VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action14 −執拗−







 強硬手段に出たマグノ海賊団。

弁解の余地は全く与えず、即座に発砲する。

両者の温度差は広がる一方で、カイ達もようやく事態を飲み込み始めた。

出入り口は完全に防がれており、完全武装した女達は銃口を油断無くカイ達に向けている。

少しでも反抗の素振りを見せれば、有無を言わさず発砲するだろう。

相手は――殺すと断言したのだから。


「ちょ・・・! ちょっと待ってくれよ!?
一体全体、どういう事なんだよ!
僕達がどんな悪いことをしたって言うのかい!?」


 相手が本気だと理解し、バートは必死の形相で叫ぶ。

確かに自分達は捕虜であり、敵対しているタラークの男でもある。

嫌われたり、疎まれるのは仕方ないとは思っている。

だからと言って、いきなり銃を向けられる謂れは無い。

悲痛の叫びに女達は眉一つ動かさず、兵の一人が冷淡に言い放った。


「とぼけるな! ディータのその怪我は何よ!」

「そ、それは、その・・・」


 バートは困り果てたように、当人を見る。

頭に痛々しい包帯が巻かれ、寝巻き姿でカイの背後に隠れて泣いているディータ。

怪我をさせた事を怒っているというのなら、何の言い訳も出来ない。

事情を話したところで分かってもらえるかどうかは、はっきり言って怪しかった。

口を噤むバートに代わって、ドゥエロが前に出る。


「彼女の怪我は我々に非がある、それは認めよう。
しかし君達が今取った手段もまた、決して褒められたものではないだろう」


 背後からの、突然の発砲。

完全に油断していたカイは避ける暇もなく、銃弾は肩を貫通した。

肩口から夥しい出血が溢れて、床を血で濡らしている。

無表情なドゥエロの弾圧が、何より迫力を帯びている。

その眼光に勇んでいたパイウェイが怯み、背後の女達も逡巡した様子を見せる。

――バーネットを除いて。


「御望みなら、今此処で殺してもいいのよ」


 カイの額に向けられた冷たい殺意。

仮面の向こう側の表情に温かみはまるで無く、殺人を事務的にしか捉えていない発言すら見せる。

息を呑む凄みを見せるバーネットに、ドゥエロは立ち塞がる。


「――やめておけ。いずれ必ず後悔するぞ」

「陳腐な台詞ね。
お生憎様、私はもう後悔しているわ。

出会った時に殺しておくべきだったって」

「カイを殺せば、君の心は晴れると思っているのか。
今存在を消したところで、過ごした時間まで消す事は出来ないぞ。
過去は過去のまま、永遠に君の中に存在する」

「・・・今までずっとうまくやってこれたわ。
そいつに出会う前までは」


 毅然と反論するドゥエロに、頑なな態度を崩さないバーネット。

必死に呼びかける互いの声は何一つ絡まず、相手にぶつかってはね返るだけ。

言葉だけでは埋められない落差が、確実に存在していた。

臍を噛むドゥエロに、話は終わりだとばかりにバーネットは宣言する。


「私達に――男は必要ない。それが結論よ」


 異存は無いのか、取り囲む女性達に口添えは無い。

反証する切っ掛けも与えられず、今まさに男達は断罪されようとしていた。

ドゥエロは視線を落とす――

俯かせるその表情は落胆か、絶望か。

陰に隠れて見えない無言の感情に、失意すら感じさせる。

そんな彼の肩に、ポンっ、と置かれる手――


「・・・カイ・・・」

「ディータの負傷は俺が原因だ。
ドゥエロやバートは関係ない」


 撃たれた肩より下は、ぶらんと垂れ下がっている。

顔色も真っ青で、脂汗が浮き出ているが、眼光だけはただ鋭かった。

立ち上がったカイに、バーネットは改めて銃を向ける。


「男は全員処罰するわ。
――勿論、あんたは確実に殺すけど」

「二人は関係ないと言っているだろ!
無関係な人間にまで銃を向けるのが、お前らのやり方か!!」


 カイの怒鳴り声に、女達が途端に殺気立つ。

一触即発――カイの望むところだった。

出来る限り怒りをこちらへ向けさせて、何とか責任問題を一人に集中させる。

――だが。


パンッ


「――うあっ!?」

「口の利き方には気をつけなさい。
あんたを殺したくてウズウズしてるんだから」


 狙い違わず、同じ箇所を貫通。

ブシュっと血が吹き出て、腕をぐっしょりと血に濡らした。


「二人・・・は、関係ないだろ! 
殺すなら俺一人を殺せ!!」


