VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action41 −彗星−







 クリスマスの正式開催は今夜だが、一刻の猶予も無い。

つい先日まで賛成派と反対派の内部抗争で時間を費やし、人員も真っ二つに分かれていたので準備に出遅れていた。

純粋に開催を楽しみにしている者や抗争に関わらなかった者からすれば、とばっちりもいいところである。

内心はどうあれ、反対派も現状は黙認している。

抗争が一時的でも収まった以上、開催出来ませんでしたでは済まされない。

主催者には重大な責任があった。

目の回るようなスケジュールが組み込まれ、カイは全艦内を駆け回っていた。

問題が発生した場所を確認に出向き、問題を起こしたクルー達に注意を向ける。

息せき切って現場へ足を運び、再びブリッジへ戻ってきたカイは計画書を手に座り込む。


「資材が揃ってもギリギリだな。
会場の設営は予定を繰り上げた方がいいか・・・ヒャッ!?」

「あはは、何よその顔」

「アマローネ!? いきなり何しやがる」

「一生懸命頑張るボスに差し入れ。喉、渇いてない?」

「・・・貰う」


 熱気に染まった頬に触れたアイスコーヒーの冷たい感触。

腰を浮かせて飛び上がったカイの予想以上のリアクションに、アマローネはクスクス笑って隣に腰掛けた。

押し付けたコップを恨みがましく睨みながらも、喉の渇きが突発的な短気を上回る。

手渡されたコーヒーを受け取って、カイは喉を潤す。

コーヒーの苦味は最初こそ慣れなかったが、今では美味しく味わえる。

睡眠不足の身体に、カフェインはありがたかった。


「大変そうね。随分悩んだ顔してたわよ、今」

「必死だっての、こっちは。間に合うかどうかの瀬戸際なんだから。
遊んでる暇も無いぜ」

「カイは今年初めてのクリスマスだもんね。うまくやれそう?」

「分からなくなったら、片っ端から聞いてるよ。慣れない事の連続で精神使うからな。
戦ってる方がマシだよ、これじゃ」

「事務仕事とか向いてなさそうだもんね、あんた。
あたし達の苦労が分かったでしょ? 感謝して敬いなさい」

「そこまで威張る程かよ!? ――と、普段なら言うんだが。
身に染みた苦労が反論する気力を奪う・・・」

「うんうん、分かればよろしい」

「っちぇ」


 慌しい周囲の中で、穏やかな空気が流れた。

小さなコップのインスタントコーヒーを傾けあって、何気ない会話に華を咲かせる。

そんな平凡で、ささやかな時間が互いに何よりの休息を与えてくれる。

語り合う男と女に垣根は存在しない。

その場に居るのは、対等な友人同士だった。



――あの頃より、二人は始まった。



"捕虜となっている三人を今後クルーの一員として取り入れようと思う"

"ええーーーーー!? こんな奴が仲間に!?"

"まじか!? 海賊の一味になれっていうのかよ!?"



 敵でも味方でもない、不明瞭な関係。

目標を達成し、困難な旅を成立させる為に。

強制的な仲間関係を強いられて、奇妙な男女生活は幕を開けた。

マグノやブザムの居るブリッジには異議や問い合わせに、カイはよく出向いた。

その度にカイとアマローネを始めとする三人のブリッジクルーと、よく口喧嘩をした。

直接暴力行為に出た事は無いが、一時険悪な状態に陥った事はある。

連勝による傲慢とメイアとの行き違い、ディータへの八つ当たり。

カイのやり場の無い怒り。

そして、男女生活におけるアマローネ達の蓄積した不満。

鬱屈とした感情が互いを合わせた途端破裂して、大喧嘩に発展した。

現場での仕事の辛さと厳しさ、人間関係の様々な側面を知って、カイは謝罪して何とか仲直り出来た。

その後も何度か話をする機会はあったが、セルティックやベルヴェデールとは違って、アマローネとは何も諍いを起こしていない。

特別に意識してはおらず、懇意にする努力もしなかったのだが、二人の関係に壁はなくなっていった。

話をする度にタラーク・メジェール両国家の教育は薄れていき、嫌悪や拒絶の意識は消えていった。

改めて、不思議な関係だと思う。

ディータのように近づいて来ず、メイアのように離れていかず。

ジュラのように隣に立とうとせず、バーネットのように疎外もしない。

ベルヴェデールのように気分屋でもなく、セルティックのように拒みもしない。

仲がいいのか悪いのか、その境界が非常に分かり辛い。

多分、本人もよく分かってはいないのだろう。

こうして自然に話しているのが当たり前で、一番いいように思える。

冷たいコーヒーをもう一口飲んで、カイはアマローネの横顔を見つめた。

彼女は密かに人気があった。

人当たりがよく、仕事もそつなくこなす。

技術ではセルティック、スタイルではベルヴェデールに劣るが、温厚で責任感の強い彼女は仕事上の評価も高かった。

アマローネに関して悪い噂が流れる事はまるで無く、ブリッジクルーヘの問い合わせも一番に彼女に通される。

こうしてカイに付き合えているのも、彼女自身の人柄故なのかもしれない。


(・・・どうなっていくのかな、これから)


