VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






LastAction −ソラ−




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―――どれほどの時間が過ぎただろうか?

気が付くと、涙は止まっていた。

いや・・・・止まったという言い方は不適切かもしれない。

生まれて初めて―――少なくとも記憶を失ってから、こんなに泣いた事はなかった。

恥も外聞も何もない、激情に任せて泣きはらした。

あらゆる気持ちが入り乱れ、嗚咽が溢れ、暴れて喚き散らす。

七転八倒を繰り返し、地面に拳を打ち据えて、肩の傷はいともあっさり破れる。

その間の記憶は一切ない。

気付けば――――涸れていた。

涙は乾き、声は削れ、身体はボロボロ。

泥だらけになって――――全身が濡れ鼠だった。

当然だ。



―――河に落ちれば、誰だってボトボトになる。



「・・・・・・・」


 水の感覚は身に染みた。

冷たさは皮膚を通じて内側へと浸透し、骨まで凍らせる。

前髪から水の雫がポトリと落ちるのを目にし、尚もカイは微動だにしなかった。


「・・・・ふう・・・・」


―――何をやっているんだろうな、俺。

涙も声も涸れ果て、激しい感情も消失している。

残されたモノは何もない―――

じっと手の平を見つめる。

血と泥で汚れ、水で洗われたその手にはただ零れるのみだった。

掴んでも―――掴んでも――――零れていくだけ。

記憶を失って・・・・・人生を今日無くした。

求めていた夢は形亡き幻影で―――現実に意味などなかった。





ピチャンッ






 耳奥に響く水滴の音。

カイの目は水面を映し、手足は力なく落ちていた。

―――この旅の意味は何だろう?

刈り取りは理不尽な虐殺だとは思う。

故郷を壊される事に、少なからず憤りを覚えるのも事実だ。

でも心のどこかでは―――どうでも良かった気がする。

故郷と言うがタラークが本当に故郷なのか、事実は分からない。

友人だっていない。

育ててくれた人はいる―――でも、親ではない。

何も持たない自分――――

カイの名も育ての親がつけてくれた仮初めの呼称。

ドレッドや蛮型と同じ、ただの認証に過ぎない。

縋り付く過去もなく――――今日、夢も消えてしまった。

明日も見えない――――霞んでしまっている。

ならば――――生に理由などあるのだろうか。

これからに何の意味がある―――?





・・・・・身体は濡れているのに――――





――心はこんなに乾いている。





















 ――――――――――――――――――。





















そして――――――見上げた。





















・・・・・・。





















 暗く―――――明るい世界。

到底見通せない暗闇は雄大。

人の器を越える星々ですら、たった一粒。

言葉も・・・・出ない。

いや―――――





言葉も必要としない世界。




















―――――。


「・・・・・は・・・・・」


――――――――――。


「・・・は・・・・はは・・・・・・・」


――――――――――――――――。


「・・は・・・・はは・・・・あはは・・・・・・」


――――――――――――――――――――――――――。



「は・・・・ははははは、あははははははははははははっ」



 何という――――存在。



「ははははははははは、あへははははははっ!!!」





何とちっぽけな―――自分。





「くくくく・・・・あー、馬鹿馬鹿しい」


 今までの鬱屈が嘘であるかのように、カイはただ快活に笑った。

心の底から可笑しくて、こみ上げる衝動は抑えきれない。

霧が晴れていくのを感じる。

消えかけていた意識は形成され、濁っていた胸の内は清涼感に満たされる。

全く――――馬鹿馬鹿しい。

見ろ、この宇宙を。

見つめ続けても、尚果てしない存在を―――

宇宙は何かを悩んでいるか?

自分の存在に疑問をもっているのか?

理由を求めているのか?

意味を必要としているか?



――――何も無い。



宇宙にだって何も無い。

ただ――――大きい。

過去・現在・未来―――

それすらも、宇宙には一欠けらに過ぎない。

其処に在る―――――ただそれだけ。

その一つが、無限を生み出している。


「・・・・・・・いいじゃねえか、これで」


 名前の無い身体。

思い出の無い心。

偽りだけの人生。

たった一つの答えも無く、何も無い手の平だけが此処にある。

だから何だと言うんだ―――


「・・・・俺は俺だ」


 空っぽだけのガラクタでも、捨て切れなかった破片はあった。

ガランドウでしかない夢を―――自分はそれでも求めていた。

それでいいじゃないか。

何故、意味など求める?

誰に何を言われようが、自分は自分でしかない。

生きるのに、理由を背負う事はない。

夢を持つのに、必要なものは何も無い。



自分でいるのに、答えなんて要らない。



ツギハギだらけの心でも――――それは間違いなくココロだろう。

本物か偽物かなんて、誰にも決められないのだから。


「・・・ラバット。あんたは・・・・」


 別れ際に言った男の言葉を思い出す。

最後の最後に起こした騒ぎ。

あれは、もしかしたら俺を―――?

