VANDREAD連載「Eternal Advance」



Chapter 1 −First encounter−



LastAction −覚醒−




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「メイア、何をしているのよ!早く脱出しないと巻き込まれるわよ!」


 壊れた隔壁を乗り越えて、ジュラのドレッドが機関部に飛び込んでくる。

通信回線を開いてメイアを呼びかけるが、メイア自身も別の回線を開いていた。


「分かっている。ディータ、早く離脱するんだ!!」

「で、でも宇宙人さんが・・・・」

 通信モニターの先に移るディータはメイアを目視しておらず、別の方向を見ていた。

ディータの見る外部モニターに映し出される映像は、ボロボロに打ち捨てられた蛮型の姿だった

機関部の床に転がるカイの蛮型はピクリとも動かず、あちこちの箇所からドス黒い噴煙が上がっている。

どう見ても動かせる状態ではなかった。


「このままじゃ宇宙人さんが逃げられないよぉ」


 カイを心から心配するディータに、メイアはどうしようもない苛立ちを感じた。


「ディータ、あの男は敵だ。かまう必要はない」

「で、でも・・・・・」

「忘れたのか。私達を人質にとったのはあの男なんだぞ」

「で、でも、それはディータ達だって宇宙人さんのお友達を捕まえたから・・・」


 本当は友人でもないのだが、さすがにそこまでディータは把握できなかった。

メイアは日頃はどちらかと言えば引っ込みがちのディータに、ここまで固執する理由が分からなかった。

どう言えばいいのか迷っていると、聞いていたジュラが焦った様に進言する。


「もういいよ。私達だけ出先に脱出しよう。
あの娘だってミサイルが迫って来たらすぐに逃げるわよ」


 付き合ってられないとばかりに、ジュラはうっとおしげに髪を撫でる。

メイアは暫し悩んだ様子を見せて頭を振る。


「そうはいかない。私にはチーム全員に対して責任がある。一人を切り捨てるような真似はできない」


 自分にも他人にも厳しい姿勢を見せるメイアだったが、その心根はとても優しい感情を持っている。

現実の厳しさ、他人に見捨てられる事の痛みを彼女はよく知っているからだ。

そして・・・・・・・・


「ジュラは先に脱出しろ。私はディータと後に脱出する」

「・・・・そうもいってられないでしょう、もう、メイアって本当に固いんだから」


 ジュラもまた内面は子供のような純真さを持っていた。

優れた能力だけではなく、仲間への思いやりもなければチームのリーダーは務まらない。


「ディータ!待っててあげるから早く脱出しなさいよ!」

「うう〜、ジュラ〜」


 ジュラやメイアの気持ちは嬉しいのだが、一向に脱出しようとしないカイも心配。

互いの反する気持ちの板ばさみに、ディータはどうすればいいのか分からなかった。

可愛らしさのあふれる表情を心配の色に染めてディータは心から叫んだ。


「宇宙人さん、早く逃げてーーーー!!」


メイア、ジュラ、ディータ。

タラークに敵対する彼女達は、今まさに生死の境界ライン上にいた・・・・・・・・















 タラーク軍の母船イカヅチ。二つに分離したその片割れから発射されたミサイルは刻一刻と速度を速め、

旧艦区を破壊するべく、着弾のライン上を辿りつつあった。


「ミサイル、接近!ドレッド反応、いまだありません!」


 絶望と焦りが秘められた声が響き合う中で、マグノはじっとモニター越しに旧艦区を見つめていた。

表情こそ静かであるが、見つめる瞳は不安と信頼で揺れている。

残されたディータ達を思うがゆえに、そしてクルー達全ての命を背負う頭であるがゆえに。

彼女はただ見つめていた・・・・・















「動け、動け、動け!頼むよ、相棒!このままじゃ俺達は吹き飛んじまう!!」


 焦燥感に駆られて、カイは必死でレバーをガムシャラに動かす。

しかし、彼の命令に蛮型はまったく反応を示さなかった・・・・・・


「ピピ、コウコウハフカノウデス。キタイスベテノダメージハゲンカイヲコエテイマス」


 六号の言う通り、蛮型は最早損傷を遥かに超えるダメージを受けていた。

元々きちんとした離床整備もされてないままに発射し、尚且つカイの無理な操縦で酷使したのだ。

宇宙でのドレッドとの攻防、メイアとの戦闘により指先一本動かすことは不可能だった。


