VANDREAD連載「Eternal Advance」





Chapter 2 −The good and wrong−





LastAction −生まれたての想い−




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その一瞬を、メインブリッジのクルーの誰もが息を飲んで見つめていた。

まるで聖なる奇跡を目の当たりにしたかのごとく、まるで悪魔の誕生を畏怖するかのごとく、

神秘と凄絶が「それ」には存在していた・・・・・・・


「あ、あれも・・・男の秘密兵器だって言うのかい・・・・」


 海賊団の頭マグノでさえも、息もつかない様子でただ目の前の光景に見入ってしまっている。

長年生きて数ある修羅場と困難をくぐりぬけた彼女ではあるが、

メインモニターに映し出されし「それ」は、これまで見た事もない未知であった。

ブザムも同じ心情なのか普段の冷静さも無いままに、「それ」を茫然自失の様子で見つめている。


「これが・・・あの男の起こした奇跡なのか・・・・」


 先刻みなぎる強さを宿した瞳で語っていたカイの姿が、脳裏に浮かぶ。

少年の幼い純真さと青年の健やかな強き意思を持っているたった一人の男によって、

「それ」は強烈な具現を持って今現れたのだ。

ブリッジクルーの誰もが声も出ない中、ナビゲーション席にいる一人の男も同様に驚愕していた。


「な、何だありゃあっ!?」


 キューブの攻撃が止んでようやく落ち着いたのか、数分前までの混乱はない様子である。

もっともナビゲーション席より送られてきた映像には度肝を抜かれてはいる様子ではあるが。

そのバートの驚きが、目の前の「それ」が男の新兵器でもない事を証明していた。

操舵手の意識が は艦にも伝わっているのか、融合戦艦も現在は停止している。


「あ、あいつがやったのかよ・・・・」


 たかが三等民に過ぎないカイが戦場を駆け抜けて戦い、今変わろうとしている。

バートは半ば信じられない思いで目の前の「それ」を見つめていた・・・・・・・・















 炎という神々しい紅き流れに包まれた卵から生まれたように、一対の翼が優雅に宇宙へ具象化している。

翼はすっと一撫で空間を一線すると炎の殻は祓われて、内側より対象的な白亜の輝きを放った。

やがて炎の勢いが弱まってくると、「それ」の全貌は明らかにされてくる。

全体的に銀色の輝きを放っている「それ」は、まるで生まれたばかりの雛鳥のようだった。

鋭く先端を尖らせている嘴に、宇宙のどこでも駆け抜ける事が出来そうな翼。

立ちはだかる敵を凪ぎ散らさんばかりの爪が、前方に飛び出している。

ピロシキが放った殺意に満ち満ちた炎により誕生した「それ」、正に一体の新しい鳥形の機体であった。

全体的なデザインはメイア機のドレッドを髣髴させるものがあったが、

流麗なボディに爪や嘴等を搭載された力強さは、カイの新型ヴァンガードを意識させる。

ピロシキもその機体に只ならぬ何かを感じたのか、急速に退避行動をとり始める。

カイの相棒に牙を向いた触手の槍を引っ込めて、後退していく。

だが、それを見逃す新型の機体ではなかった。

白き翼が銀色に輝いたかと思うと、凄まじい加速力を発揮して間合いをつめていく。

今までの蛮型やドレッドとは比べ物にならないスピードに、尖兵のキューブもなす術がなかった。

慌てて機体を追いかけ再度取り囲もうとするのだが、結果止められず薙ぎ払われていく。

あまりにも激しい勢いに本体であるピロシキは、迎撃を行う余裕すらなかった。

至近距離まで接近を行った新型の機体は、そのまま触手を吐き出した射出口へ嘴を突き刺す。

刹那の一瞬、ピロシキはボディを後退すべく全身を震わせる。

だが嘴が急速な光の収束を帯び、次の一瞬ピロシキの射出口へ飛び込んでボディを貫通した。

どてっ腹に大穴を開けられたピロシキはもはや行動を起こす余力もなく、宇宙に大輪の花を咲かせた。