自由を気取り、夢を語り―――空想を見るだけの自分に憤りを感じて。

空っぽなのを自覚させ、ユメを終わらせようとしたのではないか。

今思えば、ラバットの行動は矛盾だらけだった。

何も手を出さず、傷付けたのも俺だけ。


「・・・・やられたな」


 判っていたのだろう。

最後の最後は決して―――ディータを見捨てない事を。

撃ち抜かれたビームは、本当に手痛い叱咤だった。

だが、ここまでされなければ自分は気付けなかった。

自分と世界の差に苦しみ、善悪の落差に答えを出せずに――――



もしかしたら、メイア達を殺していたかもしれない。



己が存在に―――自信を持てずに。


「ありがとよ・・・おっさん」


 晴れ晴れとした気持ちで、カイはようやく素直に礼を言えた。

結局、何者なのかはわからなかった。

行動は最後まで謎に包まれていて、言動から何からつかみ所の無い男だった。

ニル・ヴァーナに来た目的も釈然とせず、地球との繋がりも判明していない。

むしろ半端に情報を手にしたお陰で、余計に不明となってしまった。

ただ、俺よりも―――大人だった。

悔しいが、あいつこそ本当の男だと思う。


「・・・・うし!」


 踏ん切りをつける。

もうやめよう―――

記憶の無い日々に思いを馳せるのはもう飽きた。

境遇を卑下しても意味など無い。

存在を否定して、どうなると言うんだ。

昔も今もその先も――――変わらずあるのは俺自身。

何も持たず、何も背負わず、何も手にしない。

空っぽのままでいい。



真っ白だから無限なのだ。



あの宇宙のように―――

不幸を盾に生きていくなんてもう真っ平だ。

いつか叶えるなんて、言い訳はもうしない。

今日、今から、英雄になろう。

タラークで始まった俺の夢。



『何故、宇宙一を目指すのか?』




 命題―――

ようやく分かった。

俺はただ――――










―――あの宇宙ソラの向こうへ行きたいだけだ。










単純にして明快。

憧れていたソラは今も遠く、そして雄大。

まだまだ手に掴む事すら叶わなくとも、目指し続ければ景色だって見えてくる。

俺が俺である限り―――


「ありがとう、ラバット」


 もう一度の感謝。





「・・・ありがとう、メイア・・・


 どこかで身動きする気配が伝わる。

すっきりとした気分と心静かな意識が、カイに存在を教えてくれた。

メイアは見ている・・・・

事件が終わりそのまま別れ、心配して見に来てくれたのだろう。

声をかけずにいてくれたのは素直に嬉しかった。

身を案じてくれる者がいる―――

ただそれだけで、カイは本当に心から礼を言う事が出来た。

今日一日ではっきり理解出来た。

メイアという女は凛々しく―――その身に限りなき優しさを持っている。

同じ戦う者として、葛藤する自分をただ見守っていてくれた事が何よりの証拠だった。

励ましの言葉などただの気休めと同情、憐憫に過ぎぬのだから。

礼を口にして、それでも何も言ってこないのは彼女なりの気恥ずかしさかもしれない。

今頃照れているかもしれないその光景を思うと、カイは口元が緩むのを抑えきれない。



「・・・・で、だな。
―――無視するのはきついぞ、お前等・・・



 休憩場・自然公園エリア―――その上部に繋がるブリッジ。

その上から振り降りる影、三つ。

本当に身を潜めるなら、クマの着ぐるみを脱がないと意味が無い。

小さな灯りに照らされて伸びる可愛らしい動物の耳の影に、カイは嘆息する。

残り二つは誰なのか、確認なんて不必要だ。

背後の茂み―――

瑞々しく潤った緑の上からちょっこり浮き出ているナース帽は・・・・

それと、横脇からもれているダブダブのツナギの袖もどうにかして欲しい。

尚且つ植えられた木が大きいとはいえ、長身の男二人が隠れるのは無茶だろう。 

きっと、どこぞの運転手と医者がいるに違いない。

プラス、極めつけなのが――――ベンチに隠れている三人だ。

ベンチは人が座る場所であって、隠れる場所じゃない。

細く区切られた背もたれから、長い金髪が見えている。

両端はよく見えないが、近付けば黒い髪とか赤い髪が見える筈だ。

全然気付かなかったが、河の冷たさで逆に分かる。

この公園に漂うほのかな熱気―――

他にも誰かいるのだろう。


「・・・はあ・・・・・」


 助ける事も、見捨てる事も出来なかった者達。

旅を続ける限り、今日のような葛藤はまたあるだろう。

いつか答えを出そうと思っていた。

その結果―――何も出来ずに終わった。

当然だ。

いつかが何時か―――それすら決めぬ者に答えなど出る筈も無い。

もう目をそらさない。

この旅は続ける。

そして、こいつらと決着をつける。

今日、今から英雄になると決めた。

無論、問題はまだまだ山積みだ。

マグノ海賊団との諍いは止まらず、仲間意識はない。

刈り取りは続き、内部抗争は今後も続く。

地球に重大な鍵があると知り、その情報を知る術は途絶えた。

独りなのは昔も今も同じだ。



でも―――明日がそうとは限らないだろう。



 誰にだって、先のことなぞ分かりはしない。

つまらない意地でも張り続ければ、立派な信念だ。

みっともない見栄でもつっぱれば、飾りにはなるだろう。

カッコ悪い自分。



だから――――カッコつけて生きていく。



「・・・さ、腹も減ったし飯食おうぜ!飯!」


 心白く、ただ真っ直ぐに歩いていこう。




















少年はようやく自分の夢を見つけ―――





ようやく―――ー少女達と出会えた。





































































<end>

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