「く・・・俺のせいでここまでになっちまったんだよな・・・・・」


 カイ自身、自分の操縦で現在の危機を引き起こした事ははっきりと自覚していた。

先程自分の目で確認して必ず直すと誓ったばかりなのだ。

だが、ここまで自分の相棒が深いダメージを負っているとは思わなかった。


「どうする・・・このままじゃミサイルが・・・・でも・・・・」


 リミットが限界に近い、今から逃げ出しても間に合うかどうかすらわからない。

危機的状況に何もできない自分が恨めしかった。

と、そこへノイズが走っていたメインモニターに通信が入る。


「宇宙人さん、聞こえてる!?」

「お前、まだ逃げてなかったのかよ!とっとと行け!」


 自身の中に潜むイライラをぶつけるように、カイは画面に映るディータに叫んだ。

ディータは一瞬びっくりした顔をするが、表情をすぐに引き締めてカイをじっと見つめる。


「宇宙人さん、早く逃げて!ここは危ないってリーダーが・・・」

「危ないって分かっているんなら早く行けよ!俺にかまうな」

「そんな事、できないよ!宇宙人さんも逃げてからディータも逃げる」

「あ、あのなあお前・・・・」


 頭を掻き毟りたくなる衝動に堪えていると別回線が開き、蒼き瞳を浮かべたメイアが映像化される。


「・・・早く脱出しないと死ぬぞ」


 お前には関係ないだろう。

そう言おうとして彼女の真剣な表情に気づき、カイも表情を改める。


「・・・まともに動せないんだよ」

「ええっ!?」

「えーい、そんな顔をするな!俺は俺でどうにかするから、お前らはさっさと・・・」

「どうする気よ?そんなぼろぼろのガラクタで」


 女性特有の甲高い声にはっと目を向けると、少しむくれた表情でのジュラの映像があった。

カイは眉を吊り上げてジュラを睨み付ける。


「てめえ、今度俺の相棒をガラクタ扱いしたらぶっ殺す」

「だって飛べないんでしょう?ぜんぜんエレガントじゃないじゃない」


 見た目の美しさを重視するジュラらしい意見ではあった。


「エレガントだぁ?男ってのはな・・・・・って、そんな話をしている場合じゃねえ!
お前ら、早く逃げろよ!!巻き込まれたら死ぬぞ」


「でもでも、宇宙人さんを置いていけないよぉ〜
そうだ!あたしのドレッドに一緒に乗って逃げよう!!そうすれば」


 ディータの言葉に、メイアもジュラも顔を強めてそれぞれ口を開く。

だが、彼女達より一瞬早くカイが言葉を発した。


「悪いけど、俺は乗れない」

「ど、どうして!?」

「こいつを見捨てていくわけにはいかないんだ。これでも共に夢を誓い合った相棒だからな」


 式典後のパーティが始まる前にひっそり忍び込んだ主格納庫。

出会いはささやかで静かであり、互いに見つめあう時はほんの数分だった。

だが、カイにとっては何物にも代えがたい聖櫃にも似た一時の空間であった。


「ば、馬鹿じゃないの!?それであんたまで死んだら意味ないじゃない」
「・・・そうかもな」


 静かに微笑むカイに、ジュラは何も言えなくなって黙り込む。


「まあ、俺のことはいちいち気にするな。お前はとっとと逃げろ。
もうミサイルはそこまできているはずだ」

「駄目だよ、そんなの!?宇宙人さんを置いて逃げられないよ!!」


 ディータの真摯な態度に、カイはやれやれとため息をついて彼女をモニター越しに見つめる。


「いいか?俺は男。お前は女だ」

「う、うん・・・・宇宙人さんは宇宙人さんだもんね」


 いろいろと反論したい気がするが、カイは言葉を続ける。


「男と女である限り、俺とお前は敵同士だ。だったら俺にかまう必要はない、そうだろう?」


 自分がここまで追いつめられている原因は紛れもなく自分自身である。

命を失う事、夢半ばに潰えてしまう自分が消え去る事は怖くないといえば嘘になるが、

ドゥエロに忠告されて、それでも立ち向かうと決めた時からカイは覚悟を決めていた。


「ここにいればお前まで巻き込まれ、死ぬ。敵をいちいち心配して、だぞ?
お前はそれでいいのかよ?こんなくだらねえ事でてめえの命を散らしていいのかよ?」


 自分が死ぬのはかまわない。

上の命令を無視して、あくまで自分を通し、自分の限界を知るまで走り続ける。

その結果が今であるならば、それはきっと自分の限界なのだろう。


「・・・お前にはお前を心配する仲間だっているんだろうが」


 だけど、この目の前にいる少女はどうだろう?

