VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action31 −死紅−




---------------------------



 死屍累々に広がる光景は地獄の名に相応しい。

夥しい数の死体が無造作に散らばっており、どれも原形を保っていない。

無造作に解体された痕跡のある臓器からは血肉が漏れて、死臭が鋭く鼻を刺した。



全身を冷たく濡らす血・血・血……



希望など一切其処には無く、全てが絶望が塗り尽くされている。

見ているだけで精神を侵され、粉々に破壊されそうな現実味の無い光景だった。

喉元にまで込み上げてくる嘔吐感を、カイは必死で口で押さえる。

何か口にしようものなら、嗚咽まじりの悲鳴と灼熱のように胃液を吐き出しそうだった。


(……げ、現実なのかよこれ……)


 常人が一目見れば、確実に精神的外傷を負うだろう。

気が狂いそうなリアリティさに、カイは我知らず涙があふれる。

見ているだけでどうにかなりそうだが、カイは必死の形相で堪える。

侵食される精神を、何とか支えているのは二つの力。

悪夢でさえ見れないであろうこの残虐さに負けまいとする意地と、震える自分がカッコ悪いと唾棄する見栄。

軽く押すだけで消えてしまいそうなちっぽけな気持ちだが、カイはまだ自分を放棄していない。


(……何なんだ、これは……)


 すっかりパニックになってはいるが、それでも現状認識を必死で行う。

ファニータ達の異常な言動と、狂気に祭り上げられている自分。

巻き込まれる前にとその場を離れようとして、床が抜けて落下したのは覚えている。

落下の最中意識を失ったのはまだ分かる。

そして目を覚ませば―――此処にいた。


(……ま、まさか……俺、死んだのか?
そ、それでこんな……)


 あの世という概念はタラークにはないが、一般的な認識は持っている。

死んだ人間が向かう先はあの世だというのなら、此処は死後の世界という事になる。

馬鹿げた妄想だと日常では笑うだろうが、目の前は圧倒的な現実感を帯びている。

生命という存在が全く見受けられない、死者だけの世界。

連なる死体の列は端が見えず、彼方まで続いている。

空も地面も―――この世界そのものが血に染まっていた。


(……お、おいおい……真っ当に生きてないのは確かだけどよ―――
こんな地獄に落とされる謂れは無いぞ)


 それにおかしな事もある。

自分だ。

死人が行く先が此処だとするなら、どうして自分は死体になっていない?

血で真っ赤に濡れているが、身体もちゃんとある。

発狂しそうだが意思もしっかり持っており、カイ=ピュアウインドとして今此処に居る。

どう考えてもおかしかった。

震える足腰を手で掴んで起き上がらせて、ふら付いた足で歩く。


「だ、誰か居ないかーーー!」


 声は木霊する事も無く、世界に溶けて消えていく。

歩く度に散乱した臓器や死体が足にこびりつき、血糊が靴をへばり付く。


「おーーーーーーい!
ばあさーーーん!ブザムーーーーー!!青髪ぃーーーーーーーーーー!!」


 ……返答は無かった。

生きている者は自分以外誰も居ない。

容易くそう思わせる程に、この世界は死に絶えていた。

孤独と絶望に心が真っ赤に塗り潰されるが、強く頭を振って神経を保つ。

英雄になる男があっさり弱音を吐いてどうする―――


「……落ち着け……落ち着け……落ち着け……」


 仮に―――ここが現実だとしよう。

自分は死んだのではなく、今も生きていると仮定する。

そうなると此処は落ちた床下の果て―――アンパトスの地下だ。


(……あ、あの女がこれを……?)


 十人や百人どころの話ではない。

世界を埋め尽くす程の人間を殺し、切り刻み、中身を撒き散らした。

一人残らず殺し尽くし、臓器を奪ったのだ。

普通の神経では到底出来ない。

狂人――――殺人鬼としか言い様が無い。

自分で手を下したのではないにしろ、あの女性はこの所業の黒幕であるのは間違いない。

カイは心の底からゾッとした。

人間とは……ここまで狂えるのか……?

人の命をここまで虫けらのように殺す事が出来るのか……?



だとすれば―――何と罪深い生き物なのだろう。



刈り取りといい、ファニータといい、人の臓器を何故ここまでして―――


(……ん?)


 目を覆いたくなる惨劇。

胃液が喉から口へ熱く流れ込むが、必死で抑えて死体を凝視する。

――解体されている臓器がそれぞれ違う。

ファニータがムーニャに差し出そうとしていたのは脊髄・・だった。

その為に国民を殺したのなら筋が通るが、ここまでバラす理由は無い。

脊髄だけを取り出せばいいのだ、他を切り刻む必要はない。

狂信的な忠実さを示していた彼女が、こんな無意味な事をするだろうか?