 付合い始めて四ヶ月。

女は魔物という概念は木っ端微塵に吹き飛んでいるが、理解し難い存在という認識は別の意味で持っている。

何しろ、出会う女性一人一人がまるで違う。

同じ女でも容姿や性格、考え方や価値観に共通点が見えない。

結ばれているのは故郷の教えと海賊の理念。

カイと一線を分け隔てる、相容れない生き方――

そんなマグノ海賊団と旅を通じて、カイは女への興味が別の何かに変わっていっているのを最近感じている。

傍に居るだけで、浮き立つような衝動。

じっとしていられず、落ち着かない感覚がある。


「どうしたの、そわそわして」

「べ、別に何でもねえよ」

「・・・? 変なカイ」


 軽やかに笑う。

屈託の無いアマローネの微笑みに、嘲る様子は全く見えない。

このまま黙っていると余計関心を惹きそうなので、話題を変える。


「そういえばさっき、お前の同僚が仕事サボってたんだ。
お前からもクギさしておいてくれよ」

「同僚ってベルのこと? あの娘がどうしたの」

「何か・・・星がどうとか言って、クリスマスの準備をさぼろうとしてやがったんだ。
俺が汗水垂らして働いているのに、自分だけのんびりするとは許さん」

「別に準備は義務じゃないからいいじゃない。
最近ちょっとはマシになってきたかなって思ってたけど、そういう我侭なトコは変わらないわねー」

「そりゃま、そうだが・・・
自分が必死になっている前でのんびりされたら、理不尽だと分かってても何かこう――むかつくだろ?」

「――その台詞を、そのままパイロットのあんたに返すわ」

「ごめんなさい。もう言いませんから、許してください」


 マグノ海賊団は専門の部署に分かれているが、軒並み忙しいのがこのブリッジである。

最前線を指揮する上で重要なポジションであり、艦の内外問わず全領域を統括する業務を担っている。

残業も多く、休暇も不定期。

特に忙しいのが艦内警戒態勢――戦闘時である。

パイロットは前線で命を賭けて戦う仕事。

過酷ではあるが、戦いさえ終われば任務は終了となる。

だが、ブリッジではそうもいかない。

戦う前は出来うる限りの情報を前もって入手し、戦闘中は最前線の補佐と艦内の警備に従事し、戦闘後は敵情報の入手と残務処理。

目の回る忙しさである。

そんな忙しない状況で、話し掛けてこられると腹を立ててしまう。

カイはよく戦いの後遊びにいき、怒られていた。

その気持ちを実感として今味わっているカイには、彼女の迫力に恐れ入ってしまっていた。


「彗星を見てたんでしょ、きっと。尾が引いて綺麗だもん」

「すいせい・・・? 何だそりゃ」


 引っくり返りそうになった。

被っていた帽子が落ちそうになり、慌てて被り直しながらカイに向き直る。


「彗星も知らないの、あんたは!?」

「記憶喪失者に無茶言うな! 何から何まで初めてなんだぞ!?
タラークじゃ勉強できる環境じゃなかったしな」


 カイは自分の年齢はおろか、名前も知らない。

生死を彷徨う大怪我を負って、薄汚い路上で転がっていたのが自分の人生の始まりだった。

日常的な知識や生きる知恵は酒場で学んだが、知識に偏りが出るのは致し方なかった。

際立った戦略を思いつく事もあれば、子供でも知っている簡単な事柄を知らなかったりする。

アマローネはそんなカイの様子に溜息を吐いて、


「・・・見せた方が早いわね。ちょっとこっち来て」


 話している場所はブリッジ。

ニル・ヴァーナの外界を調べるのは簡単だった。

自分の席に戻りコンソールを起動させて、調べていた探索データをアクセスする。

幸い先程まで調査していたデータがある。

アマローネはコンソールを操作して、手元の小型モニターに撮影した映像を見せた。


青白い光の霧。


闇に満ちた宇宙で閃光の楕円を描く星。

カイは呆気に取られた顔で――


「・・・綺麗だな・・・」


 ――素直な自分の心を、口にした。

ブザムに懇願してまで彗星を見たいと言ったベルヴェデールの気持ちがよく分かる。

美しさではアンパトスには敵わないが、彗星は惑星とは違う。

彗星とは楕円軌道を描いて回る小天体で、何十年から何万年かけて広い世界を巡っていく。

気の遠くなる年月で美しい軌跡を描く輝石。

灰色の空に覆われたタラークでは決して見る事の出来ない、宇宙の奇跡が目の前にあった。


「彗星は氷とチリの集まりで出来てるわ。
詳しい成分は検証されてないから分からないけど、この尾は主にガスが光り、電気を帯びているから青白く光ってるの」

「なるほど・・・ん?」

「何、どうしたの?」

「――いや」


 気のせいか?

光の尾が不意に赤く・・染まったように見えた、が――

見直すと、青白く光っているのみである。

カイは妙な違和感を感じつつも、首を振るしかなかった。





もし、カイがここで違和感の正体に気づけば――





――後に起こる危機は避けられたであろう。


















































<to be continued>







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