VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action39 −商談−







 ミレル・ブランデールは、礼儀を重んじる女性である。

己の人生に磨きをかけて、充足と誇りを抱いて生きている。

海賊家業に身を費やしているのは、所属する大勢の女性と同じく故郷を追い出された為。

メジェールに見捨てられた者達が向かう先として、波乱の時代に帰結する形で入団した。

とはいえ、彼女は環境に流される女性ではなかった。

略奪と暴力の家業であるからこそ、潔癖な心を持ちたかった。

親より学んだ教育を大切にし、故郷の教えを貫き、自身の価値観を大切にする。

そんな彼女が嫌っているモノは二つある。

男と、子供である。

人間として認められない存在、大人として認められない存在。

存在の価値が理解できない種族、存在の在り様が理解できない種族。

簡潔に言えば――自分に合わないモノが苦手なのである。


「いい加減泣くのはおよしなさい、みっともない。
まるでワタクシが苛めたみたいではありませんか」

「ひく、ひく・・・」


 夜分遅くだから、逆に助かった。

もしも昼間だったら、一騒動になっていただろう。

多くの女性に人気のエステ。

長旅で疲れた肌を癒し、最良の癒しを提供するこの場所で泣かれたら雰囲気を崩す。

もっとも、このような尋問を昼間エステで行える筈も無いので、前提そのものが無意味ではあるのだが。

椅子に拘束されたままのディータを起こして、元の体勢に戻す。

ミレルは丁寧に折り畳んだ白いハンカチを取り出して、ディータの濡れた頬を拭いた。


「貴方も新米とはいえ、ドレッドの出撃を許されたパイロットなのです。
どのような逆境にも負けない、強い心を持たなくてどうするのですか?
ワタクシ達の命を預けているのですよ」

「ぐす・・・ごめんなさい・・・」


 ディータを追い込んだ張本人なのだが、何故か励ます側に回っている。

追いつめてカイへの痛手とする策略だったのだが、まさか子供のように泣き喚かれるとは思わなかった。

仲間を自身の道具とする事に抵抗は無いが、泣いている子供を無理に追い込んでも仕方が無い。

ミレル本人も興醒めしてしまい、シートに座り直す。

心の内を残らず吐き出した反動か、ディ−タも今は大人しい。


「――貴方の御意見は良く分かりました、ディータさん」

「・・・」


 目を真っ赤にして意気消沈する女の子を凝視していると、策略をする相手の選択ミスに悩んでしまう。

とはいえこのまま放置も出来ず、追いつめたところで泣かれるのがオチだ。

策略を押し進めても逆効果になってしまい、別の絡め手で責めるには相手が感情的になり過ぎている。

子供は苦手――心からそう思える。


「彼への貴方の想い、しかとこの耳でお聞きしました。
まさか、それほど純粋な好意を抱いているなんて・・・
聞いていて、ワタクシが羞恥に震えそうでしたわ」

「あぅ・・・」


 "ディータは宇宙人さんが好き"


