線で虚空を見つめるカイ。

声がどこから聞こえてくるのか、声の主がいったい誰なのか。

まったく判断がつかない今の状況では、カイはただ声を張り上げるしかなかった。


『お前は・・・何者だ・・・?』

「俺の質問は無視かよ!?」

『お前は・・・何者だ・・・?』

「この前も言っただろう!俺はカイ。カイ=ピュアウインド。
いずれ宇宙一のヒーローになる男だ。
しっかり頭の中に刻んどけ」

『それは有機体の呼称か?固体の名称か?』


 答えに対する質問に霹靂しながらも、カイは生真面目に答えた。


「言ってる事はよくわからねえが、俺は俺だ。変わりはない」

『お前がお前であるという証は何か?』
『お前はなぜ存在する・・・・?』


 まるで哲学を綴る様に答えの出ない質問を繰り返す声。

その声には感情はまるでこもってはおらず、男か女かもはっきりとしない無個性な声質であった。

喜怒哀楽のない声は肝を震わせるものがあったが、カイは堂々と答えた。


「俺はそれを探しに来たんだ。誰かに決められる訳じゃない。
誰かに定められる訳でもない」


 マグノやブザムとの問答を得て導き出した答え。

カイは今答えられる精一杯の独白を口から叫び出す。


「俺は俺自身で自分を見つける!
他人を知り、価値を知り、そして自分を知る。
だから、今はその質問にゃ答えられそうにない」


 皮肉げに話しつつも、カイはどこか楽しそうに笑っていた。

以前は言えなかった質問にきっぱりと答えられた事に、カイ自身満足していた。


「お前はどうよ。お前は自分がどうして存在しているのか分かるのか?」


 腕を組みリラックスした体勢で、カイは声に質問する。

特に考えがあった訳ではなかった。

ただ純粋に声がどう答えるのか知りたかった、ただそれだけであった。

声はどこか逡巡するように沈黙を保ち、やがてひっそりと答えた。


『・・・本能。知的好奇心・・・・知るがゆえに、今を・・・』


 声が何を言いたいのか分かったのか、カイは静かに口元を緩めた。


「お前も俺と同じなんだな・・・・
色々知りたいから、頑張って生きてる。
ま、互いに頑張ろうや」


 健闘を祈るように、カイはすっと右手を差し出した。

すると世界はほのかな光を放ち、優しい白き光がカイをゆっくりと包み込んだ・・・・・・・・・















 白き光が止んで再びカイは闇に包まれる。

暗き静かな空間にゆっくりと身を委ねてしばしのまどろみを味わった後、

瞼の向こうより差し込んでくる一筋の光に、カイはそのままゆっくりと瞳を開けた。


「ん・・・?うおうっ!?」


 目を開けると、そこには手元のライトを点けて間近に自分を観測するドゥエロの姿があった。

突然の出現に目を剥きながら、カイはがばッと身体を起こした。

同時に後頭部に強烈な痛みが走る。


「あだだっ!?」

「大丈夫か?強く頭を打ったようなので、検査をしていたのだが・・・・」

「検査?頭・・・?あ、そっか。
確か脱獄しようとしたときに、船がゆれて・・・・痛・・・」


 ズキズキする後頭部を押さえて、カイは状況を確認する。

カイとドゥエロは今だ監房に押し込められており、揺れる船体の中を二人はじっと座り込んでいた。

しばしじっと考え込んだかと思うと、カイは改めてドゥエロに向き直った。


「俺はどれくらい寝てた?」

「少々だ。三十分と言ったところか」


 ライトを消して、ドゥエロはカイににじり寄って来る。

生理的嫌悪を感じたカイはじわじわと後ずさる。


「な、何だよ!?気味悪いから近づくなって」

「?何の話だ。頭の怪我を見るだけだ。
痛みがあるのだろう?簡単ではあるが、応急処置をしておく」


 あくまで紳士的なドゥエロの言葉にカイは黙って頷き、大人しく後頭部を見せる。

ドゥエロはそのまま触診をして痛み具合を確かめた後、着ている白衣より痛み止めの薬を出して処置を施す。


「あたたたたっ!?もうちょっと優しくやってくれ,優しく!」

「充分慎重にやっている。もう終わった」


 テキパキとした動作で完了すると、再び無表情にドゥエロは姿勢よく座った。

薬の効果か少しずつではあるが痛みがひいていくのを感じて、カイは感心したように口を開いた。


「あんた、本当にすごいな。
こういうのも仕官候補ってのは教わったりするのか?」

「造作もない事だ。私は元々人体に興味があってね。
その延長で学んだに過ぎない」


 事実、ドゥエロは士官候補生の中でもトップクラスの才能の持ち主である。