本体が焼失した事により、キューブも撤退行動をとった。

まるで呆気無い程のカイ達の勝利だった・・・・・・・・・・・
















「す・・・・・すごーーーーい!!すごい、すごい!!!
宇宙人さん、すごいよ!!」


 ピロシキの四散をモニターで興奮して見つめていたディータは、歓声を上げる。

鮮やかな勝利に、彼女の心は歓喜で満ち溢れていた。


『ちょ、ちょっと待ってよ!?あの機体はいったい何よ!?
ジュラはあんなの見たことがないわよ!?』


 今だ信じられないのか、理解不能といった顔つきでディータ機とコンタクトを取るジュラ。

超上とも言える現象を目の前にしたのでは、無理もないかもしれない。


『決まっているわ!宇宙人さんがやったのよ!
エイリアンパワーでババンと登場して、かっこよく倒したのよ!かっこいい』

『あんたの寝言に付き合っている暇はないの!どういうことか説明しなさい』


 八つ当たりに近いのだが、ジュラはモニター越しにディータに詰め寄った。

寝言扱いされたのが不満なのか、ディータも珍しく口を尖らせる。

『絶対にあれは宇宙人さんです!ディータ、間違えたりしないもん』

『でも、あいつとメイアの機体はどこよ!どこにも見当たらないじゃない!』

『え、えーと・・・・・』


 さすがにそう言われては、ディータも言葉につまった。

実際何がどうなったのか、彼女にも分からないからだ。

ただ確信していたのは、現れた鳥形の機体はカイによるものだという事であった。

その考えはある意味では間違ってはいない。


『ディ、ディータ見てくる!ジュラはここにいて!』


 話していて落ち着かなくなったのか、ディータは自機を加速させて飛びだった。

勢いのままに、グングンと鳥形の機体に近づいていく。


『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!ジュラを置いていくなんていい度胸してるじゃない!』


 モデル並のプロポーションと大人の魅力を讃えた美貌を持ちながらも、

その実少女のような純粋さと弱さを秘めているジュラ。

置いていかれてはたまらないとばかりに、ジュラも後に続いていった・・・・・・















「へ・・・へへ・・・やっと勝った・・・・前へ進めた・・ぜ・・・・」


 夢うつつのぼんやりとしたまどろみの中で、カイは満足げに呟いた。

ピロシキの攻撃を受けた際の意識は定かではなかったが、彼はそれでも自分の勝利を確信していた。

最後の最後まで諦めなかった信念がこの勝利を導いたのだ。

だがさすがに気を張って疲れ果てたのか、カイはそのまま背後のシートへもたれ掛かる。

と、その時柔らかい感触が背中にあたった。

それは自身の体重を受け止めてくれるシートの感触ではなく、きめ細かな心地よい柔軟さがあった。

同時に背中より伝わる温もりと胸の奥をとろけさせる微香が脳髄を刺激する。

カイは一瞬で目が覚めて、背後を振り向いた。


「なっ!?な、な、な、何で・・・・・なんでこいつがここに!?」


 カイの肩に甘えるようにもたれてかかっているのは、何とメイアであった。

空色の髪がふんわりと頬に撫で、端正な顔立ちよりその瞳はしっかりと閉じられていた。

どうやらカイと同様、先程のショックで意識を失っているようだ。

肩にかかるメイアの重み、背中より伝わる感触と暖かさにカイは訳も分からずに胸の奥を詰まらせる。

イカヅチでの戦闘で仮面を剥いだ時にメイアの素顔を見た時に感じた時と同じ、いやそれ以上だった。

鼓動は戦いとは違う勢いで高鳴り、息は詰まって、心が真っ白になった。

敵意すら感じていたはずのメイアだったが、その安らかな寝顔は今までの確執を忘れさせた。

小さく寝息を立ててカイの肩にもたれる彼女の表情は、美しさの中に少女のような可憐さがある。