思い掛けず、眠っていた仄かな気持ちが声に出た。

ディータは頬を桜色に染めて、胸の奥の激しい動悸に喘ぐ。

嫌な感じは微塵も無い、心地良い苦しみだった。


宇宙人さんが好き――大好き。


一言一言呟くだけで、歓喜に微笑みが毀れてしまう。

家族や友達とでは芽生えない、高鳴る感情。

物語や童話でしか見聞きしていない大人へのステップを、今少女は明確に感じ取っていた。

同時にカイへの気持ちが昇華されて、ますます好きになってしまった。

宇宙人さん・・・


「・・・ワタクシが目の前にいますのに、何をひたっているのですか貴方は」

「い、いえ!? ご、ごめんなさい・・・」


 上気した顔のまま、ディータは必死で首を振る。

明確な恋心を持ってしまった以上、消す事はもう出来ない。

現状を省みて、必死でディータは昂ぶる想いを沈めた。

そんなディータを――


「・・・貴方は、自分の立場を理解していないようですわね」

「で、でも――あのクリスマスの荷物は、宇宙人さんの・・・」

「そうではありません。
彼に好意を抱いている貴方の心こそ裏切りだと、ワタクシは指摘しているのです」


 裏切り――ディータの心に別なる昂ぶりの炎が噴き出る。

立ち上がりかけて、拘束に身体がふらつく。


「どうしてですか!? 
宇宙人さんは優しくて強くて――誰よりもカッコ良い人です!」

「それは、貴方が彼に好意を抱いているからです。
好きな人を悪く言う人間はいませんもの、贔屓目に過ぎませんわ」

「違います! どうして、宇宙人さんを悪く言うんですか!」


 怒りに身を任せて、しっかりとした瞳で相手を見据えるディータ。

予想外の鋭い眼光に目を丸くしながらも、ミレルは冷静に言い放つ。


「彼が敵だからですわ」

「宇宙人さんは、ディータ達の味方です!」

メジェール・・・・・では敵ですわ。
そして――マグノ海賊団・・・・・・の敵でもあります」

「――!?」


 似たような主張だが、その意味合いは全く違う。

出逢った頃に比べて、カイは女性達と極端な衝突を繰り広げる事は少なくなった。

こうした反対派・賛成派に隔てた今も、カイは相互理解を求めて頑張っている。

女だからとむやみやたらに敵視するのではなく、敵対する理由の根源に目を向けている。

ディータの言う優しさか、カイ個人の好意か。

気持ちの流れを察する事は本人でしか出来ないが、少なくともカイがディータや他の女性に敵意を向ける事は無いだろう。

そのくらいの認知はディータのみならず、他の女性陣全員が持ちつつある。

これまでの戦い振りと発言で、カイ個人の性格や持ち味が理解され始めているのだ。

ただ、根本的な価値観のすれ違いは何も変わっていない。

立場の――違い。

ディータ達はマグノ海賊団という生き方を、カイは英雄への道を歩む生き方を進んでいる。

彼は今だマグノ海賊団が行った略奪を許していない。

今後どのような旅の過程と終焉を迎えるのかは分からないが、両者の立場が変わることは無いだろう。

互いに仲良くなったところで、生き方まで変えられない。

故郷に戻り、仮に刈り取りの脅威を防げたとしても――マグノ海賊団は海賊のままで在り続ける。

海賊であり続ける限り、生きるために――自分と仲間を守るために、略奪は行われる。

カイは、決してそれを許さないだろう。


「仮に、無事に故郷へ辿り着いたとしましょう。
その後、貴方はどうなさるのですか?」

「そ、それは・・・宇宙人さんと一緒に――」

「故郷の仲間が、それを許すとお思いなのですか?
お頭や副長が御許しになっても――レベッカ・・・・さんやヴァロア・・・・さんが認可するとは思えませんわ。
貴方もパイロットなら、先輩方の強い縄張り意識は御存知でしょうに」

「・・・」


 レベッカにヴァロア、この二人の名前を聞いた途端にディータは顔を青ざめる。

アジトに残っているマグノ海賊団の首領格。

二代目お頭候補と、全ドレッドチ−ムのエースパイロット。

故郷に残っている有数の幹部達を思い浮かべて、ディータは心が萎むのを感じた。

この共同生活は仲良くなる事が目標ではない。

あくまで、男と女で力を合わせて今の危機を乗り越える為にある。

目的が達成すれば、それで終わり――それほど儚い協力関係でしかない。

生き方は、変えられない。

マグノ海賊団には沢山の人間が海賊として、生活をしている。

蓄えを無くす訳にはいかない。

カイは英雄として、犠牲者を強いるやり方を許さない。

どのような理由があったとしても、カイが全面的に肯定する日が来る可能性は皆無だろう。

両者は――戦う運命にある。

悲劇的な結末は回避出来ても、根本から分かり合うのは無理だ。

何より、故郷のメジェールが男そのものを否定している。

男の堕落を説いて、その在り方を無価値であると断じている。

このまま故郷へ帰った所で、カイは女の居る世界には住めない。

カイが男である限り。

ディータ達が女である限り。

カイが英雄である限り。

ディータ達が海賊である限り、

どれを曲げてしまえば、今までの歴史を覆してしまう。

自分自身が正しいと信じた生き方そのものを、世界を、否定しなければいけない。

好き嫌いの感情だけで、覆せはしない。

ディータ達と仮に分かり合っても、故郷や故郷に居る仲間達が許さないだろう。


「貴方もメジェールで育ったのなら、お分かりでしょう。
――男と女が分かり合うなど、幻想にすぎないのです」


 ミレルはカイを嫌っており、彼との共存を一切認めていない。

策略を張り巡らし、カイを陥れた事に後悔も無い。

今後も分かりあう気持ちも無ければ、歩み寄るつもりも無い。

ディータを策略の道具に仕立て上げたことへの、罪悪感も無い。


「・・・夢を見るのはおやめなさい。辛いだけです。
貴方にとっても、彼にとっても――」


 いつかは別れる運命にある。

ならば、優しい時間を積み重ねる事は残酷でしかない。


――ディータの、彼への強い気持ちを知ってしまった。


哀しくも、勇気ある言動を見せた。

ディータの言葉に感銘を受けたのではない。

あれだけの言葉を放ったディータに、ほんの少しの敬意を抱けた。

男を――カイを好きだと、素直に言えるその気持ちに。

彼に出会ったからこそ発揮出来た強さなのだとすれば――


――ただ、それだけは認めなければならない。


「――ですから、このクリスマスを最後の思い出としなさい」

「え――」


 きょとんとした顔で、聞き返してくる。


だから、子供は嫌いなのだ。


ミレルは純真なその視線に顔を背けて、


「興が醒めました。――お好きになさい。
ただし、甘い顔をするのはこれが最後ですよ」


 それ以上説明する義理は無い。

拘束だけを解いてやり、そのまま施設を後にする。

背後から聞こえるお礼の言葉と大喜びの歓声に、ミレルは深い嘆息をこぼす。

明日の朝反対派全員を集めて、説き伏せなければいけない。

その労力を考えると、余計に頭が痛くなった。

子供に泣き落としさせられて、遂に妥協してしまった。

これでカイに公然と反対する勢力が消えた事になる。

今は。

ミレルは自嘲気味の微笑みを浮かべて、


(――まずは資材の返却をしなければいけませんわね。セキュリティを解除して――)














「ごめーん、セキュリティがあるって教えて無かったね。許してケロー」

「――し・・・知って・・・て、誘っただ・・・ろ。お・・・前・・・」


 今宵、少女の小さな告白があった事は露知らず。

無邪気な看護婦に叩き起こされた噂の男は、電気ショックに打ちのめされていた。
 


















































<to be continued>







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