VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action8 −引力−




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少女には心がなかった。





 欺瞞に重ねられた教育に、命じられるだけの毎日―――

意思は幽閉されて、疑問は断絶された。





 少女は何も求めなかった。





 世界などなかったから。

与えられた命をこなし、報いるままに力を振るえばよかった。

閉ざされた口からは何も言葉を宿さず、気持ちは泥にまみれて消えていった。





 少女は何も与えなかった。





 悪夢は日常であり、絶望は救いだった。

幾千幾万の屍は揺りかごとなり、血化粧に溺れて身体を休めていた。





 そして少女は―――ソラを見つけた。





 ソラは何処までも高く、眩しさに満ちていた。

どこまでも広く、雄大だった。

ソラを感じて――――少女は血に濡れた我が身を見る。

汚れた自分と綺麗なあのソラ―――
 




 少女は無垢だった。





己が自ら求める初に陶酔し、初は始だと理解した。

断絶された世界は堅牢な扉に過ぎず、鍵がついているだけだと把握した。


 それはまぎれもない己が意思。





少女は―――少女であると知った。

















 少女は―――ソラを捕まえた。



















 状況は一変した。

勝利が目前だった理想は消え去って、降りかかる現実に戦慄を覚える。

経験は人を動かして、空前の事実を知るに至る。


「ユリ型、起動。カイ機を捕らえ、行動の一切を奪っています。
通信リンクが遮断されました!」


 アマローネの報告に目を見張って、ブザムは今何が起きているかをその目で判別する。

ユリ型―――見た目と皮肉をこめてマグノ海賊団が呼称した新型の識別名。

善戦していた戦況を一変させた悪魔が、遂に毒牙をかけてきたのだ。

ヴァンドレッド分離と同時に、ユリ型は突然発光。

その変化は刹那であり、ブリッジクルーの誰もが反応の気付きに数秒かかった。

そして、それだけで手遅れだった。

その場にいた誰もが気を許した瞬間に―――ユリ型が放った光の帯にカイ機は包まれた。

帯はカイ機の全身を包み、放射し続けている。

全てが行われた後で、ブザム達は慌てて状況を確認した。


「・・・こっちの不意をついてきたか」

「偶然とは考えられません。ヴァンドレッドが分離する瞬間を狙ったのでしょう。
敵はヴァンドレッドがドレッドとヴァンガードが合体して生まれるのだと知っています」

「嫌な敵だよ・・・戦えば戦うほど、こっちの弱点を見つけてくる」


 戦術面からすれば当然だが、マグノ達にとって痛手であるには間違いない。

強力なヴァンドレッドといえど、合体しなければ誕生しない。

合体する一機一機はただのドレッドであり、蛮型である。

しかも合体する瞬間は狙いには向いていないが、分離する瞬間は別である。

分離の瞬間は機体がどうしても無防備になってしまい、精神的にも緩みは発する。

それは本当に一瞬なのだが、その一瞬が敵には好機だったのだ。

マグノとブザムが顔を揃えて渋面する中、ベルヴェデールが新事実を明らかにする。


「スキャン、終了。光を識別しました。
恐らく・・・・牽引ビームの一種ではないかと」

「牽引ビームだと・・・?」

「ユリ型が発動させている白い光より、強力な磁場と生じる引力を確認。
ブースター二機をフル稼働させていますが、カイ機が徐々に引き寄せられています。
このままでは―――」

「く・・・・なるほど、あの巨大な図体は機体を取り込む為か。
文字通り、刈り取り用の保管庫だな」


 牽引ビームとは、何らかの原因で故障・破損した機体を船に収納する為に使用される。

故障・破損が原因で自ら運行する事も適わない機体は、ただ宇宙を漂うしか出来ない。

牽引ビームはそんな機体を包み、船へと引き寄せるのである。

そのまま機体を船へ導けば、格納して修理する事も可能だ。

このような運用目的を見れば分かるとおり、通常牽引ビームは兵器利用などされない。

巨大な船体すら操られるとはいえ、ただ引っ張るだけである。

まして、戦場では機体は常に動き回っているのである。

れた機体は停止している為捕らえるのは容易だが、活動する船を捕まえるのは困難だ。

最大限利用できても、行動の足止めが出来る程度だろう。

そんな遠回しな攻撃をするなら、直接ビームやミサイルで破壊した方が早い。

牽引ビームはあくまで平和利用にしか役立たない代物なのである。

正確には、だったと言うべきだろう。

目の前で軍事利用されているのだから―――


「出力が通常の約25倍に及んでいます!」

「カイ機、右腕・左足の装甲に亀裂!」


 次々と寄せられる劣勢に、ブザムは冷静に戦況を組み立て直す。

こうなった以上、ユリ型は現状での最大脅威として扱わなければならない。

ブザムはドレッドチーム全機に命令を行った。


「バーネット並びに所属チームはキューブの掃討。
メイアチームは敵主力に集中。カイ機を救出!」

『了解。行動を開始します』


 前衛は既にユリ型への攻撃を開始しているが、まだキューブタイプも残っている。

総力戦ではまだこちらが有利なので、ブザムは数で押し切る戦法に出た。


「皆は引き続き情報収集に取り掛かってくれ。
対策をこちらで講じ講じ、うって出る。時間との勝負だ。
バートは万が一に備えて、ニル・ヴァーナと惑星との距離を確保。
敵の注意をこちらにひきつけるんだ」

