VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action9 −表明−







 御昼休み、カフェテリア・トラペザは今日も混雑していた。

現在専門たる海賊業は行われていないとはいえ、やるべき仕事は皆多い。

立場や職種で職務内容に違いはあれど、それぞれがマグノ海賊団の生活を支える大切な仕事である事に違いはない。

日々忙しいのに加えて、今は故郷へ向けての長旅の途中。

刈り取りという脅威の中を旅する彼女達の精神的な負担は、海賊家業を行っていた故郷での暮らしより遥かに大きい。

食事時間は、そんな彼女達の大切な憩いの一時。

沢山の職場があれど、食事を取る場所は一つ。

それぞれの部署の人間が集まり、仲の良い者達がテーブルを囲んで談笑している。

特に目新しい光景ではなかったが、ここ数日はほんの少しだけ違っていた。

――チーフクラスの人達。

数ある部署のチーフに収まっている女性達が、軒並み顔を出している。

彼女達責任者が顔を合わせるのは、実は滅多にない。

リーダー的役割を担う彼女達の責任は大きく、職務もまたずば抜けている。

定例の休憩時間に休めるのはあまりなく、時間がどうしても各部署でずれこんでしまう。

今日この日たまたま休憩時間に手を休める事が出来たのは、最近の旅行きの平穏によるものだった。

アンパトス出立以後刈り取りの襲撃もなく、艦内で主だった騒ぎもない。

クリスマスでは幾多の衝突が重なったが、事件が表に出る事はなかった。

賛成派・反対派で対立した女性達も遺恨を残さず、日常へ戻って毎日を過ごしている。

実はクリスマスで刈り取りの罠は仕掛けられていたが、カイ一人の胸の内に収められている。

故郷では海賊家業で忙しい毎日だったが、今は旅の途中で家業も一時中断。

仕事の量は沢山あるが、休息に出向ける時間は確保出来ていた。

そんな彼女達が平和に過ごすカフェテリア。

騒ぎの火種が持ち込まれたのは、御昼休みが半ば過ぎてからであった――





「ねえ! 皆、ちょっと見て!!」


 大声を張り上げて押しかけて来たのは、一人の少女。

ナース帽や看護婦スタイルをそのままに、少女パイウェイはカフェテリアの壁際の中央へ立つ。

突然の甲高い少女の声に、一同は一時雑談を止めてパイウェイを見る。

皆の視線を一身に浴びながら、パイウェイは怯む事無く手持ちのデータカードを取り出す。

カフェテリアは内部が広く、休憩時間には多くの人達が集まる。

その為緊急事態が起きた際皆が見れるように、壁際中央には巨大な通信モニターが存在する。

パイウェイはスイッチを入れて起動し、持って来たデータカードを挿入する。


「これはさっき捉えたドキュメンタリー映像よ!」


 データは最短の速さで処理が行われ、納められていた映像が入力される。

皆突然の発表に当惑しながらも、ノイズの走る画面に注目する。

やがて映像は完璧に画面に映り、パイウェイが捉えた瞬間的映像が映し出された。


「ディータを泣かす野蛮な男を見て!」


 パイウェイが指し示すその先の画面――其処には一組の男女が映し出されている。

幾つものボックスを担ぐ少年。

少年は動揺を露にした表情を浮かべており、何やら必死で訴えている。

彼の視線の向こうには、涙する女の子の姿――

ディータ・リーベライが明らかに涙を流して、少年の前で泣いている。

映し出された角度からすると、監視カメラの映像だろう。


「――最近わたし達は、一番大切な事を忘れていたわ・・・」


 パイウェイは厳しい顔つきで皆に訴える。

ぎゅっと握った拳を突き出して、表明する。


「男は、危険だってことよ!!」


 ――静まり返る一同。

皆一様に画面を見つめ、少年少女の姿を凝視する。

演出効果は最大限発揮されたであろう。

パイウェイの端的ながらに明瞭な訴えは、皆に分かり易い形で伝わった。

静寂の時間はほぼ一瞬。

次に放たれた誰かの発言が、映像を見た皆の心境を代表する――





「・・・なーんだ、カイか」





 瞬間――元のざわめきがカフェに戻る。

皆何事もなかったかのように、職場での愚痴や笑い話に華を咲かせる。

皆の反応に、一番驚いたのはパイウェイだった。


「ちょ、ちょっと何よ皆!
こいつをこのまま放っておいていいって言うの!!」


 てっきり賛同や怒りが返ってくると思っていた矢先の、皆の冷めた反応。

慌ててもう一度呼びかけるパイウェイに、また他の誰かが皆の今の気持ちを代弁した。


「だってカイがディータを泣かせるなんて、いつもの事じゃない」


 ねー、と皆が笑い合う。