対立すべき立場でありながら、男の自分を心配し、必死で悩んでくれる「女」。


「敵の命をわざわざ心配する必要はねえ。お前は自分と、周りの仲間だけ考えりゃあいい」


 彼女まで巻き込んで死ねば、多分俺は・・・・・・・

「周りを見ろよ。お前が逃げないからずっと待ってくれているじゃねーか。
お前の我が侭であいつらも死なせる気か?」


 はっとディータが周りを見ると、メイアとジュラのドレッドがディータを待つために空中で停止している。


「・・・・心配してくれる事には感謝する。だから、お前は逃げるんだ」


 カイが大丈夫だと言わんばかりに笑みを浮かべると、ディータは泣きそうな顔になった。


「そ、そんな・・・・宇宙人さん・・・・」


 カイの不器用な思いやりが嬉しくて、何もできない自分が情けなくてディータは涙を浮かべる。


「青髪に金髪。お前らもとっととこいつを連れて逃げろ。時間はもうない」


 カイの言葉に、メイアもジュラも複雑な顔をしていた。

すると、


「嫌!!ディータは絶対逃げない!!」

「お、おい・・・?」

「宇宙人さんが一緒じゃないとディータは嫌!」


 ぶんぶん首を振って、ディータは懸命に訴えた。


「お前な!!いいかげんに・・・・」

「やっぱりそうだと思った」

「え・・・・・?」

「宇宙人さんはやっぱりすごくいい人だった」

「お、俺が・・・・?」


 全然自覚もなければ考えた事もない自分の本質に、カイ自身戸惑いを見せた。


「うん、宇宙人さんはディータやリーダーやジュラの事、すっごくすっごく心配してくれているもん。
そんないい人をほって逃げるなんてディータにはできないよぉ」

「ば、馬鹿野郎!!!おい、お前らも何とか言ってやれ、この馬鹿に!」


 カイが怒鳴りつけるとメイアは眉をひそめ、小さくため息を吐いた。


「何を言っても無駄そうだ。不本意だが、私も待つしかないだろう」

「お、おい!?」

「もう〜、ディータのお陰でジュラまで残る羽目になったじゃない。責任、とりなさいよ」

「だ、だからお前ら・・・・」

「ごめんね、ジュラ。ディータ、宇宙人さんを信じたいんだ」

「だから、俺を無視して盛り上がるなよ!!!命がいらないのか、お前らは!!」


 通信を通して聞こえる三人の会話に、コメカミに青筋を立ててカイは怒鳴りつける。

すると、ディータはぎゅっとこぶしを握ってこう言った。


「宇宙人さん、あきらめないで!!一生懸命頑張ればきっと何とかなるよ」

「お、お前・・・・・・・・」


 純真で自分を信頼のこもった瞳で見つめるディータ。

どうしようもない事態で諦めかけていたカイの心に、新しい闘志の炎が灯びはじめる。

頬を掻きながらも苦笑して、カイは再びレバーを握る。


「しょうがねえな。もうちっと足掻いてやるか」

「足掻いてもらわないとジュラ達が危ないんだからね。早くしなさいよ」

「へーへー、了解でさ」


 パンっと強く頬を叩き、カイはトリガーを力強く動かした。
















「メイア機、ジュラ機、ディータ機!!応答してください!!」


 海賊の母船内においてクルー達の誰もがメイア達の安否を気遣い、彼女達の無事の脱出を祈っている。

団結力の強い海賊達。想いは果たして届くのだろうか・・・・・・・・





















「く・・・・動いてくれ!!頼むよ、相棒!!」


 緊張した様子でディータ達に見つめられる中、カイは必死に操作類をいじくっている。