狂人に正常を求めるのがそもそも無理はあるが……


(……あの女の仕業じゃない、のか……?
確かにこんな真似、人間が出来るとはとても―――)





ピチャンッ





 跳ねる水音―――

押し殺したような静けさの中で、一際大きく響いた。

カイは反射的に目を向けると、





『……ウフフ』





 ―――少女が居た。

小さな足を無邪気に跳ねさせて、血で濡れた頬を拭いている。

血よりも赤いドレスを身に纏った女の子―――

流れるプラチナブロンドは星のように輝き、ツインにまとめている。

抜けるように白い肌は、触れれば吸いついてきそうなほど瑞々しく、曇り一つない。

そして瞳は―――ルビーのような紅の光に輝いていた。


『……"負の意識"に触れたのね…………くすくす・・・・・・』

「お、お前―――!?」


 死に満ちた世界の中で、彼女は鈴振るような声で笑う。

カイは驚愕の眼差しで血に濡れた美少女を見つめる。

この少女を、カイはよく知っている―――


「ソ、ソラ!?」

『ウフフ……やっと会えたね、ますたぁー』


 少女は凍りつくような冷たい微笑みを浮かべた。










 




 距離10000。

長さにすれば遥か彼方だが、ソレは完全なる姿で確認が可能だった。

クリスタル空間の中で、バートは解析と分析を行う。

高速で演算されるデータ処理の数々を目の辺りにして、バートは言葉を失った。

十日前とは比べ物にならないくらい、構造が改良されている。


『……な、何とかなるんだろうな、本当に……』


 エベルギー量や構造補強度は言うに及ばず、敵主力の牽引ビームもより強力になったと見ていいだろう。

今度接近を許せば、カイと同じ苦戦を余儀なくされる。

その為の防衛作戦であり、バートが指揮する立場となった。

踏ん切りはついたとはいえ、怖くないかといわれれば嘘になる。

今だって胸の内は重く、恐怖から目をそらすだけで精一杯だった。

大丈夫だろうか?

失敗はしないだろうか?

バートはぎゅっと目を瞑る。

カイも―――本当はいつもこんなに不安だったのだろうか?

戦略を組み立てて仲間を助け、最前線で戦いに挑んでいたカイ。

いつも気軽に笑って皆を励ましていた。

あの笑顔の裏では―――何を考えていたのだろう?

不安だっただろうか?

恐怖に怯えていたのだろうか?

分からない、分からないが―――カイはそれでも戦い抜いた。

皆を引き連れて果敢に挑戦し、勝利を手に入れたのだ。


(……僕だって……僕だって、負けないぞカイ!)


 ぎゅっと唇を噛んで、弱音を飲み込む。

瞬時の操作で通信回線を幾つも開いて、女性陣に連絡を取った。


「敵が来た!距離5000になったら急速離脱する。ルートはどうかな?」

『周回すればいいんでしょ?
アマロと私で針路設定、セルが敵データ分析と状況確認。
エズラさんの指令にあわせて動いて!』


 作戦の全容はいたって簡単である。

逃げの一手―――ただ、これだけ。

まず、敵の狙いがアンパトスかニル・ヴァーナかを判別する。

しかるべき目的がこちらならば、逃走してアンパトスを巻き込まないようにする。

アンパトスそのものが目的なのならば、一旦引き付けた後に逃げる。

逃走はターンの繰り返し。

敵速度は完璧に把握していないが、前回のデータではニル・ヴァーナより遅かった。

何故修復され、しかも膨張しているのか理解は出来ないが加速する事は無いだろう。

巨大化=鈍重と考えるのは安易だが、その辺はもう祈るしかない。


「店長さん、アイさん。そろそろ行くんで、そっちの方宜しくお願いします」

『お頭代理の命令だ、仕事は完璧にこなすさ』

『収容は済ませておる。お主こそ命を落とさぬようにな』


 逃走経路は確保し、ユリ型を誘き寄せる算段も立てた。

後はただ一つ―――如何に敵を倒すか、である。

当たり前だが、倒さない限り敵はいつまでも存在する。

和平交渉なんて成り立たない敵だ、倒すしか道は無い。

逃走し続けて何とかなると考えられるくらいなら、最初からバートも悩まない。

お頭やブザムが何故この船を任せてくれたのか、ようやく少しは分かった気がする。

逃げるという決断を躊躇いも無くやれる自分。

かっこ悪い役割を、決して賞賛もされないであろう見苦しい選択を自分なら出来る。

それはきっと―――カイにだって出来ない事だ。

自分は逃げる。

逃げて、逃げて、逃げ続けて…………皆の安全を確保する。

この船にいるクルー達全員を守る。

ただそれだけ。

けれど、それはとても大切な役割だ。

後は……



"宇宙一の英雄"に任せる。



あいつなら、自分に出来ない事を―――この船に居る誰もが出来ない事をやってくれる。

常識外の化物が相手だが、きっと倒してくれる。

カイの明るい笑顔を思い出し、バートは不安が抜け落ちていくのを感じた。

安心して心を預けられる相手。



友達―――



 現状の危機を知れば、カイはすぐに駆けつける。

悪ぶってはいるが、その実他人を見捨てられない優しさを持っている男。

カイは今、大切な仕事を行っている。

足を引っ張らないように、心置きなくカイが救出に向かえるまでの時間を稼ぐのが自分の仕事だ。

後の事は、ガスコーニュとアイに頼んでいる。

カイが戦いに出るには蛮型が不可欠。

そのハードルを、専門エンジニアとレジの店長がいればクリアー出来る。

後は―――


「……もう一人―――」


 あの新たな合体兵器、ヴァンドレッド・ジュラ。

それを織り成すもう一つの大切なピース―――















「……ジュラ=ベーシル=エルデン」


 ただ一言、真実を告げる。


「……マスター・・・・・・
カイ=ピュアウインドが―――死にかけています」


 冷たく閉ざされた扉の前で少女は一人、言葉にする。












































































































<to be continues>

---------------------------






小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     










[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]