パイウェイはギョっとしたが、咄嗟に反論が浮かばなかった。

心の何処かでそうかも、と納得する気持ちもある。

カイがディータを泣かせている――この事実を見過ごせないのは確かだ。

何かあったのだろうか、とは皆も思っている。

ただ共通認識として、カイが心からの悪意を持ってディータを泣かせたのではないという事だ。

きっと何か事情でもあったのか、また何かディータが悪さでもしたのか。

もしくは反対にカイが短気でも起こして、心にもない事をディータに口ずさんでしまったのか。

いずれにせよ、騒ぐほどの話でもない。

皆一様にそう思っていた。

この二人の喧嘩にいちいち心配して口出ししていれば、時間が幾つあっても足りない。

痴話喧嘩は当事者だけでやっていればいい。


――皆の根底にはあるのは、カイへの信頼。


男への不信感や、タラークへの敵意は何も消えていない。

この男女共同生活にも賛同を示しているのでもない。

男ではなく――カイ。

カイ・ピュアウインドという一人の人間に対する、全面的な信頼があった。

彼なら決して、自分達を裏切ったりはしない。

敵対行為など以ての外、協力こそしても危害を加えようとはしないだろう。

この六ヶ月が、それを物語っている。


「うー・・・」


 ――パイウェイも、心の中では分かっている。

この映像を入手した時も、彼がディータに危害を加えていたのではない事はすぐに分かった。

カイは、自分達の味方だ。

多分これからも――きっと・・・

仲良くなれるのではないかと、最近少しは思えていた。

男も悪い奴ばかりではないと、信じたい気持ちだったのだ。

それを――


"・・・俺が悪いんだ・・・"


 血に染まった大切な親友。

――傷つけたのは、あの男。

許さない。

絶対に、許してはいけない――!


「そんなに・・・あいつを、信頼してもいいの?
あいつは皆を裏切ってるんだよ!」


 パイウェイはもう一枚のカードをポケットから取り出す。

――震える指先。

やめておけと、心の芯が叫んでいる。

きっと後悔すると、感情の奥底が吼えている。

パイウェイは必死で頭を振る。

悪いのはあいつ。

先に・・・先に裏切ったのはあいつなんだ。

あいつは自分で認めていたではないか。

悪いのは、自分だと。

天罰だ―ーこれは!

パイウェイは必死に言い聞かせて、もう一枚のカードを取り出して挿入する。

即座にデータ識別と入力が行われ、画面に抽出される。


「これでも・・・あいつを信用するの?
わたし達に黙って――


――知らない人間を連れこんでいるあいつを!!」


『っ!?』


 映し出されたのは、一枚の写真。

食料庫で笑い合っているカイとディータ。

そして――もう一人。


青の双眸を宿した女の子。


――驚愕の眼差しで見つめる一同。

透き通るような銀色のツインテールの髪。

理知的な光を瞳に映す女の子は、カイとディータを優しく見守っている。


――自分達の、知らない女の子。


仲間ではない人間が、この船に乗っている。

自分達には一切秘密で――


「――皆・・・」


 呆然とする一同に、パイウェイの静かな声が突き刺さる。

非常な現実感を宿して。


「あいつは――男なの。
わたし達の、敵なのよ・・・」


 ――浸透する。

パイウェイの悲壮な呼びかけが、嫌がおうにも彼女達の胸に届く。


「こ――これって、本当なの・・・?
い、悪戯とかじゃなくて――」

「現実から目を背けるのはやめて!」


 信頼という名の壁に、突き刺さる言葉の矢。

無情な現実が、真実味を帯びて皆に事実として伝わる。

戸惑いを隠せない者達に、切り捨てた少女がに叫ぶ。


「あいつは、わたし達に隠し事をしてる。
この娘のことを、誰にも伝えずにいるのよ。
自分だけの味方を、こっそり隠してる!

これが裏切りじゃなくて、何だって言うのよ!!」

「「「――っ!」」」


 どよめきは、波紋のように広がる。

諌める声は何一つない。

揺さぶられた心は、今までのような楽観的な思考を許さない。


カイが、裏切った――


その事実は、あまりにも重かった。

築かれつつあった信頼と、芽生え始めた好意。

その全てを、粉々に打ち砕くほどに――





愛と憎しみは、表裏一体。

少女達の信頼は今、殺意へと変貌しつつあった。















































<to be continued>







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