モニターや通信は何とか稼動しているのだが、いかんせん動力部分は一向に復旧しない。


「相棒、頑張ってくれよ!!!俺達はこれからだろう。
でかい宇宙はもうすぐ目の前にあるんだよ!ようやくここまでたどり着けたんだ!!」


 毎日毎日薄暗い酒場で働きながら、ふと見つめる空。

どんよりとにごった雲の向こうには遥か彼方へと続く悠久の世界がある。

カイはいつもずっと見つめ、宇宙に憧れていた・・・・・・・・


「もう少しなんだ!俺はここで終わるわけには行かないんだ!!」


 親父との約束も果たしていない。自分の行く末も見えていない。


「それに、それに・・・・・・・・」


 俯いて歯を食いしばり、唇から血を流すカイ。


「こんな俺を心配してくれる人がいるんだ・・・・・待ってくれている人がいるんだ・・・・
こいつらを・・・・・」


 自分を心配するディータ、静かに見つめるメイア、自分の出立をただ待っているジュラ。

彼女達を・・・・・敵である自分を心配する彼女達を・・・・・・





「死なせる訳にはいかねえんだよぉぉぉぉぉ!!!!」






 静謐なコックピット内で絶叫し、カイはトリガーを強く前に倒す。

すると、カイの視界が真っ青な光に包まれる。


「な、何だぁ!?」


 抵抗する暇もなく、瞼すら開けていられないスカイブルーの輝きにカイは飲み込まれた。


「う、宇宙人さん!?」


 モニター越しにカイの異常を察したディータが呼びかけて、そして彼女もまた飲み込まれる。


「ディータ!?何だ、あの水晶体は・・・まさかペークシスか!?」


 眩く光り輝く水晶体、機関部中心に位置するペークシスプラズマは青い輝きを放っていた。


「な、何よ・・・・何なのよ、いったい!?」


 逃げ出す暇もなく、メイアやジュラも輝きの中に放り込まれた・・・・・・・・
















 青く輝く世界。

意味ある物質は存在せず、ただ光のみの果て無き空間。

カイは世界の中心で、そして瞳の奥で浮かび上がる映像に捕らわれていた。

光の中で漂うように儚く揺れ動く視界に、ある姿が徐々に具象化される。

現出せし物質は、一体の未知なる「機体」・・・・・・


「な、何だ、こいつは・・・・・」


 疑問に答える者は誰もなく、そのままカイの意識は輝きの中で深く沈んでいった。

麗しき乙女達と共に・・・・・・・・・
















「村正、着弾。も、目標・・・・・消滅しました・・・・・・・」


 新艦区モニターにて映し出される映像は、ただ虚空の闇のみであった。

旧艦区、そして海賊母船が存在していたその空間に何者も存在はしていない。

まるで初めからなかったかのように、すべての物質が消滅していた・・・・・・・


「思い知ったか、女どもめ・・・・・・・・・」 


 緊張の糸が切れたように、首相は深く艦長席に座り込んだ。

首相、艦長、アレイク、そして他のクルー。

それぞれの浮かべる表情には覇気がなく、ただ空ろな虚しさのみであった。


「カイ・・・・・・・・・・・・」


 旧艦区は消滅し、そしてカイ達も光の中に消えていった・・・・・・・・・・・・・
 
































<First encounter end>

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