その表情に身体全体を覆う疲労感も消し飛んで、カイは恐る恐るメイアの頬を撫でる。


「ん・・・・」


 メイアは気持ち良さそうに、撫でられた感触に声をあげる。


「こ、これが・・・女・・・・・・」


 柔らかい暖かみのある頬の感触、カイは顔を赤くしてうわ言の様に呟いた。

自分のような男とは違う魅力を秘めているメイアに、カイは劇的ショックを受けていた。

のぼせたような表情を浮かべて、そっと蒼い髪にふれる。

触れれば触れるほど、感じれば感じる程に疲労は消し飛び、心に力がみなぎる。

充実した心地に身を任せ、カイはこれまでにない優しい微笑を浮かべ、メイアにそっと・・・・・


「せ・く・は・ら・だぴょろ〜〜〜〜」

「どあぁーーー!?」


 耳元で囁かれた声に、カイは仰天して大声をあげる。

今までの安らぎも心の充実も消し飛んで、カイは顔を真っ赤にして声を荒げる。


「お、お前いたのか!?」


 すっかりと忘れ去られていた六号が、剣呑とした瞳でカイを見つめている。


「ずっといたぴょろ!お前が乗せてきたんだぴょろ!!」

「あ、ああ、そ、そそ、そうだったな・・・・」


 驚きにドキドキする心臓を抑えて、カイはやや焦ったような声をあげる。

苦笑いを浮かべて対応するカイに、六号はにんまりとした様子でカイにそっと近づいた。


「な、何だよ、その目は。何か言いたい事でもあるのか」


 寝ているメイアに気を使って、やや小声で話し掛けるカイ。


「フッフッフ・・・・今何してたぴょろ?」


 ギクッとしたように体を震わせて、カイは焦った様に答えた。


「あ、あのな、勘違いするなよ?
俺は別にこいつにどうこうしようと思ったわけじゃなくてだな・・・・・・
そ、そう!今日初めて見た女って生き物を観察しようと思ったわけだ。
やはり宇宙一のヒ−ローたるもの、いろいろな事を知っておかねばな、はっはっは」


 乾いた笑いを発して、カイは誤魔化すように視線を逸らした。

だが、それぐらいで追求を止める六号ではなかった。


「旦那〜、嘘はいけませんぜ〜〜
さっきこの娘の頬や髪を撫ででたぴょろ。何かとても嬉しそうに見えたぴょろよ〜〜」


 したり顔で頷く六号に、冷や汗を浮かべるカイ。

どうやら先程までの全てを六号は一部始終眺めていたようだ。

見られていた事に羞恥を感じ、改めてなぜあんな事をしたのか自分でも分からなかった。


「あ、ああ、そうさ。撫ででたさ。文句あるか、この野郎」

「あー!!開き直ったぴょろ!汚いぴょろ!!」

「やかましい!それよりどうなってるんだよ、これ」


 カイは落ち着きを取り戻し、改めて自分の周りを自己認識する。

先程乗っていた蛮型のコックピットとは、完全に様子が変わっているのだ。

コックピット内は全体的に光り輝いており、しきりに点滅を繰り返している。

乗っているシートも完全に変形しており、タンデム上の構成になっていた。

前部と後部にそれぞれ二シーター形状となっており、腰を密着する形で二人が納まっている。

前部にはカイが前傾姿勢のレーサータイプで座っており、眠るメイアは後部でアメリカンタイプで着席。

ピット内部にはシート前方にマルチスクリーンが、

背後には機体全体のコンディションを示すパワーインジケートが搭載されていた。


「お前の蛮型とこの娘のドレッドが合体したんだぴょろ」

「な、何だって・・・?ドレッド?」


 元々軍事知識を勉強したことがないカイに、専門用語は難しいようだ。

六号はため息をついて、詳しく説明する。


「つまり女の船の総称のことだぴょろ。タラークの船を守る時にお前が戦った女達の船だぴょろ」

「ああ、あれか。で、合体ってどういう事だ?」


 カイが視線を向けると、六号も神妙な顔つきで答えた。


「よく分からないけど、敵の攻撃が来た際にお前とこの娘の機体が激突したんだぴょろ。
途端に光が発して、機体同士が合体して今の状態になったんだぴょろよ。
敵を撃破できたのもその性能だぴょろ」