 激痛に息を荒げながらも、カイは気丈な態度を崩さない。

必死に抵抗しなければ、二人まで殺されてしまう。

今日――心から友達という存在の大切さを知った。

バートにドゥエロ、彼ら二人がいなければ途方に暮れていただろう。

圧倒的に不利な立場だが、何とか二人だけは助けてやりたかった。

連帯責任――アンパトスで痛感させられた事実問題。

個人の身勝手な行動が、全体に悪影響を及ぼす。

理解は出来ていても、カイは納得出来ない。

本当に、ドゥエロもバートも非はないのだ。

自分の責任で殺されるとなれば、黙ってられない。

それは――二人も同じである。


「ま、待ってくれよ!?
殺すのだけは――勘弁してやってくれ!」

「バ、バート!? よせ・・・!」


 ドゥエロにもたれかかったカイの前に、バートが立ち塞がる。

勇敢な決意と、身体に走る恐怖を胸に。

銃口の前に立って、顔色青く染めながら必死で叫んだ。


「信じてくれない、とは思うけど・・・事故なんだ!
決して、この娘を傷つけたくて傷つけたんじゃ――ないんだ!

カイはこの娘を――皆を大事に思ってる! 嘘じゃない!!

君達だって、カイは大切に――」

「嘘よっ!!!」

「――っ!?」 


 バートの切なる祈りを込めた言葉は、甲高い声に遮られる。

驚愕の眼差しでバートが見つめる先には、一人の少女が居た。

パイウェイ――クリスマスに、プレゼントを贈った少女。

少女は懐から取り出して、床に叩きつける。


「アタシ達を――皆を騙してた!
裏切ってたのよ、そいつは!!」


 床に散らばっているのは、数枚の写真。

バートは恐る恐る写真を手に取り、眼前に持って行き見やる。

背後に居るカイやドゥエロも覗き込み――目を見張った。

映し出されているのは、カイとディータ。

そして――知らない少女。

儚げな気配と確かな存在感、矛盾を孕んだ幻想の女の子。

呆然とするバート。

ドゥエロは珍しく愕然とした顔を見せて、カイを見下ろす。

肝心の少年は、唇を噛んで俯いている。


(・・・馬鹿な・・・何で写真に写ってるんだ・・・!)


 ソラはニル・ヴァーナ全システムを統括する能力を持っている。

如何なる技術かは理解出来ないが、マグノ海賊団に知られなかったのはその管理能力があってこそ。

艦内の監視カメラにキャッチされず、存在も認識されていなかった。

そのソラが何故写真に――

そこまで考えて、カイははっと思い当たる。


(しまった――パイウェイのカメラか!) 


 パイウェイが愛用しているお手軽カメラ。

操作は簡単でコンパクト、何処でも自由に持ち歩ける。

ニル・ヴァーナに直接リンクしていないカメラである。

システムから介入のしようが無い。

フイルムを抜くなど物理的干渉をしない限り、ソラには手出ししようが無いのだ。

迂闊だったとしか言い様が無い。


「だ――誰だよ、この娘・・・」

「パイが知ってる筈ないでしょ! 

でも、ふーん・・・あんたも知らないんだ・・・」


 パイウェイはキッと睨む。

全ての、張本人を。


「どうやらそいつ――あんた達二人にも黙ってたみたいね。
ひっどい奴。

そいつは、あんた達すら裏切ってたのよ! 人でなし!!」


 糾弾するパイウェイにも、カイは答えず顔を伏せたまま。

信じられないと言った顔でバートは振り返って見るが、カイは視線を合わせなかった。

その態度が――明確に、真実を物語っている。

パイウェイの隣にバーネットは立ったまま、通告する。


「・・・バート、それにドクター。
密航者の件に関して、二人が関わってないのは分かったわ。
カイを渡しなさい。
庇う価値なんて、無いわ。

そいつは――最初から、あんた達も信用してなかったのよ・・・」

「う・・・うう、う・・・」


 嗚咽を漏らし、床に膝をついて涙するバート。

バーネットは何処か哀れむように視線を向け、横を通り過ぎる。

ドゥエロも抵抗せず、ただ立っているのみ。

バーネットはカイを乱暴に押し倒す。

両腕に無慈悲にかけられる手錠――

そのまま引き摺り出す様にカフェテリアから連れ出し、女達は連行した。



無力な男二人を、残したままで。















































<to be continued>







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