「分かりました!」

『了解っす』 


 全員が一致団結して敵に取り組む。

マグノ海賊団の強みはそこにあった。

総員が慌しく活動する中、マグノもまた皆の安全を祈っていた。




















 全身が荒縄で縛り付けられたかのように動けない。

頭が、胴体が、腕が、足が、猛烈なインパクトに襲われて動き一つも取れずにいる。

四方八方から押し寄せる強引さは、肉体をバラバラに引き裂かんばかりの力強さだった。

全身が悲鳴をあげる中、カイは歯を食いしばって操縦桿を握り締めていた。


「ぬぐぐぐ・・・・うぐぐぐぐぐぐぐ!!」


 両手の平から毒々しい赤い液体が滲んでいる。

乱雑に短く切り揃えられた黒髪は汗が光り、凛々しく結ばれた眉は引き攣っている。

腕は血管が浮き出ており、背の高さを形成する足も筋肉痙攣を起こしていた。

生々しいのは肩口で、怪我をした箇所から血が噴き出ていた。


「ぬぎぎぎぎぎぎ・・・・こ、の、野郎・・・・!おおおおおおおっ!!」


 まさか分離の瞬間を突かれるとは思っていなかった。

メイアとの合体を行うには、ディータとの分離が必要。

火力で攻める単調な作戦はまずいと感じての機転だった。

そこまでは間違えてはいなかったと思う。

問題はその際に攻撃を仕掛けられた事と、新型メカの予想外の攻撃方法―――

あ・・・と思った時にはもう駄目だった。

急激に後ろへ引っ張られ、操縦の自由はあっさり剥奪された。

悲鳴をあげながらも、ブースターを咄嗟に全開にしたのは我ながら大したものだと思う。

もしそのまま引き摺られていたら、敵に飲み込まれていただろう。

カイはレッドランプが光るコックピットの中で、外部モニターを見つめる。

今回の敵主力兵器・新型―――

花弁を開いたユリをイメージさせながらも、全身を醜く染めている敵機体が白く発光している。

光の中心は、真ん中に開かれた巨大な穴からだった。

濃厚な白色に染められた光の帯は穴から噴射されて、カイ機を包んで捕縛している。

光は強力にカイ機を引き寄せて、その距離を縮めようとしていた。

もし今ブースターで抵抗するのを止めていれば、一瞬であの穴の奥へと飲み込まれるだろう。

その先に訪れる展開は―――想像したくもなかった。

文字通り全身を刈り取られる自身をイメージして、カイは必死に操縦桿にもたれかかる。

光が引き寄せる方向から、全力で反対側へ離脱する。

正逆するベクトルは強さが全てであり、力が強い向きへ流れる。

←と→、最大出力のブースターと強大な敵の引力。

優勢なのは―――敵であった。


「おごおおおおおおお・・・が・・ぐぐ・・・・!!」


 SP蛮型とパイロットは密接な繋がりがある。

機体の破損は主人の破損であり、機体の危機は主人の危機だ。

強引な引力はパイロットのカイすら引っ張り、全身を引力で縛り付けている。

操縦桿を必死で握っているのは、今にも引き剥がされそうだからである。

手を離せば最後、機体はコントロールを失ってそのまま巨大な穴へとダイブ。

何とか離脱を試みてはいるが、先行きは険しそうだった。

ようやく完治し掛けていた肩も傷口が開き、血の匂いが鼻につく。

靄のかかった思考が弱音を吐いていた―――



もう止めろ―――



激痛に晒された肉体が降伏を訴えている。



勝てない―――



 最大噴射しても、一ミリも前には進んでいない。

それどころか少しずつ引き寄せられており、徐々に背後へと機体が後退している。

なまじ抵抗し続けているから、機体やカイが傷付いているのだ。



ビリッ



「がっ!?」


 雑巾が破れたような音が耳についたと同時に、右腕と左足に痛みが走った。

警告する神経が教えてくれる。

皮膚が破れたのだと―――

血糊がズボンにへばり付き、乾きを帯びてどす黒く染まる。

心身が次第に萎えていき、気力すら敵に吸収されていく。



無意味だ―――



 現実が伝える。

愚鈍に抗う我が身を嘲笑し、逡巡を胸の奥に植え付ける。

このまま抵抗しつづけても、数分も持たないだろう。

ならば、もう―――















もう・・・・いいんじゃないか・・・?















「・・・・たかが・・・ぐ・・・・たかが・・・機械の分際で・・・・・・」


 自然に言葉があふれる。

噛み締める唇から赤い筋が流れるのもかまわずに。


「・・・宇宙一のヒーローに・・・勝とうなんざ・・・・・」


 身体は衰え、心は喪われても―――その手の平は力強く握り締めている。


「・・・2億年早えぜ―――ー!!!!」


 一気に操縦桿を倒した。

途端、蛮型の背中より噴射されるエネルギー。

残存エネルギーの全てを使ってでも、カイは戦いを止めない。

最後の最後まで諦めない―――のではない。

前向きな精神論に用は無い。

現実が無慈悲であり、自分すら意味がないのを知った。

だからこそ戦う。

ちっぽけな抵抗だってかまわない。



いつまでもカッコつけて、その現実とやらに唾を吐きかけてやる―――!!















『――そうそう。あんたはそうじゃないと』


埃に埋もれた小さな誇りを持つ少年に、涼やかな女性の声が届いた。 


『危機的な状況だからこそ―――かっこいいんだよね?カイ』


 カイは驚きに目を見張り―――


一人で無理なら、二人でやればいい。


―――笑って頷いた。

















































<to be continues>

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