文武両道とはよく言ったもので、ほぼ全てのカリキュラムをこなし如何なく才能を発揮してきたのだ。

もしイカヅチでの事故がなければ、カイとドゥエロがこうして話す場があったかどうかも怪しい。

才能を見込まれて、次期首相とも噂されていた程の人物だからだ。

謙遜のない彼の言葉に、カイは好感を持ち更に質問を重ねようとしたその時、


「ドゥエロ君、と言ったかな?」

「てめえ!」


 監房と通路を隔てるビームシールド越しに、保安クルーを連れたブザムが笑みを浮かべて立っていた。

カイは立ち上がり、ブザムに指を突きつける。


「てめえ、バートはどうした!ちっとも帰ってこないじゃねーか。
まさかあいつに何かしたんじゃねーだろうな!」

「お前、副長に何て口の・・・・!」

「待て。この男が危惧する気持ちはもっともだ」


 傍らで激昂しかける保安クルーを制して、ブザムはずいっとカイに端正な顔を近づける。


「安心しろ。悪いようにはしていない。
現在彼は少々手が離せない身でね」

「本当にそうなんだろうな、おい・・・・」


 曖昧にはぐらかすブザムに、カイは疑いの視線を向ける。

真相は彼女の言葉を裏切っていなかった。

今現在船が動いているのは、他ならぬバート自身のナビゲーション搭乗によるものなのだからである。

だが男と女の立場を律する上で、ブザムは真相を明かそうとはしない。

手持ちのカードを全て見せびらかせる程、彼女は愚かではなかった。

さらに詰め寄ろうとするカイを、横からそっとドゥエロは抑える。


「今は騒ぎを起こすのは得策ではない」

「で、でもよ・・・・」


 小声ながらも鋭いドゥエロの声に、カイは戸惑いながらも反論しようとする。

が、その前にドゥエロはゆっくりと身を起こした。


「私に何か用があるのか?」

「ああ、ついて来てくれ」


 言葉少なくやり取りを交わした後、ブザムはドゥエロを監房より外へ出される。

保安クルー二名に左右を押さえられ、そのままバートと同じくドゥエロも連行されていった・・・・・

悔しそうにその場を見送ったカイではあったが、やがて我慢できなくなり叫んだ。


「くそう、あの女!人が黙ってりゃ調子に乗りやがって!
絶対に目に物見せてやる!」


 冷静で計算高いブザムのやり取りや態度に、カイはあまりいい印象はもっていなかった。

彼女が行っている行為は駆け引きというやり取りであり、こうした特殊な状況では当たり前なのだが、

どちらかと言えば本音でしか話せないカイには苛立ちすら覚えるのだ。

一人立ちしたカイではあるが、こういう面ではまだまだ未成熟と言えた。


「そのためにも、何とかしてここから脱出しないとな・・・・」


 不安半分でドゥエロとバートの身を案じるカイはそう独りごちる。

カイはマーカスに育てられた事により義理や人情はしっかりと受け継いでおり、

付き合いこそ短い間柄ではあるが、他人事でもほってはおけなかった。


「この妙な光さえ消せば出られるんだが・・・・・
どうすれば解除できるのか、まるで分からん」


 試行錯誤を繰り返してはみるものの、機械の知識もないカイには無理な相談であった。

元々敵の捕虜や法を犯した者を捕獲するための施設である。

素人であるカイに解ける程、安易な仕組みではなかった。


「あの女、確か妙なスイッチをいじってたな・・・・・・・・・
あれをどうにかして取り上げるか、この装置をぶっ壊すかすればオッケーだ。
そのまま脱出して、二人の安否を確認する!

・・・・で、どうするか、だな・・・・・」


 結局堂々巡りになる思考に頭痛を感じて、カイは力なく座り込んだ。

現状ではどうやら彼にはなす術もないようだ。

とカイが半ば諦めかけたその時、運命の女神は彼に味方をした。


「カイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!助けてくれぴょろ〜〜〜〜〜〜!!」

「なんだあ?」


 危機迫った声が徐々に近づいてくるのを聞いて、カイはビームシールド沿いに外を見る。

すると通路沿いより急スピードで卵形の白い機体が飛んできて、カイの視線上で急停止する。


「お、お前!?」

「カイ!!ようやく会えたぴょろ!!」


 突然の来訪者の正体は、機関部クルーに追われていた六号その人であった。 























<Chapter 3 −Community life− Action5に続く>

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