 六号の話が本当なら、先のイカヅチと海賊母船が融合したように、

カイの蛮型とメイア機もまた合体した事になる。

六号の話を聞き終えたカイは、首をひねって聞き返した。


「どうしてそんな事になったんだ?相棒にはそういう能力もあるって事か」


 知識がないカイが無遠慮に聞くと、六号は瞳を険しくして答えた。


「そんなわけないぴょろ。タラークとメジェールは敵対関係にあるぴょろよ。
合体なんてしたらとんでもないぴょろ!」

「確かにな。となると、これもあのペークシスとやらの影響か・・・・」


 結果的に自分を二回も助けてくれたペークシス。

それが一体どういう意味を持っているのか、カイには分からなかった。

ただそれでも、こうして勝って生き残っている。

まだまだ自分の求める道は果てしなく遠いが、今自分が納得する新しい一歩が踏めた。

カイはそれだけで十分満足だった。

メイアの寝顔をちらりと横目で見て、カイは口元を緩める。


「ま、うだうだ考えるのは後にしよう。敵本体も倒したし、雑魚は逃げていった。
俺らの勝利だ。戻ろうぜ、ふ・・・・」


 船に、といおうとしたその時、突然通信回線が開かれる。


『こちら、ブリッジクル−ベルヴェデール・ココ。応答願いま・・・ああっ!?』

『へ・・・?あ・・・・』


 ベルヴェデールの見開いた瞳が、自分の肩に注がれているのを見てしまったという表情をするカイ。

肩には眠り続けるメイアがもたれかかったままなのだ。


『ちょっと!!アンタ、何やってるの!!メイアに何をしたのよ!!』

『ちょ、ちょっと待て!あんた、何か誤解しているだろう!?』

『誤解!?どこをどう見たってメイアが引っ付いているように見えるじゃない!
メイアをどうしたの!まさか人質!?』

『だああ!?誰がそんな馬鹿なことするかい!』

『あんた、私たちの仲間を人質に取ったじゃない!』


 痛い所を突かれて黙り込むカイ。

そこへ別回線が開かれ、事態はさらにややこしくなる。


『宇宙人さん!大丈夫、お怪我は・・・・あ・・・・・・』

『い、いや、ちょ、ちょっと、待てお前。俺は何もしてないぞ!?本当だって』

『ど、どうしてリーダーが宇宙人さんと一緒にいるの!?ずるい!』

『だから人の話を聞けよ、お前!』

『そうだぴょろ!カイは人質になってとってないぴょろ!
カイはさっきまで優しくこの娘の頬や髪をなでていたぴょろ』

『ばらすなよぉぉぉぉぉぉ、てめえ!!!』


 コックピット内で六号に掴み掛かるカイだったが、すでに後の祭りだった。


『宇宙人さん、ひどいよ!
ディータとは仲良くしてくれなかったのに、どうしてリーダーには仲良くするの!』

『い、いや、あのな・・・・・・・』

『お頭、副長大変です!男がメイアに危害を加えようと・・・・・・・』

『でたらめいってるんじゃねえ、そこの金髪!!』 


 それまでの荘厳な雰囲気は消し飛んで、ブリッジ内はてんやわんやの騒ぎになっていた。

オペレーター席では、とても楽しそうにエズラがモニター同士の言い合いを聞いている。

今まで見られることのなかった男と女のやり取りがそこにあった。


「やれやれ、どうやらまだまだのようだね、あの坊やは」

「ふふ、はい。そのようです」


 マグノとブザムは苦笑気味にそうコメントする。

ブリッジ内で飛び交うカイを中心とした雑談のやり取りを見つめて・・・・・・・



























< −The good and wrong− end>

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